インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

代数的数の加減乗除

定義 零でない有理数係数一変数多項式の根となるような複素数のことを代数的数とよぶ。代数的数\alphaについて、\alphaを根に持つ零でない有理数係数一変数多項式の中で次数が最小でモニックなものを\alpha最小多項式といい、\alphaの最小多項式の次数を\alpha次数とよぶ。

定理 \alpha, \betaを代数的数とする。このとき、\alpha+\beta\alpha\betaはともに代数的数である。また、\beta\neq0であれば\beta^{-1}も代数的数である。

証明. \alpha, \betaともに零でない場合を考えれば十分である。\alpha, \betaの次数をそれぞれn, m\geq 1とし、\gamma\alpha+\betaまたは\alpha\betaとする。

A:=\{\alpha^i\beta^j \mid 0\leq i\leq n-1, 0\leq j \leq m-1\} = \{\gamma_1, \dots, \gamma_N\}

とするとき、\alpha, \betaの最小多項式を利用して次数下げすることによって、任意のAの元\gamma_lに対して\gamma\gamma_lAの元の整数係数一次結合で表せることがわかる。1\leq k\leq Nに対して\gamma\gamma_k=\sum_{l=1}^{N}c_{k,l}\gamma_lと有理数c_{k,l}を用いて表示すると、縦ベクトル\Gamma={}^t(\gamma_1, \dots, \gamma_{N}) \neq 0と行列C:=(c_{k,l})_{1\leq k, l \leq N}に対してC\Gamma=\gamma\Gammaが成り立つ。\Gamma\neq 0より

\det(C-\gamma I)=0

であり(Iは単位行列)、\gammaは多項式\det(C-xI)の根であることがわかった。

また、\betaの最小多項式をx^m+a_1x^{m-1}+\cdots +a_mとすると、\beta^{-1}a_mx^m+a_{m-1}x^{m-1}+\cdots +1の根である。 Q.E.D.

高木貞治の論文"Zur Theorie der natürlichen Zahlen"を読む

高木貞治博士の論文を読むシリーズ第二弾です。第一弾は

integers.hatenablog.com

でした。今回は高木博士が50代後半の時に出版された論文

Teiji Takagi, Zur Theorie der natürlichen Zahlen, Proceedings of the Imperial Academy of Japan, Vol. 7, (1931), 29-30.

を読みます。

極めて短い論文ですが、要約すると「自然数について、加法の存在性定理を導いてしまえば帰納法なしに結合法則および交換法則を証明できる」という内容だと思いました。もちろん、存在性定理の証明には帰納法の公理を使いますが。

ちなみに、最近は自然数に0を含めるのが主流だと思われますが、Peanoや高木博士は1から始めています。

本論

Peanoの公理を思い出す:

  1. 1は自然数である。
  2. 自然数xに対して、次の自然数x'が唯一つ存在する。
  3. 各自然数xに対して、1\neq x'である。
  4. x'=y'であればx=yである。
  5. 自然数の集合が1を含み、自然数xを含むときはx'を含むのであれば、その集合は自然数全体の集合である。

F(x)=x'という関数(\mathbb{N}\to\mathbb{N})はF(x')=F(x)'なる関数等式を満たしているが、逆にこの関数等式を満たすような関数F(x)を全て決定したい。

F(1)=1を仮定した場合は、F(x)=xである。理由: F(x)=xが所望の関数等式およびF(1)=1を満たすことは明らか。逆に、関数等式およびF(1)=1を満たす関数Fがあったと仮定する。(一つの)自然数xに対して、F(x)=xが成り立つと仮定する。このとき、F(x')=F(x)'=x'が成り立つので、公理5. より全ての自然数xに対してF(x)=xが成り立つ

このケースを除くために、自然数aに対してF(1)=a'であるとする(公理3.)。これを今後F_a(x)と表す。すなわち、

F_a(1)=a',\quad F_a(x')=(F_a(x) )'. \tag{1}

定理 (1)を満たすような関数F_a(x)が唯一つ存在する。

証明. 一意性は公理5. より明らか。 存在性をaに関する帰納法で証明する。 a=1のとき、F_1(x):=x'が(1)を満たす。実際、

F_1(1)=1',\quad F_1(x')=(x')'=(F_1(x) )'

である。次に、F_a(x)が存在すると仮定する。p=a'とするとき、F_p(x):=F_a(x')が(1)を満たす。実際、

\begin{align}F_p(1)&=F_a(1')=(F_a(1) )'=(a')'=p',\\ F_p(x') &= F_a((x')')=(F_a(x') )'=(F_p(x) )'\end{align}

である。 Q.E.D.

証明から次がわかる。

F_a(x)
F_1(x)=x',\quad F_{a'}(x)=F_a(x') \tag{2}
を満たす。

さて、\varphi(x):=F_b(F_a(x) )とおこう。(1)より

\begin{align}\varphi(1)&=F_b(F_a(1) )=F_b(a')=(F_b(a) )', \\ \varphi(x') &= F_b(F_a(x') )=F_b( (F_a(x) )')=(F_b(F_a(x) ) )'=(\varphi(x) )'\end{align}

が成り立ち、定理より\varphi(x)=F_{F_b(a)}(x)が成り立つ。

次に、\varphi(x):=F_x(y)とすると、(2)より

\begin{align}\varphi(1)&=F_1(y)=y', \\ \varphi(x') &= F_{x'}(y)=F_x(y')=(F_x(y) )'=(\varphi(x) )'\end{align}

なので、定理より\varphi(x)=F_y(x)を示している。

F_a(x)=x+aと書けば、これらは

(x+a)+b=x+(a+b)

y+x=x+y

を意味している。

抽象的素数大富豪

素数大富豪については

integers.hatenablog.com

をご覧ください。

最初に出た素数大富豪の公式ルールは2014年9月19日公開の

https://t.co/K5Tf8SeNHW

でした。しかし、twitterか何かで「素数大富豪のルールガバガバだな」というような文を見かけたので、ルールをできるだけ厳密にしようと試みたのが、 2017年2月10日公開の

https://dl.dropboxusercontent.com/s/n5pj0540muso2fn/prime_daifugo_rule.pdf?dl=0

でした。それでも、厳密性が欠けている部分は多数あり、もう一度修正したいと考えていました。それで、ちょっと修正する気になったのですが、考え出すと

「トランプとは何か」

から気になります。

「手札とは何か」

「各プレイヤー手持ちのカード」

「手持ち」とは何か

「手に持っている」

「手とは何か、持つとは?」

という感じになってきて、現実世界における素数大富豪の完全なる厳密化は不可能だということに気づきました。

そこで、現実世界における素数大富豪は曖昧さを含んだものであって、一方で数学世界には厳密に定義された「抽象的素数大富豪」が存在し、我々は現実世界で抽象的素数大富豪の実現を試みているのだという考えに至りました。

そうして、書かれた「抽象的素数大富豪の定義」が次です。

https://dl.dropboxusercontent.com/s/ezd2tk2lniakco7/APDD.pdf?dl=0

これでだいぶ明瞭になったのではないでしょうか。

調べてみると、将棋の数学化を試みているwebサイトがあったのでリンクを貼っておきます。

将棋の数学的考察 (Komakuro氏)