インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

バーゼル問題の短くはないが好きな証明

バーゼル問題の証明法はたくさん知られています。当ブログではEulerの方法と高校数学のみを用いる証明を紹介しただけでした。

integers.hatenablog.com

最も短い証明の一つは

fibonacci-freak.hatenablog.com

で紹介されています。\zeta(2)\displaystyle \frac{\pi^2}{6}もともに周期なので、

integers.hatenablog.com

で紹介したKontsevich-Zagier予想の哲学に則った証明が存在するはずです。Calabiの方法は三角関数を使用していますが、次のように周期間の基本変形のみで証明を書き下すこともできます。

\displaystyle \int_0^1 \! \! \int_0^1 \frac{1}{1-xy}\frac{dxdy}{\sqrt{xy}}

を二通りで計算する。まずは、等比級数の和の公式を用いて項別積分することにより

\displaystyle \sum_{k=0}^{\infty} \int_0^1 \! \! \int_0^1x^{k-\frac{1}{2}}y^{k-\frac{1}{2}}dxdy = \sum_{k=0}^{\infty}\frac{1}{(k+\frac{1}{2})^2} = 3\zeta(2)

\zeta(2)の周期としての表示が得られるが、

\displaystyle x=s^2\frac{1+t^2}{1+s^2}, \quad y=t^2\frac{1+s^2}{1+t^2}

と変数変換すれば、Jacobianは

\displaystyle \left| \begin{smallmatrix} \frac{\partial x}{\partial s} & \frac{\partial x}{\partial t} \\ \frac{\partial y}{\partial s} & \frac{\partial y}{\partial t} \end{smallmatrix}\right| = \frac{4st(1-s^2t^2)}{(1+s^2)(1+t^2)}=\frac{4(1-xy)\sqrt{xy}}{(1+s^2)(1+t^2)}

なので、

\displaystyle \int_0^1 \! \! \int_0^1 \frac{1}{1-xy}\frac{dxdy}{\sqrt{xy}} = 4\int_{s, t > 0, \ st \leq 1}\frac{ds}{1+s^2}\frac{dt}{1+t^2}

が得られる。これを、更に s \mapsto s^{-1}, \ t \mapsto t^{-1}と変数変換したものと組み合わせることによって

\displaystyle  \int_0^1 \! \! \int_0^1 \frac{1}{1-xy}\frac{dxdy}{\sqrt{xy}} = 2\int_0^{\infty}\frac{ds}{1+s^2}\int_0^{\infty}\frac{dt}{1+t^2} = 2\times \frac{\pi}{2}\times \frac{\pi}{2} = \frac{\pi^2}{2}

と計算できる。 Q.E.D.

さて、この記事では決して短くはないけれども個人的に好きな証明を紹介したいと思います。

準備

補題1 nを正整数とする。r > 0に対し、L_n(r)を原点中心半径 rn次元球
\displaystyle \{(x_1, \dots, x_n) \in \mathbb{R}^n \mid x_1^2+\cdots +x_n^2 \leq r^2\}
に含まれる格子点*1の個数とする。また、V_n(r)を上記n次元球の体積とする。このとき、
L_n(r) \sim V_n(r), \quad r \to \infty
が成り立つ。

証明. V_n(r)r^nに比例するので(n次元球の体積 - INTEGERS)、

\displaystyle \lim_{r \to \infty}\frac{L_n(r)}{r^n} = V_n(1)

を示せばよい。また、rは正整数を動く場合を考えれば十分である。\mathbb{R}^nにおける原点中心の単位球を Uとすると、

\displaystyle L_n(r) = \# \left( U \cap \frac{1}{r}\mathbb{Z}^n\right)

が成り立つ。

\displaystyle \Box^n:=\{(x_1, \dots, x_n) \in \mathbb{R}^n \mid \left|x_i\right| \leq 1, \ 1 \leq i \leq n\}

とし、

\displaystyle \Sigma_n(r) := \sum_{(i_1, \dots, i_n) \in \Box^n \cap \frac{1}{r}\mathbb{Z}^n}\varepsilon(i_1, \dots, i_n)\frac{1}{r^n}

