インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

日記

好きな音楽と勉強した数学について書きます。

Stickerbrush Symphony

David Wiseの楽曲が昔から好きで、Stickerbrush Symphonyは特に好きな曲の一つです(スーパードンキーコング2の「とげとげタルめいろ」で通じる人も多いと思います)。最近またよく聴くようになっていて、ほぼ原曲通りの演奏動画を見つけたのでここで紹介します。

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あと、最近ドンキーコングトロピカルフリーズというゲーム作品の楽曲をWiseが提供していたことを知って興奮しています。まだ聴きこめてないですが、とりあえずいい感じの曲を四つほどあげておきます。

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ゲーデルの定理

定理 ([G], 1933) 三次元Euclid空間内の四面体をなす四点は或る球面上に等長に埋め込める。球面上では大円距離を考える。

三次元Euclid空間内の四面体ABCDを考える。AB=a_1, AC=a_2, AD=a_3, BD=a_4, BC=a_5, CD=a_6とする。このとき、或る球面SS上の四点E, F, G, Hが存在してd_S(E,F)=a_1, d_S(E,G)=a_2, d_S(E,H)=a_3, d_S(F,H)=a_4, d_S(F,G)=a_5, d_S(G,H)=a_6が成り立つということ。ただし、d_SS上の大円距離。

証明. 三次元Euclid空間内の任意の四面体をとってTとし、六つの辺の長さをa_1, \dots, a_6とする。Tの外接球の半径をRとする*1a:=\max\{a_1, \dots, a_6\}として、0 < x \leq \pi/aおよび1 \leq i \leq 6に対して

\displaystyle a_{i,x}:=\frac{2}{x}\sin\frac{a_ix}{2}

とおく。初等幾何的計算によって、これは半径1/xの円の円周上の長さa_iの円弧の弦の長さに等しいことがわかる。従って、或るxが存在して、六つの辺の長さ(Euclid距離)がa_{1,x}, \dots, a_{6,x}であるような四面体であって外接球の半径が1/xであるようなものが存在すれば、その四面体の四頂点が所望の四点である。以下、実際にそのようなものが存在することを示す。

xに対して、六つの辺の長さ(Euclid距離)がa_{1,x}, \dots, a_{6,x}であるような四面体(ただし、ここでは同一平面上に潰れている四点を許す)が存在する場合、そのような四面体を一つとってT(x)と名付ける*2

どれぐらい存在するかであるが、\displaystyle \lim_{x \to 0}a_{i,x}=a_iおよびa_{i,x}が連続関数であることに注意すると、T(0):=Tを連続的に変形すればx0に近いときは常に存在することがわかる。もう少し詳しくいうと、四面体の存在条件は七つの連続関数 f_j(x), 1 \leq j \leq 7を用いて f_j(x) \geq 0と表すことができることからわかる(等号が一つでもあると平面上に潰れている)。

任意のx \in [0,y]に対してT(x)が存在するような0 < y \leq \pi/aの最大値を\bar{x}とする。\bar{x}の存在性について、実数の連続性からこのような最大値が存在するか、T(x)が存在しないようなx \in [0, y]が存在するようなyの最小値が存在するかのどちらかであるが、T(x)が存在しないということは或るjに対して f_j(x) < 0であるから後者にはなりえない。特に、\bar{x}=\pi/aであるか、\bar{x} < \pi/aかつT(\bar{x})が平面上にあるかのどちらかの状況になっている。

x\in[0,\bar{x}]に対して f(x)T(x)の半径の逆数と定義する。f(0)=1/Rであり、T(x)が平面上に潰れている場合は f(x):=0とすると f(x)は連続関数である。f(x)=xとなるようなxの存在性を示せばよい。

\bar{x}=\pi/aのときはT(\pi/a)が長さ2a/\piの辺を持つので、簡単にわかるように f(\pi/a) < \pi/aが成り立つ。一方、f(0) > 0なので、中間値の定理より f(x)=xなるx \in (0,\pi/a)が存在する。

\bar{x} < \pi/aかつT(\bar{x})が平面上にある場合は 0=f(\bar{x}) < \bar{x}なので、やはり f(0) > 0と合わせて中間値の定理より f(x)=xなるx \in (0,\pi/a)が存在する。よって、証明が完了した。 Q.E.D.

Croot-Lev-Pachの定理

Gを有限アーベル群とする(演算は+で表す)。部分集合A \subset Gが等差数列自由であるとは、どの二つも相異なるような任意のa,b,c \in Aに対してa+b\neq 2cが成り立つときにいう。r_3(G)を等差数列自由な部分集合のサイズの最大値と定義する。n \to \inftyを考えるとき、r_3(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})=o(n)がRothの定理であった*3。Rothは実際には

\displaystyle r_3(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})=O\left(\frac{n}{\log\log n}\right)

を示したが、現在では改良されておりBloomが2016年に

\displaystyle r_3(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})=O\left(\frac{n(\log\log n)^4}{\log n}\right)

を示している。さて、他の群の無限族に関する研究もあって、Sandersが2011年にAnn. of Math.の論文で或る\varepsilon > 0が存在して

\displaystyle r_3( (\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})^n)=O\left(\frac{4^n}{n(\log n)^{\varepsilon}}\right)

が成り立つことを示していたが、Croot-Lev-Pachが最近次のように改良した:

定理 ([CLP], 2017) n \geq 1のとき、r_3( (\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})^n)\leq 4^{\gamma n} が成り立つ。

ただし、H(x)を二値エントロピー関数

\displaystyle H(x) := -x\log_2x-(1-x)\log_2(1-x), \quad (0 < x < 1)

とするとき*4\gamma

\displaystyle \gamma := \max\left\{\left.\frac{H(0.5-\varepsilon)+H(2\varepsilon)}{2} \ \right| \ 0 < \varepsilon < 0.25\right\} ≒ 0.926

と定義される*5。以下、この定理の証明を解説する。次の多項式に関する補題がKeyとなる。

補題1 n \geq 1, d \geq 0を整数とし、\mathbb{F}を体とする。Pは多重線形な\mathbb{F}係数n変数で総次数がd以下の多項式であり、\mathbb{F}^nの部分集合A
\displaystyle \#A > 2\sum_{0 \leq i \leq d/2}\binom{n}{i}
を満たしているとする。このとき、Pが任意のa, b \in A(ただし、a \neq b)に対してP(a-b)=0を満たしているならばP(0)=0が成り立つ。

証明. m:=\sum_{0\leq i \leq d/2}\binom{n}{i}, \mathcal{K}:=\{K \subset [n] \mid \#K \leq d/2\} = \{K_1, \dots, K_m\}と記号を導入する([n]:=\{1,2,\dots, n\})。また、I \subset [n]x=(x_1, \dots, x_m) \in \mathbb{F}^nに対してx^I:=\prod_{i \in I}x_iと略記する。このとき、Pの定義からI, J \subset [n]に対して或るc_{I,J} \in \mathbb{F}が存在して、任意のx, y \in \mathbb{F}^nに対して

\displaystyle P(x-y)=\sum_{I,J\subset [n], I\cap J = \varnothing, \#I+\#J\leq d}c_{I,J}x^Iy^J

と書ける。これを\sum_I\sum_Jという順番の和に変形してI \in \mathcal{K}およびI \in [n]\setminus \mathcal{K}の二つの和に分け、後者については\sum_J\sum_Iの順番に入れ替えることによって

\displaystyle P(x-y) = \sum_{I\in\mathcal{K}}x^I\sum_{J\subset [n]\setminus I, \#J\leq d-\#I}c_{I,J}y^J+\sum_{J\in\mathcal{K}}\left(\sum_{I\subset [n]\setminus J, d/2 < \#I\leq d-\#J}c_{I,J}x^I\right)y^J

と書き直せる。よって、u(x)=(u_1(x),\dots, u_m(x) ), v(y)=(v_1(y), \dots, v_m(y) ) \in \mathbb{F}^{2m}

\displaystyle u_i(x)=x^{K_i},\quad u_{m+i}(x)=\sum_{I\subset [n]\setminus K_i, d/2 < \#I\leq d-\#K_i}c_{I,K_i}x^I

\displaystyle v_i(y)=\sum_{J\subset [n]\setminus K_i, \#J\leq d-\#K_i}c_{K_i,J}y^J,\quad  v_{m+i}(y)=y^{K_i}

によって定めると(1 \leq i \leq m)、上の表示は

P(x-y)=u(x)\cdot v(y)

という内積表示になっていることがわかる。さて、Pが任意のa, b \in A(ただし、a \neq b)に対してP(a-b)=0を満たしているにも関わらずP(0) \neq 0であったと仮定しよう。これは

u(a) \perp v(b) \Longleftrightarrow a \neq b \quad (a, b \in A)

を意味する。このことから\{u(a)\}_{a \in A}\mathbb{F}上一次独立でなければならない*6u(a)達が住んでいる空間\mathbb{F}^{2m}の次元は2mなので\#A \leq 2mということになるが、これは仮定に矛盾する。 Q.E.D.

次の補題は二値エントロピー関数に関する有名な不等式(と言っても確率方面を勉強していない私は今回初めて知った)とのことですが、検索しても確率論的に証明している文献が多く出てきます。が、次のように初等的にも示せます。

補題2 n \geq 1, 0 < z \leq n/2であるとき、不等式
\displaystyle \sum_{0 \leq i\leq z}\binom{n}{i} < 2^{nH(z/n)}
が成り立つ。

なお、左辺の和に綺麗に閉じた公式はないです。

証明. x:=z/n \leq 1/2とおく。

\displaystyle 1=(x+(1-x) )^n > \sum_{0 \leq i \leq z}\binom{n}{i}x^i(1-x)^{n-i}=\sum_{0 \leq i \leq z}\binom{n}{i}(1-x)^n\left(\frac{x}{1-x}\right)^i.

ここで、0\leq x \leq 1/2なので、0 \leq \frac{x}{1-x} \leq 1である。従って、

\displaystyle \left(\frac{x}{1-x}\right)^i \geq \left(\frac{x}{1-x}\right)^z

であり、

\displaystyle 1 > \sum_{0 \leq i \leq z}\binom{n}{i}{x}^z(1-x)^{n-z} = \sum_{0 \leq i \leq z}\binom{n}{i}2^{-nH(x)}

が得られ、これが所望の不等式である。 Q.E.D.

二倍写像(\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})^n \to (\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})^n, g\mapsto 2gのKernelをF_nとする。F_nは自然に(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^nと同型である。

補題3 n \geq 1とし、A \subset (\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})^nは等差数列自由な部分集合とする。0 < \varepsilon < 0.25を任意にとるとき、少なくとも2^{nH(0.5-\varepsilon)+1}個のAの元を含むようなF_n-cosetの数は2^{nH(2\varepsilon)}未満である。

証明. \varepsilonを固定して、少なくとも2^{nH(0.5-\varepsilon)+1}個のAの元を含むようなF_n-coset全体のなす集合を\mathcal{R}とする。R \in \mathcal{R}に対してA_R:=A\cap Rとすると、定義より

\#A_R \geq 2^{nH(0.5-\varepsilon)+1} \tag{1}

が成り立つ。(\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})^nの部分集合Sに対して

S+S:=\{s_1+s_2 \mid (s_1, s_2) \in S\times S, s_1 \neq s_2\}, \quad 2S:=\{2s \mid S\}

S+Sおよび2Sを導入する。以上の記号設定を用いて、B, C \subset F_n

\displaystyle B:=\bigcup_{R \in \mathcal{R}}(A_R+A_R),\quad C:=\bigcup_{R\in \mathcal{R}}(2R)

と定義する。これらがF_nの部分集合であることはR+R, 2R \subset F_nであることからわかる*7。このとき、B \cap C=\varnothingかつ\#C=\#\mathcal{R}が成り立っている。理由: r \in R2r \in B \subset A+Aを満たしたと仮定する。このとき、任意のa =r+F_n=Rに対して2a=2r \in A+Aとなってしまい*8aとしてAの元を取ることができるので、Aが等差数列自由であることに反する。よって、B\cap C=\varnothingが示された。また、2RR=r+F_nと代表元をとると2R=\{2r\}と一点集合になっていることがわかる。そうして、2r_1=2r_2 \Leftrightarrow r_1-r_2 \in F_n \Leftrightarrow r_1+F_n=r_2+F_nであることからC\mathcal{R}の間に全単射があることがわかった

d:=n-\lceil 2\varepsilon n\rceilとおく。このとき、0 < z:=d/2 \leq n/2, z/n \leq 0.5-\varepsilonなので、補題2と(1)より

\displaystyle 2\sum_{0 \leq i\leq d/2}\binom{n}{i} < 2^{nH(0.5-\varepsilon)+1} \leq \#A_R \quad ({}^{\forall}R \in \mathcal{R}) \tag{2}

が成り立つ。ここで、\overline{C}:=F_n\setminus Cとおく。以下、\#\mathcal{R} \geq 2^{nH(2\varepsilon)}と仮定して矛盾を導けばよい。

\displaystyle 2^n=\sum_{i=0}^n\binom{n}{i} = \sum_{i=0}^d\binom{n}{i}+\sum_{i=d+1}^n\binom{n}{i}, \quad \sum_{i=d+1}^n\binom{n}{i}=\sum_{i=d+1}^n\binom{n}{n-i}=\sum_{i=0}^{\lceil 2\varepsilon n\rceil -1}\binom{n}{i}

なので、0 < z':=\lceil 2\varepsilon n\rceil -1 < n/2, z' \leq 2\varepsilonより、補題2から

\displaystyle \sum_{i=0}^d\binom{n}{i}=2^n-\sum_{i=0}^{\lceil 2\varepsilon n\rceil -1}\binom{n}{i} > 2^n-2^{nH(2\varepsilon)}\geq 2^n-\#\mathcal{R}=2^n-\#C=\#\overline{C} \tag{3}

が得られる。

多重線形な\mathbb{F}_2係数n変数で総次数がd以下の多項式全体のなす\mathbb{F}_2ベクトル空間をVとする。また、F_nn次元\mathbb{F}_2ベクトル空間\mathbb{F}_2^nの加法群と同一視する。この同一視のもと、定義域が\overline{C}である\mathbb{F}_2値関数全体のなす\mathbb{F}_2ベクトル空間\mathrm{Map}(\overline{C}, \mathbb{F}_2)を考える。すると、(3)

\displaystyle \dim_{\mathbb{F}_2}V > \dim_{\mathbb{F}_2}\mathrm{Map}(\overline{C}, \mathbb{F}_2)

を言っている*9。従って、多項式を代入によって関数化した関数に対応させる写像

\displaystyle e\colon V \longrightarrow\mathrm{Map}(\overline{C}, \mathbb{F}_2)

のKernelは潰れていない。すなわち、0でない多項式P \in Vが存在して、Pは任意の\overline{C}の元で消えているようなものが存在する(e(P)=0)。ところで、多重線形な\mathbb{F}_2係数n変数の多項式全体のなす\mathbb{F}_2ベクトル空間を\overline{V}とするとき、e

\displaystyle \overline{e}\colon \overline{V} \longrightarrow\mathrm{Map}(\mathbb{F}_2^n, \mathbb{F}_2)

から自然に誘導されるが*10\overline{e}は同型(ともに次元が2^n)なので\overline{e}(P) \neq 0のはずである。

R \in \mathcal{R}, r \in Rを任意にとって固定する。Q(x):=P(2r+x)とおくとQ \in Vである。任意のx \in (A_R-r)+(A_R-r)に対してQ(x)=0が成り立つ。理由: 2r+x \in A_R+A_R \subset B \subset \overline{C}e(P)=0であるから これはQが任意のa, b \in A_R-r(ただし、a \neq b)に対してQ(a-b)=0を満たしているということだ*11(2)より

\displaystyle 2\sum_{0 \leq i\leq d/2}\binom{n}{i} < \#(A_R-r)

であるから、補題1が適用できてQ(0)=0が従う。つまり、P(2r)=0であるが、rおよびRが任意であったことからPは任意のCの元で消えていることになる。\mathbb{F}_2^n = C\cup \overline{C}でありe(P)=0であったので、これは\overline{e}(P)=0を意味し矛盾に到達した。 Q.E.D.

