インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

Boreicoの解答:国際数学オリンピック特別賞

今日は2005年の国際数学オリンピックメキシコ大会第3問を紹介します。

IMO 2005 Problem3
x, y, z > 0xyz \geq 1を満たすとき、次の不等式が成り立つことを示せ。

\displaystyle \frac{x^5-x^2}{x^5+y^2+z^2}+\frac{y^5-y^2}{y^5+z^2+x^2}+\frac{z^5-z^2}{z^5+x^2+y^2} \geq 0.

実にたくさんの証明法があるのですが、Cauchy-Schwarzの不等式を使った割とスマートな方法をまず紹介します。Cauchy-Schwarzについては

コーシーシュワルツの不等式とそのエレガントな証明 | 高校数学の美しい物語

を参照してください。また、次の超基本的な不等式を使います:

\displaystyle x^2+y^2+z^2\geq xy+yz+zx ―①

Cauchy-Schwartzの不等式を使った解答

\displaystyle \frac{x^5-x^2}{x^5+y^2+z^2} = 1-\frac{x^2+y^2+z^2}{x^5+y^2+z^2}

より、示すべき不等式は

\displaystyle \frac{x^2+y^2+z^2}{x^5+y^2+z^2}+\frac{x^2+y^2+z^2}{y^5+z^2+x^2}+\frac{x^2+y^2+z^2}{z^5+x^2+y^2}\leq 3

と同値である。Cauchy-Schwarzの不等式とxyz\geq 1より

\displaystyle (x^5+y^2+z^2)(yz+y^2+z^2)\geq (x^{\frac{5}{2}}(yz)^{\frac{1}{2}}+y^2+z^2)^2\geq (x^2+y^2+z^2)^2

が成り立つので、

\displaystyle \frac{x^2+y^2+z^2}{x^5+y^2+z^2} \leq \frac{yz+y^2+z^2}{x^2+y^2+z^2}

が得られる。同様の不等式をあと2つ作って足し合わせることにより、

\displaystyle \text{②の左辺} \leq 2+\frac{xy+yz+zx}{x^2+y^2+z^2}

が得られ、①より②の成立が示された。

特別賞

国際数学オリンピックでは個人に特別賞が贈られる場合があります。最後に特別賞が贈られたのがモルドバ出身の数学者Iurie Boreicoで、受賞理由はこの問題に対するスマートかつ(①を除く)Cauchy-Schwarzの不等式などの有名不等式を用いることのない、問題作成者側の予期せぬエレガントな解答を与えたからです。

IMO 2005 photos of the Belgian team and friends

Boreicoの解答

\displaystyle \frac{x^5-x^2}{x^5+y^2+z^2}-\frac{x^5-x^2}{x^3(x^2+y^2+z^2)} = \frac{(x^3-1)^2x^2(y^2+z^2)}{x^3(x^2+y^2+z^2)(x^5+y^2+z^2)} \geq 0

なので、xyz \geq 1より

\displaystyle \frac{x^5-x^2}{x^5+y^2+z^2} \geq \frac{x^2-x^{-1}}{x^2+y^2+z^2} \geq \frac{x^2-yz}{x^2+y^2+z^2}

が得られる。同様にして得られる2つの不等式を足し合わせると、①から所望の不等式が示される。