インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

二回目のディリクレ関数

私と相互フォローして下さっている鰺坂もっちょさんという方がtwitterで「いまディリクレ関数のブログ書いてる」と呟いておられたので、「ああ、僕もそろそろDirichlet L関数についてブログ書かなきゃなあ~。これを機に記事を書くか!」と思っていたのですが、鰺坂もっちょさんの待望の記事が公開されました!!

motcho.hateblo.jp


「ディリクレ関数」違いでした(笑)。もっちょさんの書かれた関数は次の関数です:

ディリクレ関数 ディリクレ関数D\colon \mathbb{R} \to \mathbb{R}
\displaystyle D(x) := \begin{cases}1 & (x \in \mathbb{Q}) \\ 0 & (x \in \mathbb{R} \setminus \mathbb{Q}) \end{cases}
によって定義する。

この関数は至る所不連続である関数として大学初年度の微積分などで扱われる有名病的関数です。

もっちょさんの記事では、この関数が次の美しい二重極限表示をもつことを分かりやすく解説されています:

定理 ディリクレ関数は次の表示をもつ:
\displaystyle D(x) = \lim_{n \to \infty}\left( \lim_{k \to \infty}(\cos (n!\pi x)^{2k}\right).

そこで、これに乗っかって今日の私の記事は(普段とは違って整数の記事ではないですが)L関数ではなくディリクレ関数D(x)についての記事を書こう!とさっき思いました。

何を書くか

D(x)は美しい二重極限表示を持ちましたが、「一重極限表示はもたないのか?」という問いは自然だと思われます。

なお、どんな関数を用いてもよいなら一重極限表示は明らかにあります。というのも、

\displaystyle f_n(x):=\lim_{k \to \infty} (\cos n! \pi x)^{2k}

とすれば、\displaystyle D(x) = \lim_{n \to \infty}f_n(x)と書けてしまうからです。我々はこれを一重極限表示と呼びたくありません。f_n(x)に連続性を課すことにしましょう。すると、ディリクレ関数は一重極限表示をもたないことを証明できるのです!すなわち、もっちょさんの記事で取り扱われた二重極限表示はある意味で最善なのです!よし、この証明の記事を書こう笑!

Baire(ベール)関数

Baire関数 関数 f\colon \mathbb{R} \to \mathbb{R}Baire-1級関数であるとは、各n \in \mathbb{N}毎に連続関数 f_n\colon \mathbb{R} \to \mathbb{R}が存在して、任意のx \in \mathbb{R}に対して

\displaystyle f(x) = \lim_{n \to \infty}f_n(x)

が成り立つときにいう(つまりf_nfに各点収束する)。一般に非負整数kに対してBaire-k級関数が次のように帰納的に定義される: Baire-0級関数を連続関数として定義し、Baire-(k-1)級関数までが定義されたとき、Baire-(k-1)級関数達の各点収束関数としてBaire-k級関数を定義する。これらの関数を総称してBaire関数とよぶ。

目標は次の定理を証明することです:

定理 f\colon \mathbb{R} \to \mathbb{R}をBaire-1級関数とする。このとき、任意の閉区間I \subset \mathbb{R}fが連続であるような点を含む。

定義 関数 f\colon \mathbb{R} \to \mathbb{R}を一つとる。集合A \subset \mathbb{R}に対して\omega (A)

\omega (A) := \sup \{ \left|f(x)-f(y)\right| \mid x, y \in A\} \in \mathbb{R}_{\geq 0}\cup \{ \infty\}

と定義する(関数fを明記する場合は\omega (A, f)という記号を用いる)。また、x \in \mathbb{R}に対し、\omega (x)

\displaystyle \omega (x) := \lim_{\varepsilon \to + 0}\omega (B_{\varepsilon}(x))

と定める。ここで、B_{\varepsilon}(x) := (x-\varepsilon, x+\varepsilon )

補題 関数 f\colon \mathbb{R} \to \mathbb{R}が点x \in \mathbb{R}で連続であるための必要十分条件は\omega (x)=0となることである。

証明. 定義の書き換えに過ぎない。 Q.E.D.

