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INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

70年以上未解決であった「ミルズの定数の無理数性」が解決か!?

旧知の仲である数学者 齋藤 耕太 氏(筑波大学、学振PD)が、昨日数学の未解決問題を解決したとするプレプリントをプリプリントサーバーarXivに投稿されました:

arxiv.org

論文自体は「現状分かるところまで研究しつくす」という素晴らしい態度で執筆されているので主定理の記述は十行ありますが、その特別な場合をとり出した


ミルズの定数は無理数である


という定理(これは論文のタイトルにもなっています)が、ある程度長い期間未解決であったと思われる数学上の問題の解決を意味しています。

無理数性の証明はかっこいい

実数という数学的対象は有理数と無理数に分けられます。有理数は \frac{5}{3} などのように

\frac{\text{整数}}{\text{自然数}}

という表示を持つ実数であり(ここでは自然数は正の整数を意味するものとします)、有理数ではない実数のことを無理数といいます。


高校数学でも証明込みで学ぶことと思いますが、無理数の典型例としては \sqrt{2} があげられます。この数は代数方程式 x^2-2 = 0 の解であるという特徴があり、この特徴を用いることができるので比較的簡単に無理数性を証明できると言えるでしょう。このように代数方程式の解であることがわかっている数については、その方程式を利用した無理数性証明が期待できます。ですが、代数方程式の解かどうかがわからない形で定義される具体的な数については、その無理数性を証明することが一般的にはとても難しいと認識されています。


例えば、円周率 \pi やネイピア数 e は代数方程式の解かどうかわからない形で定義される数であり、これらの数の無理数性は既に証明されているものの、\sqrt{2} の無理数性証明に比べるとその証明は難しいです(e\pi では \pi の方がだいぶ難しいと思います。また、これらの数は実際に代数方程式の解にならない(= 超越数)ことまで証明されています)。


他にも多くの数学者の努力によって、複数の具体的に定義される数の無理数性が証明されてきています(有名なものの1つはアペリーの定数 \zeta(3))。ですが、無理数性が未解決の数が圧倒的に多い状況であるというのが実態です。


有名どころでは e+\pi、オイラーの定数 \gamma\zeta(5) などがあります。これらの数の定義も、無理数という概念の定義も簡単であるにも拘らず、これだけ科学技術が進歩している現代においても、人類はまだこんなことも証明できないのです。


別に具体的な数が無理数であることが証明されたからといって即座に何かの役に立つということは全然期待できないですが、こんなこともわかっていないという状況は非常にもどかしく、多くの数学者が1つでも多く無理数性が未解決であるような数の無理数性を解決したいと思っていることでしょう。


具体的に定義された数の無理数性を解決し、人類の知識を増やすこと


これはとてもかっこいいことだと思うのです。

ミルズの定数とは

今回、齋藤 耕太氏は具体的に定義された数「ミルズの定数」の無理数性を証明しました。このミルズの定数が一体何なのかということを簡単に説明します。


基となる論文はミルズ氏の1947年の論文

W. H. Mills, A prime-representing function, Bull. Amer. Math. Soc. 53 (1947), 604.

です(1ページ)。

これは素数に関する研究です。何を代入しても素数を返す関数のことを「素数表現関数」と言ったりしますが、シンプルな表示を持つ素数表現関数の存在を調べることは一定の興味を持たれ続けています。


例えば、多項式関数はどうかと考えると、オイラーの多項式 x^2+x+41 のように多数の素数を返すものはあるものの、定数でない1変数の多項式関数では完全な素数表現関数は存在しないことが簡単にわかります。


ミルズは非常に興味深い素数表現関数の存在を証明しました。

ミルズの定理 ある実数 A が存在して、任意の自然数 k に対して
[A^{3^k}]
は素数である。


[\cdot]はガウス記号と呼ばれているもので、中に入れた実数の整数部分を返します。つまり、何か特別な実数 A が存在して、その数を 3^k 乗していって各整数部分をとっていくと、それらがことごとく素数となっているというのです。満たす性質から A > 1 であることはすぐにわかります。

