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数、特に整数に関する記事。

グリーン・タオ論文の§5を読む(その二)

後半のこの記事では、擬ランダム測度に対する一般化von Neumann定理の主張を述べて、k=3(かつc_j=j)の場合の証明をした後に一般の場合を証明します。論理的にはk=3の場合の証明を別途与えることは不要ですが、証明の本質を理解するためにGreen-Taoが書いてくれているので、ここでも省略せずに紹介します。

定理 (擬ランダム測度に対する一般化von Neumann定理, Proposition 5.3) \nuk-擬ランダム測度とする。f_0, \dots, f_{k-1} \in L^1(\mathbb{Z}_N)
\displaystyle \left|f_j(x)\right| \leq \nu(x) + 1, \quad ({}^{\forall}x \in \mathbb{Z}_N, \ 0 \leq {}^{\forall}j \leq k-1)
を満たすような関数とし、c_0, \dots, c_{k-1}\{-k+1, \dots, -1, 0, 1, \dots, k-1\}の中にあるk個の連続する整数のある順列とする。このとき、
\displaystyle \left.\mathbb{E}\Biggl(\prod_{j=1}^{k-1}f_j(x+c_jr) \ \right| \ x, r \in \mathbb{Z}_N\Biggr) = O\left(\min_{0 \leq j \leq k-1}\left\|f_j\right\|_{U^{k-1}}\right)+o(1)
が成り立つ。

後で実際に使う形で述べられていますが、次の形で証明します。

命題 \nuを正の値のみを取るようなk-擬ランダム測度とする。f_0, \dots, f_{k-1} \in L^1(\mathbb{Z}_N)
\displaystyle \left|f_j(x)\right| \leq \nu(x), \quad ({}^{\forall}x \in \mathbb{Z}_N, \ 0 \leq {}^{\forall}j \leq k-1)
を満たすような関数とし、c_0, \dots, c_{k-1}\{-k+1, \dots, -1, 0, 1, \dots, k-1\}の中にあるk個の連続する整数のある順列とする。ただし、c_0=0とする。このとき、
\displaystyle \left.\mathbb{E}\Biggl(\prod_{j=1}^{k-1}f_j(x+c_jr) \ \right| \ x, r \in \mathbb{Z}_N\Biggr) = O\left(\left\|f_0\right\|_{U^{k-1}}\right)+o(1)
が成り立つ。

命題 \Longrightarrow 定理の証明

まず、条件 f \leq \nu+\nu_{\text{const}}f \leq \nuに置き換えられることを確認する。定理の設定下で

\displaystyle \left|\frac{f_j(x)}{2}\right| \leq \frac{\nu(x)+1}{2}, \quad ({}^{\forall}x \in \mathbb{Z}_N, \ 0 \leq {}^{\forall}j \leq k-1)

が成り立ち、§3の補題より\frac{\nu+\nu_{\text{const}}}{2}k-擬ランダム測度なので、条件を置き換えた場合が証明されていれば

\displaystyle \left.\mathbb{E}\Biggl(\prod_{j=1}^{k-1}\frac{f_j(x+c_jr)}{2} \ \right| \ x, r \in \mathbb{Z}_N\Biggr) = O\left(\min_{0 \leq j \leq k-1}\left\|\frac{f_j}{2}\right\|_{U^{k-1}}\right)+o(1)

が得られる。よって、両辺を2^k倍すれば所望の結論となる。この際、\frac{\nu+\nu_{\text{const}}}{2}は常に正の値をとるので、命題において \nuは正の値しか取らないと仮定してよい。

次に、\min_{0 \leq j \leq k-1}j=0で実現すると仮定してよいことを確認する。これは、必要ならば f_j及び c_jの番号を並び変えればよいだけである。

最後に c_0=0と仮定してよいこと。これは、期待値において x \mapsto x-c_0rと変数変換することにより帰着される。各c_j-c_0\{-k+1, \dots, -1, 0, 1, \dots, k-1\}の中にあるk個の連続する整数のある順列になっている必要があるが、k個の連続する整数の順列になっていることは一律に-c_0していることから自明である。範囲については c_0, \dots, c_{k-1}-k+i, -k+i+1, \dots, i-1の順列であると仮定すると(1 \leq i \leq k)、任意の0 \leq j \leq k-1に対して c_j-c_0 \geq (-k+i)-(i-1)=-k+1 及び c_j-c_0 \leq (i-1)-(-k+i)=k-1なので問題ない。 Q.E.D.

