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数、特に整数に関する記事。

31:短歌素数

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俳句は五・七・五の十七音からなり、短歌は五・七・五・七・七の三十一音からなる。


ここに現れる数が全て素数であるという事実は素数好きの大好きな話題の一つです。
偶然とはいえ、昔の日本人は素数の美しさを感じ取っていたのかもしれません。

三三七拍子なんてものもあります(十三音)。


この話が好きだった私は高校生のときに次の概念を導入して遊んでいました:

定義1 三つの素数の和として表すことができる素数のことを(広義)俳句素数という。また、五つの素数の和として表すことができる素数のことを(広義)短歌素数という。一般に自然数nに対して、n個の素数の和として表すことができる素数のことをn歌素数 (n-song prime)という。

音数が素数からなるn句に分けて歌うことができる素数というわけです。狭義には俳句素数は17を、短歌素数は31を指します。

p1歌素数であることと素数であることは同値であり、p2歌素数であることと(p-2, p)が双子素数であることは同値です*1

従って、「2歌素数が無数に存在するか?」という問は 双子素数予想=「双子素数は無数に存在するであろう」と同じです。

一方で、次の定理が成立します*2

定理'1 n \geq 3とする。このとき、p \geq p_{n+1}なる素数はn歌素数となる。特に、n歌素数は無数に存在する。

いつも通りn番目の素数をp_nと表しています。証明には弱いGoldbach予想を使うので、まずGoldbach予想を復習しましょう:

Goldbach予想 4以上の任意の偶数は2つの素数の和として表すことができる。

これは2016年現在未解決の予想です。一方、次の弱いGoldbach予想は2013年にHelfgottが証明したと宣言しています*3

定理' (弱いGoldbach予想) 7以上の任意の奇数は3つの素数の和として表すことができる。

Goldbach予想を仮定すれば弱いGoldbach予想を示すことができますが、逆は示せません(これが"弱い"と呼ばれる理由です。奇数Goldbach予想や三項Goldbach予想とも言います)。

定理'1の証明. 弱いGoldbach予想により、p_4=7以上の任意の素数は俳句素数である。また、p_5=11以上の任意の素数は4歌素数である(p11以上の素数とするとき、p-2に対して弱いGoldbach予想を適用すればよい)。n \geq 5とし、p_{n-3}(n-4)歌素数であると仮定する(\neq 2)。このとき、p\geq p_{n+1}なる素数pn歌素数となる。というのも、p-p_{n-3}-3 \geq 7に対して弱いGoldbach予想が適用できるからである。p_2=31歌素数、p_3=5=2+32歌素数、p_4=7は俳句素数、p_5=114歌素数なので、数学的帰納法によって定理の証明が完了する。 Q.E.D.

定理'1により素数というものは割と万能に歌を詠めることが分かります。

俳句と短歌を一般化した長歌と呼ばれる和歌がありますが、こちらは

\underbrace{\text{五・七}\cdots\text{五・七}}_n\text{・七}

の長さで詠まれる歌のことを言います(nは自然数)。そこで、12n+7型の素数のことを長歌素数と呼ぶのも楽しいでしょう。ついつい、長歌素数の長さの長歌を詠みたくなります。

定理2 長歌素数は無数に存在する。

証明. 127は互いに素なので、Dirichletの算術級数定理
integers.hatenablog.com
より従う。 Q.E.D.


各句の音数を相異なる素数にしたいという欲求に駆られた場合は次の概念に至ります:

定義2 nを整数とする。相異なるn個の素数の和として表すことができる素数のことをn歌素数という。

integers.hatenablog.com

によって、「2, 3, 11を除く任意の素数pに対して或るn \geq 2が存在して、pは強n歌素数である」ことが分かります。

実は次の定理を証明することができます:

定理3 n3以上の整数とする。このとき、十分大きい素数は強n歌素数である。特に、強n歌素数は無数に存在する。

証明のキーとなるのは次の深い定理です:

