インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

書籍『グリーン・タオの定理』が2023年1月10日に出版されます。

私が初めて執筆した数学書グリーン・タオの定理』を朝倉書店様より上梓させて頂くことになりました。
光栄なことに、新シリーズ「朝倉数学ライブラリー」の初回配本を飾らせて頂きます。

www.asakura.co.jp

こちらのサイトから目次を見ることができ、予約サイトへ飛ぶこともできます。

発売日はまだ先ですが、一部のサイトでは既に予約ができるようです*1

この記事では本書の宣伝をさせて頂きます。書影画像は以下のとおりです。


本書の内容

ベン・グリーンとテレンス・タオは


素数のみで構成される任意の長さの等差数列が存在する



ことを証明しました(2004年にプレプリント公開、2008年に出版)。



本書には、この定理の完全な証明が書かれています。

どんな種類の数学書か?

「教科書」型の書籍ではなく、「特定の数学定理の証明を解説することが中心的な目的である」型の書籍です。

本書のウリ

①セメレディの定理の完全証明も含まれている
②原論文の翻訳ではなく、様々な簡略化や工夫を取り入れている
③多次元化(= 星座定理)を扱っている
素数セメレディの定理の証明を全て書いている
ガウス素数星座定理の主張を紹介し、証明も書いている
⑥前提知識が少ない

手にとって頂きたい方々(想定読者の拡張)

(想定読者)グリーン・タオの定理の証明を理解して、その感動を味わいたい人(であり、以下の前提知識を満たしている人)
(前提知識)数学科の学生が1、2年次に標準的に学ぶ数学書を読みこなせている程度

これは、今すぐ読み始めて(時間と根気さえあれば)最後まで読み通すことのできる方です。


実際は、より多くの方に、グリーン・タオの定理に興味のある全ての人に、「今」手に入れていただきたいと思っています。

セミナーで利用する場合

輪読セミナーで利用して頂くことを意識して書かれた書籍ではありませんが、利用することは可能です。

執筆の経緯

一般向け数学イベント「MathPower2017」でのグリーン・タオの定理に関する講演の後、2017年10月19日には本を書く決意をしました。
ただし、その時点では特に出版の企画はありませんでした。


自費出版ではなく商業出版を行う場合、典型的なのは


①著者が自ら企画書を作成し、出版社に持ち込む場合
②出版社の方から書いて欲しいと依頼される場合


だと思われます。①は企画を通すハードルが高いのではないかと思いますし、②は著者がドンピシャで書きたいものが依頼される確率は低いでしょう。

商業出版は出版社の利益のために行われるため、著者が書きたいものを書かせてもらえるとは限りません。


本書『グリーン・タオの定理』は①、②のどちらでもないという少し変わった経緯があるため、ここに若干記しておきます。


執筆の数学的準備がある程度整った2019年5月に私は(酔った勢いで)Twitterに「グリーン・タオの定理の証明を書籍にすれば一定の需要があるはず。興味のある編集者の方はご連絡ください。」という旨のtweetをしました。

すると、驚いたことに、一人の編集者さんがメールをくださったのです!!
その後、その編集者さんが朝倉書店の社内会議で企画も通してくださいました!!!


こうして、私は幸運なことに自分が書きたくてたまらない内容の書籍を、企画書を持ち込むことなく、商業出版で出版できることになったのです!!!!!
この編集者さんには一生感謝します。

私の使命

それは、グリーン・タオの定理の証明込みでの常識化です。

これだけの歴史的傑作定理を一部の人だけが知っている状況はもったいないです。

私は皆さんに知って頂きたいです。事実を知ることだけではなく、証明を理解し、定理の成立を確信したときに味わう喜びを。


私の本を読んでこの分野に興味を持ち、自分でも研究したいと感じる方が現れることも大きな願いの一つです。
是非、一緒に研究してこの分野を盛り上げましょう。

関 真一朗

*1:発売日は当初2022年12月1日となっていましたが、2023年1月10日発売予定に変更とのことです。

*2:ここでの「教科書」は高校までの教科用図書のみを意味する教義の意味では用いていません。

*3:他にどんな型があるかあんまり考えてないですが、「事典」型、「歴史書」型、「一般書」型、「小説」型などがあるなあと思いました。

*4:『グリーン・タオの定理』は教科書としての役割は全く意識せずに執筆したのですが、琉球大学の徳重先生の記事「方程式の解に関する組合せ論の紹介」において本書を「これは数論にかかわる正則化の手法について、その初歩から最先端までを学べる世界初の成書となろう。」と評してくださっており、「教科書」型成分も幾らかは期待できるかもしれません。