k=3の場合の証明

以下、証明の本質を掴むために k=3, \ c_j=jの場合の命題の証明を実行する。f_0, f_1, f_2を命題の条件を満たすような関数とするとき、示すべき式は

\displaystyle \left.\mathbb{E}(f_0(x)f_1(x+r)f_2(x+2r) \right| x, r \in \mathbb{Z}_N) = O(\left\|f_0\right\|_{U^2})+o(1)

である。(x, x+r, x+2r) \mapsto (y_1+y_2, y_2/2, -y_1) と変数変換すると*1、左辺は

\displaystyle J_0 := \left.\mathbb{E}(f_0(y_1+y_2)f_1(y_2/2)f_2(-y_1) \right| y_1, y_2 \in \mathbb{Z}_N)

となる。f_2(-y_1)y_2に依らないので、

\displaystyle J_0=\left.\mathbb{E}\left(\left.\mathbb{E}\left(f_0(y_1+y_2)f_1(y_2/2)\right|y_2 \in \mathbb{Z}_N\right)\times f_2(-y_1)\right| y_1 \in \mathbb{Z}_N\right)

と書け、三角不等式と \left|f_2(-y_1)\right| \leq \nu(-y_1)より

\displaystyle \left|J_0\right| \leq \left.\mathbb{E}\left(\left|\left.\mathbb{E}(f_0(y_1+y_2)f_1(y_2/2)\right|y_2 \in \mathbb{Z}_N)\right|\times \nu(-y_1)\right| y_1 \in \mathbb{Z}_N\right)

と評価できる。

\begin{align}&\left|\left.\mathbb{E}(f_0(y_1+y_2)f_1(y_2/2)\right|y_2 \in \mathbb{Z}_N)\right|\times \nu(-y_1) \\
&= \left(\left|\left.\mathbb{E}(f_0(y_1+y_2)f_1(y_2/2)\right|y_2 \in \mathbb{Z}_N)\right|\sqrt{\nu(-y_1)}\right) \times \sqrt{\nu(-y_1)}\end{align}

とみてCauchy-Schwarzの不等式を適用すると、

\displaystyle \left|J_0\right| \leq (1+o(1))\left.\mathbb{E}\left(\big|\left.\mathbb{E}(f_0(y_1+y_2)f_1(y_2/2)\right|y_2 \in \mathbb{Z}_N)\big|^2\times \nu(-y_1)\right|y_1 \in \mathbb{Z}_N\right)^{\frac{1}{2}}

が得られる。ここで、測度の定義から分かる等式

\sqrt{\left.\mathbb{E}(\nu(-y_1)\right| y_1 \in \mathbb{Z}_N)}=\sqrt{1+o(1)}=1+o(1)

を使っていることに注意。

J_1:=\left.\mathbb{E}(f_0(y_1+y_2)f_0(y_1+y_2')f_1(y_2/2)f_1(y_2'/2)\nu(-y_1)\right|y_1, y_2, y_2' \in \mathbb{Z}_N)

J_1を導入すると、期待値の絶対値の二乗の部分を展開すれば

\left|J_0\right| \leq (1+o(1))J_1^{\frac{1}{2}}

が示されたことになる。J_1に対して同じことを繰り返す。まず、

\displaystyle J_1=\left.\mathbb{E}(\left.\mathbb{E}(f_0(y_1+y_2)f_0(y_1+y_2')\nu(-y_1)\right|y_1 \in \mathbb{Z}_N)f_1(y_2/2)f_1(y_2'/2) \right| y_2, y_2' \in \mathbb{Z}_N)

と書けるので、三角不等式、Cauchy-Schwarzの不等式、測度の定義より

\begin{align} J_1 &\leq \left.\mathbb{E}(\left|\left.\mathbb{E}(f_0(y_1+y_2)f_0(y_1+y_2')\nu(-y_1)\right|y_1 \in \mathbb{Z}_N)\right| \nu(y_2/2)\nu(y_2'/2) \right| y_2, y_2' \in \mathbb{Z}_N) \\
&\leq (1+o(1))\left.\mathbb{E}\left(\big|\left.\mathbb{E}(f_0(y_1+y_2)f_0(y_1+y_2')\nu(-y_1)\right|y_1 \in \mathbb{Z}_N)\big|^2 \nu(y_2/2)\nu(y_2'/2) \right| y_2, y_2' \in \mathbb{Z}_N\right)^{\frac{1}{2}}\end{align}

