インテジャーズ

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数、特に整数に関する記事。

ζ*({2}^m) \in Qπ^{2m}の初等的証明

本記事ではMatsuoka[1]によるバーゼル問題の証明法を自然に拡張して、等号付多重ゼータ値に関する古典的結果の初等的別証明を与える*1

Riemannゼータ関数の正の偶数における値

定義 Riemannゼータ関数\zeta (s)
\displaystyle \zeta (s) := \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^s}
で定義する。この級数は\mathrm{Re}(s)>1で絶対収束する。

定義 非負整数nに対して、Bernoulli数B_nを母関数表示
\displaystyle \frac{xe^{x}}{e^x-1}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{B_n}{n!}x^n
で定義する。

定理1 (Euler) mを自然数とする。このとき、
\displaystyle \zeta (2m) = (-1)^{m-1}\frac{2^{2m-1}B_{2m}}{(2m)!}\pi^{2m} \in \mathbb{Q}\pi^{2m}
が成り立つ。

私はバーゼル問題の証明毎に、その証明法を拡張した定理1の証明が存在するのではないかと考えていた。実際、
integers.hatenablog.com
で紹介した、「高校数学の美しい物語」、「青空学園数学科」で紹介されている証明法は定理1の証明に拡張することができる:

1. 青空学園数学科(2009)http://aozoragakuen.sakura.ne.jp/taiwa/taiwaNch04/zeta/node1.html

2. M. Hata, Problems and Solutions in Real Analysis, (2007)のProblem 18.6 およびその解答http://www.worldscientific.com/worldscibooks/10.1142/6643

しかしながら、前記事で取り扱った[1]の証明法を拡張すると、定理1ではなく「等号付多重ゼータ値」に関する等式が得られることが判明した。そのため、次の節では多重ゼータ値の定義を復習する。

多重ゼータ値、等号付多重ゼータ値、多重調和和

定義  k_1 \in \mathbb{Z}_{>1}, k_2, \dots, k_m \in \mathbb{Z}_{\geq 1}とする。このとき、多重ゼータ値\zeta (k_1, \dots, k_m)
\displaystyle \zeta (k_1, \dots, k_m) := \sum_{n_1 > \cdots > n_m \geq 1}\frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_m^{k_m}}
と定義する。また、等号付多重ゼータ値\zeta^{\star} (k_1, \dots, k_m)
\displaystyle \zeta^{\star} (k_1, \dots, k_m) := \sum_{n_1 \geq \cdots  \geq n_m \geq 1}\frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_m^{k_m}}
と定義する。これらは絶対収束する。定義  n, k_1, \dots, k_m \in \mathbb{Z}_{\geq 1}とする。このとき、多重調和和\zeta_n (k_1, \dots, k_m)
\displaystyle \zeta_n (k_1, \dots, k_m) := \sum_{n \geq n_1 > \cdots > n_m \geq 1}\frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_m^{k_m}}
と定義する。また、等号付多重調和和\zeta_n^{\star} (k_1, \dots, k_m)
\displaystyle \zeta_n^{\star} (k_1, \dots, k_m) := \sum_{n \geq n_1 \geq \cdots \geq n_m \geq 1}\frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_m^{k_m}}
と定義する。

k_1 \geq 2のとき、

\displaystyle \zeta (k_1, \dots, k_m) = \lim_{n \to \infty}\zeta_n(k_1, \dots, k_m)

および、

\displaystyle \zeta^{\star}(k_1, \dots, k_m) = \lim_{n \to \infty}\zeta^{\star}_n(k_1, \dots, k_m)

が成り立つ。

(\underbrace{2, \dots, 2}_{m}) =: (\{ 2\}^m)と略記することにする。このとき、次の多重ゼータ値に関する4つの定理は既知である(mは自然数):

定理2 \ \ \ \ \ \ \displaystyle \zeta (\{2\}^m) = \frac{\pi^{2m}}{(2m+1)!}.

定理3 \ \ \ \ \ \ \displaystyle \zeta^{\star} (\{2\}^m) = (-1)^{m-1}\frac{2(2^{2m-1}-1)B_{2m}}{(2m)!}\pi^{2m} \in \mathbb{Q}\pi^{2m}.

定理4 \ \ \ \ \ \ \displaystyle \zeta^{\star} (\{2\}^m) = 2(1-2^{1-2m})\zeta (2m).

定理5 [2, Theorem3] k_1, k_m \in \mathbb{Z}_{>1},  k_2, \dots, k_{m-1} \in \mathbb{Z}_{\geq 1}とする。このとき、
\displaystyle \sum_{j=0}^m(-1)^j\zeta (k_1, \dots, k_j)\zeta^{\star}(k_m, \dots, k_{j+1})=0
が成立する。

なお、定理2は前記事で取り扱った正弦関数の無限積表示によるバーゼル問題の証明において、高い冪での係数比較を行うことによって示される(定理1の証明は通常、微分で移行した\cotの部分分数展開表示を用いて証明する)。定理3も同様の無限積表示による証明の他、例えば定理2を定理5に適用して次を得る(定理2と定理3に現れる左辺の値をともに無限積表示で表し、定理5をこのケースに直接示すこともできる):

定理6 \ \ \ \ \ \ \displaystyle \sum_{i=0}^m(-1)^i\frac{\pi^{2m-2i}}{(2m-2i+1)!}\zeta^{\star}(\{2\}^i)=0.

