インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

「√2+√3+√5+√7は無理数である」など

この記事は日曜数学アドベントカレンダーの17番目の記事です。

http://www.adventar.org/calendars/1777www.adventar.org

昨日の記事はToshiki Takahashiさんのリープグラフと複素確率 | Advent Calendar 2016 | DIY Mathematics |でした。


今日は、キグロさんの20日の動画の予習的記事を書こうと思いました。

次の問題を解いてみてください:

問1 \sqrt{2}が無理数であることを示せ*1
問2 \sqrt{2}+\sqrt{3}が無理数であることを示せ。
問3 \sqrt{2}+\sqrt{3}+\sqrt{5}が無理数であることを示せ。

特に困難なく解けることと思います。このように、例えば\sqrt{2}+\sqrt{3}が無理数であることは簡単に証明できますが、一般には(無理数)+(無理数)=(無理数)は言えないので注意が必要です。\sqrt{\text{なんとか}}は足しても無理数であることを示せる数少ない例の一つなのです。e\piが無理数であることは

eが無理数であることの5通りの証明 - INTEGERS
フェルマーのクリスマス定理 - INTEGERS

などで紹介しましたが、e+\piが無理数であるかは未解決問題です*2

さて、上の問題を解けた皆さん。次の問題は解けるでしょうか?

問4 \sqrt{2}+\sqrt{3}+\sqrt{5}+\sqrt{7}は無理数であることを示せ。


これが意外に難しいのです。実は、これは近畿大学での文化祭で毎年開催されている数学コンテストの第12回で出題された最初の問題でもあります。意外に難しいですが、数学が得意な中学生なら解けるだろうというぐらいの難易度です。というわけで解けるまで考えてみましょう。

ここでは、もう少し一般的な設定で証明をつけてみたいと思います。

記号自然数が無平方(square-free)であるとは、1以外の平方数で割れないときにいう。また、自然数nの素因数全体のなす集合を\mathrm{prime}(n)と記す。
(例: 1729=7\times 13 \times 19は無平方であり、\mathrm{prime}(1729)=\{7, 13, 19\})。
自然数nは必ずn=r^2mと一意的に表すことができる(rは自然数、mは無平方な自然数)。このとき、mn無平方部分(square-free part)といい、\mathrm{sf}(n)と表すことにする。

定理 a, b, c, d1より大きい無平方な整数であって、\mathrm{prime}(a), \mathrm{prime}(b), \mathrm{prime}(c), \mathrm{prime}(d)は相異なると仮定する。このとき、1, \sqrt{a}, \sqrt{b}, \sqrt{c}, \sqrt{d}\mathbb{Q}上一次独立である。

証明. 実際には一段階ずつ証明していく。

Step1 a1より大きい無平方な整数とする。このとき、1, \sqrt{a}\mathbb{Q}上一次独立である。

有理数x, yx+y\sqrt{a}=0を満たすと仮定する。このとき、x=y=0であることを示せばよい。適当に分母を払うことによってx, yは整数であると仮定してもよい。y\sqrt{a}=-xと変形し、両辺を二乗してy^2a=x^2を得る。y \neq 0と仮定し、p \in \mathrm{prime}(a)を一つ取る。すると、aが無平方という仮定より、\mathrm{ord}_p(y^2a)は奇数であるにもかかわらず右辺については\mathrm{ord}_p(x^2)は偶数なので矛盾。従って、y=0であり、x=0でもある。

Step2 a, b1より大きい無平方な整数であって、\mathrm{prime}(a) \neq \mathrm{prime}(b)を満たすようなものとする。このとき、1, \sqrt{a}, \sqrt{b}\mathbb{Q}上一次独立である。

有理数x, y, zx+y\sqrt{a}+z\sqrt{b}=0を満たすと仮定する。このとき、x=y=z=0を示せばよい。分母を適当に払うことによってx, y, zは整数であると考えてよい。yまたはz0ならばStep1の状況になるため、yz\neq 0と仮定して矛盾を導く。|y|\sqrt{a}=\sqrt{y^2a}, |z|\sqrt{b} = \sqrt{z^2b}なので、A:=y^2a, B:=z^2bとすることによって、問題は次に帰着される。

