インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

Chebyshevによる(素数計数関数についての)Legendre予想の否定的解決について

Chebyshevは素数定理の弱い版である

\displaystyle c_1\frac{x}{\log  x} \leq \pi(x) \leq c_2\frac{x}{\log  x}

を示しており(c_1, c_2は正の定数), 極限\displaystyle \lim_{x\to \infty}\frac{\pi(x)\log x}{x}が存在するならば1でなければならないということを示していました.

実は彼はLegendre予想の否定という仕事もやっています(xに関する漸近挙動はx\to \inftyを考える).

Legendre予想 (1798/1808) \pi(x)
\displaystyle \pi(x)=\frac{Bx}{\log x-A+o(1)}\tag{1}
を満たし, 更にA=1.08366..., B=1が成り立つであろう.

とりあえず, これは素数定理より強い予想ですが, Aの値は間違えており, Chebyshevが次を示しました.

定理 (Chebyshev, 1848) (1)が成り立つのであれば, A=B=1でなければならない.

実はGaussは正しく予想していたようです. Chebyshevは\zeta^{(m)}(s)s\to 1+0の挙動を使って少し強い形で定理を証明し, 実際に極限が存在するという難しい部分はde la Valée Poussinが1899年に証明しています(素数定理の証明は1896年).

さて, 実は上記Chebyshevの定理は非常に簡単に証明できることがPintzによって指摘されています.

J. Pintz, On Legendre's prime number formula, Amer. Math. Monthly 87 (1980), 733-735.

その証明を紹介したいのですが, ちょうど私が執筆した素数定理の証明の本

note.mu

の中で示されている公式達を使わせていただくと簡単に紹介できるのでそうさせていただきます. この本では第一世代・第二世代・第三世代のビッグ・オー不等式があって, 第三世代まで行くと素数定理の証明が可能となったということが書かれています(なお, この記事ではビッグ・オー不等式としてではなく漸近公式のみを考えれば十分です).

一言で述べると, 上記Chebyshevの定理は第二世代の(von-Mangoldt関数版の)Mertensの第一定理から瞬殺されます. Pintzが

So it is curious that Legendre's conjecture (1.2) had remained open for 40 years.

とコメントしているのは納得です.

PintzによるChebyshevの定理の証明

\Lambda(n)はvon-Mangoldt関数(素数定理本 定義6.9). \psi(x)は第二Chebyshev関数(素数定理本 定義6.13). 実際には次を示す.

定理 (Pintz) \psi(x)
\displaystyle \psi(x)=Cx+\frac{(D+o(1) )x}{\log x}\tag{2}
を満たすのであれば, C=1かつD=0でなければならない.

補題  f(x)=o(g(x))であり, f(x), g(x)は任意のx\geq aに対して[a,x]でリーマン積分可能であるとする(a \in \mathbb{R}). \int_a^xg(t)\mathrm{d}t\to\infty \ (x \to \infty)であれば,
\displaystyle \int_a^xf(t)\mathrm{d}t=o\left(\int_a^xg(t)\mathrm{d}t\right)
が成り立つ.

証明. 任意に\varepsilon > 0をとり, t\geq cであれば \left|f(t)\right|\leq \varepsilon g(t)が成り立つとする. このとき,

\displaystyle \left|\int_a^xf(t)\mathrm{d}t\right| \leq \int_a^c\left|f(t)\right|\mathrm{d}t+\int_c^x\left|f(t)\right|\mathrm{d}t\leq A+\varepsilon\int_c^x\left|g(t)\right|\mathrm{d}t

と評価できる. ここで, A:=\int_a^c\left|f(t)\right|\mathrm{d}t. 仮定よりxが十分大きければ

\displaystyle \left.\left|\int_a^xf(t)\mathrm{d}t\right|\right/\int_a^xg(t)\mathrm{d}t \leq 2\varepsilon

とできる. Q.E.D.

Pintzの定理からChebyshevの定理が出ること(この部分は基本的ということでPintzの論文には書かれていない): Abelの総和公式(素数定理本 命題5.1)においてa_n=\frac{\Lambda(n)}{\log n}, \varphi(x)=\log xとすると, \displaystyle \sum_{2\leq n\leq x}a_n\varphi(n)=\psi(x)であり,

\displaystyle \sum_{2\leq n \leq x}a_n=\sum_{p^k\leq x}\frac{\log p}{k\log p}=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{k}\pi(x^{\frac{1}{k}}),

\displaystyle \sum_{k=2}^{\infty}\frac{1}{k}\pi(x^{\frac{1}{k}}) \leq\sum_{k=2}^{[\log_2x]}\sqrt{x}=O(\sqrt{x}\log x)=o\left(\frac{x}{\log^2x}\right)

なので, 補題より

\displaystyle \psi(x)=\pi(x)\log x+o\left(\frac{x}{\log x}\right)-\int_2^x\frac{\pi(t)}{t}\mathrm{d}t+o\left(\int_2^x\frac{\mathrm{d}t}{\log^2t}\right)

を得る. Chebyshevの定理を証明するために(1)が成立すると仮定する. \frac{1}{1-X}=1+X+o(X), (X\to 0)に注意すれば,

\displaystyle \pi(x)\log x=\frac{Bx}{1-\frac{A+o(1)}{\log x}}=Bx+\frac{B(A+o(1) )x}{\log x}+o\left(\frac{x}{\log x}\right).

