この記事では次の定理の証明を解説します*1:
ただし、この記事全体において乗数と言えば「自然数の
乗数」を意味するものとします。
紹介する証明ではは一般にとても大きい数となります。
として取り得る最小の整数を
とすると、
128より大きい任意の整数は相異なる平方数の和として表すことができる。 - INTEGERS
で紹介したようにです。
であることをDressler-Parkerが1974年に計算機を用いて発見・証明しており*2、今では
が分かっているようです。ちなみには素数です。
一般にを求めることは非常に難しいように思われます。
Spragueの定理の証明
いくつかのステップに分けます:
Step1
任意の自然数
証明. 条件を満たすが存在したと仮定する。このとき、
と取れる。実際、を
より大きい整数とし、
を
で割った余りを
とすると、
であり、なので、自然数
が存在して
と書ける。に対する条件より
は相異なる
乗数の和で書け、従って
も
乗数の和で書ける。このとき、条件の「ただし、」の部分から
の分解に現れる奇数の
乗数は
未満であるため、
とかぶることはない(全て
より大きい奇数)。従って、
は相異なる
乗数の和として表される。 Q.E.D.
Step2
証明. が主張2の条件を満たすと仮定する。
を任意の自然数とし、その
進数表示を
とする()。このとき、
なので、
を示せば十分。
実際、主張3が示されればの部分がそれぞれ奇数の
乗数の和なので①より
は
乗数の和になっていることが分かるが、
に現れる
乗数と
に現れる
乗数では素因数分解における
の指数が異なるため(
)、①は相異なる
乗数の和としての表示を与える。また、その得られた表示において奇数の
乗数が現れるのは
の部分だけなので、主張1の条件を満たすことが分かる。
Step3
主張3の証明. 主張2のに関する条件によって存在する
通りの「相異なる奇数の
乗数の和」としての表現をそれぞれ
とする(は全て
未満の奇数で相異なる)。このとき、
を満たす任意の整数
に対して、
は
と相異なる未満の奇数の
乗数の和として表される。 Q.E.D.
Step4
が成り立てば、主張2の条件を満たすが存在する。
証明. 個の偶数
を
個の整数
が全て相異なるように取る。そうして、に対して多項式
を
と定義する。に対して
を考える。に正の偶数を代入すると
個の奇数の
乗数の和になっていることに注意する。
の全ての取り方のケースを考えることにより
個の多項式が得られ、
の形の多項式が個現れることになる。
の取り方からこれらは全て多項式として相異なる。異なる多項式が一致するような
は高々有限個しかないため、十分大きい整数を
に代入したときに得られる
個の数は全て相異なる。そのような整数を正の偶数として取り、
とする。
このとき、を
と定義すると、恒等式②よりこれは
の取り方に依らない値であり、従って
は
通りの「
個の相異なる奇数の
乗数の和」としての表現を持ち、そこに現れる
個の
乗数は全て相異なる。 Q.E.D.
Step5
証明. 主張5の仮定が成り立つと仮定すると、②の両辺の多項式をそれぞれ展開して整理した後のの係数が全て等しいことから②の恒等式が成立することがわかる。 Q.E.D.
Step6
今までの議論ではを固定して差し支えなかったですが(Step4の
などは
毎に決まる整数)、次の主張は
に関する帰納法で証明します:
証明. のときは
と取ることができ、等式
より題意が成立することが分かる。のときに成立すると仮定しよう。すなわち、
が成り立つと仮定する()。このとき、
がで成立し、
のときに期待される性質が全て満たされていることがわかる。 Q.E.D.
証明完了
Step6によってStep5の仮定が成り立つことが確認されるので、Spragueの定理の証明は完結します。