Step2' A, Bを平方数ではない1より大きい整数であって、\mathrm{prime}(\mathrm{sf}(A)) \neq \mathrm{prime}(\mathrm{sf}(B))を満たすようなものとする。このとき、\sqrt{A}\pm \sqrt{B}は無理数である。

以下、複合同順。有理数rが存在して\sqrt{A}\pm \sqrt{B}=rとなったと仮定する。両辺を二乗すれば

A\pm 2\sqrt{AB}+B=r^2

を得るが、仮定よりABは平方数ではないので、これは\sqrt{AB}が無理数(Step1より従う)であることに反する。

Step3 a, b, c1より大きい無平方な整数であって、\mathrm{prime}(a), \mathrm{prime}(b), \mathrm{prime}(c)が相異なるようなものとする。このとき、1, \sqrt{a}, \sqrt{b}, \sqrt{c}\mathbb{Q}上一次独立である。

これもStep2を利用して先ほどと同様の議論をすれば次に帰着される(適当にA, B, Cを入れ替えたり、全体を-1倍することによって符号については主張にある場合を考えれば十分)。

Step3' A, B, Cを平方数ではない1より大きい整数であって、\mathrm{prime}(\mathrm{sf}(A)), \mathrm{prime}(\mathrm{sf}(B)), \mathrm{prime}(\mathrm{sf}(C))が相異なるようなものとする。このとき、\sqrt{A}+ \sqrt{B} \pm \sqrt{C}は無理数である。

有理数rを用いて\sqrt{A}+\sqrt{B}\pm\sqrt{C}=rとなったと仮定する。

\sqrt{A}+ \sqrt{B} = r\mp\sqrt{C}

と変形して二乗すれば、

A+ 2\sqrt{AB}+B=r^2\mp 2r\sqrt{C}+C

を得る。\mathrm{prime}(\mathrm{sf}(AB)) \neq \mathrm{prime}(\mathrm{sf}(C))であればStep2より1, \sqrt{AB}, \sqrt{C}\mathbb{Q}上一次独立であることに矛盾する。\mathrm{prime}(\mathrm{sf}(AB)) = \mathrm{prime}(\mathrm{sf}(C))であれば*3、ある有理数sが存在して\sqrt{AB}=s\sqrt{C}が成り立つが、s \neq \mp rであれば上の式から\sqrt{C}が無理数であることに矛盾する。最後に、\sqrt{AB}=\mp r\sqrt{C}の場合を考える。このとき、

\begin{align}AB &= r^2C \\ A+B &= r^2+C\end{align}

が成り立つ。二つ目の式よりrは整数であり*4Cを消去すると

(A-r^2)(B-r^2)=0

となってAまたはBが平方数となってしまう。これは矛盾。

Step3と今までと同様の議論によって、示したい定理は最終的に次に帰着される。

Step4 A, B, C, Dを平方数ではない1より大きい整数であって、\mathrm{prime}(\mathrm{sf}(A)), \mathrm{prime}(\mathrm{sf}(B)), \mathrm{prime}(\mathrm{sf}(C)), \mathrm{prime}(\mathrm{sf}(D))が相異なるようなものとする。このとき、\sqrt{A}+\sqrt{B} \pm \sqrt{C} \pm \sqrt{D}は無理数である(この部分は複合任意)。

有理数rを用いて\sqrt{A}+ \sqrt{B} \pm \sqrt{C} \pm \sqrt{D}=rと仮定する。

\sqrt{A}+ \sqrt{B} \pm \sqrt{C} = r\mp\sqrt{D}

と移行して両辺を二乗することにより

A+B+C+2\sqrt{AB}\pm2\sqrt{BC}\pm2\sqrt{CA} = r^2\mp 2r\sqrt{D}+D

を得る*5(基本的には二乗してもルートの数が減らない点が難しい点ですが、諦めないことが大切!)。s:=(r^2-A-B-C+D)/2 \in \mathbb{Q}とすれば