\pi(t)=\frac{Bt}{\log t}+O\left(\frac{t}{\log^2t}\right)より, 素数定理本 補題4.4によって

\displaystyle \int_2^x\frac{\pi(t)}{t}\mathrm{d}t=B\int_2^x\frac{\mathrm{d}t}{\log t}+O\left(\int_2^x\frac{\mathrm{d}t}{\log ^2t}\right).

素数定理本 補題4.5(4), (6)より

\displaystyle O\left(\int_2^x\frac{\mathrm{d}t}{\log^2t}\right)=o\left(\frac{x}{\log x}\right), \quad \int_2^x\frac{\pi(t)}{t}\mathrm{d}t=\frac{Bx}{\log x}+o\left(\frac{x}{\log x}\right).

である. 以上をまとめると,

\displaystyle \psi(x)=Bx+\frac{(B(A-1)+o(1) )x}{\log x}

の成立がわかった. よって, Pintzの定理が正しければ, B=1およびB(A-1)=0が従い, A=B=1となる. Q.E.D.

Pintzの定理の証明. (2)の成立を仮定する. 素数定理本 命題6.18(17)より

\displaystyle \sum_{n\leq x}\frac{\Lambda(n)}{n}=\log x+O(1)\tag{3}

が成り立つ(今は(2)の成立を仮定しているため \psi(x)=O(x)が使用可能であり, 従って命題6.18(17)の証明(=シャピロのタウバー型定理の証明)で比較的難しかった部分の議論は全て不要であることに注意). また, Abelの総和公式をa_n=\Lambda(n) \ (n\geq 2), \varphi(x)=\frac{1}{x}として適用すれば

\displaystyle \sum_{n\leq x}\frac{\Lambda(n)}{n}=\frac{\psi(x)}{x}+\int_2^x\frac{\psi(t)}{t^2}\mathrm{d}t

が得られる. 仮定より右辺は

\displaystyle O(1)+\int_2^x\frac{C+\frac{D+o(1)}{\log t}}{t}\mathrm{d}t=C\log x+(D+o(1) )\log \log x\tag{4}

が成り立つ. ここで,

\displaystyle \int_2^x\frac{\mathrm{d}t}{t\log t}=\log \log x-\log \log 2

と補題を使った. (3), (4)が両立するためには, C=1, D=0でなければならない. Q.E.D.

PID

twitterでブログ記事のお題を募集したところ、みぽさんから次のようなお題をいただきました。

PIDについて何を書こうかなあと思案したところ、むしろユークリッド整域との関係性について書きたくなってきました。なので、タイトル詐欺ではありますがユークリッド整域が主役のお話を書かせていただこうと思います。

この記事の執筆に先立ってツイキャス放送を行っています(動画は五つ)。
PID講義 - 二本松せきゅーん (@integers_blog) - TwitCasting

そこでの内容に沿って執筆致します(一部カット)。メインは定理2.7です。

本文

1 ユークリッド整域と単項イデアル整域

1.1 可換環
Rは基本的に1をもつ可換環(1\neq 0)とする.

1.2 整域
Rにおいてa,b\in R, ab=0 \Longrightarrow a=0 or b=0が成り立つとき, Rは整域であるという.

1.3 ユークリッド整域
整域Rがユークリッド整域であるとは写像\varphi\colon R\setminus\{0\} \to \mathbb{N}_0であって以下の二条件を満たすものをいう*1. 条件1. 任意のa,b\in R, b\neq 0に対して或るq,r\in Rが存在してa=bq+rなる関係があり, r=0または\varphi(r) < \varphi(b)が成り立つ. 条件2. 任意のa,b \in R\setminus\{0\}に対して\varphi(a)\leq \varphi(ab)が成り立つ.

1.4 ユークリッド整域の例
K; \varphi(a):=1 \ (a\in K^{\times}).
有理整数環\mathbb{Z}; \varphiは通常の絶対値.
Kに対する一変数多項式環K[x]; \varphi(f):=\deg(f) \ (f\neq 0).

1.5 単項イデアル整域(PID)
整域RがPIDであるとは, 任意のRのイデアルが単項イデアルであるときにいう.

命題1.6 ユークリッド整域はPIDである.
証明: R\varphiでユークリッド整域であるとする. R0でないイデアルIを任意にとる. 集合\{b\in I\setminus\{0\} \mid \varphi(b)=\min_{a\in I\setminus\{0\}}\varphi(a)\}から元bを一つとる. bR \subset I. 任意にa \in Iをとる. a=bq+rが成り立つような或るq,r\in Rが存在して, r=0または\varphi(r) < \varphi(b)が成り立つ(1.3条件1). Iはイデアルなのでr=a-bq \in I. よって, r\neq 0とすると\varphi(b)の最小性に矛盾する. 従って, r=0であり, a=bq \in bR, すなわちI \subset bR. Q.E.D.

事実1.7 逆は一般に成り立たない.

2 二次体の整数環

2.1 二次体
m \neq 0,1を無平方数とする. \mathbb{Q}(\sqrt{m}) := \{a+b\sqrt{m} \mid a,b \in \mathbb{Q}\}. m > 0のとき実二次体, m < 0のとき虚二次体という.

