Wieferich素数はと
の二つしか発見されていません:
integers.hatenablog.com
ということは、知られている素数のうち殆ど全ては非Wieferich素数であるということになります。にもかかわらず、「非Wieferich素数が無数に存在する」ことを数学的に証明しようとすると大変に難しいのです。素数というのは本当に難しい対象です。非Wieferich素数の無限性については次が知られています。
ABC予想については
integers.hatenablog.com
を参照してください。
ABC予想という大変に難しく、大変に深い事実を用いることによって初めて「絶対に無数に存在するに違いないもの」の無限性を証明できるのです。Wieferch素数が無数に存在するか有限個しか存在しないかについては何一つ分かっていません。
実際にはSilvermanは次の定理を証明しました:
この定理の証明の解説を行うことが今回の記事の目的です。
記号
を固定し、
(
は互いに素な整数)と既約分数表示する。
を
次斉次円分多項式とする。円分多項式については105:円分多項式の係数と鈴木の定理 - INTEGERSを参照のこと。
なる関係が成り立つ。はEulerのトーシェント関数。
また、
とする(は
の
における位数*1 )。
と分解する。ここで、はそれぞれ
のパワフルパートである。よって、特に
は無平方数である。パワフルパートの定義についてはパワフル数 - INTEGERSを参照のこと。
が成り立つので、と仮定してよい。
準備
証明. ,
より、
が成り立つことがわかる*2。また、
より多項式
は分離多項式なので、任意の
の真の約数
に対して、
であることがよりわかる。これは
を示している。
次に、より
なので、
である。よって、ある
進単数
が存在して、
と書ける。
より
なので(Fermatの小定理)、
を得る。以上で証明が完了する。 Q.E.D.
証明. が
を満たすと仮定する。このとき、
が無平方であることから、
を満たすような素数
を選ぶことが出来る。補題1より
が成り立つ。ならば、
より
。よって、
が成り立つ。ならば
なので、所望の結果を得る。 Q.E.D.
証明. と分解する。ここで、
は
の原始
乗根全体をわたる。まず、
のときを考える。このとき、
であるから、
が成り立つ。次にのときを考える。全ての
に対して、
であり、
であるならば
が成り立つ。ここで、が十分大きいときは
は単位円周上に一様に分布することを1の原始n乗根の一様分布性 - INTEGERSで証明したので、約半数の
に対して
が成り立つ。つまり、
を一つ固定するとき、十分大きい
に対して
が成り立つ。以上を合わせることにより所望の結果が得られる。 Q.E.D.
証明. より、
について示せばよい。
であり、対称ABCトリプル
に対してABC予想を適用すると、任意の
に対して
のみに依存する正の定数
および、
と
のみに依存する正の定数
が存在して
となる(最後の部分でを用いた)。よって、
が成り立つ。あとはを
に置き換えればよい。 Q.E.D.
定理の証明
補題3,4より
なので、のみに依存する正の定数
が存在して、
が成り立つならば が言える。従って、補題2より
が成り立つ。任意にをとって固定し、
とする。
と仮定すると、
なので、および
のみに依存する自然数
が存在して、
で右辺は正となる。すなわち、
で②が成立する。従って、トーシェント関数に関する漸近評価 - INTEGERSで証明した結果を用いることによって
となり、は任意であったから証明が完了する。 Q.E.D.