Vinogradovの定理 (1954) 奇数nを3つの素数の和として表す表し方の総数をN_3(n)とする。このとき、
\displaystyle N_3(n) \sim \prod_p \left( 1+\frac{1}{(p-1)^3} \right) \prod_{p \mid n} \left( 1-\frac{1}{p^2-3p+3} \right) \frac{n^2}{2\log^3 n}, \ \ n \to \infty
成る漸近公式が成り立つ。ここで、積におけるpは素数を表す。

この定理によって弱いGoldbach予想が十分大きい奇数に対して成立することが分かりますが(Helfgott以前の大きな結果!)、漸近公式まで分かっていることが定理3の証明で効いてきます。\pi (x)x以下の素数の個数とします。

定理3の証明. 奇数nを2つの素数p_1, p_2を用いてn=p_1+2p_2と書き表す表し方の総数は\pi (n)を超えないので、\pi (n)に関する素数定理による漸近評価の式よりもVinogradovの定理によるN_3(n)の漸近評価の式の方が打ち勝つことから、次の系が成り立つ:

任意の自然数Nに対してあるn_0(N)が存在して、n \geq n_0(N)なる奇数nNより大きい相異なる3つの素数の和として表すことができる。

これで定理3のn=3の場合は証明されている。また、pp \geq n_0(2)+2を満たすような素数とし、系によって奇数p-2を相異なる3つの奇素数の和として表すことによって、pは強4歌素数であることが分かるので、n=4の場合も証明された。qを強n歌素数とし、qを相異なるn個の素数の和として表したとき*4に現れる最大の素数をr、そこに現れない奇素数を一つとってsとする。t:=\max \{r, s\}。このとき、pp \geq n_0(t)+q+sなる素数とし、系によって奇数p-q-sを相異なる3つのrより大きい素数の和として表すことによって、pは強(n+4)歌素数であることが分かる。従って、数学的帰納法によってn \geq 5の場合も十分大きい素数は強n歌素数であることが示される。 Q.E.D.


二・三・五・七・十一・… と各句の音数を小さい素数順に並べた長さで読む素数長歌も最近流行っていいます。\displaystyle S(n) := \sum_{i=1}^np_iと定義し、p=S(n)なる素数を素数長歌素数と呼んでみましょう。まず、素数定理から次の漸近公式を証明することができます。

命題 \ \ \displaystyle S(n) \sim \frac{n^2}{2}\log n, \ \ (n \to \infty).

昔、最初の10万個程の素数から様々なデータをとって眺めていたとき、この漸近公式は絶対成り立つだろうな〜と考えていたことがあります。そのときは、Gaussが1から100までの和を瞬時に足して5050と答えた方法を真似たheuristicな議論によって導きましたが、次のようにちゃんと証明することができます*5

証明. pは素数を表すことにすると、

\displaystyle \sum_{p \leq x}p = \sum_{n \leq x}\{ \pi(n) -\pi (n-1)\} n = -\sum_{n \leq x}\pi (n) + \pi (x)([x]+1)

が成り立つ。

\displaystyle \pi (x) = \frac{x}{\log x} + O\left( \frac{x}{\log^2x} \right)

という形で素数定理を用いると*6

\begin{align} \int_2^x\frac{t}{\log t}dt &= \frac{x^2}{2\log x} - \frac{2^2}{2\log 2}+\frac{1}{2}\int_2^x\frac{t}{\log^2t}dt \\ &= \frac{x^2}{2\log x} + O\left( \frac{x^2}{\log^2x} \right)\end{align}

などに注意すれば、アーベルの総和法によって

\displaystyle \sum_{n \leq x}\pi (n) = \frac{x^2}{2\log x} + O\left( \frac{x^2}{\log^2x} \right)

が得られる。従って、

\displaystyle \pi (x)([x]+1) = \frac{x^2}{\log x} + O\left( \frac{x^2}{\log^2 x} \right)

と合わせることによって

\displaystyle \sum_{p \leq x}p \sim \frac{x^2}{2\log x}, \ \ (x \to \infty) ー①

が示された。これに再び素数定理p_n \sim n\log nを適用すれば主張が得られる。 Q.E.D.

