インテジャーズ

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数、特に整数に関する記事。

素数定理の初等的証明(完結編)

この記事はSelbergによる素数定理の初等的証明を全四回で解説する試みの完結編である。

これまでの記事を再掲しておく:
integers.hatenablog.com
integers.hatenablog.com
integers.hatenablog.com

これまでの記号表記で考えると、素数定理は

\displaystyle \lim_{x \to \infty}\frac{R(x)}{x} = 0

と同値であった。そして、これまでに何度か述べてきた

\displaystyle |R(x)| < \alpha_1x \Longrightarrow |R(x)| < \alpha_2 x \Longrightarrow |R(x)| < \alpha_3 x \Longrightarrow \cdots

という形のR(x)の評価の逐次的改善を遂行することとなる。



まず、この記事の前半において

どんなに小さい正の数\deltaであっても\displaystyle |R(x)| < \delta xが成り立つような区間を見いだせる

というR(x)に関する著しい性質を証明する(このことの証明にもSelbergの漸近公式が用いられる(正確には前々回の記事の系1))。


その後、前回証明したR(x)に関する不等式

\displaystyle |R(x)| \leq \frac{1}{\log x}\sum_{n \leq x}\left| R\left( \frac{x}{n} \right) \right| + O\left( \frac{x}{\sqrt{\log x}} \right).

の右辺のR(x/n)の部分に対して前半で示した命題を利用する。すなわち、良い部分区間をたくさん取り、R(x/n)に関する評価を部分的に改良することによって、左辺のR(x)自体の評価を元の評価よりシャープにするのである。


最後の準備

次の補題が何度もお世話になったAbelの総和法の最後の出番である。

補題1
\displaystyle \int_1^x\frac{R(t)}{t^2}dt=O(1).

証明. 自然数nに対して、nが素数pのときは\log p、その他の場合はa_n=0とすることによって数列\{ a_n\}を定める。この数列と\displaystyle \varphi (x) = \frac{1}{x}に対してAbelの総和法を適用すると、S(x) = \vartheta (x)なので、

\displaystyle \sum_{p \leq x}\frac{\log p}{p} = \frac{\vartheta (x)}{x} + \int_1^x\frac{\vartheta (t)}{t^2}dt

が得られる。Mertensの第一定理およびChebyshevの定理によって

\displaystyle \log x +O(1) = O(1)+\int_1^x\frac{dt}{t}+\int_1^x\frac{R(t)}{t^2}dt

となるので、上手く\log xが消えて所望の漸近公式が得られる。 Q.E.D.

2つ目の補題が予告した命題の証明のキーとなるのであるが、証明が中々technicalである(Selbergの漸近公式は用いない):

補題2
0 < \delta < 1なる\deltaを固定する。このとき、x_0 > 0, K > 0が存在して、任意のx \geq x_0に対して
\displaystyle {}^{\exists}y \in [ x, e^{\frac{K}{\delta}}x] \ \ \text{s.t.} \ \ |R(y)| < \delta y
が成り立つ。

証明. 補題1より、任意の1 < x < x'に対して

\displaystyle \left| \int_x^{x'}\frac{R(t)}{t^2}dt \right| < K

が成り立つような定数K > 0が存在する。また、

\displaystyle t \geq x_0 \Longrightarrow \delta t > \frac{1}{2}\log t

が成り立つようなx_0 > 0が存在する。

このx_0, Kに対して背理法で主張を証明する。すなわち、x \geq x_0であって、任意のt \in [x, e^{\frac{K}{\delta}}x] に対してR(t) \geq \delta tが成り立つようなxが存在すると仮定して矛盾を導く。

R(t)=\vartheta (t)-tt=pにおいて不連続であり、そこでの値のgap\log pである。仮定より

\displaystyle |R(t)| \geq \delta t > \frac{1}{2}\log t

であるから、R(t)はこの区間で定符号であることがわかる。よって

\displaystyle \left| \int_x^{e^{\frac{K}{\delta}}x}\frac{R(t)}{t^2}dt \right| = \int_x^{e^{\frac{K}{\delta}}x}\frac{|R(t)|}{t^2}dt \geq \delta \int_x^{e^{\frac{K}{\delta}}x}\frac{dt}{t} = K

となって、Kの取り方に矛盾する。 Q.E.D.

次が前半の目標であった:

命題
0 < \delta < 1なる\deltaを固定する。このとき、或るx_1 > 0, K > 0が存在し、任意のx \geq x_1に対して区間[x, e^{\frac{K}{\delta}}x]

\displaystyle |R(z)| < 4\delta z \ \ \text{for} \ \  {}^{\forall}z \in [ y, e^{\frac{\delta}{2}}y]

が成り立つような部分区間[ y, e^{\frac{\delta}{2}}y] を含む。

証明. 補題2のx_0, Kをとり、x\geq x_0なるxに対して同じく補題2によって存在するyをとる(ただし、x_0x_0 \geq 2であるようにとっておき、Ke^{\frac{\delta}{2}}y \leq e^{\frac{K}{\delta}}xが任意のx \geq x_0に対して成り立つように取り換える*1。)。

integers.hatenablog.com

の系1より、y < zに対して

\displaystyle \vartheta (z)-\vartheta (y) + \sum_{y < pq \leq z}\frac{\log p\log q}{\log pq} = 2(z-y) + O\left( \frac{z}{\log z}\right)