命題 (Baireのcategory定理の一種) 数直線上の閉区間が加算個の閉集合の和集合として表されているならば、それらの閉集合のうち少なくとも一つはある閉区間を含む。

これは有名なBaireのcategory定理(の帰結)なので、ここでは証明を省略します。

定理の証明. fに各点収束するような連続関数列\{ f_n\}をとって固定する(fはBaire-1級関数なのでこのような関数列は必ずとれる)。まず、次の主張を示す:

主張 任意の\varepsilon > 0に対して、閉区間I' \subset Iが存在して、\max \{d(I'), \omega (I')\} \leq \varepsilonが成り立つ。ここで、閉区間[a, b] に対しd([ a, b]):=b-aと定める。

n, m \in \mathbb{N}に対して、V_{nm}

\displaystyle V_{nm} := \{x \in I \mid \left|f_n(x)-f_{n+m}(x)\right| \leq \varepsilon /3\}

と定める。f_nおよび f_{n+m}の連続性よりV_{nm}は閉集合である。よって、

\displaystyle V_n := \bigcap_{m=1}^{\infty}V_{nm}

も閉集合である。このとき、

\displaystyle I=\bigcup_{n=1}^{\infty}V_n

が成り立つ。これを確かめるためには、任意にx \in Iをとったとき、あるn_0 \in \mathbb{N}が(x毎に)存在してx \in V_{n_0}であることを示せばよい。\{f_n\}の定義から

\displaystyle n \geq n_0 \Longrightarrow \left|f_n(x)-f(x)\right| \leq \frac{\varepsilon}{6}

なるn_0がとれる。このとき、任意のm \in \mathbb{N}に対して

\displaystyle \left|f_{n_0}(x)-f_{n_0+m}(x)\right| \leq \left|f_{n_0}(x)-f(x)\right|+\left|f(x)-f_{n_0+m}(x)\right| \leq \frac{\varepsilon}{3}

となって確かにx \in V_{n_0}である。よって、命題よりある番号Nと閉区間Jが存在してJ \subset V_Nが成り立つ。\{f_{N+m}\}_{m \geq 1}も当然fに各点収束するので、V_Nの定義からx \in Jに対し

\displaystyle \left|f_N(x) -f(x)\right| \leq \frac{\varepsilon}{3} ‐①

が成り立つ。Jは閉区間なのでf_NJ上一様連続である。よって、ある\delta > 0が存在して、

\displaystyle \left|x-y\right| < \delta \ \ (x, y \in J) \Longrightarrow \left|f_N(x)-f_N(y)\right| \leq \frac{\varepsilon}{3}

となることに注意する。ここで、閉区間I' \subset J \subset Id(I') \leq \min \{\varepsilon, \delta\}を満たすようにとる(Jに含まれていてかつ十分小さければ何でもよい。Jが閉区間だから必ずとれる)。上の注意より、

 \displaystyle \omega (I', f_N)=\sup \{\left|f_N(x)-f_N(y)\right| \mid x, y \in I'\} \leq \frac{\varepsilon}{3} ‐②

が従う。 x, y \in I'とする。①、②より

\begin{equation}\begin{split} \left|f(x)-f(y)\right| &\leq \left|f(x)-f_N(x)\right|+\left|f_N(x)-f_N(y)\right|+\left|f_N(y)-f(y)\right| \\ &\leq \frac{\varepsilon}{3} +\frac{\varepsilon}{3}+\frac{\varepsilon}{3}=\varepsilon \end{split}\end{equation}

となり、\omega (I')=\omega (I', f) \leq \varepsilon, すなわち主張が証明された。主張を繰り返し適用することにより、閉区間の列

I=I_0 \supset I_1 \supset I_2 \supset \cdots

であって、

\displaystyle \lim_{n \to \infty}d(I_n)=0, \lim_{n \to \infty}\omega (I_n)=0

を満たすものが得られる。よって、区間縮小法より一点x_0 \in I

\displaystyle \bigcap_{n=0}^{\infty}I_n = \{x_0\}

によって定まる。このx_0に対して\omega (x_0)=0が成り立つので、補題よりfx_0 \in Iで連続である。 Q.E.D.

与えられたBaire-1級関数に対し、その関数が連続であるような点のなす集合は\mathbb{R}に稠密に分布している。

よって、もっちょさんの記事によってディリクレ関数はBaire-2級関数であることが示されていますが、至る所不連続であることと上記系は両立しないのでBaire-1級関数ではない、すなわちディリクレ関数は一重極限表示をもたないことが証明されました。

まとめ

Baire-0級関数は連続関数なので、Baire関数はある種の連続関数を一般化した概念であり、一般に級が大きくなればなるほど連続関数から遠ざかることが分かります。そして、定理の言っていることは、「Baire-1級関数はもはや連続関数ではないかもしれないが、連続の心は残っている」ということを示しています。一方、ディリクレ関数は全く連続ではなく、連続の心が喪失されています。こうして、ディリクレ関数は一つの極限では表示できないという不可能定理が証明できてしまうという寸法でした。