と評価できる。

\displaystyle J_2:=\left.\mathbb{E}\left(f_0(y_1+y_2)f_0(y_1+y_2')f_0(y_1'+y_2)f_0(y_1'+y_2')\nu(-y_1)\nu(-y_1')\nu(y_2/2)\nu(y_2'/2)\right| y_1, y_1', y_2, y_2' \in \mathbb{Z}_N\right)

J_2を導入すると、期待値の絶対値の二乗の部分を展開すれば

\left|J_0\right| \leq (1+o(1))J_2^{\frac{1}{4}}

が示されたことになる。

(y_1, y_1+y_2, y_1'+y_2, y_1+y_2') \mapsto (y, x, x+h_1, x+h_2)

と変数変換して

\displaystyle W(x, h_1, h_2) := \left.\mathbb{E}\left(\nu(-y)\nu(-y-h_1)\nu\left(\frac{x-y}{2}\right)\nu\left(\frac{x-y+h_2}{2}\right) \right| y \in \mathbb{Z}_N\right)

とおけば、

\displaystyle J_2= \left.\mathbb{E}\left(f_0(x)f_0(x+h_1)f_0(x+h_2)f_0(x+h_1+h_2)W(x, h_1, h_2)\right| x, h_1, h_2 \in \mathbb{Z}_N\right)

と書けることがわかる。これは、もしW(x, h_1, h_2)=1であれば \left\|f_0\right\|_{U^2}^4に等しいので*2、後は1の場合との差を計算すればよい。すなわち、

\displaystyle \left.\mathbb{E}\left(f_0(x)f_0(x+h_1)f_0(x+h_2)f_0(x+h_1+h_2)(W(x, h_1, h_2)-1)\right| x, h_1, h_2 \in \mathbb{Z}_N\right)=o(1)

を示せばよい。理由: これが示されたとすると

\displaystyle \left|J_0\right| \leq (1+o(1))\left(\left\|f_0\right\|_{U^2}^4+o(1)\right)^{\frac{1}{4}}\leq (1+o(1))\left(\left\|f_0\right\|_{U^2}+o(1)\right) = O(\left\|f_0\right\|_{U^2})+o(1)

と所望の評価が得られる

左辺の絶対値を三角不等式で評価し、f_0\nuで上から押さえると

\begin{align} &\left|\left.\mathbb{E}\left(f_0(x)f_0(x+h_1)f_0(x+h_2)f_0(x+h_1+h_2)(W(x, h_1, h_2)-1)\right| x, h_1, h_2 \in \mathbb{Z}_N\right)\right| \\ &\leq \left.\mathbb{E}\left(\nu(x)\nu(x+h_1)\nu(x+h_2)\nu(x+h_1+h_2)\left|W(x, h_1, h_2)-1\right| \right| x, h_1, h_2 \in \mathbb{Z}_N\right)\end{align}

が得られるが、期待値の中身を

\begin{align}&\sqrt{\nu(x)\nu(x+h_1)\nu(x+h_2)\nu(x+h_1+h_2)}\\ &\times \sqrt{\nu(x)\nu(x+h_1)\nu(x+h_2)\nu(x+h_1+h_2)}\left|W(x, h_1, h_2)-1\right|\end{align}

と考えてCauchy-Schwarzの不等式を適用すれば

\begin{align} &\left.\mathbb{E}\left(\nu(x)\nu(x+h_1)\nu(x+h_2)\nu(x+h_1+h_2)\left|W(x, h_1, h_2)-1\right| \right| x, h_1, h_2 \in \mathbb{Z}_N\right) \\
&\leq \left.\mathbb{E}\left(\nu(x)\nu(x+h_1)\nu(x+h_2)\nu(x+h_1+h_2)\right| x, h_1, h_2 \in \mathbb{Z}_N\right)^{\frac{1}{2}}\\
&\quad \times \left.\mathbb{E}\left(\nu(x)\nu(x+h_1)\nu(x+h_2)\nu(x+h_1+h_2)(W(x, h_1, h_2)-1)^2\right| x, h_1, h_2 \in \mathbb{Z}_N\right)^{\frac{1}{2}}\end{align}