ちなみに、ミルズの定理は拙著『せいすうたん1』(共著)、『数論入門事典』(分担執筆)でも取り上げています。


ミルズの定理の性質を満たすような A は無限に存在しますが、その中で最小のものを「ミルズの定数」と呼びます。まず、そのような最小値が存在するかどうかは非自明に聞こえますが、実際は簡単にその存在を証明することができます。つまり、ミルズの定数は一意的に存在する実数です。


また、ミルズの論文ではこの概念は導入されておらず、いつ「ミルズの定数」という呼び名が始まったのかの歴史は知らないのですが、少なくとも21世紀の初め頃には使われているようです。ですので、もしそれ以上遡れないのならば、「名前がついて以降からカウントする」という流儀をとれば、「ミルズの定数の無理数性」という問題は30年以上の未解決問題とはなり得ないことになります。


個人的にはこれが「有名未解決問題」であったかというとそうではなかったのではないかと思うものの、2003年のFinchのテキストには

It is not known whether C must necessarily be irrational.

とあり(Cがミルズの定数)、WikipediaやWolfram MathWorld、OEISには未解決問題であると明示されています。


OEISのA051021には

Not known to be rational or irrational.

とありますが、続いて

See Saito (2024) for a new result.

とあります(仕事が早い!)。


先ほど「30年以上の未解決問題とはなり得ない」という見方を提示しましたが、何か意味のある数学定数が得られればそれが無理数かを問うのは常なので、そして、ミルズの定数の存在性も簡単に分かるので、「ミルズの原論文以降、70年以上未解決の問題であった」と言って差し支えないというのが私の見解です。


ただ、これは念のためですが、私はこのテーマに特に詳しいわけではないので、実は齋藤氏以前に同じ内容を証明した論文が既に存在するという可能性は現時点で否定はできません(論文の歴史調査はそれなりに大変なため)。ですので、今後もし他の関連研究の存在が判明した場合には、そのことを報告するようにします。


特定の数が無理数かどうかが未解決なことはザラなので、「きっとこの問題も難しいんだろうなあ」という先入観は持ちますが、「こんな素数を産み出しまくる面白実数が有理数なワケねえ!」とは思いますよね。

驚きポイント

今回の齋藤氏の仕事の何が衝撃的かというと、「その証明が驚くほど簡単である」ということです。


数学の最先端の研究では「自分で問題を見つけて、それを自分で解いて論文にする(共同研究で分担することも多い)」、「他の数学者が解けずに提出した予想を解決して論文にする」ことが多いと思います。

前者の場合は論文が出た時点で問題は既に解決しているわけですが、後者の場合でも数ヶ月から数年しか予想が未解決である期間がないことが通常だと感じます。数学者も頑張っていますから、普通は予想はそんなに「もたない」ものです。


10年とか数十年もの間、数学の問題が未解決である場合、それはとても難しいことが多いです(実は簡単なのに誰からも興味を持たれず埋もれているケースもあるにはありますが、普通は数学者は常日頃未解決問題を探してるものですから、それが本当に簡単なのであれば、誰かに見つけられて解かれていることの方が多いでしょう)。


すると、簡単な手法は皆がチャレンジしているはずですから、解けるのであれば真に新しい道具やテクニックが必要となることが多いことになります。その最たる例としてはフェルマーの最終定理で、今に至るまで初等的証明の試みは全て失敗している一方で、ワイルズによる解決は当時の最先端の数学理論を駆使し、自らも新しい理論を産み出しての大仕事でした。


とは言ってもフェルマーの最終定理の初等証明がないと決まったわけではないですし、歴史上、何十年も未解決であったにも拘らず、解けてしまったらそれは誰でも分かるようなとても簡単な論法であったなんてこともなくはありません。


私が思い出すのは「シルヴェスター・ガライの定理」(平面上に有限個の点の集合を考える。もし、全ての点が同一直線上にあるのでなければ、ちょうど2つの点のみを通る直線が必ず存在する)です。