が成り立つので、

\displaystyle 0 \leq \sum_{y < p \leq x}\log p \leq 2(z-y) + O\left( \frac{z}{\log z} \right)

と評価できる。これより

\displaystyle R(z) - R(y) \leq z-y + O\left( \frac{z}{\log z} \right)

を得る(左辺)。yの取り方に注意すると、

\begin{equation}\begin{split} |R(z)| &\leq |R(y)| + z-y+O\left( \frac{z}{\log z} \right) \\ &< \delta y+z-y+\frac{K'z}{\log z}.\end{split}\end{equation}

ただし、K'は或る正の定数。z \in [y, e^{\frac{\delta}{2}}y] \subset [x, e^{\frac{K}{\delta}}x] を任意にとる。e^{\frac{\delta}{2}} \leq (1-\delta)^{-1}よりz-y \leq \delta zであることに注意すると、

\displaystyle \left| \frac{R(z)}{z} \right| < \delta + \delta + \frac{K'}{\log x}

が成り立つ。x > e^{\frac{K'}{2\delta}}ならばこれは4\deltaで押さえられる。よって、x_1:=\max \{ x_0, e^{\frac{K'}{2\delta}} \}とすることにより題意は示された。 Q.E.D.

証明の最後に用いる数列に関する補題を証明して前半部を終了する*2

補題3
正の定数Kは命題に現れるものとする(ただし、K > 4/75を満たすようにとっておく)。数列\{\alpha_n\}\alpha_1=4
\displaystyle \alpha_{n+1} = \alpha_n \left( 1-\frac{\alpha_n^2}{300K}\right)
により定める。このとき、
\displaystyle \lim_{n \to \infty}\alpha_n=0
が成り立つ。

証明. 極限が存在すればその極限値が0であることは容易にわかる。よって、この数列が収束することを示せばよい。\displaystyle \frac{1}{300K} < \frac{1}{16}なので、数学的帰納法によって0 \leq \alpha_n \leq 4を示すことができる。特に、\{\alpha_n\}は下に有界な単調減少数列であるので、実数の連続性によって収束する。 Q.E.D.


いよいよ、我々は素数定理の完全証明を手中のものとする準備が全て整った。

素数定理の証明の完結

仮に或る\alpha < 8, x_2 > 0が存在して、任意のx \geq x_2に対して|R(x)| < \alpha xが成り立つと仮定しよう。\displaystyle \delta := \frac{\alpha}{8}とすると、0 < \delta < 1を満たす。この\deltaに対して前半の命題を適用するが、x_2はその命題に現れるx_1より大きくとっておく。x \geq x_2に対して仮定と前記事の主結果を適用することによって

\begin{equation}\begin{split}|R(x)| &< \frac{1}{\log x}\sum_{n \leq x}\left| R\left( \frac{x}{n} \right) \right| + O\left( \frac{x}{\sqrt{\log x}} \right) \\ &< \frac{\alpha x}{\log x}\sum_{\frac{x}{x_2} < n \leq x}\frac{1}{n} + \frac{x}{\log x}\sum_{n \leq \frac{x}{x_2}}\frac{1}{n}\left| \frac{n}{x}R\left( \frac{x}{n} \right) \right| + O\left( \frac{x}{\sqrt{\log x}} \right) \text{-①}\end{split}\end{equation}

を得る。ここで、

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の漸近公式3より

\begin{equation}\begin{split}\frac{\alpha x}{\log x}\sum_{\frac{x}{x_2} < n \leq x}\frac{1}{n} &= \frac{\alpha x}{\log x} \left\{ \left( \log x+\gamma +O\left( \frac{1}{x} \right) \right) - \left( \log \frac{x}{x_2} + \gamma + O\left( \frac{1}{x} \right) \right) \right\} \\ &= \frac{\alpha x}{\log x}\left( \log x_2 + O\left( \frac{1}{x} \right) \right) \\ &= O\left( \frac{x}{\sqrt{\log x}} \right). \end{split}\end{equation}

と計算できる(\gammaはEulerの定数)。

次に\displaystyle n \leq \frac{x}{x_2}なる和について考察する。\displaystyle \rho := e^{\frac{K}{\delta}}とする(Kは前節の命題におけるK)。\displaystyle n \leq \frac{x}{x_2}のとき、

\displaystyle \frac{x}{n} \in [ x_2, x] \supset \bigcup_{\nu =1}^{[ \log_{\rho}\frac{x}{x_2}]} [ \rho^{\nu -1}x_2, \rho^{\nu}x_2 ]

である。前節の命題により、各\nuに対してy_{\nu}が存在して、[ y_{\nu}, e^{\frac{\delta}{2}}y_{\nu}] \subset [ \rho^{\nu -1}x_2, \rho^{\nu}x_2] であって、

\displaystyle z \in [ y_{\nu}, e^{\frac{\delta}{2}}y_{\nu}] \Longrightarrow |R(z)| < \frac{\alpha}{2}z