定理の証明. Aを等差数列自由な(\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})^nの部分集合とする。x \geq 0に対して、N(x)を少なくともx個のAの元を含むようなF_n-cosetの数とする。すると、

\displaystyle \#A=\sum_{k=0}^{\infty}N(k) = \int_0^{\infty}N(x)\mathrm{d}x

とカウンティングできる。x > 2^nのときはN(x) = 0であるが(各F_n-cosetのサイズは2^n)、後のために

\displaystyle \#A=\int_0^{2^{n+1}}N(x)\mathrm{d}x \tag{4}

という表示を与えておく。この積分を二つにわけて評価する。N(x) \leq 2^nなので(F_n-cosetは全部で2^n個)、

\displaystyle \int_0^{2^{nH(0.25)+1}}N(x) \mathrm{d}x \leq 2^{(H(0.25)+1)n+1} < 2\cdot 4^{\gamma n} \tag{5}

と評価しておく*12。残りの部分について、x=2^{n(H(0.5-\varepsilon)+1}と変数変換する。このとき、x2^{nH(0.25)+1} \to 2^{n+1}なので\varepsilon0.25 \to 0であり、

\displaystyle \frac{\mathrm{d}x}{\mathrm{d}\varepsilon} = 2^{nH(0.25-\varepsilon)+1}\times \log 2 \times \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}\varepsilon}\left(nH(0.5-\varepsilon)+1\right).

ここで、\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}x}H(x) = -\log_2\left(\frac{x}{1-x}\right)なので

\displaystyle \frac{\mathrm{d}x}{\mathrm{d}\varepsilon} = n2^{nH(0.25-\varepsilon)+1}\log\frac{0.5-\varepsilon}{0.5+\varepsilon}

が得られ、変数変換の結果は

\displaystyle \int_{2^{nH(0.25)+1}}^{2^{n+1}}N(x)\mathrm{d}x = n\int_0^{0.25}2^{nH(0.5-\varepsilon)+1}N(2^{nH(0.5-\varepsilon)+1})\log\frac{0.5+\varepsilon}{0.5-\varepsilon}\mathrm{d}\varepsilon

となる。補題3はN(2^{nH(0.5-\varepsilon)+1}) < 2^{nH(2\varepsilon)}を示しているため

\displaystyle n\int_0^{0.25}2^{nH(0.5-\varepsilon)+1}N(2^{nH(0.5-\varepsilon)+1})\log\frac{0.5+\varepsilon}{0.5-\varepsilon}\mathrm{d}\varepsilon < 2n\int_0^{0.25}2^{n\left(H(0.5-\varepsilon)+H(2\varepsilon)\right)}\log\frac{0.5+\varepsilon}{0.5-\varepsilon}\mathrm{d}\varepsilon

と評価でき、0 \leq \varepsilon \leq 0.25\log\frac{0.5+\varepsilon}{0.5-\varepsilon} \leq \log 3なので

\displaystyle 2n\int_0^{0.25}2^{n\left(H(0.5-\varepsilon)+H(2\varepsilon)\right)}\log\frac{0.5+\varepsilon}{0.5-\varepsilon}\mathrm{d}\varepsilon < (2\log 3)n\int_0^{0.25}2^{n\left(H(0.5-\varepsilon)+H(2\varepsilon)\right)}\mathrm{d}\varepsilon

を得る。そうして、(2\log 3)/4 < 1であることと\gammaの定義から

\displaystyle  \int_{2^{nH(0.25)+1}}^{2^{n+1}}N(x)\mathrm{d}x < n4^{\gamma n}

が得られたことになる。(4)(5)を合わせると

\#A < (n+2)4^{\gamma n} \tag{6}

あれ?欲しい不等式になってないじゃないか!と思われるそこのあなた。こここそがテンソル積トリックの使いどころですぞ*13k \geq 1を任意にとるとき、A\times \cdots \times A \subset (\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})^{kn}Aの性質より等差数列自由な部分集合になっている。よって、knに対する(6)から

\displaystyle (\#A)^k < (kn+2)4^{\gamma kn}

が成り立ち、すなわち

\displaystyle \#A < \sqrt[k]{kn+2}\cdot 4^{\gamma n}

がいえた。\displaystyle \lim_{k \to \infty}\sqrt[k]{kn+2} = 1であるから、\#A \leq 4^{\gamma n}でなければならない。 Q.E.D.

Croot-Lev-Pachの補題1を用いる技術革新を取り入れることによって、Ellenberg-Gijswijt ([EG])が任意の有限体\mathbb{F}_qの加法群に対して

r_3( (\mathbb{F}_q)^n) = O(c_q^n)

を示すことに成功しています(c_qq未満の或る正定数)。特に、Bateman-Katzの2012年の記録: 或る\varepsilon > 0が存在して

\displaystyle r_3( (\mathbb{Z}/3\mathbb{Z})^n)=O\left(\frac{3^n}{n^{1+\varepsilon}}\right)

を塗り替えて

r_3( (\mathbb{Z}/3\mathbb{Z})^n)=o(2.756^n)

を与えています。

参考文献

[G] K. Gödel, On the isometric embeddability of quadruples of points of R_3 in the surface of a sphere, In S. Feferman, J. Dawson, S. Kleene, G. Moore, R. Solovay, and J. van Heijenoort, editors, Kurt Gödel: Collected Works, vol. I, pages (1933b) 276–279. Oxford University Press, Oxford, 1986.

[CLP] E. Croot, V. F. Lev, P. P. Pach, Progression-free sets in \mathbb{Z}_4^n are exponentially small, Ann. of Math., Vol. 185, Issue 1 (2017), 331–337.

[EG] J. S. Ellenberg, D. Gijswijt, On large subsets of \mathbb{F}_q^n with no three-term arithmetic progression, Ann. of Math., Vol. 185, Issue 1 (2017), 339–343.

*1:四面体の外接球の存在証明が2011年の京都大学の入試問題として出題されています。四面体の外接球の半径についてという日本語の論文を発見しました。

*2:T(x)の位置は重要ではないが、選択公理で選んで固定する。

*3:ロスによるエルデシュ・トゥーラン予想の解決 - INTEGERS この記事で紹介しているErdős-Turán予想。ここでの定式化との同値性は簡単にわかる。

*4:H(x)のグラフをdesmosで書くと次のようになります。f:id:integers:20190203150029p:plain:w200

*5:\gammaの定義に現れる関数をdesmosで書くと次のようなグラフになります。 f:id:integers:20190202181328p:plain:w200

*6:\sum_{a \in A}\lambda_au(a)=0のとき、任意のb \in Aをとって両辺を内積の意味でv(b)倍すると\lambda_b=0となる。

*7:2R \subset F_nは自明で、R+R \subset F_nR \in \mathcal{R}F_n-cosetであることとF_nが群であることからわかる。

*8:2a=r2にはF_nの定義を用いていることに注意。

*9:\dim_{\mathbb{F}_2}V=\sum_{i=0}^d\binom{n}{i}は自明であろう。\dim_{\mathbb{F}_2}\mathrm{Map}(\overline{C}, \mathbb{F}_2)=\overline{C}\overline{C}の元毎にその元で1, 他の元で0を返す関数を考えるとそれらが基底になっている。

*10:\overline{V}からVに制限した後、\mathrm{Map}(\mathbb{F}_2^n, \mathbb{F}_2) \to \mathrm{Map}(\overline{C}, \mathbb{F}_2)と合成する。

*11:A_R \subset R=r+F_nよりA_R-r \subset F_nなので、a, b \in A_R-rに対してa+b=a-bであることに注意。

*12:\frac{1}{2}(H(0.25)+1) \leq \gamma.

*13:Weil予想の証明でDeligneが使ったアレ。 tsujimotter.hatenablog.com

記事の非公開化について

twitterでは予告しておりましたが、当然twitterを見ておられない読者の方々もおられると思いますので、こちらの記事で正式な告知をさせていただきます。

告知内容

当ブログの全ての記事について、LaTeXを用いて古い順に随時PDF化を行います(自分=せきゅーん用)*1

PDF化が完了した記事については、素数大富豪・「その他」カテゴリーにある単なる日記的記事・非常に短い記事などの例外を除いて非公開にします。

非公開の方法については、記事のページそのものはタイトルをそのままにして残し、本文を非公開化の報告および書いていた内容の要約に変更します。

理由等

非公開化の理由は複数ありますが、一つは公開に伴うリスクを避けるためです。私が保有するPDFファイルについては必要な場合はご請求頂ければ提供できるかもしれません。

*1:現在45/565記事完了。

大野関係式

MathWorldの\zeta(2)の記事[We]によれば、\zeta(2)は次のような対称的な二重級数表示を持つそうです。

\displaystyle \zeta(2) = \sum_{i=1}^{\infty}\sum_{j=1}^{\infty}\frac{(i-1)!(j-1)!}{(i+j)!} \tag{1}

[We]には"(B. Cloitre, pers. comm., Dec. 9, 2004)"というクレジットが書かれています。なんとも綺麗な式ですね。

はじめに

この記事は鯵坂もっちょ氏が企画する「好きな証明 Advent Calendar」の23日目の記事です。

adventar.org

実は既に三記事ほど寄稿しています。

integers.hatenablog.com
integers.hatenablog.com
integers.hatenablog.com

この記事では多重ゼータ値と呼ばれる実数達が主役であり、それらの数の間に成り立つ双対関係式およびそれを一般化した大野関係式を扱います。私が出会ったこれらの関係式の驚くべきほど単純な証明こそが私がこのAdvent Calenderで紹介する最後の「好きな証明」です。

多重ゼータ値

正整数の組\boldsymbol{k}=(k_1, \dots, k_r)をインデックスとよび、その重さ\mathrm{wt}(\boldsymbol{k})と深さ\mathrm{dep}(\boldsymbol{k})をそれぞれ\mathrm{wt}(\boldsymbol{k}):=k_1+\cdots +k_r, \mathrm{dep}(\boldsymbol{k}):=rと定義します。k_r \geq 2であるとき、\boldsymbol{k}は許容インデックスと呼ばれ、許容インデックス\boldsymbol{k}に対して多重ゼータ値\zeta(\boldsymbol{k})

\displaystyle \zeta(\boldsymbol{k}) := \sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_r^{k_r}}

と定義されます。これは絶対収束する多重級数です。深さが1のときはRiemannゼータ値なので、多重ゼータ値はRiemannゼータ値の多重化と呼ばれる種類の一般化になっています。

もちろんRiemannゼータ値はRiemannゼータ関数の特殊値であって、多重ゼータ値を特殊値に持つような多重ゼータ関数と呼ばれる関数を調べる研究もあります。ですが、この記事では特殊値に話を絞ります。

多重ゼータ値の基本は[AK]に書いてあります。多重ゼータ値は様々な分野で顔を出す重要な実数であることがわかってきており、Brown ([Bro])による絶対Galois群に関するDeligne-伊原予想の解決においても重要な役割を果たしています。

多重ゼータ値の歴史はGoldbachによるEulerに宛てた手紙が最初と考えられています。そこには深さが2の多重ゼータ値(二重ゼータ値と呼ばれる)について書かれており*1、Eulerはその返事として幾つかの関係式を発見しています。研究成果は晩年になって[E]において発表されており、Eulerの仕事については原田 ([Ha])が詳しいです。

その後、多重ゼータ値が活発に研究され始めたのは1990年頃からであって、パイオニアワークと目されるのはButzer-Markett-Schmidt ([BMS]), Hoffman ([Ho]), Zagier ([Z])です。

Eulerの等式

Eulerは多重ゼータ値の最初の非自明な線形関係式*2といえる

\zeta(1, 2)=\zeta(3)

を発見しました。この等式のよく知られた証明を紹介します。Keyとなるのは望遠鏡和の計算

\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\left(\frac{1}{n}-\frac{1}{n+m}\right) = \sum_{n=1}^m\frac{1}{n}

と部分分数分解

\displaystyle \frac{1}{nm}=\left(\frac{1}{n}+\frac{1}{m}\right)\frac{1}{n+m}

です。

証明 (by Steinberg). 望遠鏡和を作ることにより

\displaystyle \zeta(1, 2)+\zeta(3) = \sum_{0 < n \leq m}\frac{1}{nm^2}=\sum_{m=1}^{\infty}\left(\sum_{n=1}^m\frac{1}{n}\right)\frac{1}{m^2}=\sum_{m=1}^{\infty}\sum_{n=1}^{\infty}\left(\frac{1}{n}-\frac{1}{n+m}\right)\frac{1}{m^2}

と変形でき、部分分数分解により

\displaystyle \left(\frac{1}{n}-\frac{1}{n+m}\right)\frac{1}{m^2} = \frac{1}{nm(n+m)}=\frac{1}{n(n+m)^2}+\frac{1}{m(n+m)^2}

なので、

\displaystyle \zeta(1, 2)+\zeta(3) = \sum_{m=1}^{\infty}\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n(n+m)^2}+\sum_{m=1}^{\infty}\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{m(n+m)^2}=2\zeta(1, 2)

となって証明が完了する。 Q.E.D.