これは1893年にシルヴェスターが提出した問題で、1940年代にガライ等(Melchiorが先に証明)によって証明されたので40年以上未解決だったものです。そのうち、ケリーが与えた証明が(聞けば誰でも思いつくと言いたくなるほど)驚くほど簡単な証明だったのです。


このようなケースは極めて稀で、長年の未解決問題が驚くほど簡単に解けてしまうなんて幸運は殆どの数学者には経験できません。そのような難問は大論文として解かれることの方が普通だと思います。


あるいはアペリーによる \zeta(3) の無理数性の証明なんかは大論文ではなく短くまとめられますし、出てくる数学もオイラーの時代からあったなんて言われますが、あの証明は普通は思いつけないほどの奇跡的なものなので、「自分にもできたはずなのに!悔しい!!」とは全くならないタイプのものです。


なんにせよ、「自分にもできたはずだ!」と思いたくなるほど簡単な方法で未解決問題が解けることは殆どあり得ないんですよね。


ところが、齋藤氏はどうやらその幸運を掴んだようです。

正しさについて

まだプレプリントなので査読が完了するまでは待つ必要があります。


というのは普通の感覚かもしれませんが、数学という学問の性質上、正しいかどうか納得する最善の方法は自分で論文を読んで考えることです。他人が正しいと言っているから正しいわけではないですし、査読されていても間違っている論文なんていくらでもあります。その一方で、査読なんて待たなくても自分で読めば正しいか判定できます(その判定精度は読む側の数学力に依存はしますが)。(また、近い将来、数学の正しさ判定は定理証明支援系を用いる形に変わっていくと思われますが。)


幸い、「ミルズの定数の無理数性」に限定したわかりやすい日本語解説を著者本人が公開してくれていますので、気になる人は皆さん是非読みましょう:

drive.google.com

これを読んだ私の理解としては、「先行研究の証明までは追っていないが、先行研究を仮定した上での議論はまあ正しいだろう」というものです。(ただし、正しいと思った後にやっぱり穴があったという恥ずかしい経験は私にもあるので、絶対に正しいと言い切れないもどかしさは常にあります。。。)


また、先行研究については有名な結果であり、多くの数学者がそれを引用して拡張する研究が多数行われており、齋藤氏が(主張を勘違いするなど)引用の仕方を間違えているということも(私が関連論文をチェックした結果)ないと感じています。

先行研究①〜短区間中の素数の存在について〜

「短区間中の素数の存在」は古くから研究されている研究テーマで、1つの問題として、次の主張が成り立つような \theta > 0 をできるだけ小さくしていこうという流れがあります。

ある正の実数 x_0 が存在して、任意の実数 x\geq x_0 に対して
x \leq p \leq x+x^{\theta}
を満たす素数 p が存在する。


x2x の間に必ず素数が存在するというのが有名な「ベルトランの仮説」ですが、十分大きい x についてはもっと短い区間 [x, x+x^{\theta}] に素数が存在することが期待できるというか、それが成り立つような \theta を特定したいのです。そして、現時点での世界記録が2001年のベイカー ・ハルマン・ピンツによるもので、

\displaystyle \theta=\frac{21}{40}

ととれることが示されています。齋藤氏はこの結果を用いていますが、実際は \theta < \frac{2}{3} であることしか証明には使いません。ですので、世界記録を使う必要はなく、例えば(これも偉大なる結果ですが)インガムによる1937年の結果を用いてもミルズの定数の無理数性を帰結できます。(\theta\frac{5}{8} より少しでも大きければOKであることがインガムの結果から分かります。)


ちなみに、ミルズの定理のミルズによる証明自体にインガムの結果が用いられていたのですが、その論文の時点で1つ目の道具はあったわけです。

先行研究②〜有理数冪に関するマーラーの定理〜

無理数性を証明する場合、\sqrt{2}の無理数性証明なんかだと無理数の定義しか用いないですが、何らかの無理数判定法を用いることが普通です。その際、アペリーの定理の証明でも用いられた、最もオーソドックスかつ初等的な判定法があるのですが、今回はそれではなく、マーラーによる1957年の定理を用いています。

