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INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

奇数の完全数に関するHeath-Brownの手法

奇数の完全数が存在するかしないかというのは未解決問題です。

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しかしながら部分的な研究成果は多数あって、例えば1913年にDicksonが「与えられた個数の素因数を持つような奇数の完全数は有限個しか存在しない」ということを証明しました。この結果は定量化されています。素因数の個数を表す数論的関数\omega(n)

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を用いることにし、Nを奇数の完全数とすると、Pomeranceが1977年に

\displaystyle N < (4\omega(N) )^{(4\omega(N) )^{2^{\omega(N)^2}}}

を示しました。その後、この結果は改良されており、Heath-Brownが1994年に

\displaystyle N < 4^{4^{\omega(N)}}

を示し、幾つかの研究を経て、Nielsenが2015年に

\displaystyle N < 2^{(2^{\omega(N)}-1)^2}

を示しました。S先生に教わったところHeath-Brownによる技術革新が結構重要ということなので、この記事では

D. R. Heath-Brown, Odd perfect numbers, Math. Proc. Cambridge Philos. Soc. 115 (1994), 191–196.

を勉強します。

Heath-Brownの定理

\sigma(n)を約数総和関数とする。実際には、次の定理を証明している:

定理 (Heath-Brown) N\omega(N) \leq kを満たすような奇数とし、n/d1より大きい有理数の既約分数表示とする。\sigma(N)=\frac{n}{d}Nが成り立つならば、N < (4d)^{4^k}が成立する。

n/d=2のときを考えると冒頭で紹介した主張となる。次のような補題を用意することが重要である(現在は改良されている)。

補題1rを正整数、n_1, \dots, n_r1 < n_1 < \cdots < n_rを満たすような整数であって
\displaystyle \prod_{i=1}^r\left(1-\frac{1}{n_i}\right) \leq \frac{a}{b} < \prod_{i=1}^{r-1}\left(1-\frac{1}{n_i}\right)
を満たすようなものとする。ただし、a, bは正整数。このとき、不等式評価
\displaystyle \prod_{i=1}^rn_i \leq (4a)^{2^r-1}
が成り立つ。

証明. rに関する帰納法で示す。r=1のとき。1-\frac{1}{n_1}\leq \frac{a}{b} < 1が満たされており、b > aよりb \geq a+1が言えるので

\displaystyle 1-\frac{1}{n_1}\leq \frac{a}{a+1}

を得る。すると、

n_1\leq a+1 \leq 4a=(4a)^{2^1-1}

が成り立つことがわかる。次に、r\geq 2の場合を考える。まず、n_i\leq 2^{i+1}aを満たすようなn_i \ (1\leq i\leq r)が存在することを示す。いま、先ほどと同様に1 \geq \prod_{i=1}^{r-1}\left(1-\frac{1}{n_i}\right) > \frac{a}{b}からb \geq a+1が成り立つことに注意する。もし、任意の1 \leq i \leq rに対してn_i > 2^{i+1}aだったと仮定すると

\begin{align}\frac{a}{a+1} &\geq \frac{a}{b} \geq \prod_{i=1}^r\left(1-\frac{1}{n_i}\right) \geq 1-\sum_{i=1}^r\frac{1}{n_i} > 1-\frac{1}{a}\sum_{i=1}^{\infty}\frac{1}{2^{i+1}} \\ &= 1-\frac{1}{2a} \geq 1-\frac{1}{a+1}=\frac{a}{a+1}\end{align}

となって矛盾する*1n_i\leq 2^{i+1}aを満たす最小のikとする。

\displaystyle \prod_{i=1}^kn_i \leq n_k^k \leq (2^{k+1}a)^k –①

が成り立つ。k=rの場合。①より

\displaystyle \prod_{i=1}^rn_i \leq (2^{r+1}a)^r –②

が成り立つ。1 \leq k \leq r-1の場合。a':=a\prod_{i=1}^kn_i, b'=b\prod_{i=1}^k(n_i-1)とすると、

\displaystyle \prod_{i=k+1}^r\left(1-\frac{1}{n_i}\right) \leq \frac{a'}{b'} < \prod_{i=k+1}^{r-1}\left(1-\frac{1}{n_i}\right)

なので、帰納法の仮定より

\displaystyle \prod_{i=k+1}^{r}n_i \leq (4a')^{2^{r-k}-1}=(4a)^{2^{r-k}-1}\Big(\prod_{i=1}^kn_i\Bigr)^{2^{r-k}-1}

となり、①より

\displaystyle \prod_{i=1}^rn_i \leq (4a)^{2^{r-k}-1}\Big(\prod_{i=1}^kn_i\Bigr)^{2^{r-k}} \leq (4a)^{2^{r-k}-1}(2^{k+1}a)^{k2^{r-k}}

