インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

レスターの定理

重心

三角形ABCに対して、辺BCの中点をM_Aとする。辺CA, 辺ABについても同様に考えてM_B, M_Cを定義する。

定理: 直線AM_A, BM_B, CM_Cは一点で交わる。

この一点を重心という。

特徴: 重心をGとすると、AG:GM_A=BG:GM_B=CG:GM_C=2:1が成り立つ。

垂心

三角形ABCに対して、点Aから辺BCへの垂線の足をH_Aとする。辺CA, 辺ABについても同様に考えてH_B, H_Cを定義する。

定理: 直線AH_A, BH_B, CH_Cは一点で交わる。

この一点を垂心という。

外心

三角形ABCに対して、辺BCの垂直二等分線をl_Aとする。辺CA, 辺ABについても同様に考えてl_B, l_Cを定義する。

定理: l_A, l_B, l_Cは一点で交わる。

この一点を外心という。

特徴: 外心は三角形ABCの外接円の中心である。

内心

三角形ABCに対して、\angle Aの二等分線を\ell_Aとする。角\angle B, 角\angle Cについても同様に考えて\ell_B, \ell_Cを定義する。

定理: \ell_A, \ell_B, \ell_Cは一点で交わる。

この一点を内心という。

特徴: 内心は三角形ABCの内接円の中心である。

傍心

三角形ABCに対して、\angle Aの二等分線を\ell_Aとする。また、角Bの外角、角Cの外角の二等分線をそれぞれ\ell'_B, \ell'_Cとする。

定理: \ell_A, \ell'_B, \ell'_Cは一点で交わる。

B, Cについても同様に考えることによって得られる三角形ABCの外側の三つの点を傍心という(つまり、傍心は三つある)。

特徴: 定理で定まる点は辺BC, 直線AB, 直線ACに接する円(傍接円)の中心である。

第一Fermat-Torricelli点

三角形ABCに対して、BCを一辺とする二つの正三角形のうち直線BCについて点Aと反対側にあるものを\Gamma_Aとする。辺CA, 辺ABについても同様に考えて\Gamma_B, \Gamma_Cを定義する。

定理: \Gamma_Aの外接円と\Gamma_Bの外接円と\Gamma_Cの外接円は一点で交わる。

この一点を第一Fermat-Torricelli点という。

特徴: 三角形ABCが内角が120^{\circ}以上の頂点を持たないとき、第一Fermat-Torricelli点Fは三頂点からの距離の和が最小となるような点になっている。また、\angle AFB=\angle BFC = \angle CFA=120^{\circ}になっている。

参考記事: 三角形のフェルマー点の3通りの証明 | 高校数学の美しい物語

第二Fermat-Torricelli点

三角形ABCに対して、BCを一辺とする二つの正三角形のうち直線BCについて点Aと同じ側にあるものを\Delta_Aとする。辺CA, 辺ABについても同様に考えて\Delta_B, \Delta_Cを定義する。

定理: \Delta_Aの外接円と\Delta_Bの外接円と\Delta_Cの外接円は一点で交わる。

この一点を第二Fermat-Torricelli点という。

参考記事: 三角形の五心の話(10)Fermat点

Napoléonの三角形とNapoléon点

第一・第二Fermat-Torricelli点の記号を利用する。

定理: \Gamma_A, \Gamma_B, \Gamma_Cの重心をそれぞれ結んでできる三角形は正三角形である。また、\Delta_A, \Delta_B, \Delta_Cの重心をそれぞれ結んでできる三角形も正三角形である。これら二つの正三角形の重心は三角形ABCの重心と一致する。

これらの正三角形をそれぞれNapoléonの外三角形・内三角形という。

定理: \Gamma_A, \Gamma_B, \Gamma_Cの重心をそれぞれG_{\Gamma_A}, G_{\Gamma_B}, G_{\Gamma_C}とする。このとき、直線AG_{\Gamma_A}, BG_{\Gamma_B}, CG_{\Gamma_C}は一点で交わる。

この一点を第一Napoléon点という。

定理: \Delta_A, \Delta_B, \Delta_Cの重心をそれぞれG_{\Delta_A}, G_{\Delta_B}, G_{\Delta_C}とする。このとき、直線AG_{\Delta_A}, BG_{\Delta_B}, CG_{\Delta_C}は一点で交わる。

