インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

算術級数定理についての注意

Dirichletの算術級数定理についての補足記事です。

Dirichletの算術級数定理 a, bを互いに素な正整数とする。このとき、an+b (n \in \mathbb{N})の形で表される素数は無数に存在する。

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例えば、最近

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で算術級数定理を応用しましたが、そこでは「an+b型の素数の無限性」ではなく「an+b型の素数が少なくとも一つ存在する」ということを使ったにすぎません。

このように、算術級数型の素数の存在性のみを応用したいということはよくあるので、次の定理の算術級数定理より簡単な証明を欲するのは自然なことと言えます。

存在定理 a, bを互いに素な正整数とする。このとき、an+b (n \in \mathbb{N})の形で表される素数が少なくとも一つ存在する。

ところが、実はこれは算術級数定理と同じ深さにある*1のです。

存在定理 \Longleftrightarrow 算術級数定理の証明. a, bを互いに素な正整数とし、正整数nに対して p=an+bが素数であると仮定する。さて、存在定理が成立すると仮定しよう。p > bなのでpbは互いに素であり、従ってapbも互いに素である。よって、存在定理より或る正整数mが存在して

q=(ap)m+b=a(pm)+b

は素数となる。qpより大きいaで割った余りがbであるような素数であるため、この論法によってaで割った余りがbであるような素数は無数に存在することがわかる(この論法の最初のステップのpの存在性は存在定理によってわかる)。 Q.E.D.


存在定理における(a, b)の任意性によって、a \mapsto apと取り替えてより大きい法の世界からaの世界を見下ろすことがポイントです。存在定理は一つの与えられた組(a, b)に対してたった一つの素数an+bの存在性のみを保証する命題ですが、勝手に与えられた(a, b)でそんなことが証明されるのであればそれは任意の(a, b)で言えるということですからこのような取り替えテクニックが上手くいきます。

というわけで、応用上存在定理のみが使われることも多い算術級数定理ですが、それは定理の本質だったのです。

*1:同値の別表現。

三木の恒等式のGesselによる証明

三木の恒等式 n4以上の整数とする。このとき、次の恒等式が成立する:
\displaystyle \sum_{k=2}^{n-2}\beta_k\beta_{n-k}-\sum_{k=2}^{n-2}\binom{n}{k}\beta_k\beta_{n-k}=2H_n\beta_n.
ただし、\beta_k=B_k/kであり、H_nは第n調和数である。

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第二種Stirling数の母関数表示

Gesselの証明では第二種Stirling数を用います。第二種Stirling数についてはBell数の母関数表示と第二種Stirling数 - INTEGERSを参照してください。

関-ベルヌーイ数の第二種Stirling数を用いた公式 - INTEGERSで用いた次の母関数表示を思い出します。mは正整数としておきます。

母関数表示1\ \ \ \displaystyle \sum_{n=m}^{\infty}\left\{ {n \atop m} \right\}\frac{t^n}{n!}=\frac{(e^t-1)^m}{m!}.

実は次のような母関数表示も知られており、両方とも使うことになります。

母関数表示2\ \ \ \displaystyle \sum_{n=m}^{\infty}\left\{ {n \atop m} \right\}t^n=\frac{t^m}{(1-t)(1-2t)\cdots (1-mt)}.

証明. 実は母関数表示1と母関数表示2は同値である。それは次のような観察からわかる。まず、

\displaystyle \frac{(e^t-1)^m}{m!} = \frac{1}{m!}\sum_{j=0}^m\binom{m}{j}(-1)^{m-j}e^{jt}=\frac{1}{m!}\sum_{j=0}^m\binom{m}{j}(-1)^{m-j}(e^{jt}-1) −①

が成り立つ。一方、部分分数分解により、

\displaystyle \frac{t^m}{\prod_{j=1}^m(1-jt)} = \frac{1}{m!}\sum_{j=1}^m\binom{m}{j}(-1)^{m-j}\frac{jt}{1-jt}=\frac{1}{m!}\sum_{j=0}^m\binom{m}{j}(-1)^{m-j}\frac{jt}{1-jt} −②

が成り立つ。あとは、

\displaystyle e^{jt}-1=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(jt)^n}{n!},\quad \frac{jt}{1-jt} = \sum_{n=1}^{\infty}(jt)^n

に注意すれば①、②より所望の同値性がわかる。 Q.E.D.

