最近、加法的整数論における結果を道具として用いることによって楕円曲線のrankに関する進展が幾つか得られているようだ。この記事では「どうやって加法的整数論を使うか」には踏み込まずに、どのような研究成果が公表されているかをとりあえずまとめておきたい。
数体上定義された楕円曲線のMordell−Weil群のrankについて
今回は体としては数体を考えることにする。
上定義された楕円曲線
に対して、Mordell−Weil群
の構造を調べることは基本的な研究課題である。Mordell−Weilの定理によって、
は有限生成アーベル群であるので、その構造はrank部分(
)とtorsion部分群(
)から定まる。torsion部分群については、Merelによって、
を固定したときに、
の取り得る構造は有限個であることが示されている [Me]。
の場合はMazurによって分類されている [Ma]。
が二次体の場合はKamiennyによって分類されている [K]。rankに興味を移すと、それが不思議なことに解析的rankと一致するというのが有名なBSD予想であるが、それはそれでいいとして、実際にどのようなrankを取るのかにもちろん興味がある。今回はその話である。
少し前までにわかっていたこと
の場合を考える。予想としてはほとんどの楕円曲線がrank = 0 or 1 であり、(heightを用いた)適切な数え方のもと、0と1で密度が半々だろうと予想されている。これに対して、rankが0の楕円曲線の無限性もrankが1の楕円曲線の無限性も知られているが、もっと強く、Bhargava−Shankarが「rankが0の楕円曲線の下密度が正である」ことを示し [BSh]、Bhargava−Skinnerが「rankが1の楕円曲線の下密度が正である」ことを示している [BSk]。rank 19以上の楕円曲線が無限に存在することが示されているようで、2006年にElkiesはrankが28以上である楕円曲線を構成した。そして、2024年にElkies−Klagsbrunによってrankが29以上の楕円曲線が構成されている。Park et al.によるヒューリスティックはrankが21より大きい楕円曲線は有限個だろう(従って、rankはいくらでも大きくなることもない)と述べている [PPV+]。「rankが〜以上」の楕円曲線の無限性は示せるが、2以上の「特定のrankを持つ」楕円曲線の無限性は示すのが難しかったらしい。
一般の数体の場合は、Mazur−Rubinが「任意の数体
に対して、rankが0の
上定義された楕円曲線が存在する」ことを2010年に示した [MR]。
加法的整数論の結果
有名なGreen−Taoの定理は「任意の長さの素数の等差数列が存在する」という定理であった [GT1]。この定理の種々の拡張が得られているが、それらが楕円曲線の研究に応用できるらしい。最近実際に使われた結果を紹介しておく。まず、Green−Taoの定理における「等差数列」を「多項式列」に拡張したものがTao−Zieglerの定理である [TZ]。また別の一般化にGreen−Tao−Zieglerの定理がある。例えば、長さ4の素数等差数列の存在は4つの2変数線形形式 ,
,
,
が全て同時に素数となるような非自明な
の存在に言い換えることができるが、Green−Tao−Zieglerの定理はもっと一般のアフィン線形形式系にGreen−Taoの定理を拡張している([GT2]他あと2つの論文)(素数等差数列に限っても、Green−Taoの定理のときの技術ではChebyshevの定理に類似した定量評価しか得られていなかったが、Green−Tao−Zieglerの定理では素数定理レベルの定量評価が得られている)。
Green−Taoの定理の版を示したのがTaoの論文[T]であり、一般の数体版を示したのがKai et al.である [KMM+]。KaiはGreen−Tao−Zieglerの定理の一般の数体版を示した [Kai]。
最近わかったとされていること
Zywinaがrankが2の上定義された楕円曲線の無限性を証明した [Z1]。なお、
上で同型でないものが無限個存在することまで示されている。加法的整数論の道具はTao−Zieglerの定理。
Savoieがrankが2の上定義された楕円曲線の無限性を証明した [S]。なお、
不変量は全て1728なので、
上では同じ同型類に属する。加法的整数論の道具はTaoのGauss素数星座定理。ただし、厳密にはそのSzémeredi版を用いており、Taoの論文に言及はあるものの、証明は省略されている。証明は拙著ないし、[KMM+]に書かれている。
ZywinaおよびKoymans−Paganoが独立に「任意の数体に対して、rankが1の
上定義された楕円曲線が無限に存在する」ことを証明した [Z2], [KP]。加法的整数論の道具はともにKaiの定理。
今後も同様の進展が続くかどうか興味深い。
参考文献
[BSh] M. Bhargava, A. Shankar, Ternary cubic forms having bounded invariants, and the existence of a positive proportion of elliptic curves having rank 0, Ann. of Math. 181 (2015), 587–621.
[BSk] M. Bhargava, C. Skinner, A positive proportion of elliptic curves over have rank one, J. Ramanujan Math. Soc. 29 (2014), 221–242.
[GT1] B. Green, T. Tao, The primes contain arbitrarily long arithmetic progressions, Ann. of Math. 167 (2008), 481–547.
[GT2] B. Green, T. Tao, Linear equations in primes, Ann. of Math. 171 (2010), 1753–1850.
[Kai] W. Kai, Linear patterns of prime elements in number fields, arXiv:2306.16983
[KMM+] W. Kai, M. Mimura, A. Munemasa, S. Seki, K. Yoshino, Constellations in prime elements of number fields, arXiv:2012.15669
[Kam] S. Kamienny, Torsion points on elliptic curves and -coefficients of modular forms, Invent. Math. 109 (1992), 221–229.
[KP] P. Koymans, C. Pagano, Elliptic curves of rank one over number fields, arXiv:2505.16910
[Ma] B. Mazur, Modular curves and the Eisenstein ideal, Publ. Math. Inst. Hautes Études Sci. 47 (1977), 33–186.
[MR] B. Mazur, K. Rubin, Ranks of twists of elliptic curves and Hilbert’s tenth problem, Invent. Math. 181 (2010), 541–575.
[Me] L. Merel, Bornes pour la torsion des courbes elliptiques sur les corps de nombres, Invent. Math. 124 (1996), 437–450.
[PPV+] J. Park, B. Poonen, J. Voight, M. M. Wood, A heuristic for boundedness of ranks of elliptic curves, J. Eur. Math. Soc. 21 (2019), 2859–2903.
[S] B. Savoie, Infinitely many elliptic curves over with rank 2 and
-invariant 1728, arXiv:2506.17605
[T] T. Tao, The Gaussian primes contain arbitrarily shaped constellations, J. Anal. Math. 99 (2006), 109–176.
[TZ] T. Tao, T. Ziegler, The primes contain arbitrarily long polynomial progressions, Acta Math. 201 (2008), 213–305.
[Z1] D. Zywina, There are infinitely many elliptic curves over the rationals of rank 2, arXiv:2502.01957
[Z2] D. Zywina, Rank one elliptic curves and rank stability, arXiv:2505.16960