予想 素数長歌素数は無数に存在する。

この予想に対してheuristicな議論を行ってみましょう。

Heuristicな考察 x以下のS(n)という形の自然数の個数をN_xとすると、①より

\displaystyle \frac{N_x^2}{2\log N_x}≒x

が成り立つ。また、x以下の自然数が素数である確率は素数定理より大体\frac{1}{\log x}である。従って、

\begin{align}x\text{以下の}S(n)\text{という形をした素数の個数} &≒ \frac{N_x}{\log x} \\ &≒ \frac{N_x}{2\log N_x - \log 2-\log \log N_x} \\ &≒ \frac{N_x}{2\log N_x} ≒ \frac{\pi (N_x)}{2}\end{align}

と近似できるので、\displaystyle \lim_{x \to \infty}N_x = \inftyであることから予想は正しそうに思える。
考察終わり

素数長歌素数最初の100個

\begin{align}&S(1)=2, S(2)= 5, S(4)= 17, S(6)= 41, S(12)= 197, S(14)= 281, \\
&S(60)= 7699, S(64)= 8893, S(96)= 22039, S(100)= 24133, \\
&S(102)= 25237, S(108)= 28697, S(114)= 32353, S(122)= 37561, \\
&S(124)= 38921, S(130)= 43201, S(132)= 44683, S(146)= 55837, \\
&S(152)= 61027, S(158)= 66463, S(162)= 70241, S(178)= 86453,\\
&S(192)= 102001, S(198)= 109147, S(204)= 116533, S(206)= 119069, \\
&S(208)= 121631, S(214)= 129419, S(216)= 132059, S(296)= 263171, \\
&S(308)= 287137, S(326)= 325019, S(328)= 329401, S(330)= 333821, \\
&S(332)= 338279, S(334)= 342761, S(342)= 360979, S(350)= 379667, \\
&S(356)= 393961, S(358)= 398771, S(426)= 581921, S(446)= 642869, \\
&S(458)= 681257, S(460)= 687767, S(464)= 700897, S(480)= 754573, \\
&S(484)= 768373, S(488)= 782263, S(512)= 868151, S(530)= 935507, \\
&S(536)= 958577, S(548)= 1005551, S(568)= 1086557, S(620)= 1313041, \\
&S(630)= 1359329, S(676)= 1583293, S(680)= 1603597, S(696)= 1686239, \\
&S(708)= 1749833, S(734)= 1891889, S(762)= 2051167, S(768)= 2086159, \\
&S(776)= 2133121, S(780)= 2156813, S(784)= 2180741, S(808)= 2327399, \\
&S(814)= 2364833, S(820)= 2402537, S(836)= 2504323, S(844)= 2556187, \\
&S(848)= 2582401, S(852)= 2608699, S(926)= 3120833, S(942)= 3238237, \\
&S(984)= 3557303, S(992)= 3619807, S(1024)= 3875933, S(1026)= 3892271, \\
&S(1030)= 3925069, S(1036)= 3974497, S(1070)= 4260917, S(1098)= 4504663, \\
&S(1118)= 4682791, S(1136)= 4846279, S(1142)= 4901431, S(1148)= 4956893, \\
&S(1150)= 4975457, S(1178)= 5238847, S(1190)= 5353841, S(1192)= 5373133, \\
&S(1196)= 5411839, S(1222)= 5666783, S(1240)= 5847047, S(1256)= 6009791, \\
&S(1296)= 6426919, S(1314)= 6619643, S(1322)= 6706397, S(1338)= 6881663, \\
&S(1356)= 7081849, S(1386)= 7422539\end{align}


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*1:ちなみに、私は双子素数ではなく素数双子と呼ぶことを提唱しています。 integers.hatenablog.com

*2:ただし、後述の弱いGoldbach予想の証明が正しかった場合。

*3:arXivにプレプリントがあります。未だに出版されていないようですが、英語版Wikipediaには"the claim is now broadly accepted"と書かれています。

*4:一つだけ考えれば十分。

*5:少なくとも1903年のLandauのテキストには載っています。

*6:この形では当ブログでは証明してないかもしませんが、少なくとも1899にde la Vallée Poussinが証明した誤差項評価よりははるかに緩いです。