私の整数好きを決定付けた本があります。
水上 勉 (著), 黒川 信重 (監修)『チャレンジ! 整数の問題 199』単行本 – 2005/4, 日本評論社
私は高校生のときにこの本を夢中になって読みました。
思えば、高校生の私をワクワクさせてくれたこの本の続きを書いているような気持ちで当ブログを書いています。
本の問158の注2定理34では有名なGauss-Legendreの三平方の定理が紹介されています。しかしながら、証明は難しいために省略されています。
幾つかの準備が必要でしたが、遂にこの定理の証明を与えるときがやってきました。Gauss-Legendreの三平方の定理は平方剰余の相互法則、Dirichletの算術級数定理、Minkowskiの凸体定理、二平方和の定理と初等整数論における一級の定理達を総動員して証明されます。
証明. に関する帰納法で証明する。における平方剰余はであるが、これらを三つ足しあわせて と合同にすることはできない。つまり、の場合が示された。で成立すればでも成立することの対偶を証明する。整数が存在して
と書けたと仮定する。左辺は偶数であるから、は全て偶数であるか、その中の一つだけが偶数である。後者はあり得ない。というのも、もしの中の一つだけが偶数であれば
となって、がで割り切れることに矛盾するからである。よって、は全て偶数であり、
とが三平方の和で表されることが示された。 Q.E.D.
本質的に難しい部分である次の定理をAnkenyに従って証明します。
まず、簡単な帰着を行いましょう。
帰着できる理由: (は非負整数)の形に書けないような無平方な正整数が三つの平方数の和で表すことができると証明できたと仮定する。を(は非負整数)の形に書けないような正整数とする。は正整数と無平方な奇数を用いて、必ず または の形に書ける。
と書ける場合: もし であれば、奇数の平方数はを法としてと合同であることから、が(は非負整数)の形になって矛盾する。よって、であり、は仮定から三平方の和として表すことができるので、も三平方の和として表すことができる。と書ける場合: は無平方で なので、三平方の和として表すことができ、も三平方の和として表すことができる。
よって、以下ではは無平方であると仮定する。のそれぞれの場合に が三平方の和として表されることを証明すればよい。以下、Jacobi記号と相互法則を用いる。
の場合: をの素因数分解とする(は奇素数)。
及び を満たすような素数 を取る。が存在すること: 各条件は剰余類で決まり、中国式剰余定理から、全ての条件を満たす整数はを法とした剰余類で決まる(その剰余類の代表元がと互いに素であることはJacobi記号の定義から自明に要請される)。すればその(いずれかの)剰余類と一致するような素数の存在はDirichletの算術級数定理が保証する。
であるが、第一補充則と, より
であり、第二補充則とから
相互法則とより
なので、
が成り立つ。は奇素数で、これはLegendre記号なので、
を満たす整数 が存在する。必要ならば を で置き換えることによって は奇数であるとしてよい。整数 が存在して
と書けるわけであるが、すると となるので、整数 が存在して と書ける。すなわち、
である。①より
なる整数 が存在する*1ので、一つ取っておく(なので逆元が存在する)。
ここで、凸体 を
と定義し、行列
が定める線形変換 を考える。であり*2、
であるので、は
を満たすような凸体である(凸集合、原点対称などの性質は線形変換で保たれる)。よって、Minkowskiの凸体定理より、は非自明な格子点 を含む。に含まれる非自明な格子点 を
で定義する。このとき、④より
が成り立つ。また、③より
と計算できるので、とおけば、⑤より
である。一方、は非自明な格子点なので
である。この不等式と⑥が両立しているということは
が成立することがわかった。ここで、次の主張を証明する:
主張の証明: をが奇数であるような奇素数とし、まず の場合を考える。⑦より
である。もし であれば、②より
であるが、これは であっても成り立つ。理由: の定義から
であるが、であれば、或る非負整数 が存在して
ということになる。ここで、と略記している。なので、
であるが、パリティを見れば等号不成立がわかるので、でなければならない。よって、とすることによって
となる。そうして、これは
を意味する。
従って、 が成り立ち、第一補充則から が従う。次に、の場合を考える。⑦より であり、
なので が従う。よって、
の両辺を で割った後にを考えると、合同式
が得られる。は無平方なので、はで可逆元。従って、
となって、 が得られ、はの素因数なので ①と合わせると が示された。すなわち、である。
主張と正整数が二つの平方数の和として表されるための必要十分条件から、は二つの平方数の和として表されることがわかる。従って、⑦から は三平方の和として表されることがわかった。
の場合: をの素因数分解とする(は奇素数)。
及び を満たすような素数 を取る。
であるが、第一補充則と, より
であり、相互法則とより
なので、
が成り立つ。は奇素数で、これはLegendre記号なので、
を満たす整数 が存在する。すなわち、整数 が存在して
が成り立つ。⑧より
なる整数 が存在するので、一つ取っておく。
ここで、凸体 を
と定義し、行列
が定める線形変換 を考える。であり、
であるので、は
を満たすような凸体である。よって、Minkowskiの凸体定理より、は非自明な格子点 を含む。に含まれる非自明な格子点 を
で定義する。このとき、⑪より
が成り立つ。また、⑩より
と計算できるので、とおけば、⑫より
である。一方、は非自明な格子点なので
である。この不等式と⑬が両立しているということは
が成立することがわかった。ここで、次の主張を証明する:
主張の証明: をが奇数であるような奇素数とし、まず の場合を考える。⑭より
である。もし であれば、⑨より
であるが、これは であっても成り立つ。理由: の定義から
であるが、であれば、或る非負整数 が存在して
ということになる。ここで、と略記している。なので、
であるが、パリティを見れば等号不成立がわかるので、でなければならない。よって、とすることによって
となる。そうして、これは
を意味する。
従って、 が成り立ち、第一補充則から が従う。次に、の場合を考える。⑭より であり、
なので が従う。よって、
の両辺を で割った後にを考えると、合同式
が得られる。は無平方なので、はで可逆元。従って、
となって、 が得られ、はの素因数なので ⑧と合わせると が示された。すなわち、である。
主張と正整数が二つの平方数の和として表されるための必要十分条件から、は二つの平方数の和として表されることがわかる。従って、⑭から は三平方の和として表されることがわかった。
の場合: をの素因数分解とする(は奇素数)。とする()。
及び
を満たすような素数 を取る(後者の二条件は両立できる*3 )。
であるが、相互法則とより
なので、の取り方と第一補充則より
が成り立つ。これで、完全にの場合に合流できる*4。 Q.E.D.
Gauss-Legendreの三平方の定理からLagrangeの四平方の定理
を導出することができますが、若干強めの定理も導出できることを
で紹介しました。
*1:各 に対して を満たすような整数 が存在するので、となるような法で決まる整数 を中国式剰余定理によって取ればよい。
*2:球の体積と表面積を積分で証明 | 高校数学の美しい物語
*3: or
*4:⑪のの存在について: まずで をとる。は奇数なので を奇数と取れる。そうすると、で⑪が成り立つことがわかる。