[BB]にはEulerの等式の三十二通りの証明が紹介されています。

Hoffmanによる双対関係式の発見

Hoffmanは多重ゼータ値の持つ美しい双対性を発見し、[Ho]において予想として述べています*3。まずはその主張を確認しましょう。

許容インデックスは正整数a_1, \dots, a_s, b_1, \dots, b_sを用いた次のような一意的な表示を持ちます。

\boldsymbol{k}=(\{1\}^{a_1-1}, b_1+1, \dots, \{1\}^{a_s-1}, b_s+1)

ここで、\{1\}^n\underbrace{1, \dots, 1}_nの省略記法です。これはインデックスの各成分が1であるか2以上であるかに着目した表示で、2以上の成分の個数=s\boldsymbol{k}の高さといって、\mathrm{ht}(\boldsymbol{k})と表します。

この表示を用いて、\boldsymbol{k}の双対インデックス\boldsymbol{k}^{\dagger}

\boldsymbol{k}^{\dagger}=(\{1\}^{b_s-1}, a_s+1, \dots, \{1\}^{b_1-1}, a_1+1)

と定義します。定義から明らかに\boldsymbol{k}^{\dagger}は許容インデックスであり、(\boldsymbol{k}^{\dagger})^{\dagger}=\boldsymbol{k}が成り立ちます。

例えば、(2)=(\{1\}^{1-1}, 1+1)より、(2)^{\dagger}=(\{1\}^{1-1}, 1+1)=(2)となって、この場合は自己双対になっています。次に(3)=(\{1\}^{1-1}, 2+1)より、(3)^{\dagger}=(\{1\}^{2-1}, 1+1)=(1, 2)がわかります。ということは、Eulerの等式は双対関係にあるインデックスの多重ゼータ値二つが等しくなっていることを意味しています。これが一般的に成り立っているだろうというのがHoffmanの予想した双対関係式です(証明されているので定理と書きます)。

定理 (双対関係式) 任意の許容インデックス\boldsymbol{k}に対して、\zeta(\boldsymbol{k})=\zeta(\boldsymbol{k}^{\dagger})が成り立つ。

Hoffmanはこの予想を完全には解決することができませんでしたが、\mathrm{ht}(\boldsymbol{k})=1の場合に限って証明を付けています。つまり、正整数a, bに対して

\zeta(\{1\}^{a-1}, b+1)=\zeta(\{1\}^{b-1}, a+1) \tag{2}

を示しています(これだけでもEulerの等式の一般化です)。それは一言で述べると「Mordell型多重級数を二通りの方法で計算する」もので、大体次のようなものでした。一つ目の計算ではMordellが証明した等式

\displaystyle \sum_{n_1=1}^{\infty}\cdots \sum_{n_b=1}^{\infty}\frac{1}{n_1n_2\cdots n_b(n_1+\cdots +n_b+x)}=b!\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{n!(n+1)^{b+1}}\binom{x-1}{n}

を用います(この式の証明には積分を使っています)。この式をxに関してa-1回微分してx=0を代入することによって

\displaystyle \sum_{n_1=1}^{\infty}\cdots \sum_{n_b=1}^{\infty}\frac{1}{n_1\cdots n_b(n_1+\cdots +n_b)^a}=b!\zeta(\{1\}^{a-1}, b+1) \tag{3}

が得られます。一方、Hoffmanは次のような無限級数の等式が成り立つことを帰納法を使って上手く証明しています。

補題 f(n_1, \dots, n_b)b変数の対称関数であるとき、
\displaystyle \sum_{n_1=1}^{\infty}\cdots \sum_{n_b=1}^{\infty}\frac{b!f(n_1, \dots, n_b)}{n_1(n_1+ n_2)\cdots (n_1+\cdots +n_b)}=\sum_{n_1=1}^{\infty}\cdots \sum_{n_b=1}^{\infty}\frac{f(n_1, \dots, n_b)}{n_1\cdots n_b}
が成り立つ。

一般の対称関数 f(n_1, \dots, n_b)を考えることによって上手く帰納法が回るのです。そうして、f(n_1, \dots, n_b)=(n_1+\cdots +n_b)^{-a}に対して補題を適用することによって

\displaystyle b!\zeta(\{1\}^{b-1}, a+1)=\sum_{n_1=1}^{\infty}\cdots \sum_{n_b=1}^{\infty}\frac{1}{n_1\cdots n_b(n_1+\cdots +n_b)^a} \tag{4}

が得られ、(3), (4)から(2)が得られるという証明です。何かの量を二通りで計算するという証明は良い証明であることが多いですが、計算したらそうなったという感じで、「双対性」が"見える"証明ではないと感じました。

Kontsevichによる多重ゼータ値の反復積分表示

多重ゼータ値は多重級数として定義された実数ですが、実は周期としての積分表示を持ちます。

定理 (多重ゼータ値の反復積分表示) \omega_0(t):=\frac{\mathrm{d}t}{t}, \omega_1(t):=\frac{\mathrm{d}t}{1-t}とする。\varepsilon_i \in \{0, 1\}  \ (1 \leq i \leq k, \ \varepsilon_1=1, \varepsilon_k=0)に対して、絶対収束k重積分I(\varepsilon_1, \dots, \varepsilon_k)
\displaystyle I(\varepsilon_1, \dots, \varepsilon_k):=\int_{0 < t_1 < t_2 < \cdots < t_k < 1}\omega_{\varepsilon_1}(t_1)\cdots \omega_{\varepsilon_k}(t_k)
と定義する。このとき、許容インデックス\boldsymbol{k}=(\{1\}^{a_1-1}, b_1+1, \dots, \{1\}^{a_s-1}, b_s+1)に対して
\zeta(\boldsymbol{k}) = I(\{1\}^{a_1}, \{0\}^{b_1}, \dots, \{1\}^{a_s}, \{0\}^{b_s}) \tag{5}
が成り立つ。

つまり、多重ゼータ値は多重級数と多重積分という二面性を持ち、積分の基本変形を多重ゼータ値の関係式の証明に持ち込むことが可能となりました。なお、[Z]によればKontsevichがこの表示を指摘したとのことですが*4、証明は難しくありません。

証明. 記号が繁雑になるのを避けるために\boldsymbol{k}=(2,2)のときに証明する(一般の場合はそれで了解されるであろう)。無限等比級数の和の公式を用いて積分を反復することによって

\begin{align} \frac{1}{1-t_1}&=\sum_{n_1=1}^{\infty}t_1^{n_1-1} \\
\int_0^{t_2}\frac{\mathrm{d}t_1}{1-t_1} &= \sum_{n_1=1}^{\infty}\frac{t_2^{n_1}}{n_1} \\
\int_0^{t_3}\frac{\mathrm{d}t_2}{t_2}\int_0^{t_2}\frac{\mathrm{d}t_1}{1-t_1} &= \sum_{n_1=1}^{\infty}\frac{t_3^{n_1}}{n_1^2} \\
\int_0^{t_4}\frac{\mathrm{d}t_3}{1-t_3}\int_0^{t_3}\frac{\mathrm{d}t_2}{t_2}\int_0^{t_2}\frac{\mathrm{d}t_1}{1-t_1} &= \int_0^{t_4}\sum_{n_1=1}^{\infty}\sum_{m=1}^{\infty}\frac{t_3^{n_1+m-1}}{n_1^2}\mathrm{d}t_3 \\ &= \sum_{n_1=1}^{\infty}\sum_{m=1}^{\infty}\frac{t_4^{n_1+m}}{n_1^2(n_1+m)}=\sum_{0 < n_1 < n_2}\frac{t_4^{n_2}}{n_1^2n_2} \\
\int_0^1\frac{\mathrm{d}t_4}{t_4}\int_0^{t_4}\frac{\mathrm{d}t_3}{1-t_3}\int_0^{t_3}\frac{\mathrm{d}t_2}{t_2}\int_0^{t_2}\frac{\mathrm{d}t_1}{1-t_1} &= \sum_{0 < n_1 < n_2}\frac{1}{n_1^2n_2^2}=\zeta(2, 2)
\end{align}

が得られる。

\displaystyle \int_0^1\frac{\mathrm{d}t_4}{t_4}\int_0^{t_4}\frac{\mathrm{d}t_3}{1-t_3}\int_0^{t_3}\frac{\mathrm{d}t_2}{t_2}\int_0^{t_2}\frac{\mathrm{d}t_1}{1-t_1} = \int_{0 < t_1 < t_2 < t_3 < t_4 < 1}\frac{\mathrm{d}t_1}{1-t_1}\frac{\mathrm{d}t_2}{t_2}\frac{\mathrm{d}t_3}{1-t_3}\frac{\mathrm{d}t_4}{t_4}

なので、\zeta(2, 2)=I(1,0,1,0)が示された。 Q.E.D.

双対関係式の"あっけない"解決

多重ゼータ値は実は周期である(積分表示を持つ)。この事実が判明するやいなや、一時期は予想であった双対関係式が自明なものとなってしまいました。というのも、変数変換

t_1=1-s_k, \ t_2=1-s_{k-1}, \dots, \ t_k=1-s_1

を考えると、積分の変数変換公式によって

I(\varepsilon_1, \dots, \varepsilon_k)=I(1-\varepsilon_k, \dots, 1-\varepsilon_1)

が得られ、

\zeta(\boldsymbol{k})= I(\{1\}^{a_1}, \{0\}^{b_1}, \dots, \{1\}^{a_s}, \{0\}^{b_s})=I(\{1\}^{b_s}, \{0\}^{a_s}, \dots, \{1\}^{b_1}, \{0\}^{a_1})=\zeta(\boldsymbol{k}^{\dagger})

となるからです。これは双対性の"見える"証明です。級数をいじっているだけではとても証明できそうになかった双対関係式ですが、多重ゼータ値\zeta(\boldsymbol{k})が積分表示という形態になることによって使える技が増え、一瞬にして双子である\zeta(\boldsymbol{k}^{\dagger})と入れ替わることができるようになったのです。

和公式

ここで、いったん双対関係式の物語から離れて、多重ゼータ値の別の関係式である和公式のお話をしましょう。Eulerの等式\zeta(1,2)=\zeta(3)は双対関係式だけではなく、様々な関係式族の特別な場合として得られます。Eulerは双対関係式には到達していませんが、次のような二重ゼータ値の和公式を発見・証明しました。k \geq 3とします。

\displaystyle \sum_{\substack{k_1+k_2=k \\ k_2 \geq 2}}\zeta(k_1, k_2) = \zeta(k) \tag{6}

重さがkで深さが2の許容インデックスに対する全ての二重ゼータ値を足し合わせるとRiemannゼータ値\zeta(k)になるという公式です。k=3の場合がEulerの等式\zeta(1, 2)=\zeta(3)なので、拡張になっていることがわかります。重さが4の場合は

\zeta(1,3)+\zeta(2,2)=\zeta(4)

重さが5の場合は

\zeta(1, 4)+\zeta(2,3)+\zeta(3,2)=\zeta(5)

などとなっています。

深さが3の場合は同じような規則性があるでしょうか?Markettが[M]において重さが6以下の場合を計算しており、HoffmanとMoenが[HM]において次を証明しました*5k \geq 4とします。

\displaystyle \sum_{\substack{k_1+k_2+k_3=k \\ k_3 \geq 2}}\zeta(k_1, k_2, k_3) = \zeta(k)

これらの計算に先立って、SchmidtとMoenが次を予想しています*6。これも今では定理です。

定理 (和公式) kr+1以上の整数とし、rを正整数とする。このとき、
\displaystyle \sum_{\substack{\boldsymbol{k}: \text{許容インデックス} \\ \mathrm{wt}(\boldsymbol{k})=k, \ \mathrm{dep}(\boldsymbol{k})=r}}\zeta(\boldsymbol{k}) = \zeta(k) \tag{7}
が成り立つ。

Granvilleによる和公式の証明

和公式はGranville ([G])によって華麗に解決されました。(7)の左辺をS(k,r)とするとき、母関数は

\displaystyle \sum_{k=r+1}^{\infty}S(k,r)x^k = x^{r+1}\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\frac{1}{(n_1-x)\cdots (n_r-x)n_r}

となります*7

\displaystyle \frac{1}{(n_1-x)\cdots (n_r-x)}=\sum_{j=1}^r\frac{1}{n_j-x}\prod_{\substack{i=1 \\ i \neq j}}^r\frac{1}{n_i-n_j}

部分分数分解してから、x^kの係数を比較することによって

\displaystyle S(k,r)=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\frac{1}{n_r}\sum_{j=1}^r\frac{1}{n_j^{k-r}}\prod_{\substack{i=1 \\ i \neq j}}^r\frac{1}{n_i-n_j}

が得られます。各1 \leq j \leq rに対してn_j=nとおいて和の順序を入れ替えることによって

\displaystyle S(k,r) = \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^{k-r}}\sum_{j=1}^r(-1)^{j-1}A(n,j-1)B(n,r-j) \tag{8}

と書き直せます。ここで、

\displaystyle A(n,j-1)=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_{j-1} < n}\prod_{i=1}^{j-1}\frac{1}{n-n_i}, \quad B(n, r-j):=\sum_{n < n_{j+1} < \cdots < n_r}\frac{1}{n_r}\prod_{i=j+1}^r\frac{1}{n_i-n}

です。次に、A, Bの母関数を求めます。m_i:=n-n_{j-i}とすることにより、

\displaystyle A(n, j-1)=\sum_{0 < m_1 < \cdots < m_{j-1} < n}\frac{1}{m_1\cdots m_{j-1}}

と書き換えられるため、Aの母関数は

\displaystyle \sum_{i=0}^{\infty}A(n, i) = \prod_{h=1}^{n-1}\left(1+\frac{x}{h}\right),\quad \sum_{i=0}^{\infty}(-1)^iA(n, i) = \prod_{h=1}^{n-1}\left(1-\frac{x}{h}\right)

とわかります。Bについてはm_i=n_i-nとおくと

\displaystyle B(n, r-j)=\sum_{0 < m_{j+1} < \cdots < m_r}\frac{1}{m_{j+1}\cdots m_r(m_r+n)}

となります。部分分数分解と望遠鏡和によって

\displaystyle \sum_{m_r=m_{r-1}+1}^{\infty}\frac{1}{m_r(m_r+n)} = \frac{1}{n}\sum_{m_r=m_{r-1}+1}^{\infty}\left(\frac{1}{m_r}-\frac{1}{m_r+n}\right)=\frac{1}{n}\sum_{l_{r-j}=1}^n\frac{1}{m_{r-1}+l_{r-j}}

と変形できます。続いて

\begin{align} \sum_{m_{r-1}=m_{r-2}+1}^{\infty}\sum_{l_{r-j}=1}^n\frac{1}{m_{r-1}(m_{r-1}+l_{r-j})}&=\sum_{l_{r-j}=1}^n\frac{1}{l_{r-j}}\sum_{m_{r-1}=m_{r-2}+1}^{\infty}\left(\frac{1}{m_{r-1}}-\frac{1}{m_{r-1}+l_{r-j}}\right) \\ &=\sum_{l_{r-j}=1}^n\frac{1}{l_{r-j}}\sum_{l_{r-j-1}=1}^{l_{r-j}}\frac{1}{m_{r-2}+l_{r-j-1}}\end{align}

と変形できます。このような変形を繰り返すことによって

\displaystyle B(n, r-j) = \frac{1}{n}\sum_{1 \leq l_1 \leq l_2 \leq \cdots \leq l_{r-j} \leq n}\frac{1}{l_1\cdots l_{r-j}}

がわかりました*8。よって、Bの母関数は

\displaystyle \sum_{i=0}^{\infty}B(n, i)x^i=\frac{1}{n}\prod_{g=1}^n\left(1-\frac{x}{g}\right)^{-1}

です。従って、

\displaystyle \sum_{j=1}^{r}(-1)^{j-1}A(n, j-1)B(n, r-j)

\displaystyle \frac{1}{n}\prod_{h=1}^{n-1}\left(1-\frac{x}{h}\right)\prod_{g=1}^n\left(1-\frac{x}{g}\right)^{-1} = \frac{1}{n}\left(1-\frac{x}{n}\right)^{-1}=\sum_{i=0}^{\infty}\frac{x^i}{n^{i+1}}

x^{r-1}の係数であり、\frac{1}{n^r}に等しいことがわかりました。つまり、(8)より

\displaystyle S(k,r)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^{k-r}}\times \frac{1}{n^r}=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^k}=\zeta(k)

となって、和公式の証明が完了します。

Zagierによる和公式の証明

Zagierによる和公式の別証明が言い伝えられています(未出版)。Granvilleによる和公式の証明は級数変形によるものでしたが、Zagierによる証明は多重ゼータ値の反復積分表示を利用した証明です。