を得る。②よりこの式はどちらの場合分けでも成立していることがわかる。よって、後は

(4a)^{2^{r-k}-1}(2^{k+1}a)^{k2^{r-k}} \leq (4a)^{2^r-1}

が成り立つことを示せばよく、そのために

4^{2^{r-k}-1}2^{k(k+1)2^{r-k}} \leq 4^{2^r-1}, \quad a^{2^{r-k}-1}a^{k2^{r-k}} \leq a^{2^r-1}

を示せばよい。\frac{k(k+1)}{2} =1+2+\cdots +k \leq 1+2+\cdots + 2^{k-1} = 2^k-1より

4^{2^{r-k}-1}4^{\frac{k(k+1)}{2}2^{r-k}} \leq 4^{2^{r-k}-1+(2^k-1)2^{r-k}}=4^{2^r-1}

であり、k \leq 2^k-1より

a^{2^{r-k}-1}a^{k2^{r-k}} \leq a^{2^{r-k}-1+(2^k-1)2^{r-k}} = a^{2^r-1}

である。 Q.E.D.

素数からなる有限集合Sに対して、\Pi(S):=\prod_{p \in S}pと定義する。また、正整数Nに対して、\mathrm{prime}(N)Nの素因数全体のなす集合とする。

補題2 Nを奇数、S\subset \mathrm{prime}(N)とし、\frac{\sigma(N)}{N}=\frac{n}{d} > 1とする(n, dは正整数)。このとき、N=N'Mなる互いに素な正整数N', Mであって、
(i) v:=\omega(M) \geq 1.
(ii) {}^{\exists}S' \subset \mathrm{prime}(N') s.t. w:=v+\#S'-\#S \geq 0.
(iii) {}^{\exists}n', d' \in \mathbb{Z}_{> 0} s.t. \frac{\sigma(N')}{N'} = \frac{n'}{d'} & d\sigma(M) \mid d'.
(iv) 4d'\Pi(S') \leq (4d\Pi(S) )^{2^{v+w}}.
が成り立つようなものが存在する。

証明. \prod_{p \in S}\left(1-\frac{1}{p}\right)1 (S=\emptysetの場合)または、既約分数表示した際に分子が偶数である(Nが奇数なので)。一方、\frac{d}{n}=\frac{N}{\sigma(N)} < 1の既約分数表示における分子は奇数である(やはりN奇数より)。よって、

\displaystyle \prod_{p \in S}\left(1-\frac{1}{p}\right) \neq \frac{d}{n}

がわかる。\prod_{p \in S}\left(1-\frac{1}{p}\right) > \frac{d}{n}の場合を考える。

\displaystyle \prod_{p \mid N}\left(1-\frac{1}{p}\right) < \frac{N}{\sigma(N)}=\frac{d}{n}

なので*2d_1:=d\Pi(S), n_1:=n\prod_{p \in S}(p-1)とすると

\displaystyle \prod_{p \mid N, \ p \not \in S}\left(1-\frac{1}{p}\right) < \frac{d_1}{n_1} =\frac{d}{n}\prod_{p \in S}\frac{1}{1-\frac{1}{p}} < \prod_{p \in S}\left(1-\frac{1}{p}\right)\cdot \prod_{p \in S}\frac{1}{1-\frac{1}{p}} = 1

が成り立つ(S\subset\mathrm{prime}(N)であることに注意)。これより、\emptyset \neq S_1=\{p_1, \dots, p_w\} \subset \mathrm{prime}(N)であって、S\cap S_1=\emptyset かつ

\displaystyle \prod_{i=1}^w\left(1-\frac{1}{p_i}\right) \leq \frac{d_1}{n_1} < \prod_{i=1}^{w-1}\left(1-\frac{1}{p_i}\right) –③

が成り立つようなS_1が存在することがわかる(p_1 < \cdots < p_w)。このとき、補題1より

\Pi(S_1) \leq (4d_1)^{2^w-1}

が成り立つ。よって、

\Pi(S\sqcup S_1) \leq (4d)^{2^w-1}\Pi(S)^{2^w} –④

が成り立つ。③より

\displaystyle \prod_{p \in S\sqcup S_1}\left(1-\frac{1}{p}\right) \leq \frac{d}{n}

である。この証明の冒頭の議論によって等号は成り立たない。すなわち、

\displaystyle \prod_{p \in S\sqcup S_1}\left(1-\frac{1}{p}\right) < \frac{d}{n} –⑤

である。ここまでは\prod_{p \in S}\left(1-\frac{1}{p}\right) > \frac{d}{n}を仮定していたが、\prod_{p \in S}\left(1-\frac{1}{p}\right) < \frac{d}{n}であっても w=0, S_1=\emptysetとして⑤は成立する(場合分けの仮定は終了。SS_1が同時に空集合にはなり得ないことに注意)。

Nの素因数分解をN=\prod_{p \mid N}p^{e_p}と表す。このとき、

\displaystyle \prod_{p \in S\sqcup S_1}\frac{1-p^{-e_p-1}}{1-p^{-1}} \leq \frac{\sigma(N)}{N} = \frac{n}{d}