\sqrt{AB}\pm\sqrt{BC}\pm\sqrt{CA} = s\mp r\sqrt{D} -①

と書き直せる。これを二乗すれば

AB+BC+CA+2C\sqrt{AB}\pm 2A\sqrt{BC}\pm 2B\sqrt{CA} = s^2\mp 2sr\sqrt{D}+r^2D

となる。両辺に-2s\times ①式を加えると

AB+BC+CA+2(C-s)\sqrt{AB}\pm 2(A-s)\sqrt{BC} \pm 2(B-s)\sqrt{CA} = -s^2+r^2D

を得る(\sqrt{D}が消えた!!)。仮定より\mathrm{prime}(\mathrm{sf}(AB)), \mathrm{prime}(\mathrm{sf}(BC)), \mathrm{prime}(\mathrm{sf}(CA))はどれも空集合ではなく相異なることが分かるので*6、Step3より1, \sqrt{AB}, \sqrt{BC}, \sqrt{CA}\mathbb{Q}上一次独立である。従って、

A-s=B-s=C-s=AB+BC+CA+s^2-r^2D=0

が成り立つ。すると、4s^2=r^2Dが得られ、\mathrm{prime}(\mathrm{sf}(D))=\emptysetとなって矛盾する。 Q.E.D.


ところで、ルートの数がもっと多くなっても当然同様のことは成立します。次の定理が一般の場合を表しています:

定理 nを自然数とする。p_1, \dots, p_nが相異なるn個の素数であれば、2^n個の数
1, \sqrt{p_1}, \dots, \sqrt{p_n}, \sqrt{p_1p_2}, \dots, \sqrt{p_{n-1}p_n}, \sqrt{p_1p_2p_3}, \dots, \sqrt{p_1\cdots p_n}
\mathbb{Q}上一次独立である。

これは

[\mathbb{Q}(\sqrt{p_1}, \dots, \sqrt{p_n}):\mathbb{Q}]=2^n

\mathrm{Gal}(\mathbb{Q}(\sqrt{p_1}, \dots, \sqrt{p_n})/\mathbb{Q}) \simeq (\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^n

などと本質的に同値であり、ここまで一般的に書いておけば特に難しいわけではありません(帰納法とGalois理論の基本定理を使った簡単な証明*7もありますし、他の一般的な理論(Kummer拡大の理論*8なり分岐の理論なり)を使っても示せます)。ただ、この記事では比較的初等的な証明(体の言葉(定義と次元公式ぐらい)は知っている必要があるが、Galois理論は知らなくても良い)を紹介して締めくくりたいと思います。主張を素数に限定せずに書くことによってGalois理論なしに帰納法をまわすことができます*9

定理 M_nをどの二つを取っても互いに素であるような1より大きいn個の無平方数からなる集合全体からなる集合とする。このとき、任意の\{m_1, \dots, m_n\} \in M_nに対して[\mathbb{Q}(\sqrt{m_1}, \dots, \sqrt{m_n}):\mathbb{Q}]=2^nが成り立つ。

証明 nに関する帰納法で証明する。n=1のときは自明。nで成立すると仮定して、n+1のときに示す。\{m_1, \dots, m_{n+1}\} \in M_{n+1}を任意にとって、K:=\mathbb{Q}(\sqrt{m_1}, \dots, \sqrt{m_{n-1}})とおく(n=1のときはK=\mathbb{Q})。

\sqrt{m_{n+1}}\not \in K(\sqrt{m_{n}})を示せばよい(このとき、[K(\sqrt{m_n}, \sqrt{m_{n+1}}):K(\sqrt{m_n})]=2となって、帰納法の仮定[K(\sqrt{m_n}):\mathbb{Q}]=2^nと合わせると、[K(\sqrt{m_n}, \sqrt{m_{n+1}}):\mathbb{Q}]=2^{n+1}が言える)