と評価できる。従って、

\begin{align} &\left.\mathbb{E}\left(\nu(x)\nu(x+h_1)\nu(x+h_2)\nu(x+h_1+h_2)(W(x, h_1, h_2)-1)^n\right| x, h_1, h_2 \in \mathbb{Z}_N\right)\\ &=0^n+o(1), \quad n=0, \ 2\end{align}

を示せばよい。最終的に (W(x, h_1, h_2)-1)^2を展開することによって

\begin{align}&\left.\mathbb{E}\left(\nu(x)\nu(x+h_1)\nu(x+h_2)\nu(x+h_1+h_2)W(x, h_1, h_2)^q\right| x, h_1, h_2 \in \mathbb{Z}_N\right)\\ &=1+o(1), \quad q=0, \ 1, \ 2\end{align}

に帰着される。これは、\nuに対する線形形式条件から従う。実際、q=2の場合は(12, 5, 2)-線形形式条件から

\begin{align}&\mathbb{E}\Biggl(\nu(x)\nu(x+h_1)\nu(x+h_2)\nu(x+h_1+h_2)\\
&\quad \times \nu(-y)\nu(-y-h_1)\nu\left(\frac{x-y}{2}\right)\nu\left(\frac{x-y+h_2}{2}\right)\\
&\quad \times \nu(-y')\nu(-y'-h_1)\nu\left(\frac{x-y'}{2}\right)\nu\left(\frac{x-y'+h_2}{2}\right) \ \Bigg| \ x, h_1, h_2, y, y' \in \mathbb{Z}_N\Biggr) \\ &= 1+o(1)\end{align}

が言える。q=0, 1の場合はより簡単。以上で、証明が完了する。 Q.E.D.

一般の場合の証明

それでは一般の場合に命題を証明しましょう。1 \leq d \leq k-1に対して変数

y=(y_1, \dots, y_{k-1})\in \mathbb{Z}_N^{k-1}, \quad y'=(y_{k-d}', \dots, y_{k-1}') \in \mathbb{Z}_N^d

を考えるとき、部分集合 S \subset \{k-d, \dots, k-1\}に対して

y^{(S)}:=(y_1^{(S)}, \dots, y_{k-1}^{(S)}) \in \mathbb{Z}_N^{k-1}

という記号を用います。ここで、

\displaystyle y_i^{(S)}:=\begin{cases} y_i & (i \not \in S) \\ y_i' & (i \in S) \end{cases}

とします。

補題1 (Lemma 5.4) \nu\colon \mathbb{Z}_N \to \mathbb{R}^{+}を正の値しか取らない測度とし、\phi_0, \phi_1, \dots, \phi_{k-1} \colon \mathbb{Z}_N^{k-1} \to \mathbb{Z}_N(k-1)変数y_1, \dots, y_{k-1}に関する関数で、1 \leq i \leq k-1に対して \phi_iy_iに依存しないものとする。f_0, f_1, \dots, f_{k-1} \in L^1(\mathbb{Z}_N)
\left|f_i(x)\right| \leq \nu(x) \quad ({}^{\forall}x \in \mathbb{Z}_N, \ 0 \leq {}^{\forall}i \leq k-1)
を満たすとする。1 \leq d \leq k-1に対して J_d, P_d
\displaystyle J_d := \mathbb{E}\Biggl(\prod_{S \subset \{k-d, \dots, k-1\}}\prod_{i=0}^{k-d-1}f_i\left(\phi_i(y^{(S)})\right) \prod_{i=k-d}^{k-1}\sqrt{\nu\left(\phi_i(y^{(S)})\right)} \ \Bigg| \ y\in \mathbb{Z}_N^{k-1}, y' \in \mathbb{Z}_N^d\Biggr),
\displaystyle P_d:=\left.\mathbb{E}\Biggl(\prod_{S\subset\{k-d, \dots, k-1\}}\nu\left(\phi_{k-d-1}(y^{(S)})\right) \ \right| \ y \in \mathbb{Z}_N^{k-1}, y' \in \mathbb{Z}_N^d\Biggr)
と定義する。また、
\displaystyle J_0:=\left.\mathbb{E}\Biggl(\prod_{i=0}^{k-1}f_i\left(\phi_i(y)\right) \ \right| \ y \in \mathbb{Z}_N^{k-1}\Biggr), \  P_0:=\left.\mathbb{E}\left(\nu\left(\phi_{k-1}(y)\right) \ \right| \ y \in \mathbb{Z}_N^{k-1}\right)
とする。このとき、0 \leq d \leq k-2に対して
\left|J_d\right|^2 \leq P_dJ_{d+1}
が成り立つ。

