インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

書籍『せいすうたん1』(小林銅蟲氏との共著)が出版されます!

私にとっては二冊目の書籍となる『せいすうたん1』がもうすぐ発売予定です。こちらは漫画家の小林銅蟲氏との共著です*1。176ページ、税込みで1980円です。内容:整数たちが冒険する漫画本

www.amazon.co.jp

これは販促記事です。日本評論社が刊行している雑誌『数学セミナー』の2020年4月号〜2021年3月号において、小林銅蟲先生の漫画『せいすうたん』が連載されていました。『数学セミナー』で漫画が連載されたのは初めてのことであり、私はその漫画で扱う数学的内容の監修者でした。さて、『数学セミナー』における数学に関する連載はその後、数学書としてしばしば単行本化されます。また、漫画雑誌で連載された漫画についても、後に単行本化されることは多いと思います。『せいすうたん1』は2020年度連載分の待望の単行本化となります!お待たせしました!!連載時は毎月2ページの漫画が掲載されていたのですが、従って、本書には24ページ分の漫画が掲載されています。冒頭では176ページと記述しました。これは一体どういうことか。実は、おまけがつきます。各話毎に私による解説文がついているのです。おまけは全部で大体140ページぐらいです。このおまけは雑誌には掲載されていなかった部分であり、実際の執筆は連載後に行われました。何故連載後しばらく月日がかかったのか、何故単行本では「監修」ではなく「共著」なのかの理由は大体伝わったのではないかと思います。冒頭での「内容:整数たちが冒険する漫画本」という記述は全く嘘ではなく、漫画の内容は「擬人化された整数たちによる不思議の国のアリスのような冒険譚」なのですが、本全体に占めるページ数としては「おまけ」の部分の方が多く、その部分は数学書と言っていい内容になっています。つまり、『せいすうたん1』は「漫画本かつ数学書」という比較的珍しいジャンルの書籍となります。漫画は各話2ページとは言っても小林銅蟲ワールド全開で面白いです!解説不要!連載を読んでいた方も、読んでなかった方も、小林銅蟲先生のファンの方も、本書で初めて小林銅蟲先生の漫画を読むことになる方も、皆さん是非単行本で読んでみてください!!以下では私が書いた「おまけ」部分の内容について少し語ります。ここで、各話のタイトルを紹介しましょう。

第1話 サブライム数
第2話 ロビンの定理
第3話 ゲーベル数列
第4話 シェルピンスキー数
第5話 アペリー数
第6話 弱い素数
第7話 鈴木の定理
第8話 ヴィーフェリッヒ素
第9話 ウォルステンホルム素数
第10話 アンタッチャブル
第11話 素数表現多項式
第12話 絵になる素数

私が愛してやまない「整数」に関するとっておきの面白い話題を12個選びました!「整数に関する面白い話題の紹介」というのは、まさしく本ブログINTEGERSがやってきたことです。実際、『せいすうたん1』の解説部分の多くは過去にINTEGERSで取り上げたものがベースになっています。つまり、私にとって本書は「INTEGERSの書籍化」という長年の夢の実現とも言えます!*2 ブログの書籍化とは言っても、ブログには500以上の記事があった一方で、本書では12個の話題しか取り扱えていません。自分自身で良く表現するなら「特に面白い話題だけを厳選した」と言えるでしょう。また、選ばれたものについても単なるブログ記事の貼り付けではなく、加筆・修正が行われ、校正も入っていますからブログ記事よりも品質は高いです*3。更に、ブログには書いたことがない完全書き下ろしの部分も結構あります!というわけで、本ブログの読者の方も、そうでない方も是非本書を読んでみてください!

本書の大きな特徴は様々な層の読者に楽しんでもらえるようなセクション構成にしたことです。数学のことは全然わからないけれども小林銅蟲先生の漫画には興味がある!という方は漫画をお楽しみください。私による数学解説パートは各話毎に「数学的解説」「補足説明」「研究課題」という3つのセクションに分かれています。「数学的解説」においては漫画に出てきた数学的内容を解説します。ここには原則的には証明は書かず、読み物として気軽に読むことができるでしょう。「補足説明」には「数学的解説」に現れた命題の幾つかについて証明をつけたり、漫画に直接は出てこなかったけれども関連する話題(=脱線)を書いたりしています。この部分は紙とペンを用意してじっくり考えならがら取り組みたい人にうってつけのセクションとなっています。大学でのセミナーのテキストとして利用することもできるでしょう*4。幾つかの話では、「話したさ」を止められなくてどんどん脱線していっている自覚があります(笑)。「研究課題」にはその話における「数学的解説」、「補足説明」に現れた内容と関連する研究課題を数個書いています。幾つかの課題は大学院生の研究課題になるかもしれませんし、その他多くの課題についてはプロの数学者にも難しい課題となっている気がします。課題の難度の高さについてはもしかしたらお叱りを受けるかもしれません。解決が難しいことは重々承知しているのですが、やっぱり死ぬまでに結論を知りたいものばかりです。実のところ、本書は私の「(妄想的)研究計画書」という側面があります。私が自分自身で少しでも解ければ嬉しいのですが、悲しいかな圧倒的実力不足ですので、協力者が現れることを願っています。以上のように、ライト層からプロまで楽しめる本を追求して執筆しました!ちなみに数学書としてはページ数は短めで、値段も低めだと思います。是非ご購入を検討していただければ幸いに存じます!

最後にもう1パラグラフ書きたいと思います。数学セミナーでの連載の単行本化は(漫画でなければ)よくあることですが、私の師匠(大学院時代の指導教員)である落合理先生(現東京工業大学教授)も数年前に単行本を出版されています:
https://www.amazon.co.jp/現代整数論の風景-落合-理/dp/4535788588www.amazon.co.jp
師匠と同じように日本評論社から単行本を出すことができることを幸せに感じていますが、実は『せいすうたん1』は『現代整数論の風景』と一緒に読むととても効果が高いのではないかと思っています。個人的には、落合先生の本は現代整数論の「王道」を俯瞰できる書籍という印象を持っています。一方、『せいすうたん1』で扱われている内容はどちらかと言えば「脇道」と言えるかもしれません。でも、私はその「脇道」にある話題が大好きなのです!この「脇道感」が他の本とは話題が被らないことによる啓蒙書としてのオリジナリティーを生じさせていると思いますし、脇道にお宝が眠っているかもしれません。ただ、『せいすうたん1』では王道的話題を避けすぎたきらいは否めません。『せいすうたん1』と『現代整数論の風景』はとても似たフレーバーを持ちつつ、互いに相補的な関係にあると思います。まだ手にとってない方は是非『現代整数論の風景』も読んでみてください。

*1:一冊目は数学の専門書を単著で1月に上梓しました:integers.hatenablog.com 三冊目はこちら(『数論入門事典』朝倉書店、分担執筆)

*2:ブログが書籍化されることはとても幸せなことですが、小林銅蟲先生の漫画と一緒にということが嬉しすぎます!

*3:つまり、ブログは書籍の下書きだったとも言えます。

*4:実際に2つの大学でセミナーのテキストに採用していただいております。