とする。ただし、\varepsilon(i_1, \dots, i_n)(i_1, \dots, i_n)\Box^n\frac{1}{r}\mathbb{Z}^nによって小n次元立方体に分割したブロックのうち、座標の各成分が最小な点(ブロックの角と呼ぶことにする)であって Uに属するようなものである場合は 1、その他の場合は 0と定義する。\Box^n \cap Uの点のうち、ある一つの成分が 1で他の成分が 0であるようなもの(n個ある)以外の U \cap \frac{1}{r}\mathbb{Z}^nに属する点にはその点がブロックの角になるような分割したブロックが一意的に定まるので、

\displaystyle \Sigma_n(r) = \frac{L_n(r)-n}{r^n}

が成り立つ。よって、

\displaystyle \lim_{r \to \infty}\Sigma_n(r) = \lim_{r \to \infty}\frac{L_n(r)}{r^n}

が従う。ところで、Riemann和の定義により、\boldsymbol{1}_U(x_1, \dots, x_n)U上の特性関数とすると

\displaystyle \lim_{r \to \infty}\Sigma_n(r) = \int_{\Box^n}\boldsymbol{1}_U(x_1, \dots, x_n) dx_1 \cdots dx_n

が成り立ち、これは Uの体積、すなわち V_n(1)に等しい。 Q.E.D.

補題2 \displaystyle \ \ \theta (x) := \sum_{n \leq x}n\left[\frac{x}{n}\right]とすると
\displaystyle \theta(x) = \frac{\zeta(2)}{2}x^2+O(x\log x), \ x \to \infty
が成り立つ。

証明. とりあえず

\begin{align} \theta(x) &= \sum_{n \leq x}\sum_{m=1}^{[x/n]}n = \sum_{m \leq x}\sum_{n=1}^{[x/m]}n = \frac{1}{2}\sum_{m \leq x}\left\{ \left[\frac{x}{m}\right]\left(\left[\frac{x}{m}\right]+1\right)\right\} \\ &=\frac{1}{2}\sum_{m \leq x}\left(\frac{x}{m}+O(1)\right)\left(\frac{x}{m}+O(1)\right) \\ &= \frac{1}{2}x^2\sum_{m \leq x}\frac{1}{m^2}+O\left(x\sum_{m \leq x}\frac{1}{m}\right) + O(x)\end{align}

と計算できる。よって、

\displaystyle \sum_{m \leq x}\frac{1}{m} = O(\log x), \ \sum_{m \leq x}\frac{1}{m^2} = \zeta(2)+\sum_{m > x}\frac{1}{m^2}, \ \sum_{m > x}\frac{1}{m^2} \leq \int_{x}^{\infty}\frac{dt}{t^2}=x^{-1}

に注意すれば所望の等式が得られる。 Q.E.D.

バーゼル問題の証明

n, Nを正整数とし、r_4(n)nを四つの平方数の和として表す表し方の総数とすると(ただし、平方数には 0を含める)、原点中心半径 \sqrt{N}4次元球に含まれる格子点の数は

\displaystyle L_4(\sqrt{N}) = \sum_{n=1}^Nr_4(n) + 1 −①

と数えることができる。ここで、Jacobiの四平方の定理より \displaystyle r_4(n) = 8\sum_{4\nmid d \mid n}dなので、

\displaystyle \sum_{n=1}^Nr_4(n) = 8\sum_{\substack{d=1 \\ 4 \nmid d}}^Nd\left[\frac{N}{d}\right] = 8\left( \theta(N)-4\theta\left(\frac{N}{4}\right) \right)

と書ける。よって、補題2より

\displaystyle \lim_{N \to \infty}\frac{1}{N^2}\sum_{n=1}^Nr_4(n) = 3\zeta(2)

と計算できるので、①より

\displaystyle \lim_{N \to \infty}\frac{L_4(\sqrt{N})}{N^2} =  3\zeta(2)

が得られた。一方、これは補題1より

\displaystyle V_4(1)=\frac{\pi^2}{2}

に等しい。すなわち、バーゼル問題が解決する。 Q.E.D.


バーゼル問題は「平方数」と「円周率の二乗」が結びつく公式ですが、これらが4次元球によって見事に結びつく様が大好きです。

*1:ここでは \mathbb{Z}^nの元とする。