2.2 二次体の整数環
二次体\mathbb{Q}(\sqrt{m})の整数環\mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\sqrt{m})}m \equiv 2,3\pmod{4}のとき \mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\sqrt{m})}=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\sqrt{m}, m\equiv 1 \pmod{4}のとき \mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\sqrt{m})}=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\frac{1+\sqrt{m}}{2}である.

2.3 ノルム写像
\alpha=a+b\sqrt{m} \in \mathbb{Q}(\sqrt{m}), N_{\mathbb{Q}(\sqrt{m})}(\alpha):=a^2-mb^2. N_{\mathbb{Q}(\sqrt{m})}(\alpha\beta)=N_{\mathbb{Q}(\sqrt{m})}(\alpha)N_{\mathbb{Q}(\sqrt{m})}(\beta). \alpha \in \mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\sqrt{m})} \Longrightarrow N_{\mathbb{Q}(\sqrt{m})}(\alpha) \in \mathbb{Z}.

2.4 虚二次体の単数群
\mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\sqrt{-d})}^{\times}=\{\pm1, \pm i\}, i=\sqrt{-1}.
\mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\sqrt{-d})}^{\times}=\{\pm1, \pm \omega, \pm \omega^2\}, \omega=\frac{-1+\sqrt{-3}}{2}.
\mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\sqrt{-d})}^{\times}=\{\pm1\}, d\neq 1,3, d > 0.

定理2.5 (Baker-Stark-Heegner)
虚二次体\mathbb{Q}(\sqrt{-d})がPIDとなるのはd=1,2,3,7,11,19,43,67,163の九つである.

証明は例えば参考文献[H]を参照のこと.

定理2.6 d=1,2,3,7,11に対する\mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\sqrt{-d})}はノルム写像によってユークリッド整域となる.

定理2.7 d=19,43,67,163に対する\mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\sqrt{-d})}はPIDではあるが, ユークリッド整域ではない.

これは事実1.7の裏付けになっている. 動画では§2は後少し続く.

3 定理2.6の証明

3.1 d=1,2の場合.
1.3の条件1のみが非自明である. \alpha, \beta \in \mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\sqrt{-d})}, \beta \neq 0をとり, \alpha/\beta=x+y\sqrt{-d}とおく. \left|x-u\right|\leq 1/2, \left|y-v\right|\leq 1/2なるu,v \in \mathbb{Z}をとる. q:=u+v\sqrt{-d} \in \mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\sqrt{-d})}. r:=\alpha-\beta q\in \mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\sqrt{-d})}. N_{\mathbb{Q}(\sqrt{-d})}(r)=N_{\mathbb{Q}(\sqrt{-d})}( (x-u)+(y-v)\sqrt{-d})N_{\mathbb{Q}(\sqrt{-d})}(\beta)なので, N_{\mathbb{Q}(\sqrt{-d})}( (x-u)+(y-v)\sqrt{-d})=(x-u)^2+d(y-v)^2 < 1であればよいが, 今はd=1, 2なので成立する.

3.2 d=3,7,11の場合(-d \equiv 1 \pmod{4}に注意).
\alpha/\beta=x+y\sqrt{-d}とおく. \left|x-u\right|\leq 1/2, \left|y-v\right|\leq 1/4なるu,v \in \frac{1}{2}\mathbb{Z}, 2u\equiv 2v \pmod{2}をとる(x \in [m, m+1], y\in [n, n+1]のとき(m,n \in \mathbb{Z}), u=m+1/2, v=n+1/2としてもq \in \mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\sqrt{-d})}が成り立つことに注意). 3.1と同様に考えて(x-u)^2+d(y-v)^2 \leq \frac{1}{4}+\frac{d}{16}. \frac{1}{4}+\frac{d}{16} < 1 \Longleftrightarrow d < 12である. Q.E.D.

4 定理2.7の証明. R: 整域. R\setminus \{0\}は積閉集合となっている.

4.1 A \subset R\setminus \{0\}が積イデアルであるとは, A\cdot (R\setminus \{0\}) \subset Aが成り立つことである. すなわち, 任意のa \in A, r \in R\setminus \{0\}に対してar \in Aが成立すること.

4.2 A \subset Rに対してA^d \subset AA^d:=\{b \in A \mid {}^{\exists} a \in R \ \text{s.t.} \ a+bR \subset A\}と定義する.

4.3 Aが積イデアルであればA^dも積イデアルである.

証明: b \in A^d, q \in R\setminus \{0\}に対してbq \in A^dを示せばよい. Aが積イデアルなのでbq \in Aである. また, b \in A^dであることからa+bR \subset Aなるa \in Rが存在する. このとき, a+bqR \subset a+bR \subset A. よって, bq \in A^d. Q.E.D.

4.4 A_1 \subset A_2であればA_1^d \subset A_2^d.

証明: b \in A_1^dをとると, a+bR \subset A_1 \subset A_2なるa \in Rが存在する. これとb \in A_1 \subset A_2からb \in A_2^d. Q.E.D.