マーラーの定理 整数ではない1より大きい任意の有理数 r1より大きい任意の実数 a に対して、ある自然数 n_0 が存在して、任意の自然数 n\geq n_0 に対して
\displaystyle \| r^n \| > \frac{1}{a^n}
が成り立つ。


ここで、\|x\|x から最も近い整数までの距離です。つまり、整数ではない1より大きい有理数は、その数の十分大きい冪乗をとったときに(n乗のときには a^{-n}以上(以下?)は近づけないという意味で)整数に近づきすぎることはできないという数の世界の掟があるということです*1


主張はシンプルで原論文自体は短いですが、証明にはヘビーな道具を用います。1955年にロスが解決し現在「ロスの定理」と呼ばれているディオファントス近似における大定理があるのですが(ロスはそれを主要業績の1つとしてフィールズ賞を受賞)、直後にその拡張などが様々に研究されており、マーラーとRidoutによって研究された「p進版ロスの定理」が用いられてマーラーの定理が証明されています。

証明のアイデア

言われてみればめちゃくちゃマーラーの定理が使えそうですよね。A をミルズの定数として、p_k:=[A^{3^k}]とおきます。定義から p_k は素数です。ガウス記号の意味から

p_k \leq A^{3^k} < p_k+1

は当たり前なので、A^{3^k} に最も近い整数は p_kp_k+1 です。ただ、これだけではどれぐらいそれらに近いのかは分からないので、この当たり前から一歩だけ踏み込む必要があるのですが(しかし、一歩踏み込むだけでいい!!)、ミルズの定理の導出には短区間中の素数の存在(インガムの定理でよい)を用いていたことを思い出すと、ミルズの定数の最小性(定義)と合わせて、

p_k^3 < p_{k+1} < p_k^3+p_k^{3\theta}

が十分大きい k で成り立つことを簡単に確かめることができます。すると、即座に

p_k\leq A^{3^k} < p_k+p_k^{3\theta-2}

を導出することができるので、これは A^{3^k} がめちゃくちゃ p_k に近いことを意味しています(3\theta-2 < 0 に注意、kが大きくないと実感はわかない)。実際、a:=p_1^{\frac{2-3\theta}{3}} とおけば、

\displaystyle \|A^{3^k}\| < \frac{1}{a^{3^k}}

がすぐに導かれます*2Aが整数でないことは簡単に確かめられるので、もし A が有理数だと仮定すると、これはマーラーの定理に矛盾していますね。つまり、短区間中に素数が存在するという素数分布に基づいたミルズの定数の構成から、十分大きい k について、ミルズの定数の 3^k 乗は自身が出力する素数にめちゃくちゃ近いところにいて、でも、それは数の掟が A が有理数になることを許さないと言っているのです。


2つの先行研究を用いてミルズの定数の無理数性を導けと言われれば、そして「長年未解決である」という情報を与えないで心理的に解けないと思わせなければ、数学者なら誰でもできるというのが第一印象です。しかも、道具は1957年には全て揃っていたのです。

おわりに

でも、実際は取り組もうとしたら「長年未解決である」ことには気づきますので難しいに違いないという先入観が働くはずです。それに、どんなに簡単な証明であったとしても、最初にそれに気付くことは簡単ではなく、気づいた人はものすごく偉い思います。


悔しい気持ちもなくはないですけど、齋藤氏は以前からミルズの定数関連の研究をして論文も書いてきた専門家です。


彼はきっとこの数のことをずっと考えていて、愛してきたことでしょう。本当におめでとうございます(間違いがないことを祈りつつ)。

*1:底が 1 より小さい指数関数は冪が大きくなるとどんどん小さくなるので、これ以上は近づいたらダメという禁止ゾーンは結構な速さでどんどん小さくなっていくが、1つの固定した底に対する指数関数に対して無限回禁止ゾーンに侵入することは許さない。

