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数、特に整数に関する記事。

B2=1.902160583104…:ブルン定数

B_2=1.902160583104\dotsBrun定数です。

この数は1919年にBrunによって証明された次のcelebratedな定理に関係する数です:

Brunの定理 双子素数の逆数和は収束する。すなわち、
\displaystyle \sum_{p \in \mathbb{T}}\left( \frac{1}{p}+\frac{1}{p+2} \right) < +\infty
が成り立つ。ここで、\mathbb{P}を素数全体のなす集合とするとき、\mathbb{T} := \{ p \in \mathbb{P} \mid p+2 \in \mathbb{P} \}とする。

双子素数については
integers.hatenablog.com
をご覧ください(今回の記事はこの記事から始まる三部作となっています)。

Brunの定理に基づいて、Brun定数は次のように定義されます:

定義 Brun定数B_2
\displaystyle B_2 := \sum_{p \in \mathbb{T}}\left( \frac{1}{p}+\frac{1}{p+2} \right)
によって定義する。

Brun定数は無理数であると思われますが、証明することは非常に困難だと思われます。なお、Brun定数が無理数であることが証明できれば、「双子素数が無数に存在する」という双子素数予想も解決されます。

この記事ではBrunの定理の証明を紹介します。ですが、その前に「逆数和が発散するか収束するか」は素数分布によって決まることを確認しておきます。

逆数和と素数分布

整数論(特に素数分布論)において、「様々なタイプの素数がどのように分布しているか?」という問いは非常に基本的かつ魅力的な問題です。もう少し数式で設定を述べると、集合S \subset \mathbb{N}が与えられたとき、\displaystyle \pi_S(x) := \sum_{p \in (S \cap \mathbb{P})_{\leq x}}1の"理想的な"公式を与えることが一つの究極的な目標です。

少しく脱線しますが、"理想的な"という言葉は欠かすことができません。というのも、
\pi_S(x)の公式を与える」だけなら多数の公式が知られています。実際、例えばS=\mathbb{N}の場合に

\displaystyle \pi (x) = \sum_{n=2}^{[x]}\left[ \frac{1}{\sum_{i=1}^{n-1}\left[ \left[ \left. \frac{n}{i} \right] \right/ \frac{n}{i} \right]} \right]

がRegimbalによって与えられています*1。しかしながら、このような公式は単に素数の定義を機械的に書き換えたようなものであって、素数の神秘に真に迫る公式ではありません。「素数の公式は存在する」というと吃驚する人が多いですが、これは「公式」や「式」という言葉の素朴な定義と期待される意味の間のAmbiguityからくるものであって、素数分布を真に捉えることの意味を認識することは非常に重要です。従って、"理想的な"という語は欠かせないのですが、その定義をするのは本論ではないため、"理想的な"という"Ambiguous"な言葉で誤魔化します。

さて、\pi_S(x)の理想的な公式を与えるという究極の目標の最終到達点ではありませんが、中間到達点として、「\pi_S(x)に対する素数定理を証明する」ことが素数分布論において重要な目標となります。つまり、\pi_S(x)x \to \inftyにおける漸近挙動の主要項を決定する問題です。例えば、S=\mathbb{N}の場合は本来の素数定理

\displaystyle \pi (x) \sim \frac{x}{\log x}

であり、S=a\mathbb{N}+bの場合(a, bは互いに素な自然数)は算術級数の素数定理

\displaystyle \pi_{a, b}(x) := \pi_{a\mathbb{N}+b}(x) \sim \frac{x}{\varphi (a) \log x}

\varphi (a)はEulerのトーシェント関数)、S=\mathbb{S}の場合(\mathbb{S}は超素数全体のなす集合)は

\displaystyle \pi_{\pi}(x) := \pi_{\mathbb{S}}(x) \sim \frac{x}{\log^2x}

となります。超素数については
integers.hatenablog.com
を参照してください。

これらの素数定理は全て証明されている定理ですが、双子素数の場合は未解決問題です。次が予想されています:

