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数、特に整数に関する記事。

バーゼル問題の高校数学範囲内で分かる証明

6 ζ(2)

この記事では前半でバーゼル問題について記述し、後半では高校数学のみを使った証明を紹介します。

バーゼル問題解決への歴史*1

調和級数\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n}が発散することを以前の記事で示しました:
integers.hatenablog.com

では、平方数の逆数和

\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2} = 1+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\cdots

はどうなるでしょうか?

実は、調和級数とは違って、望遠鏡和を用いて収束することが示せます:

\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2} \leq 1+\sum_{n=2}^{\infty}\frac{1}{n(n-1)} = 2.

最後の級数の計算は望遠鏡和に関する記事の例題2で扱いました:
integers.hatenablog.com

しかし、収束することは分かっても、実際にどんな値に収束するかを知ることは容易ではありません。この問題に取り組んだJakob Bernoulliは努力したにも拘わらず、解くことが出来ませんでした。彼はこの問題の解決を後世に託し、彼がスイスのバーゼルに住んでいたことから、この問題は「バーゼル問題」と呼ばれるようになりました。ちなみに、平方数の逆数和は「Riemannゼータ関数\zeta (s)」と呼ばれる関数のs=2の値になっていることから、以下では\zeta (2)と書くことにします。

バーゼル問題は当時かなりの難問であり、幾人もの数学者が挑戦しても解けませんでした。例えば、次のような近似値計算の時代があります(\zeta (2)は収束が遅いため、定義通りにいくつかの項を加えても中々真の値に近づきません):

Daniel Bernoulli (1728) \zeta (2)\displaystyle \frac{8}{5}
Goldbach (1728) \displaystyle \frac{41}{25} < \zeta (2) < \frac{5}{3}
Stirling (1730) \zeta (2)≒1.644934065 小数第8位まで正しい。
Euler (1730/1) 出版1738 \zeta (2)≒1.644934
Euler (1732/3) 出版1738 \zeta (2)≒1.644934066847494 小数第11位まで正しい。

ちなみに真の値は

\begin{align}&1.64493406684822643647241516664602518921894990120679843773555822937\\
&000747040320087383362890061975870530400431896233719067962872468700\\
&500778793510294633086627683173330936776260509525100687214005479681\\
&155879489036082327776191984075645587696323563670971009694890208593\\
&200805163647887833884604444518405982514525068338763142276587939295\\
&880632044721979084773409105902083782895492782638903797635833439420\\
&451591208180995934544487745879650088088940870111163471069316146184\\
&288798154862448359091834487573874283940827602875632143460100135766\\
&209820487206904000738266356030240228446296303245660971719514277213\\
&159512556799861908719315439535241063804407214213396547505801587231\\
&658399476243491422433483629048870096650598622630341095967365528113\\
&716703269114987840343571616057766763330672527368942384166408895362\\
&275954007727947481271025204983784332300171657448103028604349668847\\
&942167284335972819977938100084665607805377828859472786259316186645\\
&882921606581938592324153258064617812018846497776259849775606093846\\
&060514676858347256231971018363014798374889621592970276323587457382\\
&230067977956793195156519966123836183661686556657970037585793950381\\
&934670593931148594915966350586208585263810645488795820007897437172\\
&156936574908250803520457411392876355309477098608239229398667075005\\
&258036453403154127390727427228902274797421575212652728667905043560\\
&864470195221743482963080954072094043888453941742052787192693419622\\
&820247497515118741347278751799366473368748207523356608857939076596\\
&196079081265115910507292195588446135726412526147515780716091751568\\
&8532768329366565476558812843611511349485…\end{align}

といった感じです。さて、こうした紆余曲折の後、Eulerがバーゼル問題に決着を着けました:

定理 (Euler (1734/5) 出版1740) \ \ \ \displaystyle \zeta (2) = \frac{\pi^2}{6}

誰も平方数の逆数和が円周率と結びつくなどということは思いもよらなかったことでしょう。Eulerは「全く思いかけず、…円積問題に関係する」と述べているようです。発見した本人が一番驚いたのかもしれません。

Eulerの証明のアイデアは正弦関数の無限積表示を用いるものです(階乗に関する記事でも紹介しました)。
integers.hatenablog.com

命題 \ \ \ \displaystyle \frac{\sin x}{x} = \prod_{n=1}^{\infty} \left( 1-\frac{x^2}{\pi^2 n^2} \right).

