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数、特に整数に関する記事。

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講演 素数の織り成す構造〜ガウスからグリーン・タオへ〜 MATH POWER 2017 - INTEGERSでは時間の都合上、Green-Taoの定理の先にあるものとして未解決問題であるErdős-Turán予想を紹介して終わりました。ここでは既に証明されているGreen-Taoの定理の拡張を少しだけ紹介しようと思います。

Szemerédiの定理

Szemerédiの定理 (Szemerédi, 1975) Aを自然数全体集合\mathbb{N}の部分集合とする。Aの上漸近密度が正であれば、Aは任意の長さの等差数列を含む。

は多次元化されています。

dを正整数とし、A\mathbb{Z}^dの部分集合とするとき、Ad次元上漸近密度

\displaystyle \limsup_{N \to \infty}\frac{\#\{A \cap [-N, N]^d\}}{\#\{[-N, N]^d\}}

と定義する。ここで、[-N, N] := \{n \in \mathbb{Z} \mid -N \leq n \leq N\}である。\mathbb{Z}^dにおける形状を有限個の相異なる\mathbb{Z}^dの元の族として定義する。また、\mathbb{Z}^dにおける形状(v_j)_{j \in J} \in (\mathbb{Z}^d)^Jが与えられたとき、形状が(v_j)_{j \in J}である星座とは、a \in \mathbb{Z}^dおよびr \in \mathbb{Z}_{> 0}を用いて(a+rv_j)_{j \in J} \in (\mathbb{Z}^d)^Jと表されるような\mathbb{Z}^dの元の族のことをいう。

以上の用語のもと、FurstenbergとKatznelsonは次を証明しました:

多次元版Szemerédiの定理 (Furstenberg-Katznelson, 1978) dを正整数とし、A\mathbb{Z}^dの部分集合とする。Ad次元上漸近密度が正であれば、Aは任意の\mathbb{Z}^dにおける形状に対し、その形状の星座を無数に含む。

Gauss整数環\mathbb{Z}[i]を加法群として\mathbb{Z}^2と同一視したとき、二次元版Szemerédiの定理の主張がGauss素数の集合に対しても成立するかという疑問が生じます。密度は零なのでそのままでは適用できませんが、Green-Taoの定理と同様、Taoが次の定理を証明しています:

Gauss素数星座定理 (Tao, 2006) 任意の\mathbb{Z}[i]における形状に対し、Gauss素数のみから構成されるその形状の星座が無数に存在する。

また、Green-TaoはSzemerédiの定理の素数版

素数版Szemerédiの定理 (Green-Tao, 2008) Aを素数のみからなる集合とする。Aの相対上漸近密度が正であれば、Aは任意の長さの等差数列を含む。

を証明していましたが、2006年のGauss素数の論文でTaoが予想していた多次元版も既に証明されています。

dを正整数とし、\mathcal{P}を素数全体のなす集合とする。\mathcal{P}^dの部分集合Ad次元相対上漸近密度を

\displaystyle \limsup_{N \to \infty}\frac{\#\{A \cap (\{1, 2, \dots, N\})^d\}}{\pi(N)^d}

と定義する。

素数版多次元Szemerédiの定理 (Tao-Ziegler, 2015, Cook-Magyar-Titichetrakun, preprint) dを正整数とし、A\mathcal{P}^dの部分集合とする。Ad次元相対上漸近密度が正であれば、Aは任意の\mathbb{Z}^dにおける形状に対し、その形状の星座を無数に含む。

また、Green-Taoの定理の証明でKeyとなった擬ランダム測度に対するSzemerédiの定理も改良されており、2015年にはConlon-Fox-Zhaoによって相関条件は不要であること、線形形式条件についても少し弱められることが示されています。

Twitter記録

講演後にtwitterに勢いで呟いた内容をここに保存しておきます:

幾つかの犠牲を払う必要はあったけれども、それでもGreen-Taoの定理の勉強をしてよかった。僕はこれからの人生で様々なことに直面するだろうけれど、その度に「任意の長さの素数等差数列が存在する」という事実が成立することへの確信が僕の精神を強固に支えてくれるに違いない。それを実行することが出来たのも阪大でお世話になった小木曽先生のおかげです。小木曽先生は素数がご専門ではないですが、2009年に行った素数に関する市民講演の資料をネットで見ることが出来ます。
http://mathsoc.jp/publication/tushin/1404/1404oguiso.pdf これを見ると今回の私の講演の構成は小木曽先生の内容と殆ど同じであることがわかります。小木曽先生の講演を見ることはできませんでしたが、感動したこの内容を「ちゃんと理解した上で」自分でも発表してみたかったのです。僕は数学者としては落ちこぼれの部類だと思っていますが、そんな僕でもGreen-Taoの定理を理解できるのではないかと思うことが出来たのは、小木曽先生の資料を見て感じた「予備知識の少なさ」のおかげです。何万ページもある代数幾何学の勉強をサボってきた僕でもFields賞レベルの数学を理解することができるかもしれない。とても自信をつけられました。予備知識が少なくても、ここまで巧みな議論で面白い数学を作ることができるんだ。僕もそんな数学を作ってみたいと強く思いました。どうせなら何年もかけて大きい発見をしたい。でも、人生を一つのものにかける勇気はなかなか得られません。周りには天才ばかりのいる世界です。ここまで嫉妬のしやすい世界もないでしょう。何か自信が欲しかった。数学に人生をかけるための何かが。それが、等間隔に並ぶ素数なんです。
今回僕はとても大きい自信を得ることができました。何年かかるかわかりませんが、今回の講演を超える講演をいつか必ずします。それは偉い先生の成し遂げた数学ではなく、「自分の見つけた数学」でです。mathpowerに関係してくださった全ての皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。私を推して講演の依頼をしてくださり、mathpower全体にわたって企画運営に携わり、非可算有限回の打ち合わせをし、正65537角形を作図し続け、素数大富豪判定員をされ、私のプランに感動してencourageし続けてくださった中澤俊彦さんに最大の感謝を込めて御礼申し上げます。