注意: k=3, c_j=jの場合は

\displaystyle \phi_0(y_1, y_2)=y_1+y_2, \ \phi_1(y_1, y_2)=\frac{y_2}{2}, \ \phi_2(y_1, y_2)=-y_1

であり、J_0, J_1, J_2は前節で定義されたものと同じものになっている。J_dの定義において\nuの部分にルートが付いているが、\phi_iy_iに依存しないことから二つのSに対して\phi_i(y^{(S)})の値は一致し、全体では\nu1乗で現れることに注意。

証明. \phi_{k-d-1}y_{k-d-1}に依存しないので、\nuが正の値しか取らないことに注意して

\displaystyle G(y, y'):=\prod_{S \subset \{k-d, \dots, k-1\}}\frac{f_{k-d-1}\left(\phi_{k-d-1}(y^{(S)})\right)}{\sqrt{\nu\left(\phi_{k-d-1}(y^{(S)})\right)}}

及び

\displaystyle H(y, y'):=\left.\mathbb{E}\Biggl(\prod_{S\subset\{k-d, \dots, k-1\}}\prod_{i=0}^{k-d-2}f_i\left(\phi_i(y^{(S)})\right)\prod_{i=k-d-1}^{k-1}\sqrt{\nu\left(\phi_i(y^{(S)})\right)} \ \right| \ y_{k-d-1} \in \mathbb{Z}_N\Biggr)

G(y, y'), \ H(y, y')を導入すれば

\displaystyle J_d=\left.\mathbb{E}\left(G(y, y')H(y, y') \ \right| \ y_1, \dots, y_{k-d-2}, y_{k-d}, \dots, y_{k-1}, y_{k-d}', \dots, y_{k-1}'\in \mathbb{Z}_N\right)

と変形することができる。よって、Cauchy-Schwarzの不等式より

\begin{align}\left|J_d\right|^2 &\leq \left.\mathbb{E}\left(\left|G(y, y')\right|^2 \ \right| \ y_1, \dots, y_{k-d-2}, y_{k-d}, \dots, y_{k-1}, y_{k-d}', \dots, y_{k-1}'\in \mathbb{Z}_N\right) \\
&\quad \times \left.\mathbb{E}\left(\left|H(y, y')\right|^2 \ \right| \ y_1, \dots, y_{k-d-2}, y_{k-d}, \dots, y_{k-1}, y_{k-d}', \dots, y_{k-1}'\in \mathbb{Z}_N\right)\end{align}

と評価できる。\phi_{k-d-1}y_{k-d-1}に依存しないため、P_dにおけるy_{k-d-1}\in \mathbb{Z}_Nに関する平均は消すことができる。このことと

\left|f_{k-d-1}(x)\right| \leq \nu(x) \quad ({}^{\forall}x \in \mathbb{Z}_N)

より

\displaystyle \left.\mathbb{E}\left(\left|G(y, y')\right|^2 \ \right| \ y_1, \dots, y_{k-d-2}, y_{k-d}, \dots, y_{k-1}, y_{k-d}', \dots, y_{k-1}'\in \mathbb{Z}_N\right) \leq P_d

が得られる。一方、\left|H(y, y')\right|^2を展開して y_{k-d-1}, y_{k-d-1}'というパラメータで書いてやれば

\displaystyle \left.\mathbb{E}\left(\left|H(y, y')\right|^2 \ \right| \ y_1, \dots, y_{k-d-2}, y_{k-d}, \dots, y_{k-1}, y_{k-d}', \dots, y_{k-1}'\in \mathbb{Z}_N\right)=J_{d+1}

がわかる。d=0の場合は若干表記の修正が必要であるものの本質的に同じである。よって、証明が終了する。 Q.E.D.

次の不等式が成立する:
\displaystyle \left|J_0\right|^{2^{k-1}}\leq J_{k-1}\prod_{d=0}^{k-2}P_d^{2^{k-2-d}}

証明. 補題1を繰り返し適用すればよい:

\left|J_0\right|^2 \leq P_0J_1, \ J_1^2\leq P_1J_2

より

\left|J_0\right|^4 \leq P_0^2J_1^2 \leq P_0^2P_1J_2.

また、J_2^2 \leq P_2J_3 なので

\left|J_0\right|^8 \leq P_0^4P_1^2J_2^2 \leq P_0^4P_1^2P_2J_3.