\mathrm{dep}(\boldsymbol{k})=a_1+\cdots +a_sなので、(5)をみると微分形式\omega_1(t)の個数が深さに等しいことがわかります。このことから、S(k,r)

\displaystyle S(k,r)=\sum_{\substack{\varepsilon_2, \dots, \varepsilon_{k-1} \in \{0,1\} \\ \varepsilon_2+\cdots +\varepsilon_{k-1}=r-1}}I(1,\varepsilon_2, \dots, \varepsilon_{k-1},0)

と表すことができます。Granvilleはrを固定してkに関する母関数を取りましたが、Zagierはkを固定してrに関する母関数を取ります。それは次のように上手く計算できます。

\begin{align} \sum_{r=1}^{k-1}S(k,r)x^{r-1} &= \sum_{\varepsilon_2, \dots, \varepsilon_{k-1} \in \{0,1\}}I(1,\varepsilon_2, \dots, \varepsilon_{k-1}, 0)x^{\varepsilon_2+ \cdots +\varepsilon_{k-1}} \\
&=\int_{0 < t_1 < \cdots < t_k < 1}\frac{1}{1-t_1}\left(\frac{1}{t_2}+\frac{x}{1-t_2}\right)\cdots \left(\frac{1}{t_{k-1}}+\frac{x}{1-t_{k-1}}\right)\frac{1}{t_k}\mathrm{d}t_1\cdots \mathrm{d}t_k \\
&=\frac{1}{(k-2)!}\int_{0 < t_1 < t_k < 1}\left(\int_{t_1}^{t_k}\left(\frac{1}{t}+\frac{x}{1-t}\right)\mathrm{d}t\right)^{k-2}\frac{\mathrm{d}t_1}{1-t_1}\frac{\mathrm{d}t_k}{t_k} \\
&= \frac{1}{(k-2)!}\int_{0 < t_1 < t_k < 1}\left(\log \frac{t_k}{t_1}+x\log\frac{1-t_1}{1-t_k}\right)^{k-2}\frac{\mathrm{d}t_1}{1-t_1}\frac{\mathrm{d}t_k}{t_k}\end{align}

ここで、u=\log\frac{t_k}{t_1}, \ v=\log\frac{1-t_1}{1-t_k}という変数変換を考えます。逆向きに解くと t_1=\frac{1-e^v}{1-e^{u+v}}, \ t_k=\frac{e^u(1-e^v)}{1-e^{u+v}}で、0 < t_1 < t_k < 1u, v > 0に対応し、

\displaystyle \frac{\partial t_1}{\partial u}=-\frac{e^vt_k}{e^{u+v}-1}, \ \frac{\partial t_1}{\partial v}=\frac{1-t_1}{e^{u+v}-1}, \ \frac{\partial t_k}{\partial u}=-\frac{t_k}{e^{u+v}-1}, \ \frac{\partial t_k}{\partial v}=\frac{e^u(1-t_1)}{e^{u+v}-1}

なので、ヤコビアンを取れば \frac{\mathrm{d}t_1}{1-t_1}\frac{\mathrm{d}t_k}{t_k}=\frac{\mathrm{d}u\mathrm{d}v}{e^{u+v}-1}となって

\displaystyle \sum_{r=1}^{k-1}S(k,r)x^{r-1}=\frac{1}{(k-2)!}\int_0^{\infty} \! \! \int_0^{\infty}(u+xv)^{k-2}\frac{\mathrm{d}u\mathrm{d}v}{e^{u+v}-1}

が得られます。よって、x^{r-1}の係数を比較して\frac{1}{e^{u+v}-1}を冪級数展開することによって

\displaystyle S(k,r)=\int_0^{\infty} \! \! \int_0^{\infty}\sum_{n=1}^{\infty}\frac{e^{-nu}u^{k-r-1}}{(k-r-1)!}\frac{e^{-nv}v^{r-1}}{(r-1)!}\mathrm{d}u\mathrm{d}v

とできます。ここで、ガンマ関数の変数変換によって正整数sに対して

\displaystyle \int_0^{\infty}e^{-nu}u^{s-1}\mathrm{d}u = \frac{(s-1)!}{n^s}

が成り立つため、

\displaystyle S(k,r)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^{k-r}}\times \frac{1}{n^r}=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^k}=\zeta(k)

と証明が完了します。

大野関係式

これまでに双対関係式と和公式という多重ゼータ値に関する二つの線形関係式族を紹介しました。これらはともに[Ho]で予想として述べられたもので、どちらも数年以内に解決されました。[Ho]においてHoffmanは現今「Hoffmanの関係式」と呼ばれる関係式族についても書いており、こちらは級数変形を使った証明を与えています([Ho, Theorem 5.1] 紹介は省略)。

これらは関係式の集合としても式の見た目上でも互いに異なる関係式族なわけですが、大野泰生 ([O])が大変驚くべき発見をしました。実は多重ゼータ値にはもっと一般的に成立する双対性があって、双対関係式・和公式・Hoffmanの関係式は全てその双対性の一部に過ぎないというのです。これを我々は大野関係式とよびます。

許容インデックス\boldsymbol{k} = (k_1, \dots, k_r)と非負整数cに対して、大野和O(\boldsymbol{k}; c)

\displaystyle O(\boldsymbol{k}; c):=\sum_{\substack{c_1+\cdots +c_r=c \\ c_1, \dots, c_r \geq 0}}\zeta(k_1+c_1, \dots, k_r+c_r)

とおきます。

定理 (大野関係式) 任意の許容インデックス\boldsymbol{k}と非負整数cに対して、
O(\boldsymbol{k}; c) = O(\boldsymbol{k}^{\dagger}; c)
が成り立つ。

c=0の場合が双対関係式に他なりません。c=1の場合の右辺に現れる各多重ゼータ値にそれぞれ双対関係式を適用したものがHoffmanの関係式です。\boldsymbol{k}=(\{1\}^{r-1}, 2),  \ \boldsymbol{k}^{\dagger}=(r+1),  \ c=k-r-1の場合を考えると和公式になっています。 

大野関係式のオリジナル証明

大野先生による大野関係式の証明を紹介します。一つの考え方として、大野関係式は双対関係式と和公式の同時一般化であるため、両者の証明を共に一般化したような形の証明を探るというものがあります。和公式についてはGranvilleによる級数変形を利用した証明とZagierによる積分を利用した証明がありますが*9、双対関係式については積分証明しかないので、Zagierの証明方法を拡張するというアイデアが得られます。大野先生はこれを次のように実行しました。反復積分の記号I(\varepsilon_1, \dots, \varepsilon_k)をここではI(\varepsilon_1\cdots \varepsilon_k)と中身をwordとして表示することにします。

収束インデックス\boldsymbol{k}=(\{1\}^{a_1-1}, b_1+1, \dots, \{1\}^{a_s-1}, b_s+1)と非負整数cを固定して、m:=c+\sum_{i=1}^s(a_i+b_i)とおきます。l_1+\cdots +l_s=cとなるような非負整数l_1, \dots, l_sと、1 \leq d_i \leq a_i+l_i \ (1 \leq i \leq s)に対してS_{\boldsymbol{k}}(d_1, \dots, d_s; l_1, \dots, l_s)

\displaystyle S_{\boldsymbol{k}}(d_1, \dots, d_s; l_1, \dots, l_s):=\sum_{\substack{\varepsilon_{1,2}+\cdots +\varepsilon_{1,a_1+l_1}=d_1-1 \\ \varepsilon_{1,2}, \dots, \varepsilon_{1, a_1+l_1} \in \{0,1\}}}\cdots \sum_{\substack{\varepsilon_{s,2}+\cdots +\varepsilon_{s,a_s+l_s}=d_s-1 \\ \varepsilon_{s,2}, \dots, \varepsilon_{s, a_s+l_s} \in \{0,1\}}}I\left(\prod_{i=1}^s1\cdot \varepsilon_{i,2}\cdots \varepsilon_{i,a_i+l_i}\cdot 0^{b_i}\right)

と定めます。このとき、大野和は

\displaystyle O(\boldsymbol{k}; c) = \sum_{\substack{l_1+\cdots + l_s=c \\ l_1, \dots, l_s \geq 0}}S_{\boldsymbol{k}}(a_1, \dots, a_s; l_1, \dots, l_s) \tag{9}

と書けます*10(l_1, \dots, l_s)を固定して、母関数

\displaystyle F(x_1, \dots, x_s):=\sum_{1\leq d_1 \leq a_1+l_1}\cdots \sum_{1 \leq d_s \leq a_s+l_s}\left\{S_{\boldsymbol{k}}(d_1, \dots, d_s; l_1, \dots, l_s)\prod_{i=1}^sx_i^{d_i-1}\right\}

を考えます。これはZagierの証明のときと同じように次のように変形できます。

\begin{align}F(x_1, \dots, x_s)&=\sum_{\varepsilon_{1,2},\dots, \varepsilon_{1,a_1+l_1}\in\{0,1\}}\cdots\sum_{\varepsilon_{s,2},\dots, \varepsilon_{s,a_s+l_s}\in\{0,1\}}I\left(\prod_{i=1}^s1\cdot\varepsilon_{i,2}\cdots\varepsilon_{i,a_i+l_i}\cdot0^{b_i}\right)\prod_{i=1}^sx_i^{\varepsilon_{i,2}+\cdots+\varepsilon_{i,a_i+l_i}} \\
&=\int_{0 < t_1 < \cdots < t_m < 1}\prod_{i=1}^s\left\{\frac{1}{1-t_{\Sigma_i+1}}\prod_{j=2}^{a_i+l_i}\left(\frac{1}{t_{\Sigma_i+j}}+\frac{x_i}{1-t_{\Sigma_i+j}}\right)\prod_{j=1}^{b_i}\frac{1}{t_{\Sigma_i+a_i+l_i+j}}\right\}\mathrm{d}t_1\cdots\mathrm{d}t_m\end{align}

ここで、\Sigma_i:=\sum_{j=1}^{i-1}(a_j+l_j+b_j)とおいています。

\displaystyle \int_{t_1 < \cdots < t_k}\prod_{j=2}^{k-1}\left(\frac{1}{t_j}+\frac{x}{1-t_j}\right)\mathrm{d}t_2\cdots \mathrm{d}t_{k-1}=\frac{1}{(k-2)!}\left(\log\frac{t_k}{t_1}+x\log\frac{1-t_1}{1-t_k}\right)^{k-2}

および

\displaystyle \int_{t_1 < \cdots < t_k}\prod_{j=2}^{k-1}\frac{\mathrm{d}t_j}{t_j}=\frac{1}{(k-2)!}\left(\log\frac{t_k}{t_1}\right)^{k-2}

なので、t_{2s+1}:=1とおいて

\begin{align} F(x_1, \dots, x_s) &= \prod_{i=1}^s\frac{1}{(a_i+l_i-1)!(b_i-1)!}\int_{0 < t_1 < \cdots < t_{2s} < 1}\mathrm{d}t_1\cdots\mathrm{d}t_{2s} \\
&\qquad \prod_{i=1}^s\left\{\frac{1}{1-t_{2i-1}}\left(\log\frac{t_{2i}}{t_{2i-1}}+x_i\log\frac{1-t_{2i-1}}{1-t_{2i}}\right)^{a_i+l_i-1}\frac{1}{t_{2i}}\left(\log\frac{t_{2i+1}}{t_{2i}}\right)^{b_i-1}\right\} \\
&= \prod_{i=1}^s\frac{1}{(a_i+l_i-1)!(b_i-1)!}\times \\
&\qquad \int_{0 < t_1 < \cdots < t_{2s} < 1}\prod_{i=1}^s\left(\log\frac{t_{2i}}{t_{2i-1}}+x_i\log\frac{1-t_{2i-1}}{1-t_{2i}}\right)^{a_i+l_i-1}\left(\log\frac{t_{2i+1}}{t_{2i}}\right)^{b_i-1}\\
&\qquad \quad \frac{\mathrm{d}t_1\mathrm{d}t_2\mathrm{d}t_3\cdots\mathrm{d}t_{2s}}{(1-t_1)t_2(1-t_3)\cdots t_{2s}}\end{align}

がわかります(変数は適当に番号を付け替えています)。ここまで変形してから\prod_{i=1}^sx_i^{a_i-1}の係数をみることによって

\begin{align} &S_{\boldsymbol{k}}(a_1, \dots, a_s; l_1, \dots, l_s) \\
&= \prod_{i=1}^s\frac{1}{l_i!(a_i-1)!(b_i-1)!}\int_{0 < t_1 < \cdots < t_{2s} < 1}\prod_{i=1}^s\left\{\left(\log\frac{t_{2i}}{t_{2i-1}}\right)^{l_i}\left(\log\frac{1-t_{2i-1}}{1-t_{2i}}\right)^{a_i-1}\left(\log\frac{t_{2i+1}}{t_{2i}}\right)^{b_i-1}\right\} \\
&\qquad \quad \frac{\mathrm{d}t_1\mathrm{d}t_2\mathrm{d}t_3\cdots\mathrm{d}t_{2s}}{(1-t_1)t_2(1-t_3)\cdots t_{2s}}\end{align}

という表示が得られました。多項定理

\displaystyle \sum_{\substack{l_1+\cdots +l_s=c \\ l_1, \dots, l_s \geq 0}}\frac{c!}{l_1!\cdots l_s!}\prod_{i=1}^s\left(\log\frac{t_{2i}}{t_{2i-1}}\right)^{l_i}=\left(\sum_{i=1}^s\log\frac{t_{2i}}{t_{2i-1}}\right)^c

(9)より

\begin{align} O(\boldsymbol{k};c) &= \frac{1}{c!}\prod_{i=1}^s\frac{1}{(a_i-1)!(b_i-1)!}\times \\
&\qquad \int_{0 < t_1 < \cdots < t_{2s} < 1}\left(\log\prod_{i=1}^s\frac{t_{2i}}{t_{2i-1}}\right)^c\prod_{i=1}^s\left(\log\frac{1-t_{2i-1}}{1-t_{2i}}\right)^{a_i-1}\left(\log\frac{t_{2i+1}}{t_{2i}}\right)^{b_i-1} \\
&\qquad \quad \frac{\mathrm{d}t_1\mathrm{d}t_2\mathrm{d}t_3\cdots\mathrm{d}t_{2s}}{(1-t_1)t_2(1-t_3)\cdots t_{2s}}\end{align} \tag{10}

と大野和の積分表示が得られます。ここで、

\displaystyle x_{2i-1}=\log\frac{1-t_{2i-1}}{1-t_{2i}},\quad x_{2i}=\log\frac{t_{2i+1}}{t_{2i}}, \qquad i=1,2,\dots, s

という変数変換を行いましょう。まず、逆向きに解きます。

\displaystyle 1-t_{2i-1}=e^{x_{2i-1}}(1-t_{2i}), \quad t_{2i}=e^{-x_{2i}}t_{2i+1}

なので

\displaystyle t_{2i-1}=1-e^{x_{2i-1}}(1-e^{-x_{2i}}t_{2i+1})

であり、繰り返すことによって

\begin{align} t_{2i-1} &= 1-e^{x_{2i-1}}(1-e^{-x_{2i}}(1-e^{x_{2i+1}}(\cdots (1-e^{-x_{2s}}) )\cdots ) \\
&=1+\sum_{j=2i-1}^{2s}\left( (-1)^j\exp\left(\sum_{r=2i-1}^j(-1)^{r-1}x_r\right)\right)\end{align}