定理4.5 (Motzkin [M])
整域Rがユークリッド整域であるための必要十分条件は積イデアルの減少列R \setminus \{0\} = A_0 \supset A_1 \supset A_2 \supset \cdotsであって, 任意のi \geq 0に対してA_i^d \subset A_{i+1}が成り立ち, \bigcap_{i=0}^{\infty}A_i=\varnothingであるようなものが存在することである.

4.6 \Longrightarrowの証明. R\varphi\colon R\setminus \{0\} \to \mathbb{N}_0によりユークリッド整域であるとする. i \geq 0に対して, A_i:=\{a \in R\setminus\{0\} \mid \varphi(a) \geq i\}とする. R\setminus \{0\}=A_0およびA_i \supset A_{i+1} \ ({}^{\forall}i \geq 0)は定義から自明. 1.3条件2よりA_iは積イデアル. 任意にb \in A_i^dをとってb \in A_{i+1}を示す. a+bR \subset A_iなるa \in Rが存在する. また, 1.3条件1よりa=bq+rなるq,r \in Rが存在してr=0または\varphi(r) < \varphi(b)が成り立つ. r=a-bq \in A_i \subset R\setminus \{0\}よりr \neq 0. よって, \varphi(b) > \varphi(r) \geq i. すなわち, \varphi(b) \geq i+1でこれはb \in A_{i+1}を示している. 従ってA_i^d \subset A_{i+1} \ ({}^{\forall}i \geq 0). \bigcap_{i=0}^{\infty}A_i\neq \varnothingと仮定し, そこから元aを取る. \varphi(a)=jとするとa \not\in A_{j+1}となってaの取り方に矛盾. よって\bigcap_{i=0}^{\infty}A_i=\varnothingである.

4.7 \Longleftarrowの証明. 写像R\setminus\{0\}\to \mathbb{N}_0a \in A_i\setminus A_{i+1}に対して\varphi(a):=iと定義する(\bigcap_{i=0}^{\infty}A_i=\varnothingよりwell-defined). a, b\in R\setminus\{0\}を任意にとって\varphi(a)=iとすると, a \in A_iおよびA_iが積イデアルであることからab \in A_iである. よって, \varphi(ab) \geq i = \varphi(a)となって1.3条件2が確認された. 条件1を確認するためにa, b \in R, b\neq 0を任意にとる. 0 \in a+bRであれば, 或るq \in Rが存在してa=bqが成り立ちr=0のケースとして条件1が成立している. そこで, a+bR \subset R\setminus \{0\}とする. \bigcap_{i=0}^{\infty}A_i=\varnothingなので, a+bR\subset A_iおよびa+bR \not\subset A_{i+1}なるi \geq 0が存在する. また, b \in A_j\setminus A_{j+1}なるj \geq 0も存在する. j \leq iと仮定するとa+bR \subset A_i \subset A_jであり, これはb \in A_j^d \subset A_{j+1}を意味するからjの取り方に矛盾する. 従って, j > iである. 今, r:=a-bq \in A_i\setminus A_{i+1}なるq \in Rをとることができるが, \varphi(r)=i < j=\varphi(b)を得る. Q.E.D.

4.8 R: 整域. A \subset Rに対してA\setminus A^d=\{b \in A \mid {}^{\forall}a \in R, {}^{\exists}c \in R\setminus A \ \text{s.t.} \ b \mid a-c\}.

証明: b \in A\setminus A^d \Longleftrightarrow{}^{\exists}a \in R, a+bR\subset A」でない \Longleftrightarrow {}^{\forall}a \in R, a+bR \not\subset A. a+bR\not\subset A \Longleftrightarrow {}^{\exists}q \in R \ \text{s.t.} \ a+bq \not\in A \Longleftrightarrow {}^{\exists}q \in R, {}^{\exists}c \in R\setminus A \ \text{s.t.} \ a+bq=c \Longleftrightarrow {}^{\exists}c \in R\setminus A \ \text{s.t.} \ b \mid a-c. Q.E.D.

4.9 A_0:=R\setminus \{0\}とする. このとき, A_0^d=R\setminus(R^{\times} \cup \{0\}).

証明: R\setminus A_0=\{0\}であるので, 4.8によりb \in A_0\setminus A_0^d \Longleftrightarrow {}^{\forall}a \in Rに対してb \mid a \Longleftrightarrow  b \in R^{\times}. Q.E.D.

4.10 a\in R. b\in A_0^daのサイド因子であるとは, 或るe \in R^{\times} \cup \{0\}が存在してb \mid a-eが成り立つことである.

4.11 b \in A_0^dが普遍サイド因子であるとは, 任意のa \in Rに対してbaのサイド因子であることとする.

4.12 bが普遍サイド因子であればbRは極大イデアルである.

証明: 定義よりb \in A_0^dが普遍サイド因子であるための必要十分条件は任意のa \in Rに対してe \in R^{\times} \cup \{0\}が存在してa\bmod{b}=e\bmod{b}が成り立つことである. つまり, R/bRの各元はR^{\times}\cup\{0\}に代表元をとることができ, R/bRは体である. Q.E.D.

4.13 A_0^{dd}=A_0^d \setminus \{\text{普遍サイド因子全体}\}.

証明: 4.8, 4.9よりA_0^{d}\setminus A_0^{dd}=\{b \in A_0^d \mid {}^{\forall}a \in R, {}^{\exists}e \in R^{\times}\cup\{0\} \ \text{s.t.} \ b\mid a-e\}=\{\text{普遍サイド因子全体}\}. Q.E.D.