予想(Hardy-Littlewood)
\displaystyle \pi_2(x) := \pi_{\mathbb{T}}(x) \sim 2C\frac{x}{\log^2x}
が成り立つ。ここで、\displaystyle C:= \prod_{p > 2}\left\{ 1-\frac{1}{(p-1)^2} \right\}

本来の素数定理の解決に向けてChebyshevの定理
integers.hatenablog.com
のような素数定理より弱い素数分布に関する定量的部分結果が研究されていたのと同様に、一般の素数定理の証明に向けて\pi_S(x)に関する定量的な部分的結果の証明を目論むことは非常に重要です。また、Chebyshevの定理がそうだったように、部分的な結果を得るだけならば初等的かつ組み合わせ論的な議論のみで比較的簡単に証明できるケースも多いです。

更に、このような素数分布研究は「あるタイプの素数の無限性」や「あるタイプの素数の逆数和が発散するか収束するか」といった定性的な結果にも影響します。実際、Chebyshevの定理から

\displaystyle \pi (x) \asymp \frac{x}{\log x}
および
\displaystyle \pi_{\pi} (x) \asymp \frac{x}{\log^2x}
が成り立ちますが、素数定理を用いることなく、この初等的結果から明らかに素数および超素数が無数に存在することがわかります。更に、逆数和の発散・収束も分かります。実際、Abelの総和法によって
\displaystyle \sum_{p\leq x}\frac{1}{p} = \frac{\pi (x)}{x} + \int_2^{x}\frac{\pi (t)}{t^2}dt \geq C\left( \frac{1}{\log x} + \int_2^x \frac{dt}{t\log t} \right)
と評価でき(C > 0はある定数)、不定積分
\displaystyle \int \frac{dt}{t\log t}dt = \log \log x + \text{積分定数}
より素数の逆数和が発散することが分かります。超素数の逆数和が収束することが全く同様にして証明されることは先ほど紹介した超素数に関する記事に書きました。

素数の逆数和が発散することの証明がこれで4通り当ブログで紹介されたことになりますが、『「素数の逆数和の発散」という定性的事実は、素数定理まではいかない素数分布に関する部分的定量的結果から導出できる』ということを今回紹介した証明によって理解して頂きたかったのです。

そうすると、「双子素数の逆数の総和が発散するか収束するかを知りたければHardy-Littlewood予想を証明するまでもなく、\pi_2(x)に関するそれより弱い結果を証明すればよいはずだ、あわよくば初等的にそれを証明したい!」と考えることができます。実際、「双子素数の逆数の総和が収束する」ことを結論付けるためには次の定理で十分です:

定理 \ \ \ \displaystyle \pi_2(x) = O\left( x\left( \frac{\log \log x}{\log x} \right)^2 \right).
これを「篩法」という初等的かつ組み合わせ論的な方法でBrunは証明しました。とは言っても、Eratosthenesの篩では上記定理を導出するには全く不十分であり、現今"Brunの篩"と呼ばれる彼の卓抜したアイデアによって成し遂げられた歴史的結果です。

なお、「あるタイプの素数の無限性」と「逆数の総和の発散・収束性」の間にはア・プリオリな上下関係はありません。逆数の総和が発散すれば無限性が自明に従うのですが、収束すれば無限性は証明できません。従って、超素数や双子素数の無限性は逆数和の結果からは導かれないことになります。超素数についてはChebyshevの定理によって\pi_{\pi}(x)を(逆数和の収束性の証明には上からの評価を用いるのに対して)下からも評価することが出来るので、無限性を簡単に証明できます*2。一方、Brunの篩では\pi_2(x)を満足のいく形で下から評価することはできないため、双子素数予想は未解決のままということになります。以上をまとめると:

素数 超素数 双子素数
無限性 証明済み 証明済み 未解決
逆数和 発散 収束 収束

Brunの定理の証明

前回の記事で解説した「Brunの篩」およびMertensの定理などの素数分布に関する結果を用いてBrunの定理を証明します。Brunの篩に関する記事
integers.hatenablog.com
で用いた記号をそのまま用いることにして、後で用いる簡単な補題から始めます。