がわかります。同様に

\begin{align} t_{2i} &= e^{-x_{2i}}(1-e^{x_{2i+1}}(1-e^{-x_{2i+2}}(\cdots (1-e^{-x_{2s}}) )\cdots ) \\
&=\sum_{j=2i}^{2s}\left( (-1)^j\exp\left(\sum_{r=2i}^j(-1)^{r-1}x_r\right)\right)\end{align}

です(i=1,2,\dots, s)。この表示によって

\displaystyle \frac{\partial t_{2i-1}}{\partial x_{2i-1}}=t_{2i-1}-1, \quad \frac{\partial t_{2i}}{\partial x_{2i}}=-t_{2i}, \quad \frac{\partial t_j}{\partial x_i}=0 \ (i < j)

がわかります。よって、ヤコビ行列は上三角行列で

\displaystyle \frac{\mathrm{d}t_1\mathrm{d}t_2\mathrm{d}t_3\cdots\mathrm{d}t_{2s}}{(1-t_1)t_2(1-t_3)\cdots t_{2s}} = \mathrm{d}x_1\cdots \mathrm{d}x_{2s}

が得られました。大野和(10)の被積分関数にある \prod_{i=1}^s\frac{t_{2i}}{t_{2i-1}}の部分は次のように計算できます。

\begin{align} \prod_{i=1}^s\frac{t_{2i}}{t_{2i-1}} &= \frac{1}{t_1}\prod_{i=1}^s\frac{t_{2i}}{t_{2i+1}}=\frac{1}{t_1}\prod_{i=1}^se^{-x_{2i}} \\
&=\frac{\exp\left(-\sum_{i=1}^sx_{2i}\right)}{1+\sum_{j=1}^{2s}(-1)^j\exp\left(\sum_{r=1}^j(-1)^{r-1}x_r\right)}\\
&=\left(\exp\Biggl(\sum_{\substack{i=2 \\ i: \text{偶数}}}^{2s}x_i\Biggr)+\sum_{j=1}^{2s}(-1)^j\exp\Biggl(\sum_{\substack{r=1 \\ r: \text{奇数}}}^jx_r+\sum_{\substack{r=j+1 \\ r: \text{偶数}}}^{2s}x_r\Biggr)\right)^{-1}\\
&=\left(\sum_{j=0}^{2s}(-1)^j\exp\Biggl(\sum_{\substack{r=1 \\ r: \text{奇数}}}^jx_r+\sum_{\substack{r=j+1 \\ r: \text{偶数}}}^{2s}x_r\Biggr)\right)^{-1}\end{align}

そこで、\theta(x_1, \dots, x_{2s})

\displaystyle \theta(x_1, \dots, x_{2s}):=\sum_{j=0}^{2s}(-1)^j\exp\Biggl(\sum_{\substack{r=1 \\ r: \text{奇数}}}^jx_r+\sum_{\substack{r=j+1 \\ r: \text{偶数}}}^{2s}x_r\Biggr)

と定義しておきます。最後に積分領域については

\displaystyle t_{2i-1} < t_{2i} \Longleftrightarrow x_{2i-1} > 0, \quad t_{2i} < t_{2i+1} \Longleftrightarrow x_{2i} > 0 \quad (i=1, 2, \dots, s)

\displaystyle t_1 > 0 \Longleftrightarrow \theta(x_1, \dots, x_{2s}) = t_1 \prod_{i=1}^se^{x_{2i}} > 0

となっています。以上により、(10)を変数変換して

\displaystyle O(\boldsymbol{k}; c)=\frac{1}{c!}\prod_{i=1}^s\frac{1}{(a_i-1)!(b_i-1)!}\int_{\substack{x_1, \dots, x_{2s} > 0 \\ \theta(x_1, \dots, x_{2s}) > 0}}\left(\log(\theta(x_1, \dots, x_{2s})^{-1})\right)^{c}\prod_{i=1}^s(x_{2i-1}^{a_i-1}x_{2i}^{b_i-1})\mathrm{d}x_1\cdots \mathrm{d}x_{2s}

になることがわかりました。x_r \mapsto x_{2s-r+1} \ (r=1, 2, \dots, 2s)なる変数変換を行うと、\theta(x_1, \dots, x_{2s})

\begin{align} \theta(x_{2s}, \dots, x_1)&=\sum_{j=0}^{2s}(-1)^j\exp\Biggl(\sum_{\substack{r=1 \\ r: \text{奇数}}}^jx_{2s-r+1}+\sum_{\substack{r=j+1 \\ r: \text{偶数}}}^{2s}x_{2s-r+1}\Biggr) \\
&=\sum_{j=0}^{2s}(-1)^j\exp\Biggl(\sum_{\substack{r=2s-j+1 \\ r: \text{奇数}}}^{2s}x_r+\sum_{\substack{r=1 \\ r: \text{偶数}}}^{2s-j}x_r\Biggr) \\
&=\sum_{j=0}^{2s}(-1)^j\exp\Biggl(\sum_{\substack{r=j+1 \\ r: \text{偶数}}}^{2s}x_{r}+\sum_{\substack{r=1 \\ r: \text{奇数}}}^{j}x_{r}\Biggr) \\
&=\theta(x_1, \dots, x_{2s}) \end{align}

という対称性を持つため、(a_1, b_1, \dots, a_s, b_s) \leftrightarrow (b_s, a_s, \dots, b_1, a_1)という対応が\boldsymbol{k} \leftrightarrow \boldsymbol{k}^{\dagger}の定義だったことを思い出して、O(\boldsymbol{k}; c)=O(\boldsymbol{k}^{\dagger}; c)が得られます。これで証明が完了しました。


Zagierによる和公式の見事な証明がベースとなっているとはいえ、大野先生のこの証明もよくこんなに美しい計算を遂行できたものだなと感動します。特にZagierの場合とは変数変換が微妙にずれていてヤコビ行列が上三角になることに注目してください。和公式のときは「計算しきる」という感じでしたが、今回は双対性であるため、対称性を持った積分表示を与えることが目的になります。これは私にはRiemannによるRiemannゼータ関数の関数等式の第二証明を思い起こさせます。Riemannゼータ関数の場合は

\displaystyle \pi^{-\frac{s}{2}}\Gamma\left(\frac{s}{2}\right)\zeta(s) = \int_1^{\infty}(x^{\frac{s}{2}}+x^{\frac{1-s}{2}})\Biggl(\sum_{n=1}^{\infty}e^{-n^2\pi x}\Biggr)\frac{\mathrm{d}x}{x}-\frac{1}{s(1-s)}

という対称的な積分表示を与えており、大野和の場合は

\begin{align} O(\boldsymbol{k}; c)&=\frac{1}{2c!}\prod_{i=1}^s\frac{1}{(a_i-1)!(b_i-1)!}\times \\
&\quad\int_{\substack{x_1, \dots, x_{2s} > 0 \\ \theta(x_1, \dots, x_{2s}) > 0}}\left(\log(\theta(x_1, \dots, x_{2s})^{-1})\right)^{c}\left(\prod_{i=1}^s(x_{2i-1}^{a_i-1}x_{2i}^{b_i-1})+\prod_{i=1}^s(x_{2i-1}^{b_{s+1-i}-1}x_{2i}^{a_{s+1-i}-1})\right)\mathrm{d}x_1\cdots \mathrm{d}x_{2s}\end{align}

という対称的な積分表示を与えています。黒川先生のご著書の中にRiemannの第二証明の計算は何度やっても心が洗われる思いだという旨のことを書かれていた記憶がありますが、大野先生のこの計算も何度やっても心が洗われます。

大野和の母関数

和公式の証明において、Granvilleが用いた母関数とZagierが用いた母関数は異なるものでした。大野先生の証明はZagierの証明の拡張でしたが、Granvilleが用いた母関数の大野和への拡張をここで求めておきましょう。\boldsymbol{k}=(k_1, \dots, k_r)を許容インデックスとし、|x| < 1なる実数xを考えます。このとき、i=1,\dots, rに対して無限等比級数の和の公式より

\displaystyle \frac{1}{(n_i-x)n_i^{k_i-1}}=\sum_{c_i=0}^{\infty}\frac{x^{c_i}}{n_i^{k_i+c_i}}

なので、x付き多重ゼータ値Z(\boldsymbol{k}; x)

\displaystyle Z(\boldsymbol{k}; x):=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\prod_{i=1}^r\frac{1}{(n_i-x)n_i^{k_i-1}} \tag{11}

と定義すれば、

\displaystyle Z(\boldsymbol{k}; x)=\sum_{c=0}^{\infty}O(\boldsymbol{k}; c)x^c

と展開されることがわかります。よって、大野関係式はx付き多重ゼータ値の双対関係式

Z(\boldsymbol{k}; x)=Z(\boldsymbol{k}^{\dagger}; x)

と同値であることがわかりました。

大野関係式の奥田-上野による証明

現在までに大野関係式の証明は複数知られています。一つは[IKZ]の方法です。井原-金子-Zagierは[IKZ]において多重ゼータ値の導分関係式と呼ばれる大きな関係式族を証明しています。また、代数的に「(大野関係式) = (導分関係式) + (双対関係式)」であることを示しているので、反復積分表示によって証明される双対関係式を認めて導分関係式と合わせることによって大野関係式の新証明を与えていると考えることができます。(大野関係式)-(双対関係式)を俗に弱大野関係式とよびますが、小山による井原-金子-Zagierとは異なる弱大野関係式の導出方法も存在します。また、Ulanskii ([U])はx付き多重ゼータ値の積分表示を考えて(双対関係式に限っても)新しい変数変換を与えることによって大野関係式を証明しています。和山 ([Wa])は修士論文において荒川-金子のゼータ関数の正整数での値の二通りの計算方法(金子-津村によるものとKuba, 山本によるもの)の比較が大野関係式を導くことを示しています。この節では奥田-上野 ([OU])による大野関係式の別証明について書こうと思います。

奥田-上野は多重ポリログのLanden型接続公式(1\inftyの接続公式)から大野関係式が得られることを発見しました。例えばダイログに対するLandenの公式は

\displaystyle \mathrm{Li}_2(z) = -\mathrm{Li}_2\left(\frac{z}{z-1}\right)-\mathrm{Li}_{1,1}\left(\frac{z}{z-1}\right)

です。もう少しだけ奥田-上野の仕事のキーワードを述べると、まずx付き多重ゼータ値の満たす差分関係式を証明します。その差分関係式と多重ポリログの満たす微分方程式、Mellin変換を用いることによって大野関係式が簡約大野関係式と呼ばれるa prioriには弱く見える関係式と同値であることを示します([OU]の主定理)。そうして、簡約大野関係式はLanden型接続公式の逆Mellin変換によって得られるため大野関係式の証明が得られるという流れです。

実は奥田-上野の差分関係式を用いるとLanden型接続公式を経由せずとも大野関係式の別証明が得られることが[OU]の最後に書かれており、この証明は若干長いものの大野関係式のq類似に対しても機能するという利点があります。他の多数の数学的概念でもそうですが多重ゼータ値にもq類似が定義されており(q-多重ゼータ値)、q \to 1とすると多重ゼータ値になります。Bradley ([Bra])および奥田-竹山 ([OT])は奥田-上野の手法によってq-多重ゼータ値も大野関係式を満たすことを証明しました。q-多重ゼータ値にもJackson積分を使った表示があるのですが、変数変換の取り扱いが難しいため大野先生のオリジナル証明のq類似版は知られていません。

では、奥田-上野の差分関係式を用いた大野関係式の別証明を以下詳しくみていきましょう。\boldsymbol{k}=(\{1\}^{a_1-1}, b_1+1, \dots, \{1\}^{a_s-1}, b_s+1)と書けるとき、z( (a_i, b_i)_{i=1}^s; x):=Z(\boldsymbol{k}; x)とおきます(便宜的にa_1=0またはb_s=0のときにz( (a_i, b_i)_{i=1}^s; x)=0としておきます)。A_0:=0, A_i:=a_1+\cdots + a_i \ (i=1, \dots, s), A_s=:rとすると、(11)より

\displaystyle z( (a_i, b_i)_{i=1}^s; x) = \sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\prod_{i=1}^s\frac{1}{(n_{A_{i-1}+1}-x)\cdots (n_{A_i}-x)n_{A_i}^{b_i}}

と書けることがわかります。実はxが正整数でなければこれは絶対収束します:

補題1 \boldsymbol{n}=(n_1, \dots, n_r), \boldsymbol{n}^{j, n}=(n_1, \dots, n_{j-1}, n, n_{j+1}, \dots, n_r)という略記を用いることにする。j = 1, \dots, rに対して
\displaystyle C_{n_j}^{\boldsymbol{n}}:=\frac{1}{n_{A_1}^{b_1}\cdots n_{A_s}^{b_s}}\prod_{\substack{i=1 \\ i \neq j}}^r\frac{1}{n_i-n_j}
とおくとき、z( (a_i, b_i)_{i=1}^s; x)x \in \mathbb{C} \setminus \mathbb{Z}_{ > 0}で広義一様絶対収束し(従ってこの範囲で正則)、
\displaystyle z( (a_i, b_i)_{i=1}^s; x)=\sum_{n=1}^{\infty}\left(\sum_{j=1}^r\sum_{\substack{0 < n_1 < \cdots < n_{j-1} < n \\ n < n_{j+1} < \cdots < n_r}}C_n^{\boldsymbol{n}^{j, n}}\right)\frac{1}{n-x}
が成り立つ。

証明. 部分分数分解の公式より、

\displaystyle \prod_{i=1}^s\frac{1}{(n_{A_{i-1}+1}-x)\cdots (n_{A_i}-x)n_{A_i}^{b_i}}=\sum_{j=1}^r\frac{C_{n_j}^{\boldsymbol{n}}}{n_j-x}

が成り立つため、和の順序交換さえ保障されていればGranvilleの和公式のときと同様に所望の級数表示を得る。順序交換の保証には jを固定して

\displaystyle \sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\left|\frac{C_{n_j}^{\boldsymbol{n}}}{n_j-x}\right|

が広義一様収束することを見ればよい。\boldsymbol{n}を固定するとき、d_1:=n_1, d_i:=n_i-n_{i-1} \ (i=2, \dots, r)とおく。すると、n_i=d_1+\cdots+d_i \ (1 \leq i \leq r)であり、相加相乗平均の不等式より

\displaystyle d_1+\cdots + d_r \geq r\sqrt[r]{d_1\cdots d_r}

が成り立つ。i > jのときはn_i-n_j \geq d_i, i < jのときはn_j-n_i \geq d_{i+1}であることに注意して

\begin{align}\left|\frac{C_{n_j}^{\boldsymbol{n}}}{n_j-x}\right| &= \left|\Biggl(\frac{1}{n_{A_1}^{b_1}\cdots n_{A_s}^{b_s}}\prod_{\substack{i=1 \\ i \neq j}}^r\frac{1}{n_i-n_j}\Biggr)\frac{1}{n_j-x}\right| \\
&\leq \frac{1}{(d_1+\cdots +d_r)^{b_s}}\cdot\prod_{i=2}^r\frac{1}{d_i}\cdot\frac{1}{|d_1+\cdots+d_j-x|} \\
&\leq \frac{1}{(r\sqrt[r]{d_1\cdots d_r})^{b_s}}\cdot\prod_{i=2}^r\frac{1}{d_i}\cdot\frac{1}{|d_1+\cdots+d_j-x|}\end{align}

と評価できるが、xが正整数を避けた\mathbb{C}内のコンパクト集合上の元であれば或る定数Cが存在して

\displaystyle \frac{1}{|d_1+\cdots+d_j-x|} \leq \frac{C}{d_1}

と評価できるため*11

\displaystyle \left|\frac{C_{n_j}^{\boldsymbol{n}}}{n_j-x}\right| \leq \frac{C}{(r\sqrt[r]{d_1\cdots d_r})^{b_s}}\cdot\prod_{i=1}^r\frac{1}{d_i}

となって、

\displaystyle \sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\left|\frac{C_{n_j}^{\boldsymbol{n}}}{n_j-x}\right| \leq \sum_{d_1=1}^{\infty}\cdots \sum_{d_r=1}^{\infty}\frac{C}{(r\sqrt[r]{d_1\cdots d_r})^{b_s}}\cdot\prod_{i=1}^r\frac{1}{d_i}

に到達する。これはRiemannゼータ値の収束性から有限である。 Q.E.D.

