インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

Q&ABC (おまけ)

せきゅーん: やあ、久しぶり。


ラムネ: この間、ABC予想から非ヴィーフェリッヒ素数の無限性を導出するシルヴァーマンとは別の方法があると言っていたよね。今日はそれを教えて欲しい。


せきゅーん: 了解。その方法は「Mollin-Walsh予想」と関係している。予想の主張は「3連続するパワフル数は存在しない」というものだ。未解決問題である。


ラムネ: へえ。パワフル数というのは素因数分解したときの指数が全て2以上となるような自然数だね。パワフル数 - INTEGERS


せきゅーん: シルヴァーマン(1988年)よりも前の1986年にグランヴィルが


Mollin-Walsh予想 \Longrightarrow 非ヴィーフェリッヒ素数の無限性


を証明している。


ラムネ: そんな仕事があるんだね。ABC予想に限らず他のどんな予想から導出されるかを考えるのも確かに興味深い。


せきゅーん: 簡単なところでいくと


メルセンヌ素数の無限性 \Longrightarrow 非ヴィーフェリッヒ素数の無限性


が言えたりもする。先にこちらを見てみよう。1つ補題を証明したい。正整数mと奇素数pが条件

2^m\equiv 1\pmod{p},\quad 2^{p-1}\equiv 1 \pmod{p^2}

を満たすならば

2^m\equiv 1 \pmod{p^2}

が成り立つ。これはヴィーフェリッヒ素数の基本性質と言える。


ラムネ: それは証明できそうだからやってみていい?とりあえずgmp-1の最大公約数g:=(m,p-1)とおくと、ベズーの等式によって 2^g\equiv 1 \pmod{p} なので、2^g=1+apと整数aを用いて表示できる。これを利用すれば

2^{p-1}=(2^g)^{\frac{p-1}{g}}=(1+ap)^{\frac{p-1}{g}}\equiv 1+a\cdot\frac{p-1}{g}\cdot p\pmod{p^2}

が得られるので、2^{p-1}\equiv 1 \pmod{p^2}となるためには p\mid a でなければならないことが判明する。すると、2^g\equiv 1\pmod{p^2}が帰結されるので、特に 2^m\equiv 1 \pmod{p^2} が成り立つ。


せきゅーん: あれベズーの等式っていうんだ。

さて、pメルセンヌ素数とする。すると、ある素数lが存在してp=2^l-1と書ける。


ラムネ: メルセンヌ素数の定義そのものだね。


せきゅーん: このpが非ヴィーフェリッヒ素数であることを示したい。もし、ヴィーフェリッヒ素数であれば、2^{p-1}\equiv 1 \pmod{p^2}が成り立つので、先ほど示した補題によって 2^l\equiv 1 \pmod{p^2}となってしまう。それは pp^2 で割り切れると言っていてあり得ない。


ラムネ: なるほど〜。メルセンヌ素数は必ず非ヴィーフェリッヒ素数なんだね。でも、実際は殆どの非ヴィーフェリッヒ素数がメルセンヌ素数ではないだろうから、メルセンヌ素数の無限性なんていう超絶ゲキムズ未解決問題を使わずに導出できた方が嬉しいね。


せきゅーん: そうだね。それでは次にグランヴィルの定理を示そう。つまり、Mollin-Walsh予想から非ヴィーフェリッヒ素数の無限性を証明しよう。

非ヴィーフェリッヒ素数が有限個しか存在しなかったと仮定し、最大の非ヴィーフェリッヒ素数をp_0とおく。すると、p > p_0なる素数pは全てヴィーフェリッヒ素数だ。うへー、想像するだけでヤバすぎる世界だ。


ラムネ: うへー。


せきゅーん: そして、全てのp_0以下の素数を掛けた整数をtとおく。このtに対して整数A

\displaystyle A:=2^{t\varphi(t)}

と定義する。ここで、\varphi(t)オイラーのトーシェント関数だ。


ラムネ: もし存在したとするとAは破茶滅茶にでかいね。


せきゅーん: この破茶滅茶にでかい整数Aについて、著しい性質が成り立つ。それは、

全ての正整数nに対して A^n-1 はパワフル数である。

という性質だ。A^n-1の全ての素因数pについてその指数が2以上、すなわち

\displaystyle A^n\equiv 1\pmod{p^2}

であることを示せばよい。A^n-1は奇数だから、pは奇素数だ。まず、p \leq p_0の場合を考えよう。このとき、tの定義とトーシェント関数の乗法性から p(p-1)\mid t\varphi(t)が成り立つ。よって、オイラーの定理から 2^{p(p-1)}\equiv 1\pmod{p^2}なので、Aの定義から A\equiv 1\pmod{p^2}が成り立つ。特に、A^n\equiv 1\pmod{p^2}だ。

