超越数論の古典的な結果のうち、比較的大きな定理を鑑賞しましょう。ここでは証明は紹介しません。
Lindemann-Weierstrassの定理
これは、Lindemannが彼の仕事のもとで予想したものであり、Weierstrassが1885年に証明を詳述したためにこのように呼ばれています。
を「少なくとも一つが
ではない代数的数」としても主張としては同じです。
同値であることの証明.*1 Lindemann-Weierstrassの定理 言い換え1:
上ベクトル空間
の基底を
とする。このとき、
と書け、は相異なるという仮定から各ベクトル
は相異なる。背理法で証明するために
と仮定すると、
となる。であるもの全てに対して両辺を
倍することによって、任意の
について
であると仮定してよいので、これはLWの定理によって
が
上代数的独立であることに矛盾する。
言い換え1 Lindemann-Weierstrassの定理の証明:
が代数的従属であったと仮定する。つまり、
でない代数的数係数多項式
が存在して、が成り立つ。
は
上一次独立という仮定から
は各
に対して相異なるため、指数法則で
を書き直すと言い換え1に矛盾することがわかる。 Q.E.D.
これが次と同値であることは明らかです:
Lindemann-Weierstrassの定理の系
証明. もし、が代数的数であれば、言い換え1より
であり、
は言い換え1に矛盾する。 Q.E.D.
次は系1の系ですが、よくHermite-Lindemannの定理と呼ばれます。
証明. 系2において とした場合が
の超越性。
が代数的数であると仮定する。このとき、
も代数的数であり、系2より
が超越数となって矛盾する。よって、
は超越数である。 Q.E.D.
と
の超越性証明は既に解説記事を書いていますが、Lindemann-Weierstrassの定理はこれらの証明手法を精密化することにより証明されます(すなわち、本質的には同じ証明)。
integers.hatenablog.com
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Hermite-Lindemannの定理の言い換えを行いましょう。一つ目の言い換えは自明な言い換えです:
同値であることの証明. HLの定理 言い換え2:
でない代数的数
に対して
が代数的数であると仮定する。このとき、
であり、
は代数的数である。これはHLの定理に矛盾する。
言い換え2 HLの定理:
でない代数的数
に対して
が代数的数であったと仮定する。このとき、
であり、
となる対数関数の枝を取れば、これは言い換え2に矛盾する。 Q.E.D.
次の言い換え3は言い換え2の言い換えです。
と
に
や
でない代数的数を代入すると超越数であることが分かりましたが、他の馴染み深い幾つかの関数達の代数的数における値の超越性もLindemann-Weierstrassの定理からわかります。
証明. Eulerの公式、系1、LWの定理の言い換え1、2などからわかる。 Q.E.D.
Gelfond-Schneiderの定理
Hilbertの第7問題を解決したのがGelfond-Schneiderの定理です。すぐ後で見るようにが超越数であることを含む結果ですが、Hilbertが
が超越数であることを示すことはRiemann予想やFermatの最終定理を証明することよりも難しいだろうという旨の発言をしたというエピソードは有名です。ちなみに、GelfondとSchneiderは独立の仕事です。
であり、「
の枝の取り方に依らずに
は超越数となる」というのが正確な主張の意味です。
同値であることの証明. Gelfond-Schneiderの定理 言い換え1:
とすると、
である。
と
が代数的数であると仮定する。このとき、
となるような枝を取れば
であり、Gelfond-Schneiderによってこれは超越数である。
言い換え1 言い換え2:
とし、
とする。
及び
は代数的数なので、言い換え1より
は超越数である。
言い換え2 Gelfond-Schneiderの定理:
とし、
の方の
の枝を
となるように選択する。
が代数的数であると仮定する。
であり、
なので、言い換え2より
は超越数である。これは
が代数的数であるという仮定に矛盾する。よって、
は超越数である。
言い換え3は言い換え2の単なる言い換えである。 Q.E.D.
Gelfond-Schneiderの定理の系
証明. や
が無理数であることは簡単にわかるので、
の超越性はGelfond-Schneiderの定理から、
の超越性はGSの定理の言い換え2から従う。
となるような
の枝を取る。このとき、
なので、Gelfond-Schneiderの定理より は超越数である。 Q.E.D.
を使った有名なトリックがありますが、この数が実際に超越数であることがわかります。
tsujimotter.hatenablog.com
Bakerの定理
この節で紹介するBakerの定理は古典的超越数論における最重要定理です。
ここで、個ある
について任意の枝で成立し、それぞれの枝の選択が一致している必要はありません。次のように枝の選択についての記述を避けることもできます:
Bakerの定理はHermite-Lindemannの定理とGelfond-Schneiderの共通の一般化であることがわかります(cf. HLの定理の言い換え3、GSの定理の言い換え3)。
Bakerの定理の系
証明. に関する帰納法で証明する。
のときはHLの定理の言い換え2より成立する。
のときに成立すると仮定して、
の場合に証明する。
を考えて、が超越数であることを証明すればよい。もし、
が
上一次独立であれば、Bakerの定理によって
は
上一次独立であるため、
は超越数であることがわかる(背理法)。次に、
が
上一次従属であると仮定する。適当に番号を付け替えることによって、
であると仮定してよい。このとき、を
の
-線形結合で書いて、
の定義式に代入して整理すれば
となり、帰納法の仮定からこれは超越数である。 Q.E.D.
証明. が代数的数であると仮定する。このとき、
の枝を適切に取れば
が成り立つが、これは系6に矛盾する。 Q.E.D.
の場合がGelfond-Schneiderの定理となっています。
証明. を除いた
が
上一次独立であるときに
であるという主張を示せばよい。理由: この主張が証明されたとする。本来の仮定「が
上一次独立である」の元で
が代数的数であると仮定する。自明に
であり、主張より
である。このとき、
として主張の
の場合を適用すると
でなければならないが、これがとなるように
の枝を取れるので矛盾する。よって、
は超越数である。
主張は帰納法で証明する。の場合は自明。
のときに成立すると仮定して、
のときを証明する。もし、
が
上一次独立であれば、Bakerの定理によって
がわかる。
が
上一次従属なら、適当に番号を付け替えることによって、有理数
が存在して
と書けると仮定してよい。このとき、
と書ける。が
上一次独立なので
は
上一次独立であり、帰納法の仮定より
が従う。 Q.E.D.
昔の記事
に書いてあるルートの上一次独立性の結果を用いると、例えば
の超越性などがわかります。
証明. となるような枝を取ると、
となるので、系7よりこれは超越数である(
の場合はHermite-Lindemannの定理)。 Q.E.D.
証明. と書けるので、系6よりこれは超越数である。ただし、
となることはないことに注意。 Q.E.D.
*1:の証明を記述するとき、
を仮定した上で、
の主張における記号設定下で議論しているものとします。