などなど。 Q.E.D.

命題の証明

y=(y_1, \dots, y_{k-1})に対して

\displaystyle \phi_i(y) := \sum_{j=1}^{k-1}\left(1-\frac{c_i}{c_j}\right)y_j, \quad i=0, 1, \dots, k-1

とおく。すると、\phi_0(y)=y_1+\cdots +y_{k-1}であり、\phi_i(y)y_iには依存しない*3\Phi\colon \mathbb{Z}_N^{k-1} \to \mathbb{Z}_N^2

\displaystyle \Phi(y):=\left( y_1+\cdots +y_{k-1}, \frac{y_1}{c_1}+\frac{y_2}{c_2}+\cdots +\frac{y_{k-1}}{c_{k-1}}\right)

と定義すると、これは\mathbb{Z}_N^2\mathbb{Z}_N^{k-1}による一様被覆である*4。また、\Phi(y)=(x, r)とすれば \phi_i(y)=x-c_irである。

よって、§1, 4の補題より

\displaystyle \left.\mathbb{E}\Biggl(\prod_{j=0}^{k-1}f_j(x+c_jr) \ \right| \ x, r \in \mathbb{Z}_N\Biggr) = \left.\mathbb{E}\Biggl( \prod_{i=0}^{k-1}f_i\left(\phi_i(y)\right) \ \right| \ y \in \mathbb{Z}_N^{k-1}\Biggr) = J_0 −①.

一方、0 \leq d \leq k-2に対して P_d=1+o(1)である。理由: (2^d, k-1+d, k)-線形形式条件を変数 y_1, \dots, y_{k-1}, y_{k-d}', \dots, y_{k-1}'、線形形式

\phi_{k-d-1}(y^{(S)}), \quad S \subset \{k-d, \dots, k-1\}

に対して適用すればよい。線形形式の係数の作るベクトルに関する一次独立性の条件は0の場所に注目すればチェックできる

従って、系より

\displaystyle \left|J_0\right|^{2^{k-1}} \leq (1+o(1))J_{k-1} −②.

y, y' \in \mathbb{Z}_N^{k-1}を固定して S \subset \{1, \dots, k-1\}を動かすと、\phi_0(y^{(S)})(k-1)次元立方体

\{x+\omega \cdot h\mid \omega \in \{0, 1\}^{k-1}\}

を動く(x=y_1+\cdots +y_{k-1}, \ h_i=y_i'-y_i)。よって、\omega h\in \mathbb{Z}_N^{k-1}

(\omega h)_j:=\omega_jh_j, \quad 1 \leq j \leq k-1

とし、W(x, h)

\displaystyle W(x, h) := \left.\mathbb{E}\Biggl(\prod_{\omega \in \{0, 1\}^{k-1}}\prod_{i=1}^{k-1}\sqrt{\nu\left(\phi_i(y+\omega h)\right)} \ \right| \ y_1, \dots, y_{k-2} \in \mathbb{Z}_N\Biggr)

と定義すれば(ただし、y=(y_1, \dots, y_{k-2}, x-y_1-\cdots -y_{k-2}))、

\begin{align}J_{k-1} &= \left.\mathbb{E}\Biggl(\prod_{S\subset \{1, \dots, k-1\}}f_0\left(\phi_0(y^{(S)})\right) \prod_{i=1}^{k-1}\sqrt{\nu\left(\phi_i(y^{(S)})\right)} \ \right| \ y, y' \in \mathbb{Z}_N^{k-1}\Biggr) \\
&=\left.\mathbb{E}\Biggl(W(x, h)\prod_{\omega \in \{0, 1\}^{k-1}}f_0(x+\omega \cdot h) \ \right| \ x \in \mathbb{Z}_N, h \in \mathbb{Z}_N^{k-1}\Biggr)\end{align} – ③

と変形できることがわかる*5。Gowers一様性ノルムの定義より

\displaystyle \left.\mathbb{E}\Biggl(\prod_{\omega \in \{0, 1\}^{k-1}}f_0(x+\omega \cdot h) \ \right| \ x \in \mathbb{Z}_N, h \in \mathbb{Z}_N^{k-1}\Biggr)=\left\|f_0\right\|_{U^{k-1}}^{2^{k-1}}