次に p > p_0の場合を考えよう。このとき pはヴィーフェリッヒ素数なので 2^{p-1}\equiv 1\pmod{p^2}が成り立つ。更に、pA^n-1の素因数であるという仮定から 2^{nt\varphi(t)}\equiv 1\pmod{p}が成り立つ。よって、先ほどの補題から

A^n=2^{nt\varphi(t)}\equiv 1\pmod{p^2}

と所望の合同式が得られる。これで、A^n-1がパワフル数であることが証明された。


ラムネ: Aがうまく構成されているなあ。


せきゅーん: Mollin-Walsh予想が正しいと仮定しよう。今示した定理から特にA-1A^2-1=(A-1)(A+1)がパワフル数である。A-1A+1の最大公約数は1または2であるが、Aが偶数なのでA-1A+1は互いに素であることがわかる。よって、A+1もパワフル数でなければならない。また、自明にAはパワフル数である。こうして、

A-1,\quad A, \quad A+1

と3連続パワフル数が得られてMollin-Walsh予想に矛盾する。すなわち、非ヴィーフェリッヒ素数は無数に存在しなければならない。


ラムネ: 証明された!素晴らしい!!

ところで、これとABC予想が何か関係してくるの?


せきゅーん: もし、

ABC予想 \Longrightarrow Mollin-Walsh予想


が言えればグランヴィルの定理と合わせてシルヴァーマンの定理の別証明が得られることになる。


ABC予想 \Longrightarrow Mollin-Walsh予想 \Longrightarrow 非ヴィーフェリッヒ素数の無限性


という流れだ。これについてはシルヴァーマン自身が言及しており、「ABC予想 \Longrightarrow Mollin-Walsh予想」が言えるかは知られていないということだ。


ラムネ: じゃあダメじゃん。


せきゅーん: ところがだ。実は次のような論理の流れなら実現できる。


ABC予想 \Longrightarrow 弱いMollin-Walsh予想 \Longrightarrow 非ヴィーフェリッヒ素数の無限性


ラムネ: 弱いMollin-Walsh予想?


せきゅーん: 3連続するパワフル数が一切存在しないことを主張するのがMollin-Walsh予想であったが、弱いMollin-Walsh予想は「3連続するパワフル数の組は高々有限個しか存在しない」ことを主張する予想だ。まず、


弱いMollin-Walsh予想 \Longrightarrow 非ヴィーフェリッヒ素数の無限性


を証明しよう。これは簡単で、グランヴィルの証明を完全に真似た上で、A^n-1, A^{2n}-1=(A^n-1)(A^n+1)がパワフル数でA^n-1A^n+1は互いに素だからA^n+1もパワフル数、従って

A^n-1,\quad A^n, \quad A^n+1

は3連続パワフル数となる。nは何でもよいので3連続パワフル数の組は無数に存在することとなり、弱いMollin-Walsh予想に矛盾するという寸法だ。


ラムネ: 確かに。Mollin-Walsh予想は弱い版だけで十分だね。


せきゅーん: そして、弱いMollin-Walsh予想だったらABC予想から導出できる。a\geq 2に対する(a-1,a,a+1)を3連続パワフル数と仮定する。このとき、(1,a^2-1,a^2)というABCトリプルを作ることができる。

ラムネ: a=1ではないからa^2-1は正整数だし、互いに素の仮定は明らかに成り立っているね。


せきゅーん: \mathrm{rad}(1\cdot (a^2-1)\cdot a^2)を計算しよう。一般にパワフル数mに対して\mathrm{rad}(m)\leq \sqrt{m}が成り立つこと、(a^2-1)aがパワフル数であることに注意すれば

\displaystyle \mathrm{rad}(1\cdot (a^2-1)\cdot a^2)=\mathrm{rad}( (a^2-1)a)\leq \sqrt{(a^2-1)a} < a^{\frac{3}{2}}

が成り立つので、

\mathrm{rad}(1\cdot (a^2-1)\cdot a^2)^{1+\varepsilon} < a^{\frac{3}{2}(1+\varepsilon)} \leq a^2

\varepsilon \leq 1/3の場合に成立する。つまり、例えば\varepsilon=1/3に対するABC予想を適用すれば、このようなaは高々有限個しか存在しないため、3連続パワフル数の組は有限個しか存在せず、弱いMollin-Walsh予想が成立することになる。


ラムネ: これで、ABC予想から非ヴィーフェリッヒ素数の無限性が証明された。


せきゅーん: ただ、シルヴァーマンの方法は個数評価まで与えている点は忘れてはならない。