系4.14 普遍サイド因子を有しない整域は体を除いてユークリッド整域ではない.

証明: 4.13より普遍サイド因子を有しない整域RR\setminus\{0\}=A_0とするとA_0^{dd}=A_0^dを満たす. もしRがユークリッド整域であれば定理4.5の積イデアル減少列R \setminus \{0\} = A_0 \supset A_1 \supset A_2 \supset \cdotsが存在する. A_0^d \subset A_1と4.4よりA_0^{dd}\subset A_1^dであるが, A_0^{dd}=A_0^dA_1^d\subset A_2よりA_0^d\subset A_2が得られる. これを繰り返せばA_0^d \subset \bigcap_{i=0}^{\infty}A_i=\varnothingとなるため, A_0^d=\varnothing. 4.9よりこれはR=R^{\times}\cup\{0\}を意味し, Rはすなわち体である. Q.E.D.

4.15 K=\mathbb{Q}(\sqrt{-d}), \ d=19, 43, 67, 163とする. -d \equiv 1 \pmod{4}に注意. \mathcal{O}_{K}=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\frac{1+\sqrt{-d}}{2}が普遍サイド因子を有しないことを示せばよい.

4.16 2.4より\mathcal{O}_K=\{\pm1\}.

4.17 2,3\mathcal{O}_Kの既約元である.

証明: N_K(2)=4, N_K(3)=9. \alpha \mid 2 (resp. 3)であればN_K(\alpha) \mid 4 (resp. 9)でなければならない. \alpha=a+b\sqrt{-d} (a, b \in \mathbb{Z})と書ける場合を先に考える. N_K(\alpha)=a^2+db^24 (resp. 9)を割り切ればb=0であり, a^2=1 or 4 (resp. 1 or 9). すなわち, \alpha = \pm 1 or \pm 2 (resp. \pm 1 or \pm 3)がわかる. \alpha=a+\frac{1}{2}+(b+\frac{1}{2})\sqrt{-d} (a, b \in \mathbb{Z})と書ける場合はこのような整除は起き得ないことを示す. N_K(\alpha)=a^2+a+d(b^2+b)+\frac{1+d}{4}である. a^2+a, b^2+b \geq 0なので, d\geq 43のときは\frac{1+d}{4}\geq 11なので4, 9を割ることはできない. d=19の場合も\frac{1+d}{4}=5であり, この時点で4は割り切れない. 9を割るとしたらb=0でなければならず結局a^2+a+5=9とならなければならないが, そのようなaは存在しない. Q.E.D.

4.18 2のサイド因子は\pm 2, \pm 3のみである.

証明: b \in A_0^d, すなわち, b \not\in \mathcal{O}_K^{\times}\cup\{0\}=\{0, \pm 1\}2のサイド因子であれば, 或るe \in \{0, \pm 1\}が存在して, b \mid 2-eが成り立つ. すなわち, b \mid 1 or 2 or 3である. 今, b \mid 1は不可能. 従って, b \mid 2 or 3であり, 4.17からb=\pm 2 or \pm 3がわかった. Q.E.D.

4.19 \pm 2, \pm 3\frac{1+\sqrt{-d}}{2}のサイド因子ではない.

証明: b=\pm 2, \pm 3\frac{1+\sqrt{-d}}{2}のサイド因子になったと仮定すると, b \mid \frac{1+\sqrt{-d}}{2}-eが或るe \in \{0, \pm 1\}に対して成立する. すなわち, 有理整数a, cが存在して, b(a+c\frac{1+\sqrt{-d}}{2})=\frac{\pm 1+\sqrt{-d}}{2} or \frac{3+\sqrt{-d}}{2}が成り立つ. 両辺二倍すると, 左辺はb(2a+c+c\sqrt{-d})で右辺の\sqrt{-d}の係数は1. つまり, bc=1が成り立つ. それは不可能な言明である.

4.20 4.18+4.19より\mathcal{O}_Kは普遍サイド因子を持たない. よって, 系4.14より\mathcal{O}_Kはユークリッド整域ではないことが示された. Q.E.D.

参考文献

[H] 平山 楓馬, 類数1の虚二次体, 第72回灘校文化祭.
[I] icqk3氏による補足, http://searial.web.fc2.com/aerile_re/eucliddomain.html
[M] T. Motzkin, The Euclidean Algorithm, Bull. Amer. Math. Soc. 55 (1949), 1142-1146.

*1:本稿ではこの定義を採用する.