補題 任意の自然数nに対して \displaystyle \frac{1}{n!} \leq \left( \frac{e}{n} \right)^n が成り立つ。

証明. これは

\displaystyle \sum_{k \leq n}\log k \geq n\log n-n
と同値であるが、
integers.hatenablog.com
の漸近公式1の証明より
\displaystyle \sum_{k \leq n}\log k = n\log n-n+1+\int_1^n\frac{\{t\}}{t}dt
であることから成立することがわかる。 Q.E.D.

それでは、具体的なシチュエーションにBrunの篩を応用します。

\displaystyle \mathcal{A} := \{ n(n+2) \mid n\in \mathbb{N}_0 \}

\displaystyle w(d) := \#\{ n \in \mathbb{Z} \mid n(n+2) \equiv 0 \pmod{d}, 0 \leq n \leq d-1 \}

とする。このとき、定義から明らかに0 \leq w(d) \leq d。また、pが素数のとき

\displaystyle w(p) = \begin{cases}1 & p=2 \\ 2 & p > 2\end{cases}

が成り立つ。w(2)=1は明らかであり、p > 2のときは

\displaystyle p \mid n(n+2) \Longleftrightarrow p \mid n \ \text{or} \ p \mid n+2
より、合同式は0p-2の丁度2つの解をもつことがわかる。そうして、中国剰余定理からw(d)が乗法的な数論的関数であることがわかる。

x以下の非負整数をd毎に区切ってdの倍数であるようなn(n+2)型の整数をw(d)を用いてカウントすることにより

\displaystyle \#\mathcal{A}_{d, \leq x} = w(d)\left[ \frac{x}{d} \right] = \frac{w(d)}{d}x-w(d)\left\{ \frac{x}{d} \right\}

を得る。よって、

\displaystyle R_d(x) := -w(d)\left\{ \frac{x}{d} \right\}

と定めれば、前回の記事における(Hyp1)および(Hyp2)を満たしていることがわかる。

Mertensの第三定理
integers.hatenablog.com
より、ある正の定数c_1が存在して、十分大きなyに対して

\displaystyle \mathcal{M}(y) = \frac{1}{2} \prod_{2 < p \leq y}\left( 1-\frac{2}{p} \right) \leq \prod_{2 < p \leq y} \left( 1-\frac{1}{p} \right)^2 \leq \frac{c_1}{\log^2y}

が成り立つ。また、\rho (2)=1であり、p > 2に対して

\displaystyle \rho (p) = \frac{2}{p\left( 1-\frac{1}{p} \right)} \leq \frac{4}{p}

であるため、Mertensの第二定理
integers.hatenablog.com
より、ある正の定数c_2が存在して、十分大きいyに対して

\displaystyle \sum_{p \leq y} \rho (p) \leq 4\sum_{p \leq y}\frac{1}{p} \leq c_2\log \log y

が成り立つ。
integers.hatenablog.com
の補題3より、y \geq 8ならば

\displaystyle 1+\sum_{ p \leq y}w(p) = 2\pi (y) \leq y

と評価できる。以上より、Brunの篩の定理を適用する(篩にかける)ことによって

\displaystyle S(\mathcal{A}; y\#, x) \leq \frac{c_1x}{\log^2y}\left\{ 1+\frac{1}{(2s)!}\left( (c_2\log \log y)^{2s}\exp (c_2\log \log y)\right) \right\} + y^{2s}

が十分大きいyに対して成立することが示された。

以下、xを十分大きい実数として、xに依存する形でy, sを次のようにうまく定まる:

\displaystyle y := \exp \left( \frac{\log x}{c_3\log \log x} \right),

\displaystyle \lambda (x) := \frac{c_4\log y \log \log y}{\log x},

\displaystyle s\text{は}c_2\log \log y\leq 2s\lambda (x)\text{を満たす最小の整数}.

