インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

Q&ABC (その4)

せきゅーん: 例えば、c > 2が平方無縁(square-free)な場合は必ず(4)が成り立つ。x以下の平方無縁な正整数全体のなす集合を\mathcal{Q}(x)で表せば

\displaystyle \lim_{x\to \infty}\frac{\mathcal{Q}(x)}{x}=\frac{6}{\pi^2}

だ。証明が気になればここを見ればいい。


ラムネ: でも、それは自明な場合だし、6/\pi^20.6よりちょっと大きいぐらいで、40%近くは非自明な場合が残っているじゃないか。それでは全く納得がいかない。


せきゅーん: では、何が言えればいい?


ラムネ: もし成り立つのであれば、ABC-hitを与えるようなABCトリプルの密度が0であることが言えたらいいな。そのようなABCトリプルのことを加藤先生は「例外的ABCトリプル」と呼んで

ABC予想とは、この例外的ABCトリプルが「とても少ない」という状況を、数学的に定式化することによって立てられた予想です。


と述べておられる。「とても少ないという状況の数学的定式化」をABC予想は「(1+\varepsilon)乗した上での有限性」で実行しているわけだよね。でもさ、「とても少ないという状況の数学的定式化」には「有限性」しかあり得ないわけではないだろうし、「密度が0」だったら十分「とても少ないという状況の数学的定式化」には成功しているんじゃないの?むしろ\varepsilonなんて持ち出さずにABC予想を定式化できるのでは?


せきゅーん: それはかなり筋がいい考え方に聞こえる。つまり、

\displaystyle \mathrm{rad}(abc) < c

が成り立つようなABCトリプルの密度は0という形でもABC予想-likeな予想は定式化できるんじゃないか、それが言えれば十分不思議なんじゃないかってことだな。


ラムネ: うん。


せきゅーん: 実は昔それについては考えたり調べたことがある。さっきの平方無縁の場合と同じように例外的ABCトリプルに分解できないようなcを主役に見た密度が0だということが証明できるらしい。実際、この論文の定理4ではもっと強いことが主張されている。ただ、引用している文献を見ると宣言しかしていなくて証明は書いてなかった。

でも、別の密度の測り方だったら割と簡単に例外的なABCトリプルの密度が0であることを証明できる。その議論だけでも数値データだけよりは例外的である事を納得できるようになるし、一方でその現象はABC予想ほど深くないこともわかる。


ラムネ: 証明が書いてないというのはもどかしいな。でも、その別の測り方による密度0の議論はとても気になる。


せきゅーん: 次のことが簡単に証明できるんだ。

\displaystyle \lim_{x\to\infty}\frac{\#\{(a,b) \mid a,b \leq x, (a,b)=1, \mathrm{rad}(ab) \leq x\}}{\#\{(a,b) \mid a, b \leq x, (a,b)=1\}}=0. \tag{5}


ラムネ: a,bは正整数で考えていて、(a,b)=1っていうのはabが互いに素を意味するんだね。えーっと、この式の意味するところは大雑把に見て「互いに素なx以下の2つの正整数のペアが与えられたときに、殆どの場合は不等式 \mathrm{rad}(ab) \leq x が成立しない」ということだね。


せきゅーん: cが与えられてc=a+bと分解するんじゃなくて、互いに素な(a,b)を持ってきたときに「(a,b,a+b)は例外的ABCトリプルですか?」と問いかけるわけだ。それで、実は殆どの場合 \mathrm{rad}(ab) > x が成り立ってしまっていて、このときは

\displaystyle c=a+b \leq 2x < 2\mathrm{rad}(ab)\leq \mathrm{rad}(abc)

が成り立つ。つまり、(a,b,c)(4)を満たす。


(5)ではABC-hitの不等式そのものではなくて、\mathrm{rad}(ab) \leq xを満たすものが少ないということまで言えていて、そこから例外的ABCトリプルがもっと少ないということが上の議論から従う。つまり、a+b=cという加法構造を相手にするまでもなく密度0がより単純な理由で保障できてしまうということなんだ。

今から証明を見るけれど、根基をとった結果が与えられた(平方無縁な)正整数になるようなものの個数はとても少ないということしか使わないし、それは素因数分解の一意性から単純なオイラー積の議論で言えてしまう。


ラムネ: 早速、具体的に証明を見たい。


せきゅーん: 具体的には次の補題を示す: 任意の\delta > 0に対してc_{\delta}>0が存在して、勝手に選んだ正整数r,xに対して

\mathrm{rad}(a)=r, \qquad a\leq x

を満たすような正整数aの個数は高々c_{\delta}x^{\delta}個である。


ラムネ: ふむ。さっき言ってくれたことを数式で表現しましたという感じになっている。「とても少ない」というのはオーダーをx^{o(1)}にできるという意味だったんだな。


せきゅーん: r1より大きい平方因子を持つ場合は解は存在しないから自明に成り立つ。よって、以下はrは平方無縁としよう。このとき、a\leq xという条件抜きに、

\displaystyle \sum_{\substack{a\in \mathbb{Z}_{ > 0} \\ \mathrm{rad}(a)=r}}\frac{1}{a^{\delta}}=\prod_{p\mid r}\left(\frac{1}{p^{\delta}}+\frac{1}{p^{2\delta}}+\frac{1}{p^{3\delta}}+\cdots\right)=\prod_{p\mid r}\frac{p^{-\delta}}{1-p^{-\delta}}