一般化ハーディ・リトルウッド予想について

中村滋著『素数物語: アイディアの饗宴』岩波科学ライブラリー283を購入して読みました。これは素数定理の発見に至る歴史をユークリッド・フェルマー・オイラー・ガウスの発見・研究を通じて概観する一般書です。歴史的解説のみではなく、時にはコラムの形をとって、素数に関する種々の定理の証明がそのアイデアに着目して紹介されています。また、ごく最近になって発表された現代的な別証明等も幾つか記載されていることが特徴の一つです。

私は素数がとても好きですが、当然好きでない人もいます。好きな人もいれば好きでない人もいる。当たり前です。どちらかを強要することはよくないことですが、好きでいることが他人からするともしかしたら目障りと思われているのではないかと感じてしまう事象が最近ありました。勿論、好きでいることが自分の中で閉じていれば目障りになることはないですが、例えば目の前にトランプのカードQとKがこの順に並んでいると「1213は素数だ!」と人前でニコニコで言ってしまうほど好きなのです。

人に迷惑をかけていたら嫌だなあと少し悲しくなっていたのですが、ちょうどこの本を読んでいて、でもやっぱり素数はとても面白くて好きだ!フェルマーとかオイラーとかガウスとかもこれめちゃくちゃ素数のこと好きやったやろ!と思って気分が向上しました。

特に、ガウスについては高木貞治『近世数学史談』を読んだときも似たような印象を持ちましたが、コンピュータのない時代にありながらオイラーとガウスが計算狂と言っていいほど生涯に渡って計算しまくっていたエピソードが大好きです。今回、このエピソードについては『近世数学史談』には載っていなかったものもあって収穫がありました。ガウスは、15歳のときには素数定理を予想できていたことは有名ですが、(時には表の作成を人に要請して)素数表が手に入るたびに区間内の素数の個数を計算して予想の成立への確信を高めていたようです。いかにガウスが計算しまくっていたかがわかる、付録『ガウス晩年の手紙』は一読の価値があると思います。

今や素数定理は証明されていて、その証明も非常に簡略化されており、ブログで読めてしまう始末です。ともすれば「素数定理なんて簡単だ」と錯覚してしまいそうですが、

「全数学のうちで最も注目すべき定理」とアーベル(中略)を感嘆させた大定理「素数定理」

という文にハッとさせられました。素数定理は確かに歴史に残る大定理なのです。この美しい法則を「大量の計算に基づいて」発見したガウスの喜びを想像して、想像でしかありませんが「とても嬉しかっただろうなあ」と勝手に思ったりもしました。

ところで、普段から素数の勉強をしているので大部分の内容が私にとっては復習であったわけですが、この本の最後のコラムに『スーパー双子素数の個数に関する高橋予想』というものがあってその内容はパッと見は初見でした。

前提知識としてハーディとリトルウッドが「双子素数版素数定理(予想)」をx以下の双子素数の個数が

\displaystyle 2\prod_{p\geq 3}\frac{p(p-2)}{(p-1)^2}\int_2^x\frac{\mathrm{d}t}{\log t\log(t+2)}

に漸近すると予想していました。一般の素数k組版素数定理(予想)もあって、ハーディ・リトルウッド予想と言ったりします。

飯高・高橋の文献によればa, b, c, d \in \mathbb{Z}, a, c > 0に対してp=aq+bかつp,qがともに素数なら(p,q)a,bに関するスーパー双子素数、p=aq+b, r=cq+dかつp,q,rが全て素数であれば(p,q,r)a,b,cに関するウルトラ三つ子素数と呼ぶらしいです。

これらの組が無数に存在するためのa,b,cの条件を(conjecturalに)決めるという定性的性質に関する問題はスーパー双子素数の場合が(a,b)=1かつa+b\equiv 1\pmod{2}、ウルトラ三つ子素数の場合が(a,b)=1, (c,d)=1かつa+b\equiv c+d\equiv 1\pmod{2}かつ「ac\equiv -bd \not\equiv 0 \pmod{3}ではない」とのことですが、これらはより一般的なディクソンの予想の条件の言い換えであることは容易に分かります*1

(a,b)=1かつa+b\equiv 1\pmod{2}なるa,bに対するスーパー双子素数についての定量的な漸近公式として、p\leq xなるスーパー双子素数(p,q)の個数は

\displaystyle 2\prod_{p\geq 3}\frac{p(p-2)}{(p-1)^2}\prod_{p\geq 3, p\mid ab}\frac{p-1}{p-2}\int_2^x\frac{\mathrm{d}t}{\log t\log(at+b)}

に漸近するという予想が高橋予想STという名で本に書いてありました。ただ、ディクソンの予想が対象とする、より一般の場合の漸近予想が知られていないとは思えなかったのと、そういう話がグリーン・タオの論文


B. Green and T. Tao, Linear equations in primes, Ann. of Math., 171, no. 3, (2010), 1753–1850.


にも載ってたはずだと思って、この論文はかなり重要らしいし彼らの主定理がどんなものかぐらいこの際勉強しようと思いました。というわけでほんの少しだけまとめてみます。以下、多少記号の説明は省いています。

\psi\colon \mathbb{Z}^d\to\mathbb{Z}\mathbb{Z}^d上のアフィン線形形式であるとは、線形形式 \dot{\psi}\colon \mathbb{Z}^d\to\mathbb{Z}を用いて\psi=\dot{\psi}+\psi(0)と書けることとします。また、t\geq 1に対して\Psi=(\psi_1, \dots, \psi_t)を考えます(各\psi_i\mathbb{Z}^d上のアフィン線形形式)。このとき、\Psi=\dot{\Psi}+\Psi(0)とすれば、\dot{\Psi}\colon \mathbb{Z}^d \to \mathbb{Z}^tは線形写像です。ただし、\{\psi_i\}はどれも定数ではなく、どの二つを取っても互いに有理数倍にはなってない場合を扱うこととします。N > 0に対して

