この記事では、前記事の命題の証明を完成させます。
前記事の第四帰着を更にもう一段階帰着させます。
前記事①に現れる各アトム
帰着の確認
第五帰着の主張が成立すると仮定する。を固定し、
と略記する。仮定した不等式とCauchy-Schwarzの不等式より、任意の
に対して
が成り立つ。一方、の選び方から、任意の
に対して
である。理由: 及び
なので、
をとると
である。よって、この集合の定義と
がアトムであることより、
を一つ取って
が成り立つ。 の場合の
と合わせると、三角不等式によって、任意のに対して
が成り立つことがわかる。この不等式から、任意のに対して
が成り立つ*2。ならば
なので、
を一つ取って
であることに注意すると、
と評価できる。よって、特性関数は乗しても変わらないことと、Hölderの不等式と
の非負性から
が成り立つことがわかった。ここで、次の不等式が点毎に成り立つことに注意する:
これは、右辺の特性関数の値がのときは自明に成立し、
のときは任意の
に対して
より
であることからわかる。従って、
となって第四帰着の主張が成立する。 確認完了
の定義から目標物は次のように言い換えられます。
前記事①に現れる各アトム
帰着は以上で、証明の本質的部分へ入ります。を固定します。
証明. に対して
と略記する。次のアルゴリズムを考える:
初期化
代入
の部分空間
を
と定義する。
If
或るが存在して
then
代入
2. へ
else
停止
ここで、. 構成の仕方から
は正規直交系をなすが、3. において
を満たしている。理由: 付録で示している等式より
であり、なので
を得る。
このアルゴリズムは時間で停止する。理由: 構成より各
に対して
であるようなが存在する。内積の公理と
が
上定数であることより
であるから、の有界性とCauchy-Schwarzの不等式より
を得る(はこの時点でなくなる)。
で足し合わせると
を固定するとBesselの不等式(付録)と
の有界性より
なので、①の左辺はで上から押さえられる。従って、
が示された。
このアルゴリズムが停止した際の次元空間
を考える。アルゴリズムが停止しているということから、任意の
に対する
達は
から
-距離にして
までのところに住んでいることがわかる。このことから、
高々
ことがわかる。理由: 各に対して、最短距離定理(付録)より
なるが一意的に存在する。このとき、
である。
(
)が
を満たすと仮定する。このとき、三角不等式より
が成り立つ。また、が有界であることから
は
を満たすので、
である(についても同様)。従って、
の元達であって、どの二つを取っても-距離で
よりも遠く離れているようなものは高々
個しか選ぶことができない*3ことから主張が従う。
よって、(
の中から適当に
を選んで、これらの中からどの二つを取っても
-距離で
よりも遠く離れているが、これら以外の
については必ず
のいずれかと
以下の距離になるようにすれば(
は有限なので選べる*4 )、直前に確認した事実から
である。この
に対して補題の主張が成立している。 Q.E.D.
前記事命題の証明
とする。ここで、
は補題の
に対するバウンドで、
はvan der Waerdenの定理によって存在する整数。この
に対して補題によって存在する
をとって、色塗り写像
を
と定義する。がwell-definedであることは補題の主張からわかる。よって、van der Waerdenの定理により整数
が存在して、長さ
の等差数列
は同じ色で塗られている。すなわち、或るが存在して、任意の
に対して
が成り立つ。従って、任意のに対して
と評価でき、第五帰着(言い換え)の主張が証明された。以上で、前記事の命題の証明が完了する。 Q.E.D.
付録 Besselの不等式
証明. 内積の公理に従って計算をすると
と展開される。三つの和について最初の二つは明らかに であるが、最後の和についても
が正規直交系であることに注意すれば同じく
であることがわかる。 Q.E.D.
付録 最短距離定理
証明. とする。下限の定義より
の列
であって
が成り立つようなものが存在する。中線定理より
と計算できるが、の凸性より
なので
と評価できる。よって、の取り方から
はCauchy列をなすことがわかる。
がHilbert空間で
は閉なので、
が存在する。このとき、
が成り立つ。一意性を示すために なる
をとる。先ほどと同じ計算によって
なので、が従う。 Q.E.D.
本文ではが有限次元部分空間の場合に最短距離定理を適用します。
証明. 部分空間が凸であることは明らか。閉であることは完備性から出る(§5(その一)の付録を参照)。 Q.E.D.