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数、特に整数に関する記事。

クロネッカーの稠密定理とワイルの一様分布定理

この記事では有名なKroneckerの稠密定理とWeylの一様分布定理を解説します。高木貞治『解析概論』において

(証明はむつかしいが, \alpha /\piが無理数ならば, 単位円周上の定点Aを起点として同じ向きに長さがn\alphaなる弧AP_nを取れば, 点P_nは円周上に稠密に分布される).


という記述があり、証明が書いてなくてむず痒い思いをした方も多いと思いますが、そのお話です。

今更ですが、稠密の読み方は「ちょうみつ」ではなく「ちゅうみつ」です。「稠」の漢字も≠に近い形の部分を「土」のように間違えるケースがよくあります。

Kroneckerの稠密定理

定理 (Kronecker) \alphaを無理数とする。任意の区間(a, b) \subset [0, 1]に対して、ある自然数nが存在して
\{n\alpha\} \in (a, b)
が成り立つ。ここで、実数xに対して\{x\}xの小数部分を表す。

この定理は鳩ノ巣原理を用いて証明することができます。証明が気になる方は
mathtrain.jp
を参照してください。

Weylの一様分布定理

定義 実数列\{a_n\}_{n=1}^{\infty}\bmod{1}で一様分布するとは、任意の区間(a, b) \subset [0, 1]に対して
\displaystyle \lim_{N \to \infty}\frac{\#\{a_n \mid n \leq N, \{a_n\} \in (a, b)\}}{N} = b-a
が成り立つときにいう。

定義式に現れる\{a_n\}は数列を表す記号ではなく小数部分を表す記号であることに注意してください。\bmod{1}での分布とは「整数部分を無視した(小数部分の)分布」という意味です。[0, 1]で値をとる数列に限定した分布として表現することもできますし、2\pi倍すれば単位円周上での分布として表現することもできます(冒頭の引用が一例)。また、定義における開区間において、半開区間や閉区間を考えても数学的な内容は変わりません。

さて、Kroneckerの稠密定理に比べてはるかに格調高い定理を1909年にWeylが証明しました:

Weylの一様分布定理
\alphaを無理数とする。このとき、数列\{n\alpha\}_{n=1}^{\infty}\bmod{1}で一様分布する。

稠密だけだと分布に偏りがある可能性がありますが、一様に分布することまでわかるのです。非常に美しい定理です。解析概論では「むつかしい」とありましたが、「稠密」の証明は簡単なので「一様」と書いていた方がしっくりくる気がします。

Weylの規準

iを虚数単位とします。

定理 実数列\{a_n\}_{n=1}^{\infty}について次の三つの条件は同値である:

  1. \{a_n\}_{n=1}^{\infty}\bmod{1}で一様分布する。
  2. 任意の零でない整数kに対して\displaystyle \lim_{N \to \infty}\frac{1}{N}\sum_{n=1}^Ne^{2\pi i ka_n} = 0が成り立つ。
  3. 任意の[0, 1]上定義された複素数値Riemann可積分関数 fに対して\displaystyle \lim_{N \to \infty}\frac{1}{N}\sum_{n=1}^Nf(\{a_n\}) = \int_0^1f(x)dx が成り立つ。


特に1.と2.の同値のことをWeylの基準と言います。3. を媒介して、一様分布の問題を三角和の問題に帰着できるようになるという定理です。三角和においては小数部分をわざわざ考える必要がない(もともと\bmod{1}で決まる関数である)ことも重要なポイントです。

補題1 3.の成立には線型性が成り立つ。すなわち、[0, 1]上定義された複素数値Riemann可積分関数f_1,  f_2が3.の極限公式を満たすならば、複素数c_1, \ c_2に対してc_1f_1+c_2f_2も同じ極限公式を満たす。

証明. これは、極限、和、定積分の各々が線型性を満たすことから従う。 Q.E.D.