なので、

\displaystyle \left.\mathbb{E}\Biggl(\left(W(x, h)-1\right)\prod_{\omega \in \{0, 1\}^{k-1}}f_0(x+\omega \cdot h) \ \right| \ x \in \mathbb{Z}_N, h \in \mathbb{Z}_N^{k-1}\Biggr)=o(1)

を示せばよい。理由: これが示されれば、②、③より

\displaystyle \left|J_0\right|^{2^{k-1}} \leq (1+o(1))\left(\left\|f_0\right\|_{U^{k-1}}^{2^{k-1}}+o(1)\right)

が言えるので、

\begin{align} \left|J_0\right| &\leq (1+o(1))\times \sqrt[2^{k-1}]{\left\|f_0\right\|_{U^{k-1}}^{2^{k-1}}+o(1)} \\ &\leq (1+o(1))\left(\left\|f_0\right\|_{U^{k-1}}+o(1)\right)=O\left(\left\|f_0\right\|_{U^{k-1}}\right)+o(1)\end{align}

となって、①より証明が完了する f_0 \leq \nuの仮定から

\displaystyle \left.\mathbb{E}\Biggl(\left|W(x, h)-1\right|\prod_{\omega \in \{0, 1\}^{k-1}}\nu(x+\omega \cdot h) \ \right| \ x \in \mathbb{Z}_N, h \in \mathbb{Z}_N^{k-1}\Biggr)=o(1)

を示せばよい。中身を

\displaystyle \Biggl(\prod_{\omega \in \{0, 1\}^{k-1}}\nu(x+\omega \cdot h)\Biggr)^{\frac{1}{2}} \times \left|W(x, h)-1\right|\Biggl(\prod_{\omega \in \{0, 1\}^{k-1}}\nu(x+\omega \cdot h)\Biggr)^{\frac{1}{2}}

とみてCauchy-Schwarzの不等式を適用することにより、これは次の補題に帰着される。

補題2 n=0, 2に対して
\displaystyle \left.\mathbb{E}\Biggl(\left|W(x, h)-1\right|^n\prod_{\omega \in \{0, 1\}^{k-1}}\nu(x+\omega \cdot h) \ \right| \ x \in \mathbb{Z}_N, h \in \mathbb{Z}_N^{k-1}\Biggr)=0^n+o(1)
が成り立つ。

証明. \left|W(x, h)-1\right|^2を展開することにより、q=0, 1, 2に対して

\displaystyle \left.\mathbb{E}\Biggl(W(x, h)^q\prod_{\omega \in \{0, 1\}^{k-1}}\nu(x+\omega \cdot h) \ \right| \ x \in \mathbb{Z}_N, h \in \mathbb{Z}_N^{k-1}\Biggr)=1+o(1)

を示すことに帰着される。これは、次のように\nuに対する線形形式条件から従う:

q=0のとき: (2^{k-1}, k, 1)-線形形式条件を変数x, h_1, \dots, h_{k-1}と線形形式

\displaystyle x+\omega \cdot h, \quad \omega \in \{0, 1\}^{k-1}

に対して適用すればよい。一次独立性に関する条件は係数の0の場所を見ればわかる。

q=1, 2の場合については、\phi_iのパラメータ依存性に関する条件から

\displaystyle W(x, h)=\mathbb{E}\Biggl(\prod_{i=1}^{k-1}\prod_{\substack{\omega \in \{0, 1\}^{k-1} \\ \omega_i=0}}\nu\left(\phi_i(y+\omega h)\right) \ \Bigg| \ y_1, \dots, y_{k-2} \in \mathbb{Z}_N\Biggr)

と書けることに注意する。

q=1のとき: (2^{k-2}(k+1), 2k-2, k)-線形形式条件を変数x, h_1, \dots, h_{k-1}, y_1, \dots, y_{k-2}と線形形式

\begin{align} &\phi_i(y+\omega h), \quad \omega \in \{0, 1\}^{k-1}, \ \omega_i=0, \ (1 \leq i \leq k-1) \\ &x+\omega \cdot h, \quad \omega \in \{0, 1\}^{k-1}\end{align}

に対して適用すればよい。一次独立性に関する条件については

\displaystyle \phi_i(y+\omega h) = \sum_{j=1}^{k-1}\left(1-\frac{c_i}{c_j}\right)(y_j+\omega_jh_j), \ y_{k-1}=x-y_1-\cdots -y_{k-2}