以下、x':=x-1とします。

補題2 n, bが正整数であるとき、
\begin{align} \frac{x}{(n-x)n^b}-\frac{1}{(n-x)n^{b-1}}&=\frac{x'}{(n-x)(n-1)^b}-\frac{1}{(n-x)(n-1)^{b-1}} \\
&\quad +\left(\frac{1}{(n-1)^b}-\frac{1}{n^b}\right) \end{align}\tag{12}
\displaystyle \frac{x}{(n-x)n}=\frac{x'}{(n-x)(n-1)}+\left(\frac{1}{n-1}-\frac{1}{n}\right) \tag{13}
が成り立つ。

証明. 眺めてみると自明であるとわかる。 Q.E.D.

(a_i, b_i)_{i=1}^s \ (a_i, b_i \in \mathbb{Z}_{>0})(d_i)_{i=1}^s \ (d_i \in \mathbb{Z}_{\geq 0})に対して、[\{a_i, (b_i, d_i)\}_{i=1}^s; x]

\displaystyle [\{a_i, (b_i, d_i)\}_{i=1}^s; x]:=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\prod_{i=1}^s\frac{1}{(n_{A_{i-1}+1}-x)\cdots (n_{A_i}-x)(n_{A_i}-d_i)^{b_i}}

とおきます。また、a_ib_i0の場合であっても次の二つのルールによって一部定義を認めます。

[\{\cdots, a_{i-1}, (0, d_i), a_i, \dots\}; x]=[\{\cdots, a_{i-1}+a_i, \dots\}; x]

[\{\cdots, (b_{i-1}, d), 0, (b_i, d), \dots\}; x]= [\{\cdots, (b_{i-1}+b_i, d), \dots\}; x]

補題を五つ用意します。

補題3 b_s \geq 2であれば
\begin{align} &x[\{\cdots, a_s, (b_s, 0)\}; x]-[\{\cdots, a_s, (b_s-1, 0)\}; x]-[\{\cdots, a_s-1, (b_s, 0)\}; x]\\
&=x'[\{\cdots, a_s, (b_s, 1)\}; x]-[\{\cdots, a_s, (b_s-1, 1)\}; x]\end{align}
が成り立つ。

証明. \boldsymbol{n}=(n_1, \dots, n_{r-1})に対して、A^{\boldsymbol{n}}

\displaystyle A^{\boldsymbol{n}}:=\left(\prod_{i=1}^{s-1}(n_{A_{i-1}}-x)\cdots(n_{A_i}-x)(n_{A_i}-d_i)^{b_i}\right)(n_{A_{s-1}}-x)\cdots(n_{A_s-1}-x)

とおく。このとき、補題2(12)より

\begin{align} &x[\{\cdots, a_s, (b_s, 0)\}; x]-[\{\cdots, a_s, (b_s-1, 0)\}; x] \\ &=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\left\{\frac{x}{(n_r-x)n_r^{b_s}}-\frac{1}{(n_r-x)n_r^{b_s-1}}\right\}\frac{1}{A^{\boldsymbol{n}}} \\
&=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\left\{\frac{x'}{(n_r-x)(n_r-1)^{b_s}}-\frac{1}{(n_r-x)(n_r-1)^{b_s-1}}+\left(\frac{1}{(n_r-1)^{b_s}}-\frac{1}{n_r^{b_s}}\right)\right\}\frac{1}{A^{\boldsymbol{n}}} \\
&=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\left\{\frac{x'}{(n_r-x)(n_r-1)^{b_s}}-\frac{1}{(n_r-x)(n_r-1)^{b_s-1}}\right\}\frac{1}{A^{\boldsymbol{n}}} \\
&\qquad +\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_{r-1}}\sum_{n_r=n_{r-1}+1}^{\infty}\left(\frac{1}{(n_r-1)^{b_s}}-\frac{1}{n_r^{b_s}}\right)\frac{1}{A^{\boldsymbol{n}}} \\
&=x'[\{\cdots, a_s, (b_s, 1)\}; x]-[\{\cdots, a_s, (b_s-1, 1)\}; x]+[\{\cdots, a_s-1, (b_s, 0)\}; x]\end{align}

と計算できる。 Q.E.D.

補題4 b_s=1であれば
x[\{\cdots, a_s, (1, 0)\}; x]-[\{\cdots, a_s-1, (1, 0)\}; x]=x'[\{\cdots, a_s, (1,1)\}; x]
が成り立つ。

証明. A^{\boldsymbol{n}}は補題3と同様とする。補題2(13)より

\begin{align}x[\{\cdots, a_s, (1, 0)\}; x] &= \sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\frac{x}{(n_r-x)n_r}\frac{1}{A^{\boldsymbol{n}}} \\
&= \sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\frac{x'}{(n_r-x)(n_r-1)}\frac{1}{A^{\boldsymbol{n}}}+ \sum_{0 < n_1 < \cdots < n_{r-1}}\sum_{n_r=n_{r-1}+1}^{\infty}\left(\frac{1}{n_r-1}-\frac{1}{n_r}\right)\frac{1}{A^{\boldsymbol{n}}} \\
&=x'[\{\cdots, a_s, (1,1)\}; x]+[\{\cdots, a_s-1, (1, 0)\}; x]\end{align}

と計算できる。 Q.E.D.

補題5 i\neq 1, sまたは「i=1かつa_1\neq 1」であれば
\begin{align}&x[\{\cdots, a_i, (b_i, 0), a_{i+1}, \cdots\}; x]-[\{\cdots, a_i, (b_i-1,0), a_{i+1}, \cdots\}; x] \\
&\qquad-[\{\cdots, a_i-1, (b_i, 0), a_{i+1}, \cdots\}; x]\\
&=x'[\{\cdots, a_i, (b_i, 1), a_{i+1}, \cdots\}; x]-[\{\cdots, a_i, (b_i-1, 1), a_{i+1}, \cdots\}; x]\\
&\qquad -[\{\cdots, a_i, (b_i, 1), a_{i+1}-1, \cdots\}; x]\end{align}
が成り立つ。

証明. \boldsymbol{n}=(n_1, \dots, n_r)に対して

\displaystyle A^{\boldsymbol{n}, i}:=\sum_{j=1}^{i-1}(n_{A_{j-1}+1}-x)\cdots(n_{A_j}-x)(n_{A_j}-d_j)^{b_j}

\displaystyle B^{\boldsymbol{n}, i}:=\left(\sum_{j=i+1}^s(n_{A_{j-1}+1}-x)\cdots(n_{A_j}-x)(n_{A_j}-d_j)^{b_j}\right)(n_{A_{i-1}+1}-x)\cdots(n_{A_{i}-1}-x)

とする(ただし、A^{\boldsymbol{n}, 1}:=1)。このとき、補題2(12)より

\begin{align} &x[\{\cdots, a_i, (b_i, 0), a_{i+1}, \cdots\}; x]-[\{\cdots, a_i, (b_i-1,0), a_{i+1}, \cdots\}; x] \\
&=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\frac{1}{A^{\boldsymbol{n}, i}}\left\{\frac{x}{(n_{A_i}-x)n_{A_i}^{b_i}}-\frac{1}{(n_{A_i}-x)n_{A_i}^{b_i-1}}\right\}\frac{1}{B^{\boldsymbol{n}, i}} \\
&=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\frac{1}{A^{\boldsymbol{n}, i}}\left\{\frac{x'}{(n_{A_i}-x)(n_{A_i}-1)^{b_i}}-\frac{1}{(n_{A_i}-x)(n_{A_i}-1)^{b_i-1}} +\left(\frac{1}{(n_{A_i}-1)^{b_i}}-\frac{1}{n_{A_i}^{b_i}}\right)\right\}\frac{1}{B^{\boldsymbol{n}, i}} \\
&=x'[\{\cdots, a_i, (b_i, 1), a_{i+1}, \cdots\}; x]-[\{\cdots, a_i, (b_i-1, 1), a_{i+1}, \cdots\}; x]\\
&\qquad +\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_{A_i-1} < n_{A_i+1}< \cdots < n_r}\frac{1}{A^{\boldsymbol{n}, i}}\left\{\sum_{n_{A_i}=n_{A_i-1}+1}^{n_{A_i+1}-1}\left(\frac{1}{(n_{A_i}-1)^{b_i}}-\frac{1}{n_{A_i}^{b_i}}\right)\right\}\frac{1}{B^{\boldsymbol{n}, i}} \\
&=x'[\{\cdots, a_i, (b_i, 1), a_{i+1}, \cdots\}; x]-[\{\cdots, a_i, (b_i-1, 1), a_{i+1}, \cdots\}; x]\\
&\qquad +\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_{A_i-1} < n_{A_i+1}< \cdots < n_r}\frac{1}{A^{\boldsymbol{n}, i}}\left(\frac{1}{n_{A_i-1}^{b_i}}-\frac{1}{(n_{A_i+1}-1)^{b_i}}\right)\frac{1}{B^{\boldsymbol{n}, i}} \\
&=x'[\{\cdots, a_i, (b_i, 1), a_{i+1}, \cdots\}; x]-[\{\cdots, a_i, (b_i-1, 1), a_{i+1}, \cdots\}; x]\\
&\qquad +[\{\cdots, a_i-1, (b_i, 0), a_{i+1}, \cdots\}; x]-[\{\cdots, a_i, (b_i, 1), a_{i+1}-1, \cdots\}; x]\end{align}

と計算できる。 Q.E.D.

補題6 a_1 \geq 2であれば
\displaystyle [\{a_i, (b_i, 1)\}_{i=1}^s; x]=[\{a_i, (b_i, 0)\}_{i=1}^s; x']-\frac{1}{x'}[\{a_1-1, (b_1, 0), \{a_i, (b_i, 0)\}_{i=2}^s\}; x']
が成り立つ。

証明.n_i1ずらすことによって

\begin{align} [\{a_i, (b_i, 1)\}_{i=1}^s; x]&=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\prod_{i=1}^s\frac{1}{(n_{A_{i-1}+1}-x)\cdots(n_{A_i}-x)(n_{A_i}-1)^{b_i}} \\ 
&=\sum_{0 \leq n_1 < \cdots < n_r}\prod_{i=1}^s\frac{1}{(n_{A_{i-1}+1}-x')\cdots(n_{A_i}-x')n_{A_i}^{b_i}}\end{align}

と変形でき、

\displaystyle \sum_{0 \leq n_1 < \cdots < n_r}=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}+\sum_{0 = n_1 < n_2 < \cdots < n_r}

と和を分けることによって所望の式を得る。 Q.E.D.

補題7 a_1 =1であれば
\begin{align} &x[\{1,(b_1,0),\{a_i,(b_i,1)\}_{i=2}^s\};x]-[\{1,(b_1-1,0),\{a_i,(b_i,1)\}_{i=2}^s\};x] \\
&=x'[\{1,(b_1,0),\{a_i,(b_i,0)\}_{i=2}^s\};x']-[\{1,(b_1-1,0),\{a_i,(b_i,0)\}_{i=2}^s\};x'] \\
&\qquad -[\{1,(b_1,0),a_2-1,(b_2,0),\{a_i,(b_i,0)\}_{i=3}^s\};x']\end{align}
が成り立つ。

証明. \frac{x}{(n_1-x)n_1^{b_1}}-\frac{1}{(n_1-x)n_1^{b_1-1}}=-\frac{1}{n_1^{b_1}}より、各n_i1ずらすテクニックによって

\begin{align}&x[\{1,(b_1,0),\{a_i,(b_i,1)\}_{i=2}^s\};x]-[\{1,(b_1-1,0),\{a_i,(b_i,1)\}_{i=2}^s\};x] \\
&=-\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\frac{1}{n_1^{b_1}}\prod_{i=2}^s\frac{1}{(n_{A_{i-1}+1}-x)\cdots(n_{A_i}-x)(n_{A_i}-1)^{b_i}} \\
&=-\sum_{0 \leq n_1 < \cdots < n_r}\frac{1}{(n_1+1)^{b_1}}\prod_{i=2}^s\frac{1}{(n_{A_{i-1}+1}-x')\cdots(n_{A_i}-x')n_{A_i}^{b_i}} \\
&=-\sum_{0 < n_1 \leq n_2 < \cdots < n_r}\frac{1}{n_1^{b_1}}\prod_{i=2}^s\frac{1}{(n_{A_{i-1}+1}-x')\cdots(n_{A_i}-x')n_{A_i}^{b_i}} \\
&=-\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\frac{n_1-x'}{(n_1-x')n_1^{b_1}}\prod_{i=2}^s\frac{1}{(n_{A_{i-1}+1}-x')\cdots(n_{A_i}-x')n_{A_i}^{b_i}}\\
&\qquad -\sum_{0 < n_2 < \cdots < n_r}\frac{1}{(n_2-x')n_2^{b_1}}\frac{1}{(n_3-x')\cdots(n_{A_2}-x')n_{A_2}^{b_2}}\prod_{i=3}^s\frac{1}{(n_{A_{i-1}+1}-x')\cdots(n_{A_i}-x')n_{A_i}^{b_i}}\\
&=x'[\{1,(b_1,0),\{a_i,(b_i,0)\}_{i=2}^s\};x']-[\{1,(b_1-1,0),\{a_i,(b_i,0)\}_{i=2}^s\};x'] \\
&\qquad -[\{1,(b_1,0),a_2-1,(b_2,0),\{a_i,(b_i,0)\}_{i=3}^s\};x']\end{align}

と計算できる。 Q.E.D.