この一点を第二Napoléon点という。

参考記事: ナポレオンの定理とナポレオン点

cf. モーリーの定理 - INTEGERS

Euler線

三角形ABCの重心・垂心・外心をそれぞれをG, H, Oとする。

定理: G, H, Oは同一直線上に存在する。

\triangle{ABC}が正三角形でないとき、この直線をEuler線という。

特徴: 2OG=GH, 3OG=OHが成り立つ。

参考記事: オイラー線の3通りの証明 | 高校数学の美しい物語

九点円

三角形ABCに対して、重心・垂心の項目で定義した点M_A, M_B, M_C, H_A, H_B, H_Cを考え、Hを垂心とする。HA, HB, HCの中点ををそれぞれD_A, D_B, D_Cとする。

定理: 九点M_A, M_B, M_C, H_A, H_B, H_C, D_A, D_B, D_Cは同一円周上に存在する。

この円を九点円という。

特徴: 九点円の中心はEuler線上にあり、外心と垂心の中点である。

参考記事: 九点円の定理の証明と諸性質 | 高校数学の美しい物語

Feuerbachの定理

定理: 三角形の内接円と九点円は内接し、傍接円と九点円は外接する。

沢(澤)山勇三郎はこの定理の証明を二十二通り与えたらしい。

参考記事: フォイエルバッハの定理と計算による証明 | 高校数学の美しい物語

Lesterの定理

定理 (Lester, 1996) 不等辺三角形の外心・第一Fermat-Torricelli点・第二Fermat-Torricelli点・九点円の中心の四点は同一円周上に存在する。

この定理によって存在する円のことをLester円という。要は次のようになっているということだ:

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この記事ではN. I. BeluhovによるLesterの定理の証明を紹介する。

Beluhovの補題

補題 AB \neq ACであるような三角形ABCを考える。直線ACに関して点Bと対称な点をP, 直線ABに関して点Cと対称な点をQとする。三角形APQの外接円のAでの接線と直線PQの交点をTとし、Aに関してTと対称な点をUとする。このとき、Uは直線BC上にある。

AB=ACだとTが存在しない。

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証明. Aに関してBと対称な点をK, Cと対称な点をLとする。

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示すべきことは Tが直線KL上にあることである。理由: Aに関する対称変換でB \leftrightarrow K, C \leftrightarrow L, U \leftrightarrow Tと対応しており、直線は直線に移るため。

各点の定義からAL=AC=AQ, \ AK=AB=APが成り立つ。

また、

\angle LAQ= 180^{\circ}-\angle QAC = 180^{\circ}-2\angle BAC=180^{\circ}-\angle BAP=\angle PAK

と角度を追跡できる。よって、

三角形LAQと三角形PAKは互いに相似な二等辺三角形であり、底角は\angle BACに等しい

ことがわかった。

接弦定理より三角形TQAと三角形TAPは相似である。この相似が定める変換 f\colon \triangle{TQA} \mapsto \triangle{TAP}によって、点MM:=f^{-1}(K)と定義する(TQMATAKPが対応する)。このとき、

\triangle{MQA}\triangle{KAP}\triangle{QAL}

という相似があるため、QA=ALであることから

\triangle{MQA} \equiv \triangle{QAL}

が従う。すると、三角形QAL二等辺三角形であることを思い出すと、二組の対辺がそれぞれ等しいので四角形ALQMは平行四辺形である。

また、

\angle QAM= \angle APK = \angle BAC=\angle QAB

と角度を追跡できるので、点Mは直線AKB上にあることがわかる。よって、直線QLと直線AKは平行である。

Nをベクトルの等式

\overrightarrow{TN}=\overrightarrow{QL}=\overrightarrow{MA}

が成り立つように導入する。すると、三辺相等によって

\triangle{ALN} \equiv \triangle{MQT}

が成り立つ。よって、

\angle LAN = \angle QMT=\angle AKT

が成り立ち、直線TNと直線AKは平行なので錯角を見ると

\angle AKT=\angle NTK

が得られる。三角形ATNの外接円と直線TKの交点をL'とする。示すべきことはL=L'である。

円周角の定理より\angle NTK=\angle L'ANなので、\angle LAN = \angle L'AN.

同様に、

\angle LNA = \angle QTM=\angle ATK

および円周角の定理からわかる\angle ATK = \angle L'NAより\angle LNA= \angle L'NAを得る。

よって、一辺両端角相等より\triangle{LAN} \equiv \triangle{L'AN}が成り立ち、これはL=L'を示している。 Q.E.D.