よって、\sqrt{m_{n+1}} \in K(\sqrt{m_n})と仮定して矛盾を導く。このとき、或るa, b \in Kが存在して

\sqrt{m_{n+1}} = a+b\sqrt{m_n}

と書ける。

ab \neq 0のとき このとき、両辺を二乗して

m_{n+1}=a^2+b^2m_n+2ab\sqrt{m_n}

より

\displaystyle \sqrt{m_n} = \frac{m_{n+1}-a^2-b^2m_n}{2ab} \in K

となり、K(\sqrt{m_n})=Kを得る。これは

2^n=[K(\sqrt{m_n}):\mathbb{Q}]=[K:\mathbb{Q}]\leq 2^{n-1}

となって矛盾する。

b=0のとき \sqrt{m_{n+1}} = a \in Kとなるので、K(\sqrt{m_{n+1}})=K\{m_1, \dots, m_{n-1}, m_{m+1}\} \in M_nに対して帰納法の仮定を用いることにより

2^n=[K(\sqrt{m_{n+1}}):\mathbb{Q}]=[K:\mathbb{Q}]\leq 2^{n-1}

となって矛盾する。

a=0のとき

\displaystyle b=\frac{\sqrt{m_{n+1}}}{\sqrt{m_n}}=\frac{\sqrt{m_nm_{n+1}}}{m_n} \in K

より、 K(\sqrt{m_nm_{n+1}})=Kとなるので、\{m_1, \dots, m_{n-1}, m_nm_{m+1}\} \in M_nに対して帰納法の仮定を用いることにより

2^n=[K(\sqrt{m_nm_{n+1}}):\mathbb{Q}]=[K:\mathbb{Q}]\leq 2^{n-1}

となって矛盾する。 Q.E.D.


明日はfunyunanoさんがGaloisのイケメンさについて語ってくださいます。

*1:integers.hatenablog.com

*2:個人的にはeのことを追求してe\not \in \mathcal{P}_{\text{KZ}}という大難問に挑戦するのが筋がいいと思っています。これが示せればe+\pi \not \in \mathcal{P}_{\text{KZ}}も従うため。ここで、\mathcal{P}_{\text{KZ}}はKontsevich-Zagierの意味での周期環。

*3:A=2, B=3, C=6など、このような場合はあり得る。

*4:二乗して整数になるような有理数は元々整数である。

*5:左辺については複合同順であることに注意。

*6:念のために\mathrm{prime}(\mathrm{sf}(AB) ) \neq \mathrm{prime}(\mathrm{sf}(BC) )を示しておく。仮定によって\mathrm{sf}(C)を割り切るが\mathrm{sf}(A)を割り切らないような素数pが存在する。このとき、p \nmid \mathrm{sf}(B)ならばp \nmid \mathrm{sf}(AB)かつp \mid \mathrm{sf}(BC)であるし、p \mid \mathrm{sf}(B)ならばp \mid \mathrm{sf}(AB)かつp \nmid \mathrm{sf}(BC)なので、\mathrm{prime}(\mathrm{sf}(AB) ) \neq \mathrm{prime}(\mathrm{sf}(BC) )が従う。

*7:証明の概略) K_n=\mathbb{Q}(\sqrt{p_1}, \dots, \sqrt{p_n})に対して、K_n/\mathbb{Q}がGaloisかつ\mathrm{Gal}(K_n/\mathbb{Q}) \simeq (\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^nと仮定し(帰納法)、K_n(\sqrt{p_{n+1}})\neq K_nを示せばよい。(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^nは指数2の部分群を2^n-1個もつが(このことはn-1次元\mathbb{F}_2-部分空間の個数を数えると分かる)、Galois理論の基本定理によってK_n\mathbb{Q}の中間体であって\mathbb{Q}上二次拡大であるものは\mathbb{Q}(\sqrt{p_{i_1}\cdots p_{i_l}})なる形のもので尽きることが分かる(i_1 < \cdots < i_l \leq n)。よって、\mathbb{Q}(\sqrt{p_{n+1}})は中間体にはなり得ない。

*8:tsujimotterさんによる解説があります。 tsujimotter.hatenablog.com

*9:この証明は4年ぐらい前に思いついたものです。初等的ですが、微妙にテクいと思っています。