証明のアイデア

Gesselの証明は第二種Stirling数 \left\{ {n+m \atop m} \right\}を第二種Stirling数の二つの母関数表示を用いて二通りの表示を与え、それらの表示をmの多項式と考えて m^2の係数を比較することによって三木の恒等式を得るというものです。

三木の恒等式はnが奇数のときは 0=0を言っているに過ぎないため、以下、n4以上の偶数とします(ややこしいですが、\sumの変数に使うものは偶数とは限らないものとし、係数比較で取り出した後の固定したn4以上の偶数とします。3以上の奇数番目の関-Bernoulli数が消えることを使って若干見やすくするためだけの仮定です)

第一の計算

母関数表示1より

\displaystyle \sum_{n=m}^{\infty}\left\{ {n \atop m} \right\}\frac{t^{n-m}}{n!}=\frac{1}{m!}\left(\frac{e^t-1}{t}\right)^m

が成り立ち、これは

\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}\left\{ {n+m \atop m} \right\}\frac{n!m!}{(n+m)!}\frac{t^n}{n!}=\left(\frac{e^t-1}{t}\right)^m

と書き換えられる。よって、

\displaystyle \left\{ {n+m \atop m} \right\} = \frac{(n+m)!}{n!m!} \times \mathrm{Coeff}\left(\left(\frac{e^t-1}{t}\right)^m; \frac{t^n}{n!}\right)

が成り立つ(最後のやつは t^n/n!の係数という意味)。まず、

\displaystyle \frac{(n+m)!}{n!m!} = \left(1+\frac{m}{1}\right)\left(1+\frac{m}{2}\right)\cdots \left(1+\frac{m}{n}\right) = 1+H_nm+(\text{higher terms})

m冪に展開できる。次に、\left(\frac{e^t-1}{t}\right)^mを攻める。冪級数の等号

\displaystyle \log \left(\frac{e^t-1}{t}\right) = \sum_{n=1}^{\infty}\beta_n\frac{x^n}{n!}

が成り立つ。理由: 微分計算

\displaystyle \frac{d}{dx}\log \left(\frac{e^t-1}{t}\right) = \frac{1}{t}\left(\frac{te^t}{e^t-1}-1\right)

と関-Bernoulli数の母関数表示

\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}B_n\frac{t^n}{n!} = \frac{te^t}{e^t-1}

より

\displaystyle \frac{d}{dx}\log \left(\frac{e^t-1}{t}\right) = \sum_{n=1}^{\infty}B_n\frac{t^{n-1}}{n!}

が成り立つので、両辺を積分すればよい

正整数 jに対して \beta_n^{(j)}

\displaystyle \beta_n^{(j)}:=\frac{1}{j!}\sum_{\substack{i_1+\dots+i_j=n \\ i_1, \dots, i_j \geq 1}}\frac{n!}{i_1!\cdots i_n!}\beta_{i_1}\cdots \beta_{i_j}

と定義すると、

\displaystyle \frac{1}{j!}\left\{\log\left(\frac{e^t-1}{t}\right)\right\}^j = \sum_{n=0}^{\infty}\beta_n^{(j)}\frac{t^n}{n!}

が成り立つので、

\displaystyle \left(\frac{e^t-1}{t}\right)^m = \exp \left(m\log\left(\frac{e^t-1}{t}\right)\right) = \sum_{j=0}^{\infty}\frac{m^j}{j!}\left\{\log\left(\frac{e^t-1}{t}\right)\right\}^j

t^n/n!の係数は \displaystyle \sum_{j=1}^{\infty}\beta_n^{(j)}m^jである(実質有限和であることに注意)。以上より、

\displaystyle \left\{ {n+m \atop m} \right\} = \beta_nm+(\beta_n^{(2)}+H_n\beta_n)m^2+(\text{higher terms}) −③

が示された。

第二の計算

母関数表示2より

\displaystyle \sum_{n=m}^{\infty}\left\{{n \atop m}\right\}t^{n-m} = \frac{1}{(1-t)\cdots (1-mt)}

が成り立ち、これは

\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}\left\{{n+m \atop m}\right\}t^n = \frac{1}{(1-t)\cdots (1-mt)}

と書き換えられる。よって、

\displaystyle \log \left(\sum_{n=0}^{\infty}\left\{{n+m\atop m}\right\}t^n\right) = \sum_{j=1}^m\log\left(\frac{1}{1-jt}\right)=\sum_{n=1}^{\infty}\Biggl(\sum_{j=1}^mj^n\Biggr)\frac{t^n}{n}

と計算できる。ここで、Faulhaberの公式より

\displaystyle \sum_{j=1}^mj^n =  \frac{1}{n+1}\sum_{i=0}^n\binom{n+1}{i}B_im^{n+1-i}=B_nm+c_n(m)

である(c_n(m)mについて3次以上)。従って、

\displaystyle \left\{{n+m \atop m}\right\} = \mathrm{Coeff}\left(\exp\left(\sum_{n=1}^{\infty}(\beta_nm+c_n'(m))t^n\right); t^n\right)

がわかった(c_n'(m):=c_n(m)/n)。\expを展開して右辺を計算すると、

\displaystyle  \left\{{n+m \atop m}\right\} = \beta_nm+\Biggl(\sum_{k=2}^{n-2}\beta_k\beta_{n-k}\Biggr)\frac{m^2}{2}+(\text{higher terms}) −④

を得る。

係数比較

③、④のm^2の係数を比較することにより、

\displaystyle \sum_{k=2}^{n-2}\beta_k\beta_{n-k} = 2(\beta_n^{(2)}+H_n\beta_n)

を得る。定義より

\displaystyle \beta_n^{(2)} = \frac{1}{2}\sum_{k=2}^{n-2}\binom{n}{k}\beta_k\beta_{n-k}

なので、これは三木の恒等式を示している。 Q.E.D.