*5:本書が書けたのはそれら原論文以降の論文達のおかげでもあるのですが、それらのクレジット表記については本書の「まえがき」等を見てください。

*6:iPadを使えばいいというようなことはここでは言わないでください。。。なぜならこの文章は本書の売り上げを(以下略)。

有理数近似、 Duffin–Schaeffer予想、そして、Koukoulopoulos−Maynard

私達は実数を有理数で近似したい。



誤差\varepsilon未満の範囲で実数x有理数\frac{a}{b}で近似されている状況は、不等式を用いて

\displaystyle \left|x-\frac{a}{b}\right| < \varepsilon

と表すことができます。


さて、そもそも実数は有理数列の極限なので、いくらでも小さい誤差で近似できます。


例えば、円周率\pi

\displaystyle \left|\pi-\frac{31415926535897}{10000000000000}\right| < 10^{-13} \tag{1}


有理数で近似できます。誤差10^{-13}はとても小さく感じます。


一方で、

\displaystyle \left|\pi-\frac{355}{113}\right| < 10^{-7} \tag{2}

が成り立ちます。

(1)(2)を比較すると、10^{-13}10^{-7}では10^{-13}の方が小さいので、(1)(2)よりも良い近似であると考えてよいでしょうか?


実際は有理数\frac{31415926535897}{10000000000000}\frac{355}{113}では円周率の近似として後者の方が優れている点があります。それは「近似分数の分母の大きさに対して誤差がどれぐらい小さいか」を考えたときにわかってきます。


\frac{355}{113}については

\displaystyle \left|\pi-\frac{355}{113}\right| < \frac{1}{113^{3}} \tag{3}


が成り立つ(!)のに対し、\frac{31415926535897}{10000000000000}については


\displaystyle \left|\pi-\frac{31415926535897}{10^{14}}\right| < \frac{9.4}{10^{14}}


ぐらいしか言えません。

つまり、\frac{31415926535897}{10000000000000}は近似の誤差と「1/分母」の大きさが大体同じぐらいの大きさなのに対し、\frac{355}{113}は近似の誤差が「1/(分母の3乗)」で押さえられており、この観点で円周率近似としては\frac{355}{113}の方が圧倒的に優秀であると考えることができるのです。

\frac{355}{113}は円周率に「効率よく」近いというわけです。



今、x有理数で近似されたがっている実数だとしましょう。

各正整数b=1, 2, 3, \dotsxの有理近似の分母を担うとき、近似の誤差をbについてどれぐらいにできるかを考えたいです。


先ほどの(3)の場合は

\displaystyle \left|x-\frac{a}{b}\right| < \frac{1}{b^3}


の型の有理近似がx=\pi, a=355, b=113の場合に成立していたと考えることができます。


誤差として\frac{1}{b^3}だけを考えるべきだという理由は何もないので、いっそのこと完全に一般化して、この部分をbに関する関数 f(b)に置き換えて研究することにしましょう!:


f\colon\mathbb{Z}_{>0}\longrightarrow \mathbb{R}_{\geq 0}

として、

\displaystyle \left|x-\frac{a}{b}\right| < f(b) \tag{4}

という型の有理近似が成り立つかを考察していきます。



ちなみに、円周率は f(b)=\frac{1}{b^3}の場合にb=113で近似が存在しましたが、他のbでも見つかるでしょうか?

実際は、そのようなbは有限個しかないだろうと予想されています。

もしこの予想が正しければ、f(b)=\frac{1}{b^3}に対して\frac{355}{113}が良い円周率近似を与えたことは偶発的であったと言えるでしょう。


そのような偶発的にしか近似できない状況ではない場合、すなわち、関数 fを指定したときに(4)が成り立つ\frac{a}{b}が無限に存在する場合に興味が湧きます。

そのような場合をxはレベル fの有理近似列を持つ」と表現してみましょう。



ただし、「xはレベル fの有理近似列を持つ」の定義において、無限に存在して欲しい各有理数\frac{a}{b}は既約分数でとることができると仮定しておきます(abは互いに素)*1





このような概念が生み出されると色々と研究をしたくなります。例えば、fを指定したときに、どのようなxがレベル fの有理近似列を持つかを知りたくなります。

問題は自由に設定できますが、実際の先行研究において、ある問題設定でとてもとても面白い現象が発見されました。


それは「レベル fの有理近似列を持つxの割合を調べる」という問題設定です。

具体的なxを幾つか、あるいは欲張りに全部決定しようとするのではなく、要求を「どれぐらいあるか」ということだけに妥協して、緩い問題設定にするのです。



ここでの「割合」の意味を数学的に定めましょう。

まず、xがレベル fの有理近似列を持つならば、x+1もレベル fの有理近似列を持つことは明らかです。vice versa.


