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数、特に整数に関する記事。

ソフィー・ジェルマンの定理

Fermatの最終定理に関するSophie Germainの定理とその証明を解説します。

前回の記事でSophie Germainによるグランドプランが失敗に終わったことを紹介しました:

integers.hatenablog.com

しかし、彼女は転んでもただでは起きません。

奇素数pを固定します。グランドプランは「非隣接条件を満たすようなpの補助素数の無限性を示そう」というもので、事実は「有限個しか存在しない」というものでした。そこで、彼女が到達したのは

「非隣接条件にもう一つ条件を加えたpの補助素数が一つでも存在すれば、FLT(p)のファーストケースは解決する」

というものです。まず、Sophie Germain以降、FLT(p)はファーストケースとセカンドケースに分けて考えられることが多いです。

FLT(p)のファーストケース pを奇素数とする。x^p+y^p=z^pを満たすようなpで割れない整数x, y, zは存在しない。

FLT(p)のセカンドケース pを奇素数とする。x^p+y^p=z^pを満たすような0でない整数x, y, zであって、p \mid xyzを満たすものは存在しない。

ファーストケースとセカンドケースでは難しさが異なり(セカンドケースの方が難しい)、成果が少なかった時代においては、ファーストケースだけでもとりあえず解ければ大きな進展であると考えてよいでしょう。

そうして、グランドプランは失敗に終わったものの、Sophie GermainはFLT(p)のファーストケースを解決するpに関する十分条件を与えたのです。これは立派な定理であると言え、FLT研究における最初のブレイクスルーでした。

定理を具体的に述べると次のようになります。実際にはファーストケースよりも強いことを示しています:

Sophie Germainの定理 pを奇素数とする。pの補助素数\thetaであって、非隣接条件を満たし、更にp\bmod{\theta}におけるp冪剰余とはならないようなものが存在したと仮定する。このとき、x^p+y^p=z^pを満たすような整数x, y, zが存在すれば、x, y, zの少なくとも一つはp^2で割り切れなければならない。

文献によってはp^2に対する結果はLegendreによるものとされることもあるそうですが、Sophie Germainは確かにp^2に対する結果を得ており、そのことをLegendreも明記しているとのことです。

Sophie Germainは定理の仮定を満たすような補助素数を具体的に計算することにより、197未満の奇素数に対してはファーストケースが成立することを確認しています。

定義 (Sophie Germain素数) 素数pSophie Germainであるとは、2p+1が素数であるときにいう。

次の系がSophie Germainの定理と呼ばれることが多いです:

pがSophie Germain素数であれば、FLT(p)のファーストケースが成立する。

これを言うには、pがSophie Germain素数であるときに2p+1が定理の仮定を満たすようなpの補助素数であることを示せば十分です:

\theta := 2p+1とする。このとき、\theta-1=2pなので、Fermatの小定理により\thetaで割り切れないような任意の整数a

a^{2p} \equiv 1 \pmod{\theta}

すなわち、a^p \equiv \pm 1 \pmod{\theta}を満たす。これより、a^p \equiv p \pmod{\theta}とは成り得ないことがわかり、p\bmod{\theta}におけるp冪剰余ではない。また、\thetaが非隣接条件を満たさなければ

1+a^p \equiv b^p \pmod{\theta}

を満たすような\thetaで割り切れない整数a, bが存在することになるが、

1\pm 1 \equiv \pm 1 \pmod{\theta}

と言っていて、それはあり得ない。 Q.E.D.

定理の証明

奇素数pに対して定理の仮定が満たされ、0でない整数x, y, zx^p+y^p=z^pを満たしていると仮定する。FLTでは毎度の如く、x, y, zはどの二つをとっても互いに素であると仮定してよい。

\displaystyle \varphi(X, Y) := \frac{X^p+Y^p}{X+Y}, \quad \psi(X, Y) := \frac{X^p-Y^p}{X-Y}とおく。

主張1 x+y\varphi(x, y)p以外の共通因子を持たない。同様に、z-x\psi(z, x)z-y\psi(z, y)もそれぞれp以外の共通因子を持たない。

証明. pとは異なる素数qx+y\varphi(x, y)を割り切ると仮定する。このとき、y \equiv -x \pmod{q}であるから

\varphi(x, y) = x^{p-1}-x^{p-2}y+x^{p-3}y^2- \cdots +y^{p-1} \equiv px^{p-1} \pmod{q}

を得る。p \mid \varphi(x, y)であることとq \neq pであることからq \mid xとなり、q \mid x+yと合わせるとq \mid y。これはx, yが互いに素であるという仮定に反する。残りの場合も同様。 Q.E.D.

