インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

数をパワフル数の差で表す(前半は素数ものさし予想の話)

パワフル数に関する記事第二弾です。一つ目は↓
integers.hatenablog.com

関係ない話

突然ですが、皆さんは趣味はありますか?

私はたくさんあるのですが、とりあえず二つ紹介します。

  • このブログの執筆
  • 素数ものさしを人に贈呈すること


はい。趣味とか言っていながら昨日「連続ブログ執筆記録」が初めて途絶えてしまいました。。。。

ショーック!!


それはさておき、私は京都大学に売っている「素数ものさし」を人にプレゼントすることが趣味です。
今まで幾人にもプレゼントしてきました。

素数ものさしは素数cmおよび素数mmのみ、目盛りが書かれている定規で、値段も素数(577円)という徹底ぶり→京大グッズ - 【B25】素数ものさし


ところで最近気づいたのですが、京都大学のオリジナルグッズの中に通常の定規も用意されているのです!
その値段は210円と素数ものさしよりもお手頃価格!!

しかも素数以外のインテジャーズも書いてあって色々な数に出会える!!

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右が素数ものさしで左が通常の定規です。どちらもデザインはかっこよいです!


さてさて、素数ものさしの推奨される使い方として、書いていない目盛りを素数を組み合わせて測るというものがあります。昨今の日本の小学生は素数ものさしを用いて、早くも加法的整数論の感覚を研ぎ澄ますのです。

ここで、想像力を逞しくして、無限に長い素数ものさしがあったと仮定しましょう。即座に次のような疑問が生じます:

Question 任意の(正の)偶数cmは無限素数ものさしを用いて一発で測れるか?

答はYesだと思われいて、俗に素数ものさし予想と呼ばれています。別の言い方をすれば、「任意の正の偶数は二つの素数の差として表すことができるか?」となりますが*1、実際にはもっともっと強い主張の成立を期待できます:

予想 rを任意に与えられた正の偶数とする。このとき、rを二つの連続する素数の差として表す表し方が無数に存在する。

なお、r=2の場合が所謂ふたご素数予想です。何度も言いますが、私は「ふたご素数」ではなく、「素数ふたご」という名称を推奨しています。

数をパワフル数の差で表すことに関するGolombの考察

パワフル数という言葉はGolombによって1970年に導入されたのでしたが、その論文において「与えられた自然数を二つのパワフル数の差として表す」ということを考察しています。素数ものさし予想は「与えられた偶数を二つの素数の差として表す」ことを考察したものであったのに対して、「素数」ではなく「パワフル数」ヴァージョンを考えようというものです。ちなみに「パワフル数ものさし」はまだ売っていないと思われます。

パワフル数全体のなす集合を\mathbf{P}と表すことにしましょう。\mathbf{P}が積閉集合であることはパワフル数の定義から即座にわかります*2。一つ目の記事において「連続するパワフル数の無限性」を証明したため、「1をパワフル数の差として表す表し方は無数に存在する」ことがわかります。一方、\mathbf{P}が積閉であることから、

1=a-b \ \ (a, b \in \mathbf{P})

という状況のとき、c \in \mathbf{P}をとれば

\displaystyle c=ca-cb

cのパワフル数の差としての表現を与えていることがわかります。まとめると次のようになります:

任意のパワフル数に対して、その数を二つのパワフル数の差として表す表し方は無数に存在する。

次に、パワフル数以外の数に対して「少なくとも一通りはパワフル数の差として表現できる」場合を考察しましょう。

\displaystyle 2n+1=(n+1)^2-n^2 ―①

という式によって、任意の3以上の奇数は平方数の差として表せることがわかります。これと\mathbf{P}が積閉集合であることを合わせると、表現できるかが非自明なのは単偶数*3のときのみであることが分かります。

Golombは54以下の単偶数について二つのパワフル数の差として表現できるかを調査しています:

\begin{equation}\begin{split} 2&=3^3-5^2 \\ 6&=? \\ 19&=13^3-3^7 \\ 14&=? \\ 18&=19^2-7^3 \\ 22&=7^2-3^3 \\ 26&=7^2\cdot 3^5-109^2 \\ 30&=83^2-19^3 \\ 34&=? \\ 38&=37^2-11^3 \\ 42&=? \\ 46&=17^2-3^5 \\ 50&=5^2(3^3-5^2) \\ 54 &= 3^4-3^3\end{split}\end{equation}

Golombは次のように予想しています:

予想 (Golomb) 6は二つのパワフル数の差としては表せないであろう。それどころか、二つのパワフル数の差として表せない整数は無数に存在するであろう。




\displaystyle 6=5^4\cdot 7^3-463^2



互いに素な場合のみを考える。

Golombは単に二つのパワフル数の差で表すだけではなく、「二つの互いに素なパワフル数で表す」という縛りプレイも考えています。こうなると、\mathbf{P}が積閉であるということはうまく効いてきません。①および

\displaystyle 8n=(2n+1)^2-(2n-1)^2

という式から、「奇数および8の倍数は二つの互いに素なパワフル数で表す表し方が少なくとも一つは存在する」ことがわかります。単偶数の場合は、先ほどの例においては54および?となっているもの以外は互いに素な表示になっています。

4の倍数であるが8の倍数ではないという数に関しても12=47^2-13^2のように表示がすぐに見つかるものもあれば、20のようにGolombが表示を見つけ出せなかった数もあります。

それでも、Golombは次の事実を証明しています:

定理 1および4は二つの互いに素なパワフル数で表す表し方が無数に存在する。

証明. 1の場合は自動的に互いに素になるのでOK。4の場合を示す。a, a+4 \in \mathbf{P}のとき、\mathbf{P}が積閉集合であることからa(a+4) \in \mathbf{P}であり、また、a(a+4)+4=(a+2)^2 \in \mathbf{P}である。すなわち、(a, a+4)というパワフル数のペアから、(a(a+4), a(a+4)+4)というパワフル数のペアを生み出すことが出来る。しかも、aが奇数であればこれらは互いに素なペアを与えている。今、4=5^3-11^2という表示が実際に存在するため、4の場合の証明が完了する。 Q.E.D.

真実は?

先ほどのGolombの予想は実は間違いです。真実はこうです!!

定理 (McDaniel, 1982) 0でない任意の整数に対して、その数を二つの互いに素なパワフル数で表す表し方が無数に存在する。

McDanielはSmith数が無数に存在することを証明したあのMcDanielさんです:
integers.hatenablog.com

上記McDanielの定理の証明は別の記事で紹介します。

追記:紹介しました。
integers.hatenablog.com

*1:Goldbach予想に似ていますが、Goldbach予想を仮定すれば証明できるものではありません。

*2:パワフル数×パワフル数はパワフル数ということ。

*3:2で割れるが4で割れない整数のこと。