ただし、c_3, c_4xに依らない絶対定数で、適切な定め方は証明中で述べる。

このとき、補題より

\begin{equation}\begin{split} \frac{1}{(2s)!}\left( (c_2\log \log y)^{2s}\exp \left( c_2\log \log y \right) \right) &\leq \left( \frac{e}{2s} \right)^{2s}(2s\lambda (x) )^{2s}e^{2s\lambda (x)} \\ &= \left( \lambda (x)e^{1+\lambda (x)}\right)^{2s} \end{split}\end{equation}

と評価できる。yおよび\lambda (x)の定義から

\displaystyle \lambda (x) = \frac{c_4}{c_3}\frac{\log \log y}{\log \log x} < \frac{c_4}{c_3}

が成り立ち(y < xに注意)、\displaystyle \lim_{t \to 0}te^{1+t}=0なので、

\displaystyle \lambda (x)e^{1+\lambda (x)} \leq 1

が成り立つように、c_4に対して、c_3を定めることができる。また、sの最小性から

\displaystyle y^{2s} \leq y^{\frac{c_2\log \log y}{\lambda (x)}+2}=x^{\frac{c_2}{c_4}+\frac{2}{c_3\log \log x}} \leq x^{\frac{c_2}{c_4}+\frac{2}{\log \log x}}

と評価できるが、最右辺はc_3やsに依らないため、

\displaystyle y^{2s}=o(\sqrt{x})

が成り立つようにc_4を選択することができることがわかる。単射

\displaystyle (\mathbb{T}_{ > y})_{\leq x} \hookrightarrow \{ m \in \mathcal{A} \mid \mathrm{gcd}(m, y\#) = 1 \},

p \mapsto p(p+2)が存在するので、

\displaystyle \pi_2(x)\leq S(\mathcal{A}; y\#, x) + y

である。以上の考察を統合することにより、

\begin{equation}\begin{split} \pi_2(x) &\leq \frac{c_1x}{\log^2y}\left\{ 1+\frac{1}{(2s)!}\left( (c_2\log \log y)^{2s}\exp (c_2\log \log y)\right) \right\} + y^{2s}+y \\ &\leq \frac{2c_1}{c_3^2}x\left( \frac{\log \log x}{\log x}\right)^2 + o(\sqrt{x}) \\ &= O\left( x\left( \frac{\log \log x}{\log x} \right)^2 \right) \end{split}\end{equation}

が証明された。

数列\{ a_n\}_{n=3}^{\infty}n \in \mathbb{T}のときはa_n=1、それ以外のときはa_n=0によって定め、n_0=3\{ a_n \}\varphi (x) = 1/xに対してAbelの総和法を適用することにより、

\begin{equation}\begin{split} \frac{1}{2}\sum_{p \in \mathbb{T}_{\leq x}}\left( \frac{1}{p} + \frac{1}{p+2} \right) & \leq \sum_{p \in \mathbb{T}_{\leq x}}\frac{1}{p} = \frac{\pi_2 (x)}{x} + \int_3^x\frac{\pi_2(t)}{t^2}dt \\ &\leq O\left( \left( \frac{\log \log x}{\log x}\right)^2 + \int_3^x\frac{1}{t}\left( \frac{\log \log t}{\log t} \right)^2dt\right) \end{split}\end{equation}

を得る。ここで、

\displaystyle -\frac{d}{dx}\left( \frac{2}{\log x}+\frac{2\log \log x}{\log x}+\frac{(\log \log x)^2}{\log x} \right) = \frac{1}{x} \left( \frac{\log \log x}{\log x} \right)^2

および

\displaystyle \lim_{x \to \infty} \left( \frac{2}{\log x}+\frac{2\log \log x}{\log x}+\frac{(\log \log x)^2}{\log x} \right) = 0

に注意することによって、最後の積分は有界であることがわかる。すなわち、Brunの定理が証明された。 Q.E.D.

*1:integers.hatenablog.com

*2:実際は、超素数の定義および素数の無限性から超素数の無限性は明らかです