主張2 px, y, zのどれかを割り切る。

証明. px, y, zを割り切らないと仮定して背理法で証明する。

(x+y)\varphi(x, y) = x^p+y^p = z^p

であり、p \nmid zであることから主張1よりx+y\varphi(x, y)は互いに素であることがわかる。よって、整数A, sが存在して

x+y=A^p, \quad \varphi(x, y) = s^p

が成り立つ。同様にして、整数B, C, t, uが存在して

\begin{align} &z-x = B^p, \quad \psi(z, x) = t^p \\ &z-y = C^p, \quad \psi(z, y)=u^p\end{align} −①

が成り立つ。\thetaを定理の仮定を満たすようなpの補助素数とする。非隣接条件を満たすことから、\thetax, y, zの少なくとも一つを割り切る(前記事の補題1)。\theta \mid zとしても一般性を失わない。すると、

2z = (x+y)+(z-x)+(z-y) = A^p+B^p+C^p  \equiv 0 \pmod{\theta}

となるので、非隣接条件からA, B, Cの少なくとも一つは\thetaで割り切れることがわかる。もし、\theta \mid Bであれば、x=z-B^p\thetaで割れることになりx, zが互いに素であることに反する。よって、\theta \nmid B。同様に\theta \nmid C。したがって、\theta \mid Aでなければならない。

x+y=A^pなので、y \equiv -x \pmod{\theta}。これより

s^p = \varphi(x, y) \equiv px^{p-1} \pmod{\theta} −②

一方、B^p=z-x \equiv -x \pmod{\theta}であることから、x\bmod{\theta}におけるp冪剰余である。px\thetaでは割れないのだから、②よりpp冪剰余となる。これは\thetaに関する定理の仮定に反する。 Q.E.D.

主張2によりpx, y, zのいずれかを割り切るが、p \mid zであると仮定しても一般性を失わない(すると、x, ypでは割れない)。この仮定のもとで次が成り立つ:

主張3 zは実はp^2で割り切れる。

証明. x+y=wとおく。すると、

\displaystyle \varphi(x, y) = \frac{(w-x)^p+x^p}{w} = w^{p-1}-\binom{p}{1}w^{p-2}x+\cdots + \binom{p}{p-1}x^{p-1}

と展開できるが、Fermatの小定理よりw \equiv x^p+y^p = z^p \equiv 0 \pmod{p}であるから、

\varphi(x, y) \equiv px^{p-1} \pmod{p^2}

がわかる。これはすなわち、\varphi(x, y)pでは割り切れるがp^2では割り切れないことを意味する。従って、(x+y)\varphi(x, y)=z^pおよび主張1より整数A, sが存在して

x+y=p^{p-1}A^p, \quad \varphi(x, y) = ps^p

が成り立つことが分かる。一方、①はこの場合にもそのまま成り立つ。すると、

B^p+C^p = 2z-(x+y) \equiv 0 \pmod{p}

であり、これはB^p \equiv -C^p \pmod{p^2}を導く!*1

p^2 \mid x+yおよびp^2 \mid B^p+C^pがわかったので、

2z = B^p+C^p+(x+y) \equiv 0 \pmod{p^2}.

これはp^2 \mid zを示している。 Q.E.D.

以上でSophie Germainの定理の証明が完了します。

参考記事

R. Laubenbacher, D. Pengelley, "Voici ce que j'ai trouve": Sophie Germain's grand plan to prove Fermat's Last Theorem.

C. Alkalay-Houlihan, Sophie Germain and Special Cases of Fermat’s Last Theorem.

以下の記事でSophie Germain素数を取り扱ったことがあります。

integers.hatenablog.com

*1:一見、B^p \equiv -C^p \pmod{p}からB^p \equiv -C^p \pmod{p^2}を導いており、「そんな馬鹿な。。」と思われるかもしれませんが、証明は簡単です。Fermatの小定理よりB^p \equiv -C^p \pmod{p}からB \equiv -C \pmod{p}が導かれますが、すなわち、B=-C+jpなる整数jが取れるので、これのp乗を二項展開すればわかります。