*2:p_k^3 \leq p_{k+1}が成り立つように取られていたことに注意。つまり、繰り返すと指数関数で押さえられる。

Sendovの予想

多項式とその導関数の根の分布に関して、次の予想があります:

予想(Sendov, 1959年) n2 以上の整数とし、f を 複素数係数の n次多項式であって、その根が全て単位円周の内部または周上に分布しているものとする。このとき、f の任意の根について、その根を中心とする半径1の円の内部または周上に必ず f の導関数 f' の根が存在する。

この予想のある種の最適性について、f(z) = z^n-\xi とすると(ただし、\xi は単位円周上の好きな点とする)、f'(z) = nz^{n-1} の根は原点のみであり、f(z) の任意の根は単位円周上に分布しています。つまり、f(z) のどの根についても、その根を中心とする半径 1 の円周上に f'(z) のただ1つの根である原点があります。

n=2 の場合を考えてみましょう。f(z) = z^2 - az +b と仮定してよく(a, b は複素数)、f(z) の根を \alpha, \beta とし、|\alpha|, |\beta|\leq 1 と仮定します。このとき、f'(z) = 2z - a なので、f'(z) の根は a/2 = (\alpha+\beta) / 2 ただ1つです(2つの根の中点)。これと \alpha, \beta との距離はともに |\alpha-\beta|/2 ですが、単位円周の内部または周上にいる \alpha\beta の距離は直径である 2 以下ですから、確かに、|\alpha-\beta|/2\leq 1 が成り立っています。

知られている結果

定理(Brown–Xiang, 1999年) n\leq 8 でSendovの予想は正しい。

定理(Tao, 2022年) 十分大きいすべての n でSendovの予想は正しい。

参考文献

[1] J. E. Brown, G. Xiang, Proof of the Sendov conjecture for polynomials of degree at most eight, J. Math. Anal. Appl. 232 (1999), 272–292.

[2] T. Tao, Sendov’s conjecture for sufficiently-high-degree polynomials, Acta Math. 229 (2022), 347–392.

ゲーベル数列とMatsuhira-Matsusaka-Tsuchida 2023+

R. Matsuhira, T. Matsusaka, and K. Tsuchida による論文

arxiv.org

が雑誌 The American Mathematical Monthly に掲載を許可されたという嬉しいニュースを聞いたため、それを祝ってあらためて彼らの結果をご紹介します。


具体的な初期値と漸化式で数列 (a_n)_n が与えられました。それが有理数列であることは定義から明らかなのですが、値を小さい番号順に実際に計算してみると不思議なことに整数値ばかり出てくるという状況を考えてみましょう。


これは不思議な状況ですが、次の2パターンが考えられます。

  1. どこかで不思議な現象は破綻し、非整数値が現れる(けれども、最初の方では整数値ばかりであった不思議は残る)。
  2. 奇跡的に全ての番号 n で整数値をとり続ける。

どちらのパターンの数列も若干例見たことがあって、このような現象をより一般的に理解できないだろうかということに興味があったりします。


1つ目のパターンに当てはまる数列としてゲーベル数列 (g_n)_n とよばれるものがあります。初期値は g_0=1 で漸化式は

\displaystyle g_n = \frac{1+g_0^2+g_1^2+\cdots+g_{n-1}^2}{n}

で定まります。毎回、次の番号の値を計算するときにその番号で割ることになるので、g_n が有理数であることは当たり前ですが、整数かどうかはパッと見ではわかりません。


ところが、驚いたことに、最初の幾つかの値を計算していくと、g_{10}=7160642690122633501504 のように整数値が出てくるのです。


もっと面白いことは、この偶然(?)が 43番目で唐突に崩れることで、g_{43} は整数ではありません。


私はこの数列がとても面白いと思ったのですが、英語での紹介記事は幾つかあるものの、日本語の記事は皆無でしたし、Richard Guyの1988年の論文を除いて、この数列を研究した論文もほぼ皆無でした。