命題 I=\{(0,0),(1,0),(0,1)\}とする。このとき、差分関係式
\begin{align}&\sum_{( (\delta_1, \varepsilon_1), \dots, (\delta_s, \varepsilon_s) ) \in I^s}(-x)^{s-|\delta|-|\varepsilon|}z( (a_i-\delta_i, b_i-\varepsilon_i)_{i=1}^s; x) \\
&=\sum_{\delta_1' \in \{0,1\}}\sum_{( (\delta'_2, \varepsilon'_2), \dots, (\delta'_{s}, \varepsilon'_{s}) ) \in I^{s-1}}\sum_{\varepsilon_{s+1}' \in \{0,1\}}(-x')^{s-|\delta'|-|\varepsilon'|}z( (a_i-\delta'_i, b_i-\varepsilon'_{i+1})_{i=1}^s; x')\end{align}
が成り立つ。ここで、|\delta|\delta_iの総和であり、他も同様。また、上の差分関係式はzz'に置き換えても成立する。ここで、z'( (a_i,b_i)_{i=1}^s; x):=z( (b_i,a_i)_{i=s}^1; x)とする。

証明. まず、zの場合を示す。z( (a_i, b_i)_{i=1}^s; x)=[\{a_i, (b_i, 0)\}_{i=1}^s; x)]より

\begin{align}&\sum_{( (\delta_1, \varepsilon_1), \dots, (\delta_s, \varepsilon_s) ) \in I^s}(-x)^{s-|\delta|-|\varepsilon|}z( (a_i-\delta_i, b_i-\varepsilon_i)_{i=1}^s; x) \\
&= \sum_{( (\delta_1, \varepsilon_1), \dots, (\delta_s, \varepsilon_s) ) \in I^s}(-x)^{s-|\delta|-|\varepsilon|}[\{a_i-\delta_i, (b_i-\varepsilon_i, 0)\}_{i=1}^s; x]\end{align}

である。a_1, b_s \geq 2の場合を考える。補題3よりこれは

\displaystyle \sum_{( (\delta_1, \varepsilon_1), \dots, (\delta_{s-1}, \varepsilon_{s-1}) ) \in I^{s-1}}\sum_{\varepsilon'_{s+1} \in \{0, 1\}}(-x)^{s-1-|\delta|-|\varepsilon|}(-x')^{1-|\varepsilon'|}[\{\{a_i-\delta_i, (b_i-\varepsilon_i, 0)\}_{i=1}^{s-1}, a_s, (b_s-\varepsilon'_{s+1},1)\}; x]

に等しい。補題5をs-1回適用することによって

\displaystyle \sum_{( (\delta'_2, \varepsilon'_2), \dots, (\delta'_s, \varepsilon'_s) ) \in I^{s-1}}\sum_{\varepsilon'_{s+1} \in \{0, 1\}}(-x')^{s-|\delta'|-|\varepsilon'|}[\{a_1, (b_1-\varepsilon'_2, 1), \{a_i-\delta'_i, (b_i-\varepsilon'_{i+1}, 1)\}_{i=2}^s\}; x]

に変形でき、補題6よりこれは

\displaystyle \sum_{\delta_1' \in \{0,1\}}\sum_{( (\delta'_2, \varepsilon'_2), \dots, (\delta'_s, \varepsilon'_s) ) \in I^{s-1}}\sum_{\varepsilon'_{s+1} \in \{0, 1\}}(-x')^{s-|\delta'|-|\varepsilon'|}[\{a_i-\delta'_i, (b_i-\varepsilon'_{i+1}, 0)\}_{i=1}^s; x']

に等しい。これは

\displaystyle \sum_{\delta_1' \in \{0,1\}}\sum_{( (\delta'_2, \varepsilon'_2), \dots, (\delta'_{s}, \varepsilon'_{s}) ) \in I^{s-1}}\sum_{\varepsilon_{s+1}' \in \{0,1\}}(-x')^{s-|\delta'|-|\varepsilon'|}z( (a_i-\delta'_i, b_i-\varepsilon'_{i+1})_{i=1}^s; x')

に他ならない。端が0のときはz=0と定義していることを思い出して、b_s=1の場合は補題3の代わりに補題4を適用すればよく、a_1=1の場合は補題5の適用をs-2回にし、補題6の代わりに補題7を適用すればよい。z'は文字を入れ替えているだけなので、やはり同じ差分関係式を満たす。 Q.E.D.

大野関係式の証明 (by 奥田-上野 [OU]) x付き多重ゼータ値の双対性

z( (a_i, b_i)_{i=1}^s; x)=z'( (a_i, b_i)_{i=1}^s; x)

を重さに関する帰納法で証明する。(a_i, b_i)_{i=1}^s=(1,1)の場合は自明。以下、(a_i, b_i)_{i=1}^sの重さより小さい場合の成立を仮定する。命題より差分関係式

\begin{align}&\sum_{( (\delta_1, \varepsilon_1), \dots, (\delta_s, \varepsilon_s) ) \in I^s}(-x)^{s-|\delta|-|\varepsilon|}\left(z( (a_i-\delta_i, b_i-\varepsilon_i)_{i=1}^s; x)-z'( (a_i-\delta_i, b_i-\varepsilon_i)_{i=1}^s; x)\right) \\
&=\sum_{\delta_1' \in \{0,1\}}\sum_{( (\delta_2, \varepsilon_2), \dots, (\delta_{s}, \varepsilon_{s}) ) \in I^{s-1}}\sum_{\varepsilon_{s+1}' \in \{0,1\}}(-x')^{s-|\delta'|-|\varepsilon'|} \\
&\qquad \qquad \times \left(z( (a_i-\delta'_i, b_i-\varepsilon'_{i+1})_{i=1}^s; x')-z'( (a_i-\delta'_i, b_i-\varepsilon'_{i+1})_{i=1}^s; x')\right)\end{align}

が成り立つが、帰納法の仮定によって殆どの項は消え、残りは

\begin{align} F(x)&:=(-x)^s\left(z( (a_i, b_i)_{i=1}^s; x)-z'( (a_i, b_i)_{i=1}^s; x)\right) \\
&= (-x')^s\left(z( (a_i, b_i)_{i=1}^s; x')-z'( (a_i, b_i)_{i=1}^s; x')\right) = F(x-1)\end{align}

という関数方程式となる。補題1より有理型関数F(x)

\displaystyle F(x) = x^s\sum_{n=1}^{\infty}\frac{C_n}{n-x}

という形をしている。もし、C_n \neq 0であれば F(x) = F(x+n) よりF(x)x=0を極に持つことになってしまうが、zの定義にさかのぼればF(x)x=0を極に持たない。よって、任意のnに対してC_n=0であり、F(x)=0が成り立つ。これが示したかった式である。 Q.E.D.

双対関係式の別証明の探求

双対関係式は多重ゼータ値の反復積分表示が発見されると同時に自明に証明されたわけですが、私は「別証明が全然ない」「双対関係式とは反復積分表示由来の現象である」といった空気を感じていました*12

多重ゼータ値の種々の関係式族について、その独立性・従属性を明らかにするという問題があります*13。[IKZ]に書かれている正規化複シャッフル関係式(RDS)という大きい関係式族があり、和公式や導分関係式はRDSに含まれていることが示されています。一方で、双対関係式がRDSに含まれているかどうかは長い間未解決の難問です。この問題のことを考えたときに、私は取り敢えず双対関係式の級数変形による証明を探すべきだと考えました。というのもRDSの"複シャッフル"は多重ゼータ値の級数表示と積分表示のそれぞれから得られる二種類のシャッフル積構造に由来したものだからです。級数証明があればきっとそれは参考になるだろうと。

或いは和公式はGranvilleとZagierによって級数証明と積分証明が出揃っていましたが、多重ゼータ値のもつ二面性を思うとき、もしかするとどちらの表示に由来するとかいう話ではなく任意の関係式について級数証明および積分証明の両方があるのではないかという漠然とした考えも最近は持っています*14

実際既に紹介したように、双対関係式の重さが最も小さい非自明な例であるEulerの等式\zeta(1,2)=\zeta(3)については見事な級数証明がありました。[AK]の演習問題3にあるように、\zeta(1,2)+\zeta(3)を考えていた部分を\zeta(1,k-1)+\zeta(k)に変えると(6)の証明に拡張することができますが、双対関係式の証明には少し考えても延びそうにありません。しかし、この程度の失敗でEulerの等式の証明のような部分分数分解や望遠鏡和のみを巧みに使った双対関係式の証明はないと言い切れるでしょうか。

というわけで、脚注で述べているように幸運な(?)無知があったものの、2017年の夏前頃には双対関係式の級数変形による証明を絶対に発見してやる!!と考えるようになりました。単純に[AK]のp.14に書いてある「この定理の積分表示を使わない証明はあるのだろうか」という疑問に答えたいという気持ちも強かったです。

もし双対関係式の級数証明があるのであれば、特別な場合としてEulerの等式\zeta(1,2)=\zeta(3)の一つの証明を与えることになるはずです。そこで、私はまず初めに[BB]に書いてあるEulerの等式の三十二通りの証明のうち級数証明と呼べるものを一つずつ拡張することを考えました。

この作戦は失敗に終わりました。双対関係式の級数証明を得るためには[BB]には書いてないEulerの等式の新証明をも発見する必要に迫られたわけです。これは実にやりがいのある仕事に思えました。そもそも所望の証明など存在しない、本質的に反復積分に由来するのかもしれないという怖さもありましたが、もっと双対関係式の本質を見抜かねばならないと思い、存在してくれるかもしれない証明に思いを馳せました。

転機は2018年2月に訪れました。某所で山本修司さんの講演を聴いたときです。彼は多重ゼータ値に関する別の関係式のある外国人研究者が与えた証明を整理するという内容を話されていました。これを聴いてインスピレーションが沸きました。このアイデアは双対関係式にも利用できると。そうして私はそのアイデアを山本さんに伝え、それを聴いた山本さんがなんと双対関係式の新証明を私の目の前で実際に見つけてしまいました!!!!!この日の興奮と悔しさは一生忘れられないでしょう。本当に自分の妄想した証明が存在した興奮と自分で証明を完成させられなかった悔しさを!あまりに悔しくて自分でも色々と追加的内容を考えたり研究討論を重ね、結局は山本さんと二つの共著論文を仕上げることができました。以下、一つ目の論文である[SY]の内容を紹介します。

双対関係式の反復積分による証明は変数変換という武器によって一瞬にして双対へ変身するというものでしたが、実はこの変身は\mathrm{wt}(\boldsymbol{k})回のステップを経ており、その途中形態を明らかにしたものが[SY]の証明です。それを詳しく述べるために、双対インデックスの再解釈を行いましょう。

許容インデックス\boldsymbol{k}\boldsymbol{k}と空インデックス\varnothingのペア(\boldsymbol{k}; \varnothing)と考えて、\mathrm{wt}(\boldsymbol{k})回左から右へ1ずつ輸送していきます。そのルールは

\begin{align} &(k_1, \dots, k_r\color{red}{, 1}; l_1, \dots, l_s) \rightarrow (k_1, \dots, k_r; l_1, \dots, l_s\color{red}{+1}) \quad (s > 0) \\
&(k_1, \dots, k_r\color{red}{+1}; l_1, \dots, l_s) \rightarrow (k_1, \dots, k_r; l_1, \dots, l_s\color{red}{, 1}) \quad (r > 0)\end{align}

で、スローガンは『「, 1」を「+1」へ、「+1」を「, 1」へ』です。例えば(1, 2)のケースだと

(1, 2; \varnothing) = (1, 1\color{red}{+1}; \varnothing) \rightarrow (1, 1; \color{red}{1})=(1\color{red}{, 1}; 1) \rightarrow (1; 1\color{red}{+1})=(\color{red}{1}, 2) \rightarrow (\varnothing; 2\color{red}{+1})=(\varnothing; 3)

と三回輸送します。すると、(1, 2; \varnothing)(\varnothing; 3)に移り変わり、双対関係(1, 2)^{\dagger}=(3)と対応しています。

一般の許容インデックスの場合にも、このルールに従って(\boldsymbol{k}; \varnothing)\mathrm{wt}(\boldsymbol{k})回変形すると(\varnothing; \boldsymbol{k}^{\dagger})になります。これは、もともとの双対インデックスの定義と照らし合わした際に

(\boldsymbol{k}, \{1\}^{a-1}, b+1\color{blue}{;} \boldsymbol{l}) \ \underbrace{\rightarrow \cdots \rightarrow}_{b\text{回}} \ (\boldsymbol{k}, \{1\}^a\color{blue}{;} \boldsymbol{l}, \{1\}^b) \ \underbrace{\rightarrow \cdots \rightarrow}_{a\text{回}} \ (\boldsymbol{k}\color{blue}{;} \boldsymbol{l}, \{1\}^{b-1}, a+1)

という変形をインデックスの高さ回行うことによってわかります。こうして、もはやこの輸送ルールこそが双対インデックスの定義と思ってよいことがわかりました。

このような考察を行うと、もし二つのインデックス\boldsymbol{k}; \boldsymbol{l}に対してZ(\boldsymbol{k}; \boldsymbol{l})という量が定まって

  1. Z(\boldsymbol{k}; \varnothing)=Z(\varnothing; \boldsymbol{k}) = \zeta(\boldsymbol{k}) \quad (\boldsymbol{k}: 許容インデックス)
  2. Z(k_1, \dots, k_r\color{red}{, 1}; l_1, \dots, l_s)=Z(k_1, \dots, k_r; l_1, \dots, l_s\color{red}{+1}) \quad (s > 0)
  3. Z(k_1, \dots, k_r\color{red}{+1}; l_1, \dots, l_s)=Z(k_1, \dots, k_r; l_1, \dots, l_s\color{red}{, 1}) \quad (r > 0)

が成り立てば、多重ゼータ値の輸送が可能となり、その時点で双対関係式が証明されたことになることがわかります。更に、もし対称性Z(\boldsymbol{k}; \boldsymbol{l})=Z(\boldsymbol{l}; \boldsymbol{k})が成り立てば、2. 3.のいずれか一方だけを証明すればよいです。

このZ(\boldsymbol{k}; \boldsymbol{l})こそが変身過程における途中形態であり、[SY]では所望のZ(\boldsymbol{k}; \boldsymbol{l})を定義することに成功しています。

コネクターの発見と双対関係式の新証明

\boldsymbol{k}=(k_1, \dots, k_s)\boldsymbol{l}=(l_1, \dots, l_s)に対して

\displaystyle \sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_r^{k_r}}

\displaystyle \sum_{0 < m_1 < \cdots < m_s}\frac{1}{m_1^{l_1}\cdots m_s^{l_s}}

を上手く連結して連結和Z(\boldsymbol{k}; \boldsymbol{l})を定義したいのですが、そのためにコネクターと呼ばれる式を見つけます。この場合のコネクターは

\displaystyle \frac{n_r!\cdot m_s!}{(n_r+m_s)!}

という式です(二項係数の逆数ですが、対称性を強調するためにこのように書いています)。

それでは、双対関係式の新証明を鑑賞しましょう。



双対関係式の新証明 (by [SY])
\boldsymbol{k}=(k_1, \dots, k_r), \boldsymbol{l}=(l_1, \dots, l_s)をインデックスとする(許容インデックスでなくてもよいし空インデックス*15でもよい)。\boldsymbol{k}, \boldsymbol{l}に対して、連結和Z(\boldsymbol{k}; \boldsymbol{l})

\displaystyle Z(\boldsymbol{k}; \boldsymbol{l}):=\sum_{\substack{0=n_0 < n_1 < \cdots < n_r \\ 0=m_0 < m_1 < \cdots < m_s}}\prod_{i=1}^r\frac{1}{n_i^{k_i}}\prod_{j=1}^s\frac{1}{m_j^{l_j}}\cdot \frac{n_r!\cdot m_s!}{(n_r+m_s)!}  \in \mathbb{R} \cup \{+\infty\}

と定義する。このとき、定義より連結和は対称性Z(\boldsymbol{k}; \boldsymbol{l})=Z(\boldsymbol{l}; \boldsymbol{k})を満たし、許容インデックス\boldsymbol{k}に対してZ(\boldsymbol{k}; \varnothing)=\zeta(\boldsymbol{k})である。

正整数a, mと非負整数nに対する望遠鏡和の等式

\displaystyle \sum_{a=n+1}^{\infty}\frac{1}{a}\cdot\frac{a!\cdot m!}{(a+m)!} =\frac{1}{m}\sum_{a=n+1}^{\infty}\left(\frac{(a-1)!\cdot m!}{(a-1+m)!}-\frac{a!\cdot m!}{(a+m)!}\right) =\frac{1}{m}\cdot\frac{n!\cdot m!}{(n+m)!} \tag{14}

Z(k_1, \dots, k_r, 1; l_1, \dots, l_s)の定義においてn=n_r, m=m_s, a=n_{r+1}として適用することによって

Z(k_1, \dots, k_r\color{red}{, 1}; l_1, \dots, l_s)=Z(k_1, \dots, k_r; l_1, \dots, l_s\color{red}{+1}) \quad (s > 0)

が成り立ち、連結和の対称性より

Z(k_1, \dots, k_r\color{red}{+1}; l_1, \dots, l_s)=Z(k_1, \dots, k_r; l_1, \dots, l_s\color{red}{, 1}) \quad (r > 0)

も成立する。許容インデックス\boldsymbol{k}に対して、上記二つの関係式を\mathrm{wt}(\boldsymbol{k})回適用することによって

\zeta(\boldsymbol{k})=Z(\boldsymbol{k}; \varnothing) = \cdots = Z(\varnothing; \boldsymbol{k}^{\dagger})= \zeta(\boldsymbol{k}^{\dagger})

と双対関係式が証明される。 Q.E.D.