補題2 f[0, 1]上定義された実数値Riemann可積分関数とする。任意の\varepsilon > 0に対して、3. の極限公式を満たすような[0, 1]上定義された実数値Riemann可積分関数 f_1, f_2が存在して、
\displaystyle f_1(x) \leq f(x) \leq f_2(x), \ \ x \in [0, 1]
および
\displaystyle \int_0^1(f_2(x)-f_1(x))dx < \varepsilon
が成り立てば、fも3. の極限公式を満たす。

証明. \varepsilon > 0に対して、仮定より

\begin{align}\int_0^1f(x)dx - \lim_{N \to \infty}\frac{1}{N}\sum_{n=1}^Nf(\{a_n\}) &\leq \int_0^1f(x)dx - \lim_{N \to \infty}\frac{1}{N}\sum_{n=1}^Nf_1(\{a_n\}) \\ &= \int_0^1(f(x)-f_1(x))dx \leq \int_0^1(f_2(x)-f_1(x))dx < \varepsilon\end{align}

および

\begin{align}\int_0^1f(x)dx - \lim_{N \to \infty}\frac{1}{N}\sum_{n=1}^Nf(\{a_n\}) &\geq \int_0^1f(x)dx - \lim_{N \to \infty}\frac{1}{N}\sum_{n=1}^Nf_2(\{a_n\}) \\ &= \int_0^1(f(x)-f_2(x))dx \geq \int_0^1(f_1(x)-f_2(x))dx > -\varepsilon\end{align}

と評価できる。\varepsilonは任意なので、

\displaystyle \lim_{N \to \infty}\frac{1}{N}\sum_{n=1}^Nf(\{a_n\}) = \int_0^1f(x)dx

を得る。 Q.E.D.

定理の証明

3. \Longrightarrow 1. 任意の半開区間[a, b)に対して、f=\mathbf{1}_{[a, b)}として3. を適用すれば1. が出る。ただし、\mathbf{1}_XX上で1、それ以外で0をとる関数とする。

1. \Longrightarrow 3. f[0, 1]上定義された実数値Riemann可積分関数の場合に示せば十分である(複素数値の場合は実部と虚部に分けることによって、補題1を使えば帰着できる)。

\displaystyle \frac{\#\{a_n \mid n \leq N, \{a_n\} \in [a, b)\}}{N} = \frac{1}{N}\sum_{n=1}^N\mathbf{1}_{[a, b)}(\{a_n\})

および

\displaystyle \int_0^1\mathbf{1}_{[a, b)}(x)dx = b-a

より、1. を仮定すると、\mathbf{1}_{[a, b)}については3. が成立することが分かる。よって、補題1よりそれらの線形結合として表される階段関数についても3. が成り立つことが分かる。fはRiemann可積分なので、(補題2の意味で)階段関数によって近似できる。従って、補題2よりfも3. を満たす。

3. \Longrightarrow 2. 零でない任意の整数kをとって、f(x) = e^{2\pi ikx}として3. を適用すると、

\displaystyle \lim_{N \to \infty} \frac{1}{N}\sum_{n=1}^{N}e^{2\pi ika_n} = \lim_{N \to \infty} \frac{1}{N}\sum_{n=1}^{N}e^{2\pi ik\{a_n\}} = \int_0^1e^{2\pi ikx}dx = 0

より2. が成り立つことが分かる。

2. \Longrightarrow 3. 補題1よりf[0, 1]上定義された実数値Riemann可積分関数の場合に示せば十分である。2. より、実部と虚部に分けて考えれば、任意の零でない整数 kに対して、\cos (2\pi kx)および\sin (2\pi kx)は3. を満たすことが分かる。定数関数\mathbf{1}_{[0, 1]}は3. を満たすので、補題1より

\displaystyle a_0+\sum_{n=1}^N(a_n\cos (2\pi x) + b_n\sin (2\pi x)) \ \ \ \ (a_0, a_1, \dots, a_N, b_1, \dots, b_N \in \mathbb{R}) -①

の形の関数は3. を満たすことが分かった。Stone-Weierstrassの定理より[0, 1]上で定義された連続関数は①型の関数で一様近似できるので、fは補題2より3. を満たすことが従う。 Q.E.D.

Weylの一様分布定理の証明

\alphaが無理数であれば、任意の零でない整数kに対して1-e^{2\pi ik\alpha}\neq 0なので、

\displaystyle \left| \frac{1}{N}\sum_{n=1}^{N}e^{2\pi ikn\alpha} \right| = \frac{1}{N} \frac{|1-e^{2\pi ikN\alpha}|}{|1-e^{2\pi ik\alpha}|} \leq \frac{1}{N}\frac{2}{|1-e^{2\pi ik\alpha}|} \xrightarrow{N \to \infty} 0

が成り立つ。従って、Weylの規準より一様分布定理が従う。 Q.E.D.