そこで、私はこのブログで2016年の4月にゲーベル数列を紹介しています(現在は非公開)。


その後、月日が経って、今年の5月に書籍『せいすうたん1』が発売されたのですが、そちらで再度ゲーベル数列を紹介しています。

integers.hatenablog.com


せいすうたんで扱えるトピック数は限られているため、私がいかにゲーベル数列のことを特別に面白いと思っているかが分かりますね。


そちらでも紹介していますが、ゲーベル数列は k-ゲーベル数列 (g_{k,n})_n に一般化することで謎がたくさん現れます。定義はゲーベル数列の漸化式で2乗だった部分を全て k 乗にしたものです。


2以上の各 k について、k-ゲーベル数列が最初に紹介した2つのパターンのどちらになっているかという問題を考えると、これは私はまだ答えを知りません。


多分、全ての k で1つ目のパターンになるだろうとは思うのですが、1つ目のパターンのときに初めて整数性が破れる番号を調べていくと、3-ゲーベル数列では89番目、4-ゲーベル数列では97番目、.... というようになっており、この番号たちの法則にとても興味があります。


例えば、何故か素数だらけなんですよねえ。2016年に知った当初、私は本当に驚きましたが、未だに何故かは知りません。


実は第3話の漫画の中でキャラクターがこの整数性の破れる番号の最小値は何か?という問題を提示しているのですが、冒頭の論文はこの問題を解決しています。


答えは19です。


つまり、どの k\geq 2 についても (g_{k,n})_nn=18 までは必ず整数になるのです!!


整数性が定義からは明らかではないにも拘らず、常に18番目までは整数になるというのは面白いですし、19 という整数の持つ面白い特徴を与えている定理とも思えます。


私はブログと書籍を通じてこの面白い数列を紹介することを試みましたが、あくまで日本語なので世界中で興味を持ってもらうには貢献が小さいです。


ただ、今回の論文のおかげで英語で、しかも歴史ある雑誌から広く紹介されることになるのはとても嬉しいことです。単に定理を証明しているだけではなく、周辺の歴史等も詳細に調査してくださっています。


ゲーベル数列に関する研究論文は極端に少ないですが、今後謎がどんどん解決されることを期待しています。



ところで、『せいすうたん1』には研究課題が多数あるのですが、難度が高い問題が多いため、解くのが難しいと思われます。


発売されて1年にも満たないうちに、本書に影響を受けた論文が現れたことはとても嬉しいサプライズでしたが、「研究課題」として提示されている問題ではなく、漫画内でキャラクターが提示していた問題に着目されたのが凄く筋がいいなあと感じました。


なお、九州大学で松坂先生が『せいすうたん1』をテキストとして講義を行ってくださり、それを受講していてゲーベル数列の話を担当した学部1年生2人との共著論文となっています。


「研究課題」は基本的には難しすぎますが、それ以外の漫画や本文の中に解ける問題がまだまだ残っているかもしれませんので、是非みなさんもチャレンジしてみてください。また、「研究課題」そのものではなく、それを弱めた問題にチャレンジすることも良いと思っており、私自身はその線でチャレンジしています(自分で出した課題が解けない涙)。


最後に、「研究課題」の中には普通に取り組み可能なものもあるので、それを列挙しておきます。
課題2.2、課題4.1、課題7.1、課題12.2

追記

ちなみに 1-ゲーベル数列を (a_n)_n とおくと、a_0=1, a_1=2, a_2=2, a_3=2, ... と1番目以降はずっと 2 なので、特に常に整数値をとります。ただ、漸化式の分子が

\displaystyle 1+1+\underbrace{2+\cdots+ 2}_{n-1} = \underbrace{2+\cdots+2}_n = 2\times n

となって、nで割れる理由が明白なため、「奇跡的に」整数をとるというわけではないです。


割り算を伴うにも拘らずずっと整数値をとるような数列については、そのことが証明できた場合、割れる理由がどの程度納得できる証明であるかに応じて我々が体感する奇跡度は変わってくると思います。世の中には奇跡的な数列も存在しますので皆さん探してみてください。