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数、特に整数に関する記事。

フルシュテンベルグさんアーベル賞受賞!

フルシュテンベルグ(Furstenberg)さんがアーベル賞を受賞されました。

マルグリス(Margulis)さんと共同受賞とのことです。私はマルグリスさんの仕事については殆ど何も知らない(Dの時代に隣の席の人がマルグリスさん関係の仕事で博士号を取ったことぐらいしか知らない)ですが、フルシュテンベルグさんの仕事については研究上の興味を持っています。

いつかそれについてどこかで語れたらいいなあと思うのですが、フルシュテンベルグさんと言えば学部生時代に素数の無限性の面白い証明を発見したことでも有名で、それについての記事を昔書いていたのですが私自身が非公開化してしまっています。

そこで、今回のアーベル賞受賞を記念して、該当箇所だけ記事を一時的に復元して公開します:

昔の記事の一部の修正版

Xを集合、\mathcal{O}Xの部分集合族とする。(X, \mathcal{O})位相空間であるとは次の三条件を満たすときにいう。

  1. \emptyset, X \in \mathcal{O}
  2. O_1, O_2 \in \mathcal{O} \Longrightarrow O_1 \cap O_2 \in \mathcal{O}
  3. \displaystyle O_{\lambda} \in \mathcal{O} \ ({}^{\forall}\lambda \in \Lambda) \Longrightarrow \bigcup_{\lambda \in \Lambda} O_{\lambda} \in \mathcal{O}

\mathcal{O}は元の合併をとるという操作に関しては無限に合併をとっても閉じていますが、元の共通部分をとるという操作に関しては有限個の共通部分に対してしか閉じることが保証されていない点に注意します。

\mathcal{O}が上記三条件を満たすとき、「X\mathcal{O}で位相を入れる」などと表現します。\mathcal{O}のことをXの開集合系とも言います。また、(文脈上、面倒なとき、あるいは大抵の場合) \mathcal{O}を省略して「X位相空間である」といったりします。

\mathcal{O}の元のことを開集合といい、Xに関する補集合が開集合となるようなXの部分集合のことを閉集合といいます。X閉集合全体(閉集合)を\mathcal{V}と表すと、定義より次の三条件が満たされます。

  1. \emptyset, X \in \mathcal{V}
  2. V_1, V_2 \in \mathcal{V} \Longrightarrow V_1 \cup V_2 \in \mathcal{V}
  3. \displaystyle V_{\lambda} \in \mathcal{V} \ ({}^{\forall}\lambda \in \Lambda) \Longrightarrow \bigcap_{\lambda \in \Lambda} V_{\lambda} \in \mathcal{V}

\mathcal{V}は元の共通部分をとるという操作に関しては無限に共通部分をとっても閉じていますが、元の合併をとるという操作に関しては有限個の合併に対してしか閉じることが保証されていない点に注意します。

位相を使った素数の無限性証明

私が最も美しいと感じた素数の無限性証明を紹介します。これはSzemerédiの定理のエルゴード理論的な証明を与えたことでも有名なFurstenbergが学部生のとき(1955年)に提出した証明です。

Furstenbergによる素数の無限性証明

0でない整数aおよび一般の整数bに対して、

C_{a,b} := a\mathbb{Z}+b := \{ an+b \mid n \in \mathbb{Z}\}

C_{a,b}を定義する。また、C_a:=C_{a, 0}と略記する。

開集合系\mathcal{O}を「C_{a, b}の形をした集合の合併集合全体(\emptyset含む)」と定義し、整数全体のなす集合\mathbb{Z}\mathcal{O}で位相を入れる*1。実際に開集合系の三条件を満たすことを確認しよう:

\mathbb{Z}=C_1に注意すれば、一つ目と三つ目の条件は明らか。

k \in C_{a,b} \longrightarrow k \equiv b \pmod{a} \longrightarrow C_{a,b}=C_{a,k}

に注意することにより、

O \in \mathcal{O} \Longleftrightarrow {}^{\forall}k \in O \  に対して \ {}^{\exists}a \neq 0 \ \text{s.t.} \ C_{a,k} \subset O

が成り立つ。よって、O_1, O_2 \in \mathcal{O}のとき、任意のk \in O_1 \cap O_2に対してC_{a_1, k} \subset O_1, C_{a_2, k} \subset O_2なるa_1, a_2が存在するので、C_{a_1a_2, k} \subset C_{a_1, k} \cap C_{a_2, k} \subset O_1 \cap O_2となって、O_1 \cap O_2 \in \mathcal{O}が分かる。

この位相は次のような二つの特徴をもつ:

1. C_{a,b}閉集合でもある*2

C_{a,b}に対し、\{b+j \mid j=0, \dots, a-1\}\bmod{a}の完全代表系をなすので、

\displaystyle C_{a,b} = \mathbb{Z} \setminus \bigcup_{j=1}^{a-1}C_{a,b+j}

が成り立ち、C_{a,b}閉集合であることがわかる。

2. \emptysetを除く任意の開集合は無限集合である。

これは開集合の定義より自明。

以上で準備は整った。\pm 1とは異なる任意の整数は素因数をもつため*3

\displaystyle \mathbb{Z} \setminus \{ \pm 1 \} = \bigcup_pC_p

が成り立つ。ここで、合併集合は全ての素数pを走る。

2. より、有限集合の補集合である左辺は閉集合ではない。

一方、1. よりC_p閉集合なので、右辺は閉集合の合併集合となっている。

閉集合の合併集合が閉集合でない状況は無限の合併をとっている場合にしか起き得ない。

すなわち、素数は無数に存在せざるを得ない。 Q.E.D.

実に見事な位相の応用!

*1:要は\{C_{a,b}\}が開基をなす。

*2:俗に"clopen"と言う。

*3:0は任意の素数を素因数にもつとみなす。