この記事は日曜数学アドベントカレンダーの17番目の記事です。
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昨日の記事はToshiki Takahashiさんのリープグラフと複素確率 | Advent Calendar 2016 | DIY Mathematics |でした。
今日は、キグロさんの20日の動画の予習的記事を書こうと思いました。
次の問題を解いてみてください:
特に困難なく解けることと思います。このように、例えばが無理数であることは簡単に証明できますが、一般には(無理数)(無理数)(無理数)は言えないので注意が必要です。は足しても無理数であることを示せる数少ない例の一つなのです。とが無理数であることは
eが無理数であることの5通りの証明 - INTEGERS
フェルマーのクリスマス定理 - INTEGERS
などで紹介しましたが、が無理数であるかは未解決問題です*2。
さて、上の問題を解けた皆さん。次の問題は解けるでしょうか?
これが意外に難しいのです。実は、これは近畿大学での文化祭で毎年開催されている数学コンテストの第12回で出題された最初の問題でもあります。意外に難しいですが、数学が得意な中学生なら解けるだろうというぐらいの難易度です。というわけで解けるまで考えてみましょう。
ここでは、もう少し一般的な設定で証明をつけてみたいと思います。
(例: は無平方であり、)。
自然数は必ずと一意的に表すことができる(は自然数、は無平方な自然数)。このとき、をの無平方部分(square-free part)といい、と表すことにする。
証明. 実際には一段階ずつ証明していく。
有理数がを満たすと仮定する。このとき、であることを示せばよい。適当に分母を払うことによっては整数であると仮定してもよい。と変形し、両辺を二乗してを得る。と仮定し、を一つ取る。すると、が無平方という仮定より、は奇数であるにもかかわらず右辺についてはは偶数なので矛盾。従って、であり、でもある。
有理数がを満たすと仮定する。このとき、を示せばよい。分母を適当に払うことによっては整数であると考えてよい。またはがならばStep1の状況になるため、と仮定して矛盾を導く。なので、とすることによって、問題は次に帰着される。
以下、複合同順。有理数が存在してとなったと仮定する。両辺を二乗すれば
を得るが、仮定よりは平方数ではないので、これはが無理数(Step1より従う)であることに反する。
これもStep2を利用して先ほどと同様の議論をすれば次に帰着される(適当にを入れ替えたり、全体を倍することによって符号については主張にある場合を考えれば十分)。
有理数を用いてとなったと仮定する。
と変形して二乗すれば、
を得る。であればStep2よりが上一次独立であることに矛盾する。であれば*3、ある有理数が存在してが成り立つが、であれば上の式からが無理数であることに矛盾する。最後に、の場合を考える。このとき、
が成り立つ。二つ目の式よりは整数であり*4、を消去すると
となってまたはが平方数となってしまう。これは矛盾。
Step3と今までと同様の議論によって、示したい定理は最終的に次に帰着される。
有理数を用いてと仮定する。
と移行して両辺を二乗することにより
を得る*5(基本的には二乗してもルートの数が減らない点が難しい点ですが、諦めないことが大切!)。とすれば
と書き直せる。これを二乗すれば
となる。両辺に式を加えると
を得る(が消えた!!)。仮定より, , はどれも空集合ではなく相異なることが分かるので*6、Step3よりは上一次独立である。従って、
が成り立つ。すると、が得られ、となって矛盾する。 Q.E.D.
ところで、ルートの数がもっと多くなっても当然同様のことは成立します。次の定理が一般の場合を表しています:
これは
や
などと本質的に同値であり、ここまで一般的に書いておけば特に難しいわけではありません(帰納法とGalois理論の基本定理を使った簡単な証明*7もありますし、他の一般的な理論(Kummer拡大の理論*8なり分岐の理論なり)を使っても示せます)。ただ、この記事では比較的初等的な証明(体の言葉(定義と次元公式ぐらい)は知っている必要があるが、Galois理論は知らなくても良い)を紹介して締めくくりたいと思います。主張を素数に限定せずに書くことによってGalois理論なしに帰納法をまわすことができます*9。
証明 に関する帰納法で証明する。のときは自明。で成立すると仮定して、のときに示す。を任意にとって、とおく(のときは)。
を示せばよい(このとき、となって、帰納法の仮定と合わせると、が言える)。
よって、と仮定して矛盾を導く。このとき、或るが存在して
と書ける。
のとき このとき、両辺を二乗して
より
となり、を得る。これは
となって矛盾する。
のとき となるので、。に対して帰納法の仮定を用いることにより
となって矛盾する。
のとき
より、 となるので、に対して帰納法の仮定を用いることにより
となって矛盾する。 Q.E.D.
明日はfunyunanoさんがGaloisのイケメンさについて語ってくださいます。
*2:個人的にはのことを追求してという大難問に挑戦するのが筋がいいと思っています。これが示せればも従うため。ここで、はKontsevich-Zagierの意味での周期環。
*3:など、このような場合はあり得る。
*4:二乗して整数になるような有理数は元々整数である。
*5:左辺については複合同順であることに注意。
*6:念のためにを示しておく。仮定によってを割り切るがを割り切らないような素数が存在する。このとき、ならばかつであるし、ならばかつなので、が従う。
*7:証明の概略) に対して、がGaloisかつと仮定し(帰納法)、を示せばよい。は指数の部分群を個もつが(このことは次元-部分空間の個数を数えると分かる)、Galois理論の基本定理によってとの中間体であって上二次拡大であるものはなる形のもので尽きることが分かる()。よって、は中間体にはなり得ない。
*8:tsujimotterさんによる解説があります。 tsujimotter.hatenablog.com
*9:この証明は4年ぐらい前に思いついたものです。初等的ですが、微妙にテクいと思っています。