なので、考えるxの範囲は閉区間[0,1]に限定できます。

そこで、集合\mathcal{A}_f

\mathcal{A}_f:=\{x\in [0,1] \mid xはレベル f の有理近似列を持つ\}

と定め、\mathcal{A}_fルベーグ測度でもって「割合」と考えることにしましょう。



\mathcal{A}_fルベーグ測度 =0 なら「レベル fの有理近似列を持つ実数は全然ないんだなあ」と思うことができますし、

\mathcal{A}_fルベーグ測度 =1 なら「殆ど全ての実数がレベル fの有理近似列を持つんだなあ」と思うことができますし、

\mathcal{A}_fルベーグ測度 =\frac{1}{2} なら「レベル fの有理近似列を持つ実数は半分ぐらいなんだなあ」と思うことができます。


なので、この問題意識のもとでは、fを指定する毎に\mathcal{A}_fが計算できればとても嬉しいです。







答えはこうです。




\mathcal{A}_fルベーグ測度は01しかとりえない。」




更に。




「とても単純な判定基準によって、01かを判定可能である。」




その判定基準とは。




\varphi(n)オイラーのトーシェント関数とします。すなわち、\varphi(n)nと互いに素なn以下の正整数の個数です。



ここで、正項級数

\displaystyle \sum_{b=1}^{\infty}\varphi(b)f(b)

を考えましょう。


これは f毎に有限値に収束するか、正の無限大に発散するかのいずれかです。




DuffinとSchaefferは1941年、次の美しい予想に到達しました。





\displaystyle \sum_{b=1}^{\infty}\varphi(b)f(b) < \inftyのとき、\mathcal{A}_fルベーグ測度は0であり、
 \displaystyle \sum_{b=1}^{\infty}\varphi(b)f(b) = \inftyのとき、\mathcal{A}_fルベーグ測度は1である。」




R. J. Duffin, A. C. Schaeffer, Khinchin’s problem in metric Diophantine approximation, Duke Math. J. 8 (1941), 243–255.




級数の収束・発散で\mathcal{A}_fルベーグ測度が0から1に切り替わるなんて、とても不思議です。



約80年もの期間、この予想は未解決であり続けましたが、KoukoulopoulosとMaynardがこの予想を解決するに至りました。



D. Koukoulopoulos, J. Maynard, On the Duffin-Schaeffer conjecture, Ann. of Math. 192 (2020), 251–307.



よって、上記判定法は真であります。






最後にDuffin−Schaeffer予想の応用を1つ紹介します。f(b)として

\displaystyle f(b):=\begin{cases} p^{-2} & (b=p: \text{素数}) \\ 0 & (\text{otherwise}) \end{cases}

を選びます。


すると、b素数でない場合は不等式(4)は成立し得ません。なので、素数ppで割れない整数aを用いて

\displaystyle \left|x-\frac{a}{p}\right|<\frac{1}{p^2} \tag{5}

という不等式が成り立つようなxの近似\frac{a}{p}を考察していることになります(分母が素数であるような近似に限定)。


素数の逆数和が発散することに注意すると、今考えている f(b)に対して

\displaystyle \sum_{b=1}^{\infty}\varphi(b)f(b)=\sum_p\frac{p-1}{p^2}=\infty

が成り立ちます。


よって、Duffin−Schaeffer予想曰く


「殆ど全ての実数xに対して、(5)が成り立つような有理近似\frac{a}{p}p素数apで割れない整数)が無限に存在する。」


素敵!

*1:既約分数を考えることは自然に思われるかもしれませんが、実際は既約とは限らない場合が先行的に研究されてきました。その上で、既約分数を扱いたくなる部分にこそ重要な歴史の流れがあるのですが、この記事では全て割愛します。

ラドチェンコ・ヴィアゾフスカの補間公式

積分関数 f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}フーリエ変換 \widehat{f}

\displaystyle \widehat{f}(\xi):=\int_{-\infty}^{\infty}f(x)e^{-2\pi i\xi x}\mathrm{d}x

とします。

定理 (Rdadchenko–Viazovska, 2019) f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}を偶関数であるようなシュワルツ関数(=偶シュワルツ関数)とする。このとき、f
f(\sqrt{1}), \ f(\sqrt{2}), \ f(\sqrt{3}), \ f(\sqrt{4}), \ f(\sqrt{5}),\dots
および
\widehat{f}(\sqrt{1}), \ \widehat{f}(\sqrt{2}), \ \widehat{f}(\sqrt{3}), \ \widehat{f}(\sqrt{4}), \ \widehat{f}(\sqrt{5}),\dots
の情報から定まる。より詳しく、fに依存しない偶シュワルツ関数の族(a_n\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R})_{n=0}^{\infty}が存在して、任意のx\in\mathbb{R}に対して級数
\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}a_n(x)f(\sqrt{n}),\quad \sum_{n=0}^{\infty}\widehat{a}_n(x)\widehat{f}(\sqrt{n})
は絶対収束し、等式
\displaystyle f(x)=\sum_{n=0}^{\infty}a_n(x) f(\sqrt{n})+\sum_{n=0}^{\infty}\widehat{a}_n(x)\widehat{f}(\sqrt{n})
が成立する。

証明は、重さ\frac{3}{2}の弱正則モジュラー形式を用いてa_nを具体的に構成するというものです。

D. Radchenko, M. Viazovska, Fourier interpolation on the real line, Publications mathématiques de l'IHÉS 129 (2019), 51–81.