であることから、x+\omega\cdot hの形の線形形式と\phi_i(y+\omega h)の形の線形形式が従属することはあり得ないことがまずわかる(x+\omega \cdot hには変数y_jが存在しない)。x+\omega\cdot h型間の独立性はq=0の場合の通り。\phi_i(y+\omega h)型間*6についてはh_jの係数の0の場所を見ることによって、従属すれば同じ\omegaでなければならないことがわかる。最後に、\phi_i(y+\omega h)\phi_{i'}(y+\omega' h)の独立性*7であるが、1 \leq j \leq k-2なる jに対するy_jの係数(どれでもよい)とxの係数について有理数aが存在して

\displaystyle \left(\frac{1}{c_{k-1}}-\frac{1}{c_j}\right)c_i=a\left(\frac{1}{c_{k-1}}-\frac{1}{c_j}\right)c_{i'}, \quad 1-\frac{c_i}{c_{k-1}}=a\left(1-\frac{c_{i'}}{c_{k-1}}\right)

が成り立つならば c_i=c_{i'}すなわち i=i'が従う。

q=2のとき: (k2^{k-1}, 3k-4, k)-線形形式条件を変数x, h_1, \dots, h_{k-1}, y_1, \dots, y_{k-2}, y_1', \dots, y_{k-2}'と線形形式

\begin{align} &\phi_i(y+\omega h), \quad \omega \in \{0, 1\}^{k-1}, \ \omega_i=0, \ (1 \leq i \leq k-1) \\&\phi_i(y'+\omega h), \quad \omega \in \{0, 1\}^{k-1}, \ \omega_i=0, \ (1 \leq i \leq k-1) \\ &x+\omega \cdot h, \quad \omega \in \{0, 1\}^{k-1}\end{align}

に対して適用すればよい。ただし、y_{k-1}=x-y_1-\cdots y_{k-2}, y_{k-1}'=x-y_1'-\cdots y_{k-2}'である。一次独立性に関する条件は\phi_i(y+\omega h)型の線形形式と\phi_i(y'+\omega h)型の線形形式が従属しないことからq=1のときの議論により従う。 Q.E.D.

補題2によって命題の証明が完了する。 Q.E.D.

追記: 最後の証明の部分のq=1, 2の場合に問題があります。というのも、y_jの係数は(通分すると分かるように)分母・分子の絶対値がそれぞれk以下であることを保証できないからです。この点を指摘してくれた斎藤君・小林君・鈴木君は別の証明方法でこの部分を乗り切る方法を教えてくれました。一方、(k2^{k-1}, 3k-4, k)-線形形式条件の各数は「kに依存する数であればなんでも良い」ことが§9で判明するため、k-擬ランダム測度の定義において(k2^{k-1}, 3k-4, k^2)-線形形式条件に変更すれば上記議論のまま乗り切ることもできます。本ブログではそのように乗り切ろうかと思います。

*1:\displaystyle \bigl( \begin{smallmatrix} 1 & 0 \\ 1 & 1 \end{smallmatrix} \bigr)\left(\begin{smallmatrix}x \\ r \end{smallmatrix}\right)=\bigl( \begin{smallmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 1/2 \end{smallmatrix} \bigr)\left(\begin{smallmatrix}y_1 \\ y_2 \end{smallmatrix}\right).

*2:つまり、\nu=\nu_{\text{const}}の場合はこの時点で証明が完了している。

*3:これは、k=3, c_j=jのときの\phi_0(y_1, y_2)=y_1+y_2, \phi_1(y_1, y_2)=y_2/2, \phi_2(y_1, y_2)=-y_1の拡張になっている。

*4:\Phiは行列 \displaystyle \left(\begin{smallmatrix}1 & 1 & \cdots & 1 \\ c_1 & c_2 & \cdots & c_{k-1}\end{smallmatrix}\right)による線形写像であり、この行列のrankは2であるから\Phiは全射。また、y_3, \dots, y_{k-1}を固定すると\Phi(y_1, \dots, y_{k-1})=(x, r)となるようなy_1, y_2は一意に決まるのでファイバー\Phi^{-1}(x, r)の元の個数は(x, r)に依らずにN^{k-3}である。

*5:(y_1, \dots, y_{k-1}, y_1', \dots, y_{k-1}') \mapsto (y_1, \dots, y_{k-2}, y_1+\cdots +y_{k-1}, y_1'-y_1, \dots, y_{k-1}'-y_{k-1})は全単射。

*6:iを固定して\omegaを動かす。

*7:\omega\omega'は任意にとって固定。