一方、正弦関数のTaylor展開により

\displaystyle \frac{\sin x}{x} = 1-\frac{1}{6}x^2+\frac{1}{120}x^4-\cdots

です。これらを結びつけてx^2の係数を比較することにより

\displaystyle -\frac{1}{6} = -\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{\pi^2n^2}

が得られますので、バーゼル問題は見事解決しました。

高校数学のみを使った証明

Eulerによる上記証明はエレガントかつ非常に簡明ではありますが、高校数学の範囲内にはありません。無限積表示や、その収束性、Taylor展開などは高校では習いません(上の記述はとても短いですが、無限積表示の証明なども含めるとそれなりの長さになってしまいます)。一方、バーゼル問題の主張自体は非常に簡単で、しかも「平方数の逆数和と円周率が結びつく」という不思議なものです。高校生にこの感動に触れてもらいたい!これを高校数学範囲の道具立てのみで証明することには一定の意義があると言ってよいでしょう。さて、有名な問題は、往々にして多数の別証明が見つけられるものです。バーゼル問題も例外ではありません。簡単な証明はたくさんありますが、多くは超高校級です。しかし、完全に高校数学のみしか用いない証明が少なくとも2つ存在します。

1つの方法は次の2つのサイトに詳しい解説が載っています:
mathtrain.jp
青空学園数学科http://aozoragakuen.sakura.ne.jp/taiwa/taiwaNch04/node45.html

この証明は完全に高校数学範囲内ではありますが、①de Moivreの定理を用いるので、(自然な観点で考えると)複素数を用いる証明である。②コタンジェント\cotを用いて記述した方が自然である。という指摘はあり得ます。

一方、この記事で解説する証明は

Y. Matsuoka, "An Elementary Proof of the Formula \sum_{k=1}^{\infty}1/k^2=\pi^2/6." Amer. Math. Monthly 68, 486-487, 1961.

によるもので、驚くべき程簡単、かつ、真に高校数学範囲内の言葉・手法で実行されます*2

Matsuokaによる証明.
0以上の整数nに対して、\displaystyle I_n=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\cos^{2n}xdx, \ J_n=\int_0^{\frac{\pi}{2}}x^2\cos^{2n}xdxとおく。n1以上のとき、部分積分を2回行うことによって

\displaystyle \begin{equation}\begin{split}
I_n &= \Bigl[ x\cos^{2n}x \Bigr]_0^{\frac{\pi}{2}} + 2n \int_0^{\frac{\pi}{2}}x\sin x\cos^{2n-1}xdx \\
&= n\Bigl[ x^2\cos^{2n-1}x \Bigr]_0^{\frac{\pi}{2}}-n\int_0^{\infty}x^2(\cos^{2n}x-(2n-1)\sin^2x \cos^{2n-2}x)dx \\
&= -n\int_0^{\frac{\pi}{2}}x^2(2n\cos^{2n}x-(2n-1)\cos^{2n-2}x)dx \\
&=n(2n-1)J_{n-1}-2n^2J_n
\end{split}\end{equation}

を得る。
integers.hatenablog.com
で紹介したように、

\displaystyle I_n = \frac{(2n)!}{4^nn!^2}\frac{\pi}{2}なので、両辺を\displaystyle \frac{4^{n}(n-1)!}{2(2n)!}倍することにより、

\displaystyle \frac{\pi}{4n^2} = \frac{4^{n-1}(n-1)!}{(2n-2)!}J_{n-1}-\frac{4^nn!}{(2n)!}J_n

となる。これは望遠鏡和を作れる形になっているので、n=1, \dots, Nと加えることにより、

\displaystyle \frac{\pi}{4}\sum_{n=1}^{N}\frac{1}{n^2} = J_0 - \frac{4^NN!}{(2N)!}J_N

を得る。\displaystyle J_0 = \frac{\pi^3}{24}なので、結局

\displaystyle \frac{4^NN!}{(2N)!}J_N = \frac{\pi}{4} \left( \frac{\pi^2}{6} - \sum_{n=1}^{N}\frac{1}{n^2}\right)

となる。よって、あとは

\displaystyle \lim_{N \to \infty}\frac{4^NN!}{(2N)!}J_N =0

を示せば良い。 0 < x < \pi /2において、\displaystyle x < \frac{\pi}{2}\sin xであることに注意すると、

 \displaystyle J_N < \frac{\pi^2}{4}\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^2x\cos^{2N}xdx  = \frac{\pi^2}{4}(I_N-I_{N+1})

となるので、I_Nの計算結果を代入すれば、

\displaystyle 0<\frac{4^NN!}{(2N)!}J_N < \frac{\pi^3}{16(N+1)}

を得る。よって、高校数学風に言えば、はさみうちの原理によって、真ん中の式は0に収束する。 Q.E.D.

次の記事で、この証明法を拡張します。

*1:歴史については、杉本敏夫『バーゼル問題とオイラー』数理解析研究所講究録 第1583 巻2008年 159-167.http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1583-12.pdfを参照した。

*2:そもそも高校数学の微積分は厳密に展開されていないということには目をつむることにします。また、数Ⅲの範囲です。問題自体が数Ⅲの概念を使うため、これは避けられないでしょう。バーゼル問題の美しさに触れることが出来るという観点では、やはり万人が数学Ⅲまで勉強することが望ましい気がします。