\displaystyle \left\|\Psi\right\|_N:=\sum_{i=1}^t\sum_{j=1}^d\left|\dot{\psi}_i(e_j)\right|+\sum_{j=1}^t\left|\frac{\psi_i(0)}{N}\right|

と定義しておきます。\{e_j\}は標準基底です。

K \subset [-N,N]^dを凸集合、\left\|\Psi\right\|_N\leq Lとするとき、

\displaystyle \beta_{\infty}:=\mathrm{Vol}_{\mathbb{R}^d}(K\cap \Psi^{-1}( (\mathbb{R}^{+})^t) )

に対して

\displaystyle \sum_{n\in K\cap\mathbb{Z}^d}\prod_{i=1}^t\mathbf{1}_{\mathbb{R}^{+}}(\psi_i(n) )=\beta_{\infty}+o_{d,t,L}(N^d) \tag{1}

が成り立ちます。\Lambda\colon\mathbb{Z}\to\mathbb{R}^{+}von-Mangoldt関数とするときに

\displaystyle  \sum_{n\in K\cap\mathbb{Z}^d}\prod_{i=1}^t\Lambda(\psi_i(n) )

の評価を求めることが加法的整数論における非常に大きな興味であると考えることにします。ディクソンの予想が取り扱っているのはd=1の場合ですから、問題設定自体が高次元化されていることに注意してください。素数定理を思い出せば、(1)の観点から

\displaystyle  \sum_{n\in K\cap\mathbb{Z}^d}\prod_{i=1}^t\Lambda(\psi_i(n) )=\beta_{\infty}+o_{d,t,L}(N^d)

を予想したくなるかもしれませんが、これではsmall moduliによる局所的obstructionを考慮できていません。実際、算術級数の素数定理q\geq 1, |b|\leq qに対して

\displaystyle \sum_{n=1}^N\Lambda(qn+b)=\Lambda_{q}(b)N+o_q(N)

でした。ここで、\Lambda_q\colon \mathbb{Z}\to\mathbb{R}^{+}(b,q)=1であれば\Lambda_q(b):=q/\varphi(q), そうでなければ0と定義される局所von-Mangoldt関数です。天下り的ではありますが、

\displaystyle \Lambda_q(b)=\prod_p\mathbb{E}(\Lambda_p(qn+b)\mid n\in \mathbb{Z}/p\mathbb{Z})

が成り立っています(\mathbb{E}はいつもの平均)。この点もちゃんと考慮して、次が予想されています。

一般化ハーディ・リトルウッド予想 N,d,t,L\in\mathbb{N}, \Psi=(\psi_1, \dots, \psi_t) with \left\|\Psi\right\|_N\leq L, 凸集合K\subset [-N,N]^dに対して
\displaystyle  \sum_{n\in K\cap\mathbb{Z}^d}\prod_{i=1}^t\Lambda(\psi_i(n) )=\beta_{\infty}\prod_p\beta_p+o_{d,t,L}(N^d)
が成り立つ。ただし、
\displaystyle \beta_p:=\mathbb{E}\left.\left(\prod_{i=1}^t\Lambda_p(\psi_i(n) ) \ \right| \ n\in (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^d\right)
である。

素数定理には色々な変形版があるのと同様、この予想から

\begin{align}&\#\{n\in K\cap\mathbb{Z}^d \mid \psi_1(n), \dots, \psi_t(n): \text{prime}\} \\
&=(1+o_{t,d,L}(1) )\beta_{\infty}\prod_p\beta_p\int_K\prod_{i=1}^t\frac{\mathbf{1}_{\psi_i(x) > 2}}{\log\psi_i(x)}\mathrm{d}x+o_{d,t,L}\left(\frac{N^d}{\log^tN}\right) \\
&=(1+o_{t,d,L}(1) )\beta_{\infty}\prod_p\beta_p\frac{1}{\log^tN}+o_{d,t,L}\left(\frac{N^d}{\log^tN}\right)\end{align}

等も言えます。

これはハーディ・リトルウッド予想およびディクソンの予想を両方含みd > 1の場合も扱えている極めて一般的な予想であり、非常に自然な形をしています。

具体例として、(a,b)=1, a+b\equiv 1 \pmod{2}なるa,bに対するd=1, t=2, \psi_1(n)=n, \psi_2(n)=an+b, K=[-N,N]の場合を考えてみましょう。n, an+b > 0の条件はn > \max\{-b/a,0\}なので、\beta_{\infty} \sim 1 \ (N \to \infty)です。pを素数として、p \nmid n(an+b)なるn \in \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}に対しては定義から\Lambda_p(n)\Lambda_p(an+b)=\frac{p^2}{(p-1)^2}であり、それ以外では値は0になります。n=1,2,\dots, p-1のうちp\nmid an+bなるものの個数\gamma_pが求まれば、

\displaystyle \beta_p=\frac{p^2}{(p-1)^2}\times \frac{\gamma_p}{p}

\beta_pが計算できます。p=2の場合はn=1の一つ(a+b\equiv 1\pmod{2}であった)なので\beta_2=2です。p\geq 3としましょう。p \mid aのときは(a,b)=1よりp\nmid bなのでp-1個全部OK。p\mid bのときもp\nmid ap\mid anp\mid nを意味するのでp-1個。p\nmid abであればan+b\equiv 0 \pmod{p}が解を一個持ってしまうため、\gamma_p=p-2となります。まとめると、高橋予想STは一般化ハーディ・リトルウッド予想の非常に特別な一例であることがわかりました。