mathpowerがあると知った7月に「私に講演依頼が来るのは確実であろう」という謎の自信のもと、ニコニコ動画に「でぶやん」、「でぶーん」って書かれる未来が嫌でダイエットを開始して12kg痩せました。まだダイエットは続けたいと思っていますが、これから久しぶりに夜食を食べます。三ヶ月はないと効果は現れないと思ったからです。毎日4km強走りました。8月末に講演依頼がきたときは「やっときたかニヤリ」となったのを思い出します。Green-Taoの一連の勉強・執筆を開始したのは4/2頃だと記憶していて、これとダイエットについては継続することが最重要でした。それは「tsujimotterさんは朝岩澤理論をやっているんだ、僕にもできる」という気持ちでなんとか続けることができました。

瀬下さんに言われたのが、僕が想定聴講者レベルを数学者に設定していると運営に伝えていたことに驚いたということ。実際は数学者相手には不要なこと厳密でない部分が多すぎたとは思うけれど、証明を全てあらかじめ書き起こしていることと合わせて、実際に数学者に聞いてもらいたい気持ちは大きかった。

私は素数Tシャツ以外の服を自分で購入したことがなかった。が、MATHPOWERは服装の事も考えようと思い上野を歩いてみた。すると江戸時代のお店が見つかったので緑(グリーン)の作務衣を2万円で購入した。グリーン・タオだけに後は軒(タオ)Tシャツでも作れば完璧かなと。作務衣を購入した後に満足しながらケーキを食べていたら「なんか違うのでは?」という気分になってきた。それで、今度は普通の洋服店に入って、ズボンとシャツとベストで3万5千円の一張羅を購入したのである。初めての経験であったが服を購入するというのも楽しいものである。服を買ったはいいが髪の毛がボサボサで見た目上気持ち悪い。普段は生活がままならないほど髪が伸びてからしばらく放置した後に髪を切りまた伸びるまで待つという感じであったが、まだ切る段階でないのに床屋に駆け込んでみた。「MATHPOWERがあるから明後日がベストになるように切ってくれ!」スプレーワックスなるものも合わせて購入し、本番あの格好となったというわけである。結局作務衣は素数大富豪大会のときに着させて頂いたが、最初の講演のときと素数大富豪大会のときで顔が太っているように見えるのは気のせいか?楽屋でご飯を食べ過ぎて一日で太ったという仮説を有力視しているが。

昨日数学者の懇親会の前に尊敬する共同研究者から「あれだけ等差数列の勉強してよく等差数列で研究しようと思わないね」って言われた。確かに。ただ、最先端の研究しようとするとGreen-Taoの後13年分の勉強も当然しないといけなくて、それよりも僕を呼んでる分野がある気がする。

本の執筆

当ブログに投稿した記事達を読めば一応Green-Taoの定理の証明をフォロー出来るようになっていますが、とりあえず理解することを優先したため、単なる翻訳というわけではないとは言え記号や構成は原論文のままとなっております。私としては理解を更に昇華させたいため、本としてまとめる決意をしました(現状いかなる出版社との契約もなく自己満足で隙間時間に趣味として執筆します)。その際、自分の言葉で出来るだけ流れが明確となるように再構成して書きます。また、記号も統一的に一新し、必要なら用語等も変更します。現状の記事ではTaoのSzemerédi論文とGreen-Tao論文で内容的重複がある一方で記号が統一的でないという点を解消することを心がけます。また、内容的にも若干追加する予定です。特に、Szemerédiの定理の証明を期待値の言葉ではなくより原論文の手法に近い形でまとめたTaoの論文が存在するため、その内容を完全に追加します。前提知識がかなり少ない物語ではありますが、当ブログでは連載以前に様々な準備記事を書いてきたことによってself-containednessが高いものとなっていました。本の方ではそれら前提知識を付録としてまとめる予定です。素数定理を使いますが、証明は短くまとめることができるので、この本では一章割いて証明を掲載します。本の執筆の途中経過は常に公開しますので、見守って頂けると幸いです。

原稿『等間隔に並ぶ素数を追い求めて』のダウンロード

追記) Green-Taoの定理の証明をこれから学ぶ人のための本の執筆という観点ではConlon-Fox-Zhaoの定理を解説すべきであるという気持ちになってきました。しかし、そのためにはハイパーグラフを扱う必要があって本全体の構成をどうすべきか少し混乱しています。勉強すべきことも増えて長期計画になりそうです。

追記) 教科書にまとめる前に追加で勉強すると決めた内容について当ブログでGreen-Taoの定理の記事と同様のレベルで一旦書いておこうと思い直しました。それらの原稿をもとに自分の言葉でまとめ直します。追加内容は

Szemerédiの定理の組合せ論的証明 → ハイパーグラフ除去補題(多次元版Szemerédiの定理) → Conlon-Fox-Zhaoの相対Szemerédiの定理

の予定です。この内容を盛り込んで教科書を書けば、Green-Taoの定理をより強い(条件の緩い)相対Szemerédiの定理から出すことができますし(確認すべき内容が少し減る)、多次元版Szemerédiの定理もフォローできます。この流れでいくと、おそらくGauss素数星座定理も入れることになると思われます。