が成り立つ。


ラムネ: p\mid rrの素因数pをわたるという意味だね。これがさっき言っていたオイラー積の議論だ。


せきゅーん: これによって、評価したい個数について

\displaystyle \sum_{\substack{a\leq x \\ \mathrm{rad}(a)=r}}1\leq \sum_{\substack{a\leq x \\ \mathrm{rad}(a)=r}}\left(\frac{x}{a}\right)^{\delta}\leq x^{\delta}\sum_{\substack{a\in \mathbb{Z}_{ > 0} \\ \mathrm{rad}(a)=r}}\frac{1}{a^{\delta}}=x^{\delta}\prod_{p\mid r}\frac{p^{-\delta}}{1-p^{-\delta}}

を得る。\frac{p^{-\delta}}{1-p^{-\delta}} \leq 1p > 2^{\frac{1}{\delta}}が同値なので、

\displaystyle c_{\delta}:=\prod_{p\leq 2^{\frac{1}{\delta}}}\frac{p^{-\delta}}{1-p^{-\delta}}

とおけば、

\displaystyle \sum_{\substack{a\leq x \\ \mathrm{rad}(a)=r}}1\leq c_{\delta}x^{\delta}

となって補題の証明が完了する。


ラムネ: 完了した。


せきゅーん: これから

\#\{(a,b) \mid a,b \leq x, (a,b)=1, \mathrm{rad}(ab) \leq x\}

をカウンティングしたい。そのために、r_1r_2\leq xとなるような正整数の組(r_1,r_2)を考える。先にこのような組の個数をカウントしよう。

r_1\leq e^i,\quad r_2\leq e^j,\quad r_1r_2\leq e^{i+j}\leq x

と非負整数の組(i,j)を経由してカウントすることにする。i+j\leq \log xを満たすような(i,j)の個数は大雑把に見積もって(\log x)^2個以下だ。xはそれなりに大きいと考えて議論してよいことに一応注意しておく。

そのような(i,j)を固定したときには r_1\leq e^iを満たすr_1は高々e^i個、r_2\leq e^jを満たすr_2は高々e^j個。つまり、組(r_1,r_2)の個数は高々e^ie^j=e^{i+j}\leq x個。こうして、r_1r_2\leq xとなるような(r_1,r_2)は高々x(\log x)^2個であることがわかった。


ラムネ: 「高々X個」って表現、Xが整数じゃないときにも使うよね。


せきゅーん: それを認めてくれた方が便利だ。さて、r_1r_2\leq xとなるような正整数の組(r_1,r_2)を1組とって固定する。\mathrm{rad}(ab)\leq xなる互いに素な(a,b)をカウンティングしたいわけだけど、今の場合 \mathrm{rad}(ab)= \mathrm{rad}(a)\mathrm{rad}(b)だから、\mathrm{rad}(a)=r_1, \mathrm{rad}(b)=r_2となるような(a,b)をカウントする。


ラムネ: その後、(r_1,r_2)を動かせばいいんだね。


せきゅーん: ここで、さっきの補題が活躍する。十分小さい \delta > 0を任意にとろう。このとき、\mathrm{rad}(a)=r_1, \mathrm{rad}(b)=r_2となるような a,bはそれぞれ高々 c_{\delta}x^{\delta}個しかない。よって、組(a,b)は高々 c_{\delta}^2x^{2\delta}個だ。


ラムネ: そうして、(r_1,r_2)を動かせば

\#\{(a,b) \mid a,b \leq x, (a,b)=1, \mathrm{rad}(ab) \leq x\} \leq c_{\delta}^2x^{1+2\delta}(\log x)^2

が示されたことになる。


せきゅーん: 途中ガバガバに評価しているように見えた箇所があるかもしれないが、重要なのはオーダーの把握だ。\deltaは任意なんだから、任意の\varepsilon > 0に対して x \to \infty

\#\{(a,b) \mid a,b \leq x, (a,b)=1, \mathrm{rad}(ab) \leq x\} = O(x^{1+\varepsilon})

が成り立つ。一方、

\displaystyle \#\{(a,b) \mid a, b \leq x, (a,b)=1\}=1+2\sum_{k=2}^n\varphi(k)=\frac{6}{\pi^2}x^2+O(x\log x)

だ。


ラムネ: \varphi(k)オイラーのトーシェント関数だね。それをメビウス関数の和で表して二重和を計算すればやはり標準的に示せる。平方無縁になる確率も互いに素なペアになる確率も共に6/\pi^2になるの面白いね。


せきゅーん: 今まで密度と言っていたのにここにきて確率という言葉が出てきたから1つ記事を紹介しておこう。

ここでは6/\pi^2という数値は重要ではなくて、オーダーだけが重要だ。オーダーを見れば既に(5)の証明が完了している。


ラムネ: めでたしめでたし。例外的ABCトリプルはある意味では確かに例外的であった。