さて、グリーン・タオは何をやったかという話ですが、彼らは\Psi \ (t\geq 2)に複雑度という量を定義しています。定義はややこしいので注釈で*2

複雑度が0であれば算術級数の素数定理の範疇で解けています。d=1, t\geq 2の場合が双子素数予想を始めとした多数の古典的未解決問題と関連して興味がありますが、このケースでは複雑度が\inftyとなっていて到達不可能に難しいです(グリーン・タオは张益唐の登場より前の話)。しかしながら、グリーン・タオは複雑度が有限なケースであれば一般化ハーディ・リトルウッド予想に攻め筋があるということを見出しました。例えば、\Psi(n_1, n_2)=(n_1, n_1+n_2, \dots, n_1+(k-1)n_2)は複雑度がk-2なので、複雑度有限な場合の一般化ハーディ・リトルウッド予想が解決すればグリーン・タオの定理は精密化されて次のような漸近挙動までわかってしまうのです: p_1 < p_2 < \cdots < p_k \leq Nで、長さk\geq 2の等差数列をなすような素数の組(p_1, \dots, p_k)の個数はN \to \infty

\displaystyle \frac{1}{2(k-1)}\prod_{p\leq k}\frac{1}{p}\left(\frac{p}{p-1}\right)^{k-1}\prod_{p > k}\left(1-\frac{k-1}{p}\right)\left(\frac{p}{p-1}\right)^{k-1}\frac{N^2}{\log^kN} \tag{2}

に漸近する。

彼らの主定理は次のように述べられます:

Green-Tao (2010)の主定理 s \geq 1に対して\mathrm{GI}(s)と名付けられる予想(the inverse Gowers-norm conjecture)および\mathrm{MN}(s)と名付けられる予想(the Möbius and nilsequences conjecture)があるが、これらが成立すると仮定する。このとき、複雑度がs以下の任意のアフィン線形形式系\Psiに対する一般化ハーディ・リトルウッド予想は正しい。

つまり、他の重要と考えられている予想に帰着されてしまったのです!\mathrm{GI}(s)および\mathrm{MN}(s)の主張をここで紹介することは割愛させていただきますが、彼らは

We expect both GI(s) and MN(s) to be settled shortly for general s, and hope to report on progress on both of these conjectures in the not-too-distant future. We therefore expect to settle the generalised Hardy-Littlewood conjecture entirely in the finite complexity case, or in other words we should be able to remove the last hypothesis in Corollary 1.7. The only unresolved case of the generalised Hardy-Littlewood conjecture would then be the presumably very hard “binary” or “infinite complexity” case in which two or more of the forms are affinely related.

と書いており(!)、注釈には

Note added in April 2008: in a recent preprint, the authors have fully resolved the MN(s) conjecture for every s.

と書いています (!! )。これは実際に


B. Green and T. Tao, The Möbius function is strongly orthogonal to nilsequences, Ann. of Math. (2) 175, no. 2, (2012), 541–566.


として出版されています。ということは複雑度有限な場合の一般化ハーディ・リトルウッド予想は一種類の予想\mathrm{GI}(s)に帰着されたわけですが、

私はとある論文を発見してしまいました。


B. Green, T. Tao, T. Ziegler, An inverse theorem for the Gowers U_{s+1}[N]-norm, Ann. of Math. (2) 176, no. 2, (2012), 1231–1372.


\mathrm{GI}(s)も解決していたのです(!!!)。つまり、複雑度有限な場合の一般化ハーディ・リトルウッド予想は完全解決しているようです*3


ひえ〜〜〜〜。(2)も定理ってわけだ。グリーンとタオすごすぎへん?

*1:ウルトラ三つ子素数について、ディクソンの予想の条件を普通に言い換えると「((a,b)=1, (c,d)=1)かつ(a+b\equiv c+d\equiv 1\pmod{2} )かつ(「a+b\equiv 2c+d\equiv 0\pmod{3}またはc+d\equiv 2a+b\equiv 0 \pmod{3}」ではない)になる気がしますが、今の場合、「a+b\equiv 2c+d\equiv 0\pmod{3}またはc+d\equiv 2a+b\equiv 0 \pmod{3}」と「ac\equiv -bd \not\equiv 0 \pmod{3}」は同値になっています。

*2:1\leq i \leq t, s \geq 0とする。t-1個のアフィン線形形式の集合A_iA_i:=\{\psi_j \mid j \in [t]\setminus\{i\}\}とする。A_iが、その類に属するアフィン線形形式が\mathbb{Q}上アフィン線形に生成する空間に\psi_iが属さないようなA_iの元からなる類s+1個によって被覆されるとき、\Psii-複雑度が高々sであるという。全ての1\leq i \leq tに対して\Psii-複雑度が高々sであるような最小のs\Psiの複雑度と定義する。また、そのようなsがない場合は複雑度\inftyとする。

*3:三つの論文を合わせると266ページ!