部分分数分解

何度でも言いたくなる魔法の言葉「ぶぶんぶんすうぶんかい」

補題1 Kを体とし、f(x), g(x) \in K[x]とする。互いに素な多項式 g_1(x), g_2(x) \in K[x]によって g(x)=g_1(x)g_2(x)と分解されているならば、f_1(x), \ f_2(x) \in K[x]が存在して、K(x)において
\displaystyle \frac{f(x)}{g(x)}=\frac{f_1(x)}{g_1(x)}+\frac{f_2(x)}{g_2(x)}
が成り立つ。

証明. g_1(x), g_2(x)が互いに素であることから、r(x), s(x) \in K[x]が存在して

r(x)g_1(x)+s(x)g_2(x)=1

が成り立つので、f_1(x):=f(x)s(x), \ f_2(x):=f(x)r(x)とおけばよい。 Q.E.D.

系1 Kを体とし、f(x), g(x) \in K[x]とする。どの二つをとっても互いに素であるような多項式 g_1(x), \dots, g_n(x) \in K[x]によって g(x) = \prod_{i=1}^ng_i(x)と分解されているならば、\widetilde{f}(x), f_1(x), \dots, f_n(x) \in K[x]が存在して、K(x)において
\displaystyle \frac{f(x)}{g(x)}=\widetilde{f}(x)+\sum_{i=1}^n\frac{f_i(x)}{g_i(x)},\quad \deg f_i(x) < \deg g_i(x)
が成り立つ。

証明. 仮定より例えば g_1(x)\cdots g_{n-1}(x)g_n(x)は互いに素であり、数学的帰納法によって補題1を g(x)=\prod_{i=1}^ng_i(x)の場合に拡張できる。最後に各 g_i(x)で割り算を実行すればよい。 Q.E.D.

補題2 Kを体とし、f(x), g(x) \in K[x]とする。正整数eに対して \deg f(x) < e\deg g(x)であれば、f_1(x), \dots, f_e(x) \in K[x]が存在して、K(x)において
\displaystyle \frac{f(x)}{g(x)^e}=\sum_{j=1}^e\frac{f_j(x)}{g(x)^j},\quad \deg f_j(x) < \deg g(x)
が成り立つ。

証明. 互除法で証明できる:

f(x)=f_1(x)g(x)^{e-1}+r_1(x),\quad \deg r_1(x) < (e-1)\deg g(x)

r_1(x)=f_2(x)g(x)^{e-2}+r_2(x),\quad \deg r_2(x) < (e-2)\deg g(x)

\cdots

r_{e-3}(x)=f_{e-2}(x)g(x)^{2}+r_{e-2}(x),\quad \deg r_{e-2}(x) < 2\deg g(x)

r_{e-2}(x)=f_{e-1}(x)g(x)+f_{e}(x),\quad \deg f_{e}(x) < \deg g(x)

を組み合わせればよい。 Q.E.D.

系1と補題2より次が得られます:

定理 (部分分数分解) Kを体とし、f(x), g(x) \in K[x]とする。相異なる既約多項式 p_1(x), \dots, p_n(x) \in K[x]と正整数 e_1, \dots, e_nによって g(x) = \prod_{i=1}^np_i(x)^{e_i}と分解されているならば、多項式 \widetilde{f}(x), f_{i, j}(x) \in K[x]が存在して(1 \leq i \leq n, 1 \leq j \leq e_i)、K(x)において
\displaystyle \frac{f(x)}{g(x)} = \widetilde{f}(x) + \sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^{e_i}\frac{f_{i, j}(x)}{p_i(x)^j},\quad \deg f_{i, j}(x) < \deg p_i(x)
が成り立つ。

次の形の部分分数分解はよく用いられます。

系2 f(x), g(x) \in \mathbb{C}[x]とする。相異なる複素数 a_1, \dots, a_nを用いて g(x) = \prod_{i=1}^n(x-a_i)と分解されており、\deg f(x) < \deg g(x)であれば
\displaystyle \frac{f(x)}{g(x)}=\sum_{i=1}^n\frac{f(a_i)}{g'(a_i)}\frac{1}{x-a_i}
と部分分数分解される。ここで、g'(x)g(x)の導関数。

証明. 定理より複素数 b_1, \dots, b_n \in \mathbb{C}が存在して、

\displaystyle \frac{f(x)}{g(x)}=\sum_{i=1}^n\frac{b_i}{x-a_i}

と書ける。両辺に g(x) = \prod_{i=1}^n(x-a_i)を掛けると

\displaystyle f(x) = \sum_{i=1}^nb_i\prod_{j \neq i}(x-a_j)

なので、x=a_iを代入すれば

\displaystyle f(a_i) = b_i\prod_{j \neq i}(a_i-a_j)

が得られる。一方、\displaystyle g'(x) = \sum_{i=1}^n\prod_{j \neq i}(x-a_j)なので、

\displaystyle b_i=\frac{f(a_i)}{g'(a_i)}

が示された。 Q.E.D.