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INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

1/2+1/3+1/6=1 多重調和和の非整数性

実は、今月初めにパソコンが壊れてしまったため、ブログを二週間近く更新出来ませんでした。大変、申し訳ございません。

新しいパソコンが届いたので更新を再開しようと思います。

以前、調和数H_nn=1の場合を除いて整数にはならないことを証明しました:16843:ウォルステンホルム素数、調和数、調和級数、オイラーの定数 - INTEGERS

ちなみに、この証明が出版論文として書かれたのは1915年のTheisingerの論文が最初らしいです(証明は簡単なので意外ですが)。

この調和数を一般化した数学的対象として多重調和和(Multiple Harmonic Sum)と呼ばれるものがあります。n, rr \leq nを満たすような自然数とし、自然数の組k_1, \dots, k_rに対して多重調和和H_n(k_1, \dots, k_r)

\displaystyle H_n(k_1, \dots, k_r) := \sum_{1 \leq n_1 < \cdots < n_r \leq n}\frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_r^{k_r}} \in \mathbb{Q}

と定義されます(n_1, \dots, n_rは整数)。 H_n(1)=H_nなので、調和数を拡張した概念であることがわかります。多重調和和は整数になることがあるでしょうか?

まず、任意の自然数kに対してH_1(k)=1は整数です(自明な例)。

これよりは非自明な例として、H_3(1, 1)=1があります:

\displaystyle H_3(1, 1)=\frac{1}{1\cdot 2}+\frac{1}{1\cdot 3}+\frac{1}{2\cdot 3}=\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{6}=1

実は、これら以外に多重調和和が整数となることはないことの証明が本日プレプリントとして発表されました*1

定理 多重調和和H_n(k_1, \dots, k_r)が整数となるのは、自然数kに対するH_1(k)=1およびH_3(1, 1)=1の場合に限る。

KF. H. Pilehrood, T. H. Prilehrood, R. Tauraso, Multiple harmonic sums and multiple harmonic star sums are (nearly) never integers, preprint.

非自明な例が一つだけあるというのが個人的に面白いです。

ちなみに、この非自明な例は、偶然ですが、tsujimotter氏の本日のtweetと同じ式になっています:

完全数については完全数 - INTEGERSを参照してください。

*1:その後、雑誌INTEGERSに掲載(当ブログ名と同じ名称の数学専門誌があるのです)。