なので

\displaystyle \prod_{p \in S\sqcup S_1}\left(1-\frac{1}{p^{e_p+1}}\right) \leq \frac{n_2}{d_2}

が成り立つ。ただし、d_2:=d\Pi(S\sqcup S_1), n_2:=n\prod_{p \in S\sqcup S_1}(p-1)と定めている。⑤より \frac{n_2}{d_2} < 1なので、S_1の存在性と同様にして、\emptyset \neq S_2 \subset S\sqcup S_1であって

\displaystyle \prod_{p \in S_2}\left(1-\frac{1}{p^{e_p+1}}\right) \leq \frac{n_2}{d_2},\quad \prod_{p \in S_2}p^{e_p+1} \leq (4n_2)^{2^v-1}\leq (4d_2)^{2^v-1} –⑥

が成り立つようなものが存在する(v:=\#S_2 \geq 1であり、補題1を適用している)。M:=\prod_{p \in S_2}p^{e_p}, N':=\frac{N}{M}とする。このとき、(N', M)=1である。また、S':=S\sqcup S_1\setminus S_2とすれば、S'\subset \mathrm{prime}(N')であり、

v+\#S'-\#S=\#S_2+\#S'-\#S=\#S_1=w \geq 0

である。

\displaystyle \frac{\sigma(N')}{N'}=\frac{\sigma(N)}{N}\cdot \frac{M}{\sigma(M)} = \frac{n}{d}\cdot \frac{M}{\sigma(M)} = \frac{nM\prod_{p \in S_2}(p-1)}{d\prod_{p \in S_2}(p^{e_p+1}-1)}

であり、n':=nM\prod_{p \in S_2}(p-1), d':=d\prod_{p \in S_2}(p^{e_p+1}-1)とすればd\sigma(M) \mid d'である。⑥、④より

d' \leq d(4d_2)^{2^v-1} = d(4d\Pi(S\sqcup S_1) )^{2^v-1} \leq d(4d\Pi(S) )^{2^w(2^v-1)}

が成り立ち、再び④より

\displaystyle 4d'\Pi(S') \leq 4d'\Pi(S \sqcup S_1) \leq 4d(4d\Pi(S) )^{2^w(2^v-1)}(4d)^{2^w-1}\Pi(S)^{2^w}=(4d\Pi(S) )^{2^{v+w}}

を得る。 Q.E.D.

定理の証明. N_0:=N, S_0:=\emptyset, n_0:=n, d_0:=dとし、N_i, S_i, n_i, d_iが定まっているときに、N_{i+1}, S_{i+1}, n_{i+1}, d_{i+1}を補題2において

N\mapsto N_i, \ S\mapsto S_i, \ n\mapsto n_i, \ d\mapsto d_i, \ N' \mapsto N_{i+1}, \ S' \mapsto S_{i+1}, \ n' \mapsto n_{i+1}, \ d' \mapsto d_{i+1}

となるように帰納的に定める。また、M \mapsto M_{i+1}, v\mapsto v_{i+1}, w \mapsto w_{i+1}とする。N_i=N_{i+1}M_{i+1}である。補題2(i)より1 \leq s \leq kが存在してN_s=1が成り立ち、N=M_1M_2\cdots M_sがわかる。補題2(iii)より

d_0\sigma(M_1) \mid d_1, \ d_1\sigma(M_2) \mid d_2, \dots, d_{s-1}\sigma(M_s) \mid d_s

なので、組み合わせると

N \leq \sigma(N)=\sigma(M_1)\cdots \sigma(M_s) \mid d_s –⑦

が従う。また、補題2(iv)より 0 \leq i \leq s-1に対して

\displaystyle 4d_{i+1}\Pi(S_{i+1}) \leq \left(4d_i\Pi(S_i)\right)^{2^{v_{i+1}+w_{i+1}}}

なので、\Sigma:=\sum_{i=1}^s(v_i+w_i)とすれば

\displaystyle 4d_s\Pi(S_s) \leq \left(4d_0\Pi(S_0)\right)^{2^{\Sigma}}

を得る。S_0=S_s=\emptysetなので、⑦と合わせて

N \leq d_s < 4d_s \leq (4d)^{2^{\Sigma}}

が得られた。v_i=\omega(M_i)であり、各M_i達は互いに素なので、\sum_{i=1}^sv_i=\omega(N) \leq kである。また、w_i=v_i+\#S_i-\#S_{i-1}なので、

\displaystyle \sum_{i=1}^sw_i=\sum_{i=1}^sv_i+\sum_{i=1}^{s}\#S_i-\sum_{i=1}^{s-1}\#S_i=\sum_{i=1}^sv_i=\omega(N) \leq k

である。よって、\Sigma \leq 2kであり、証明が完了する。 Q.E.D.

*1:\prod_{i=1}^r\left(1-\frac{1}{n_i}\right) \geq 1-\sum_{i=1}^r\frac{1}{n_i}は例えば帰納法で簡明に示すことができる。

*2:約数総和関数の公式からわかる。