第一・第二Fermat-Torricelli点とNapoléonの三角形の関係

定理 第一Fermat-Torricelli点はNapoléonの内三角形の外接円上にあり、第二Fermat-Torricelli点はNapoléonの外三角形の外接円上にある。

証明. 三角形ABCを考える。第一・第二Fermat-Torricelli点の定義で使った正三角形\Gamma_A, \Gamma_B, \Gamma_C, \Delta_A, \Delta_B, \Delta_Cの記号を用いる。これら六つの正三角形の重心をそれぞれT_A, T_B, T_C, S_A, S_B, S_Cとする。第一Fermat-Torricelli点をF_1, 第二Fermat-Torricelli点をF_2とする。Napoléonの定理より\triangle{T_AT_BT_C}および\triangle{S_AS_BS_C}はともに正三角形である。

\angle S_BF_1S_C=\angle S_BF_1A+\angle S_CF_1Aと分割する。

A, S_B, F_1, Cは同一円周上にある。理由: 定義よりT_BA=T_BC=T_BS_Bが成り立つので、A, S_B, C\Gamma_Bの外接円上にある。よって、定義よりF_1もこの上にある

よって、円周角の定理より\angle S_BF_1A=\angle S_BCA=30^{\circ}.

同様にB, S_C, F_1, Aは同一円周上にあるので\angle S_CF_1A=\angle S_CBA=30^{\circ}.

故に\angle S_BF_1S_C=60^{\circ}=\angle S_BS_AS_Cが成り立ち、円周角の定理の逆によってF_1は三角形S_AS_BS_Cの外接円上にあることがわかる。

次に、\angle T_BF_2T_C=\angle T_BF_2A+\angle T_CF_2Aと分割する。

A, T_B, F_2, Cは同一円周上にある。理由: 定義よりS_BA=S_BC=S_BT_Bが成り立つので、A, T_B, C\Delta_Bの外接円上にある。よって、定義よりF_2もこの上にある

よって、円周角の定理より\angle T_BF_2A=\angle T_BCA=30^{\circ}.

同様にB, T_C, F_2, Aは同一円周上にあるので\angle T_CF_2A=\angle T_CBA=30^{\circ}.

故に\angle T_BF_2T_C=60^{\circ}=\angle T_BT_AT_Cが成り立ち、円周角の定理の逆によってF_2は三角形T_AT_BT_Cの外接円上にあることがわかる。 Q.E.D.

Lesterの定理の証明

不等辺三角形ABCを考えて、上記定理と同じ記号を用いる。正三角形\triangle{T_AT_BT_C}および\triangle{S_AS_BS_C}の重心は三角形ABCの重心Gに一致する。

主張 三角形GF_1F_2の外接円のGにおける接線と直線F_1F_2の交点をQとする。このとき、点Gに関してQと対称な点Oは三角形ABCの外心に一致する。

主張の証明. 上述の定理およびF_1の定義よりS_AF_1G中心の円とT_A中心の円の共通弦となっており、従ってF_1は直線GT_Aに関するS_Aの対称点となっている。また、T_AF_2G中心の円とS_A中心の円の共通弦となっており、F_2は直線GS_Aに関するT_Aの対称点となっている*1。定義よりS_AT_Aは互いに直線BCに関して対称な位置にあるのでGS_A \neq GT_Aである。これよりF_1 \neq F_2がわかり、AB \neq ACよりGは直線S_AT_A上にはなくGS_AT_Aは三角形をなしていることからS_A \neq F_1, T_A \neq F_2およびGF_1F_2も三角形をなすことわかり、直線F_1F_2が三角形GF_1F_2の外接円のGにおける接線と平行でないことがわかる。よって、三角形GS_AT_Aに対してBeluhovの補題を適用することができ、帰結としてOは直線S_AT_A上にあることが従う。\triangle{GS_BT_B}, \triangle{GS_CT_C}に対しても同様に考えることによってOは三直線S_AT_A, S_BT_B, S_CT_Cの交点であることが示された。ところで、定義からS_AT_A, S_BT_B, S_CT_Cはそれぞれ辺BC, CA, ABの垂直二等分線である。つまり、Oは三角形ABCの外心である。 主張の証明終わり.

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三角形ABCの九点円の中心をO_9とする。三角形ABCの垂心をHとすると、O_9はEuler線(=直線OG)上にあり、OO_9:O_9H=1:1, OG:GH=1:2が成り立つのであった。つまり、OG:GO_9=2:1であり、QもEuler線上にあってO_9GQの中点となっている。よって、方べきの定理より

\displaystyle QF_1\cdot QF_2 = QG^2=2QG\cdot \frac{1}{2}QG= QO\cdot QO_9

が成り立ち、方べきの定理の逆より四点O, F_1, F_2, O_9は同一円周上にあることが示された。 Q.E.D.

*1:この時点ではS_A=F_1, T_A=F_2の可能性を論じていないが、仮に等号が成り立ったとしても対称であるという主張は正しい。