この記事は全四回にわたる『素数定理の初等的証明』の第三回目の記事です:
integers.hatenablog.com
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引き続きは素数、漸近挙動は
のみを考えることとし、
を
によって定義する。『素数定理の初等的証明(予告編)』の最後の大雑把な証明方針で述べたように、
とに関する評価をどんどん改善していくことによって素数定理を証明するのであった。この改善のためのキーとなる
に関する評価を前回証明したSelbergの漸近公式を用いて与えることが今回の記事の目標である。すなわち、次を証明する:
証明. Selbergの漸近公式より
であり、Mertensの第一定理より
が得られる。また、前記事の系2より
で証明した漸近公式6と合わせることによって
を得る。(1)、(2)より
と評価できる。この右辺を更に上から評価することを考える。
を
と定める。このとき、自然数に対して
なので、
が得られる。Chebyshevの定理よりであるから、一番下の式の二番目の和の
である項は
である。よって、前回の記事の系1よりであるから、
が成り立つ*1。ここで、
なので、
と変形できる。ただし、Chebyshevの定理とアーベルの総和法 - INTEGERSで証明した漸近公式5を用いた。
また、Selbergの漸近公式により
である。従って、
が得られた。証明の最初に得た評価式と合わせることによって、所望の評価の証明が完了する。 Q.E.D.
この命題の評価式は、Selbergの漸近公式に比べて、以外の部分には
にような素数が裸で現れる項は現れない形になっています。この不等式自体が美しく、証明もエレガントだと感じました。
次の『素数定理の初等的証明(完結編)』で、この不等式を利用することによって素数定理の証明を完結させます。
*1:ビッグオーの取り扱いには微妙な問題がある。というのも、例えば
を一つの絶対定数で一様に押さえられる場合には成立する。このように、ビッグオーを定義通りに扱うと成り立たない式であっても、定数の一様性や不等式の成立する範囲によっては成立することがあり得る。素数定理の証明においてもビッグオーは「省略記号」としての色が強く、実際には定数や範囲を気にしないといけない変形を行っている部分もあることに注意する。