\mathrm{wt}(\boldsymbol{k})回の式変形を要しますが、それらは全て同じ一つの等式(14)なので証明は単純になっています。また、(14)の証明が私のお気に入りである望遠鏡和であるというのも好きな点です。具体例を見ると、Eulerの等式の場合は

\begin{align} \zeta(1,2) &=\sum_{0 < n_1 < n_2}\frac{1}{n_1n_2^2}\\
&=\sum_{0 < n_1 < n_2}\sum_{m=1}^{\infty}\frac{1}{n_1n_2}\cdot\frac{1}{m}\cdot\frac{n_2!\cdot m!}{(n_2+m)!}\\
&=\sum_{n_1=1}^{\infty}\sum_{m=1}^{\infty}\frac{1}{n_1}\cdot\frac{1}{m^2}\cdot\frac{n_1!\cdot m!}{(n_1+m)!} \\
&=\sum_{m=1}^{\infty}\frac{1}{m^3}=\zeta(3)\end{align}

と証明されます。

重さが2のときは(2)^{\dagger}=(2)と自己双対でしたが、我々の手法では

\zeta(2) = Z(1; 1) = \zeta(2)

と途中でZ(1;1)を経由して自分自身に戻ることがわかります。この正体は定義より

\displaystyle Z(1;1) = \sum_{i=1}^{\infty}\sum_{j=1}^{\infty}\frac{1}{i}\cdot\frac{1}{j}\cdot\frac{i!\cdot j!}{(i+j)!}=\sum_{i=1}^{\infty}\sum_{j=1}^{\infty}\frac{(i-1)!(j-1)!}{(i+j)!}

なので、(1)\zeta(2)の自分自身への変身途中の姿であることがわかりました!

大野関係式の新証明

上記新証明の意義は幾つか考えられますが、例えば級数の研究にコネクターと連結和という新しい視点を導入したことや*16、(関数体版などの)他の種類の多重ゼータ値であって反復積分表示が知られていないような場合にも新しい道を提供できた可能性があることが挙げられます。

一方で単に双対関係式の証明という観点で見た場合、今回の証明はとても単純ではあるものの、元々知られていた反復積分による証明がこの上なく単純だったためにどれほどの利点があるかわかりません。ところが、大野関係式への拡張を考えた際に予期せぬ利点が見えてきます。

大野先生による大野関係式の証明を思い出すと、双対関係式とは違って非自明な計算をある程度の量だけ実行する必要がありました。奥田-上野による大野関係式の証明は双対関係式に特殊化して簡単になるということはなく、証明を追ってみると感動を覚える巧みな手法ですが、やはりそれなりの分量が必要となります。また、関係式族と見ても大野関係式と双対関係式の差は導分関係式と呼ばれる巨大な関係式族になっており、導分関係式の存在する証明達の中に(私が知る限りでは)自明なものはありません。以上のような観点で、双対関係式よりも大野関係式の方がより非自明なものであり、その差は非常に大きいという認識を持っています。

にも関わらず、驚くべきことに、[SY]の証明手法は大野関係式に拡張しても証明の長さが殆ど変わりません!!



大野関係式の新証明 (by [SY])
\boldsymbol{k}=(k_1, \dots, k_r), \boldsymbol{l}=(l_1, \dots, l_s)をインデックスとする(許容インデックスでなくてもよいし空インデックスでもよい)。\boldsymbol{k}, \boldsymbol{l}, 実数x \ (|x| < 1)に対して、連結和Z(\boldsymbol{k}; \boldsymbol{l}; x)

\displaystyle Z(\boldsymbol{k}; \boldsymbol{l}; x):=\sum_{\substack{0=n_0 < n_1 < \cdots < n_r \\ 0=m_0 < m_1 < \cdots < m_s}}\prod_{i=1}^r\frac{1}{(n_i-x)n_i^{k_i-1}}\prod_{j=1}^s\frac{1}{(m_j-x)m_j^{l_j-1}}\cdot \frac{(1-x)_{n_r}(1-x)_{m_s}}{(1-x)_{n_r+m_s}}  \in \mathbb{R} \cup \{+\infty\}

と定義する((1-x)_nPochhammer記号)。このとき、定義より連結和は対称性Z(\boldsymbol{k}; \boldsymbol{l}; x)=Z(\boldsymbol{l}; \boldsymbol{k}; x)を満たし、許容インデックス\boldsymbol{k}に対してZ(\boldsymbol{k}; \varnothing; x)=Z(\boldsymbol{k}; x)である。

正整数a, mと非負整数nに対する望遠鏡和の等式

\begin{align} \sum_{a=n+1}^{\infty}\frac{1}{a-x}\cdot\frac{(1-x)_{a}(1-x)_{m}}{(1-x)_{a+m}} &=\frac{1}{m}\sum_{a=n+1}^{\infty}\left(\frac{(1-x)_{a-1}(1-x)_{m}}{(1-x)_{a-1+m}}-\frac{(1-x)_{a}(1-x)_{m}}{(1-x)_{a+m}}\right) \\ 
&=\frac{1}{m}\cdot\frac{(1-x)_{n}(1-x)_{m}}{(1-x)_{n+m}}\end{align}

Z(k_1, \dots, k_r, 1; l_1, \dots, l_s; x)の定義においてn=n_r, m=m_s, a=n_{r+1}として適用することによって

Z(k_1, \dots, k_r\color{red}{, 1}; l_1, \dots, l_s; x)=Z(k_1, \dots, k_r; l_1, \dots, l_s\color{red}{+1}; x) \quad (s > 0)

が成り立ち、連結和の対称性より

Z(k_1, \dots, k_r\color{red}{+1}; l_1, \dots, l_s; x)=Z(k_1, \dots, k_r; l_1, \dots, l_s\color{red}{, 1}; x) \quad (r > 0)

も成立する。許容インデックス\boldsymbol{k}に対して、上記二つの関係式を\mathrm{wt}(\boldsymbol{k})回適用することによって

Z(\boldsymbol{k}; x)=Z(\boldsymbol{k}; \varnothing; x) = \cdots = Z(\varnothing; \boldsymbol{k}^{\dagger}; x)= Z(\boldsymbol{k}^{\dagger}; x)

x付き多重ゼータ値の双対性が証明される。xの冪級数に展開してx^cの係数を比較すればO(\boldsymbol{k}; c)=O(\boldsymbol{k}^{\dagger}; c)が得られる。 Q.E.D.



双対関係式の証明と大野関係式の証明に差がないものとしては他にUlanskiiによるものがあって([U])、そちらも大変単純で美しい証明なのですが、反復積分の変数変換による証明であるためq-多重ゼータ値の大野関係式の証明には延びません。一方、上記証明はq-多重ゼータ値にしてもそのまま適用できます!([SY]参照)

また、和公式の場合はGranvilleによる級数変形による証明が存在していましたが、[SY]の証明は和公式に限定してもGranvilleの証明より短くなっています!

Granvilleの証明は母関数Z(\{1\}^{r-1}, 2; x)を考えた後に部分分数分解して係数を取り出し、現れたABという二つの和をまた母関数で理解して計算するというものでしたが、[SY]の場合は

Z(\{1\}^{r-1}, 2; x) = Z(\{1\}^r; 1; x) = \cdots = Z(r+1; x)

と左から右に輸送していって最後に係数比較するだけでよくなっています。


この記事は以上で終わりたいと思いますが、大野関係式の新証明が私の好きな証明です。

参考文献

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[OU] J. Okuda, K. Ueno, Relations for multiple zeta values and Mellin transforms of multiple polylogarithms, Publ. Res. Inst. Math. Sci., 40(2) (2004), 537–564.
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[Wa] 和山裕嗣, 荒川-金子型多重ゼータ関数 の補間について, 東北大学修士論文, 2017.
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*1:正確には今でいう二重ゼータスター値。

*2:重さが2以下の許容インデックスは(2)しかないので、重さが3になって初めて非自明な関係式が現れ得る。

*3:一体どのようにして発見したのか気になっています。

*4:クレジットはDrinfel'dやLe-村上に与えられることもあります。

*5:[Ho]にはMoenがlengthyに証明したとありますが、[HM]は[M]の結果を受けて非常に短くまとめられています。

*6:[M]にはSchmidtが 1990年に予想したとあり、private communicationとのことです。[Ho]にMoenが予想したと書かれているのは知っていましたが、[HM]を見るとMoenが1988年に予想したのはなんとスター版だったようです。同値であることは[Ho]でHoffmanが示しています。

*7:より一般の場合について後ほど書きますが、無限等比級数の和の公式を使うだけです。

*8:このBに関する等式の証明は今見返すとコネクターによる動的証明(と私が呼んでいるもの)になっています。コネクターは\frac{1}{m+l}です。

*9:今となっては他にもたくさん知られていますが、当初も落合先生の証明が知られていました。

*10:これは次のような観察からわかります。まず、大野和におけるc_1+\cdots +c_r=cなる(c_1, \dots, c_r)(c_{1,1}, \dots, c_{1,a_1}, \dots, c_{s,1}, \dots, c_{s,a_s})に名前を変えます。そうすると、(c_1, \dots, c_r)全体はまずl_1+\cdots +l_s=cなる(l_1,\dots, l_s)をとってからc_{i,1}+\cdots+c_{i,a_i}=l_iなる(c_{i,1},\dots,c_{i,a_i})をとるという二段階に分けることができます。インデックス\boldsymbol{k}(\{1\}^{a_i-1}, b_i+1)の部分だけを切り出して考えるとき、対応する微分形式は\Omega(1^{a_i}0^{b_i})でした。ここで、\Omega(\varepsilon_1\cdots\varepsilon_k):=\omega_{\varepsilon_1}(t_1)\cdots\omega_{\varepsilon_k}(t_k)としています(変数は適切に)。大野和を考えるとこの部分のインデックスは(1+c_{i,1},\dots,1+c_{i,a_i-1},b_i+c_{i,a_i}+1)となって、対応する微分形式は\Omega(1\varepsilon_{i,2}\cdots\varepsilon_{i,a_i+l_i}0^{b_i})となります。\varepsilon_{i,2},\dots, \varepsilon_{i,a_i+l_i} \in \{0,1\}であり、この部分の深さは変わらないため\varepsilon_{i,2}+\cdots+\varepsilon_{i,a_i+l_i}=a_i-1です。c_{\bullet}達が足されるl_iだけ0が挿入されるということです。このc_{\bullet}達と\varepsilon_{\bullet}達の対応は一対一なので、形式的には

\displaystyle \sum_{\substack{c_{i,1}+\cdots+c_{i,a_i}=l_i \\ c_{i,1}, \dots, c_{i,a_i} \geq 0}}(1+c_{i,1},\dots,1+c_{i,a_i-1},b_i+c_{i,a_i}+1) \ \longleftrightarrow \ \sum_{\substack{\varepsilon_{i,2}+\cdots+\varepsilon_{i,a_i+l_i}=a_i-1 \\ \varepsilon_{i,2},\dots, \varepsilon_{i,a_i+l_i} \in \{0,1\}}}\Omega(1\varepsilon_{i,2}\cdots\varepsilon_{i,a_i+l_i}0^{b_i})
と対応し、全てのiで考えることによって(9)の成立がわかります。

*11:例えば、三角不等式を用いて、まず |d_1+\cdots +d_j-x| \geq \text{(Const.)}\times(d_1+\cdots+d_j)を示してからd_2+\cdots+d_jを無視すればよい。定数の存在にはコンパクト集合が正整数を避けていることを使うことに注意。

*12:これは実際は誤りで別証明はそれなりにあります。直後に述べる独立性・従属性問題でアソシエータ関係式や(古庄先生によって最近同値性が示された)広瀬・佐藤のコンフルエンス関係式から双対関係式が導出できることが示されているため、それらは双対関係式の別証明を与えていると言えるでしょう。また、Ulanskii ([U])の証明をx=0とした場合は双対関係式の別証明を与えていますが、反復積分による証明です。一方、直後に級数変形による証明が欲しいという話をしますが、紹介した奥田-上野 ([OU])による証明およびBorwein-Chan ([BC])の証明は級数表示を使った証明と言えます。実はこれらの仕事を[SY]の執筆前にはちゃんと把握していなかったのですが、この無知はある意味よかったかもしれません。というのも、もし把握していれば級数変形による証明は既に存在すると判断して今回の仕事が生じなかった可能性があるからです。奥田-上野の証明はxに関して差分をとるため、x=0の場合の双対関係式の場合に特殊化することによって簡単な別証明が得られるというわけでは(おそらく)ありません。また、重さに関する帰納法を用いています。Borwein-Chanは多重ゼータ値の"しっぽ"を考えることによって双対関係式を上手く帰納法で証明しています。これはとても面白いですが、重さに関する帰納法を使わない[SY]の証明法とは異なります。

*13:例えばHoffman代数と呼ばれる代数を使って定式化することができます。

*14:もちろん級数証明や積分証明を厳密に定義できない限りは曖昧な主張ではありますが、吉永先生の本に書いてあるKontsevich-Zagier予想やホロノミック実数に関する予想がモチベーションではあります。また、二つのシャッフル関係式についてもそれぞれ級数・積分証明の両方が知られています([KMT], [S])。

*15:\mathrm{dep}(\varnothing):=0.

*16:幾つかの先行研究が実はコネクターを用いた証明だったということが既に判明していますが、言葉を与えて別の視点で見直すことは新しい研究を生み出す際に大事だと思います。