ABC予想について述べた記事
において「強い予想」として次を述べていました:
この予想は A. Granville, T. J. Tucker, "It’s as easy as abc", Notices of the AMS, 49 (2002), 1224-31. のp. 1227には既に述べられています。
しかし、ABCトリプルのクオリティの現状の記録はなので、指数
をもうちょっと下げられるのではないかという気はします。この記事では、
と予想できるということを述べます。
何故このようなことを予想できるかについてですが、実はBakerによる次のような予想が知られています。
この予想は
A. Baker, "Experiments on the abc-conjecture", Publ. Math. Debrecen 65 (2004), 253–260.
で提唱されたものです。予想の根拠はこの記事では取り合えず述べないことにして、この予想を仮定するとLaishram-Shorey予想が導出されるということを紹介します。
:
番目の素数.
: Chebyshev関数(
は素数,
).
: 素数階乗.
証明. 正整数に対して、
を
と定める。であれば
である*1。正整数
を
が成り立つような以上で最小のものとする。一旦、
と仮定する。
であることと、
およびRobinの定理
より*2、
が成り立つ。微分すれば関数は
で単調増加であることがわかるため、
なる不等式を得る(Stirlingの公式を用いている)。
と評価できるので、結局
が得られた(の場合。この仮定はここまで)。
を
が成り立つ最小正整数と定める(で成立することは①で
とすればわかる。よって、
は確かに存在する)。そうすると、部分的に同じ議論が適用できて①は
に対して成立することわかり、このとき所望の不等式が成立する。
よって、後はかつ
のときを考えればよい。このとき、
なので、
と所望の評価が得られる。 Q.E.D.
証明. 正整数に対して
とするとき、
が成り立つことを示せばよい。さて、命題の証明におけるおよび
は
から明示的に計算可能である。数値計算をすれば*3、
が確認できる。
なので、命題より、の場合を考えればよい(
)。
のときは数値計算によって
が確認でき、関数の単調性から
が確認できる(最後の不等式は数値計算)。あとはの場合であるが、このとき、
がに対して成立することを確認できるため(三回計算するだけ)、単調性より
に対しては主張が成立することがわかった。
最終的に残ったのは、かつ
の場合のみで、それは
に限定される。これらのときも②の成立が直接確認できる。 Q.E.D.
*1:
*2:G. Robin, Estimation de la fonction de Tchebychef sur le
-ieme nombre premier et grandes valeurs de la fonction
nombre de diviseurs premiers de n, Acta Arith. 42 (1983), 367-389.
これは素数定理関連のeffectiveな結果の一つで、Rosser-SchoenfeldやDusartの結果などをこれまでの記事でも使ってきたが、一貫して証明を紹介するのは諦めているものの一つである。
*3:の零点は
と
の間にあり、
である。つまり、
がわかる。また、
で、
,
としたとき、
,
なので
が確定する。