が成り立つ。従って、①において\displaystyle \frac{x}{n} \in [ y_{\nu}, e^{\frac{\delta}{2}}y_{\nu} ] なるnに対してはこの評価を用い、その他の\displaystyle n \leq \frac{x}{x_2}に対しては仮定している評価で甘んじることによって

\displaystyle |R(x)| < \frac{\alpha}{\log x}\sum_{n \leq \frac{x}{x_2}}\frac{1}{n} - \frac{\alpha x}{2\log x}\sum_{\nu =1}^{[ \log_{\rho}\frac{x}{x_2} ]}\sum_{\frac{x}{e^{\delta /2}y_{\nu}} \leq n\leq \frac{x}{y_{\nu}}}\frac{1}{n}+O\left( \frac{x}{\sqrt{\log x}} \right)

を得る。先ほども用いた漸近公式3によって

\displaystyle \frac{\alpha x}{\log x}\sum_{n \leq \frac{x}{x_2}}\frac{1}{n} = \frac{\alpha x}{\log x}(\log x+O(1)) = \alpha x + O\left( \frac{x}{\sqrt{\log x}} \right)

および

\begin{equation}\begin{split}&\frac{\alpha x}{2\log x}\sum_{\nu =1}^{[ \log_{\rho}\frac{x}{x_2}]}\sum_{\frac{x}{e^{\delta /2}y_{\nu}} \leq n\leq \frac{x}{y_{\nu}}}\frac{1}{n} \\ &= \frac{\alpha x}{2\log x}\sum_{\nu =1}^{[ \log_{\rho}\frac{x}{x_2}]}\left\{ \left( \log \frac{x}{y_{\nu}}+\gamma + O\left( \frac{y_{\nu}}{x} \right) \right) - \left( \log \frac{x}{e^{\frac{\delta}{2}}y_{\nu}}+\gamma +O\left( \frac{e^{\frac{\delta}{2}}y_{\nu}}{x} \right) \right) \right\} \\ &= \frac{\alpha x}{2 \log x}\sum_{\nu =1}^{[ \log_{\rho}\frac{x}{x_2} ]}\left( \frac{\delta}{2} + O\left( \frac{y_{\nu}}{x} \right) \right) \\ &= \frac{\alpha \delta x}{4\log \rho} + O\left( \frac{x}{\sqrt{\log x}} \right) + O\left( \frac{1}{\log x}\sum_{\nu =1}^{[ \log_{\rho}\frac{x}{x_2} ]}y_{\nu} \right) \\ &= \frac{\alpha^3 x}{256K} + O\left( \frac{x}{\sqrt{\log x}} \right) \end{split}\end{equation}

と計算できる。ここで、

\displaystyle \sum_{\nu =1}^{[ \log_{\rho}\frac{x}{x_2}]}y_{\nu} = O\left( \sum_{\nu =1}^{[ \log_{\rho}\frac{x}{x_2}]}\rho^{\nu} \right) =O(x)

を用いたことに注意する。従って、

\displaystyle |R(x)| < \alpha \left( 1-\frac{\alpha^2}{256K} \right) x + O\left( \frac{x}{\sqrt{\log x}} \right).

特に、x_3 > 0が存在して、x \geq x_3ならば

\displaystyle \left| \frac{R(x)}{x} \right| < \alpha \left( 1-\frac{\alpha^2}{300K} \right)

が成り立つ。

さて、(予告編)で言及したように、\alpha_1:=4に対してx_1' > 0が存在して

\displaystyle x \geq  x_1' \Longrightarrow \left| \frac{R(x)}{x} \right| < \alpha_1

が成り立つことがわかる。この\alpha_1に対して上記の議論を適用することにより、\displaystyle \alpha_2 := \alpha_1 \left( 1- \frac{\alpha_2^2}{300K} \right)に対してx_2' > 0が存在して

\displaystyle x \geq  x_2' \Longrightarrow \left| \frac{R(x)}{x} \right| < \alpha_2

が成り立つ。この操作を繰り返すことによって*3、数列\{ \alpha_n \}を補題3で定義した数列とするとき、任意の自然数nに対してx_n' > 0が存在して

\displaystyle x \geq  x_n' \Longrightarrow \left| \frac{R(x)}{x} \right| < \alpha_n

が成り立つ。\displaystyle \lim_{n \to \infty}\alpha_n = 0であるから、我々は

\displaystyle \lim_{n \to \infty} \frac{R(x)}{x} = 0

と結論付けることになる。

以上により、我々は素数定理の完全なる証明を完了する。

Q.E.D.

*1:一度あるKに対してx毎にyを一つずつ選んだあと、K\displaystyle K+\frac{\delta^2}{2}に取り換えればよい。

*2:この補題は(少なくともこの証明法では)大学入試では範囲的に出せない??

*3:補題2において、K > 0の取り方は\deltaに依っていない。また、命題の証明において\displaystyle K \mapsto K+\frac{\delta^2}{2}なる取り換えを行っているが、使う\deltaはどんどん小さくなっていくため、結局K > 0は各操作に依らず一定値でとれることに注意。