この関係式から数学的帰納法によって定理3が得られるというわけである。定理4を使えば定理1の別証明も得られる。

さて、本記事の内容は定理2と定理5を知らないものとして、定理6を初等的な解法によって直接導出するというものである。従って、定理3の別証明を与えたことになる。

なお、これらの結果は大変に古典的であり、現在ではもっと多種の特殊値計算が可能となっていることに注意する。

定積分計算による証明

非負整数n, mに対して、\displaystyle I_n^{(m)} := \int_0^{\frac{\pi}{2}}x^{2m}\cos^{2n}xdxとする。

補題 n, m\geq 1のとき、
\displaystyle I_n^{(m-1)}=\frac{n(2n-1)}{m(2m-1)}I_{n-1}^{(m)}-\frac{2n^2}{m(2m-1)}I_n^{(m)} \
が成り立つ。

証明. 二回、部分積分をすればよい:

\begin{equation}
\begin{split}
I_n^{(m-1)} &= \int_0^{\frac{\pi}{2}}x^{2m-2}\cos^{2n}xdx \\
&= \left[ \frac{x^{2m-1}}{2m-1}\cos^{2n}xdx \right]_0^{\frac{\pi}{2}} + \frac{2n}{2m-1}\int_0^{\frac{\pi}{2}}x^{2m-1}\sin x\cos^{2n-1}xdx \\
&=\frac{2n}{2m-1}\left[ \frac{x^{2m}}{2m}\sin x\cos^{2n-1}x \right]_0^{\frac{\pi}{2}}\\
& \ \ \ \ \ -\frac{n}{m(2m-1)}\int_0^{\frac{\pi}{2}}x^{2m}(\cos^{2n}x-(2n-1)\sin^2x\cos^{2n-2}x)dx\\
&=-\frac{n}{m(2m-1)}\int_0^{\frac{\pi}{2}}x^{2m}(2n\cos^{2n}x-(2n-1)\cos^{2n-2}x)dx\\
&= \frac{n(2n-1)}{m(2m-1)}I_{n-1}^{(m)}-\frac{2n^2}{m(2m-1)}I_n^{(m)}.
\end{split}
\end{equation}
Q.E.D.

\displaystyle J_n^{(m)}:=\frac{4^nn!^2}{(2n)!}I_n^{(m)}とすると、

\displaystyle \frac{m(2m-1)}{2n^2}J_n^{(m-1)} = J_{n-1}^{(m)}-J_n^{(m)}

を得る(m\geq 1)。

よって、望遠鏡和を考えることにより、

\displaystyle J_0^{(m)}=I_0^{(m)} = \frac{\pi^{2m+1}}{(2m+1)2^{2m+1}}

に注意して、次が得られる:

任意の正の整数n, mに対して、
\displaystyle J_n^{(m)} = \frac{\pi^{2m+1}}{(2m+1)2^{2m+1}} - \frac{m(2m-1)}{2}\sum_{k=1}^n\frac{J_k^{(m-1)}}{k^2}
が成り立つ。

\displaystyle I_n^{(0)} = \frac{(2n)!}{4^nn!^2}\frac{\pi}{2} -(*)は既に扱っている:
integers.hatenablog.com

積分I_n^{(m)}の計算結果は次で与えられる:

主定理 n, mを非負整数とするとき、
\displaystyle J_n^{(m)} = \frac{(2m)!}{2^{2m+1}}\sum_{i=0}^m (-1)^i\frac{\pi^{2m-2i+1}}{(2m-2i+1)!}\zeta_n^{\star}(\{2\}^i) -①
が成り立つ。また、m \geq 1に対して
\displaystyle \lim_{n \to \infty}J_n^{(m)} = 0 -②
が成り立つ。

証明. (1)をmに関する数学的帰納法で示す。m=0のときは(*)である。m-1で①が正しいと仮定する。このとき、系より

{\small \begin{equation}
\begin{split}
J_n^{(m)} &= \frac{\pi^{2m+1}}{(2m+1)2^{2m+1}} - \frac{m(2m-1)}{2}\frac{(2m-2)!}{2^{2m-1}}\sum_{k=1}^n\frac{1}{k^2}\left( \sum_{i=0}^{m-1} (-1)^i\frac{\pi^{2m-2i-1}}{(2m-2i-1)!}\zeta_k^{\star}(\{2\}^i)\right) \\
&= \frac{\pi^{2m+1}}{(2m+1)2^{2m+1}} -\frac{(2m)!}{2^{2m+1}}\sum_{i=0}^{m-1} (-1)^i\frac{\pi^{2m-2i-1}}{(2m-2i-1)!}\sum_{k=1}^n\frac{1}{k^2}\zeta_k^{\star}(\{2\}^i)\\
&= \frac{\pi^{2m+1}}{(2m+1)2^{2m+1}} + \frac{(2m)!}{2^{2m+1}}\sum_{i=0}^{m-1} (-1)^{i+1}\frac{\pi^{2m-2(i+1)+1}}{(2m-2(i+1)+1)!}\zeta_n^{\star}(\{2\}^{i+1})\\
&= \sum_{i=0}^{m} \frac{(-1)^i(2m)!}{2^{2m+1}(2m-2i+1)!}\pi^{2m-2i+1}\zeta_n^{\star}(\{2\}^i)
\end{split}
\end{equation}}

となって、mのときも成立することが示された。

次に②をmに関する数学的帰納法で示す。\displaystyle 0 < x < \frac{\pi}{2}において\displaystyle x<\frac{\pi}{2}\sin xなので、m \geq 1に対して、

\displaystyle 0 < I_n^{(m)} < \frac{\pi^2}{4} \int_0^{\frac{\pi}{2}}x^{2m-2}\sin^2x\cos^{2n}dx = \frac{\pi^2}{4}(I_n^{(m-1)}-I_{n+1}^{(m-1)})

が成り立つ。 よって

\displaystyle 0 < J_n^{(m)} < \frac{\pi^2}{4} \left( J_n^{(m-1)} - \frac{2n+1}{2n+2}J_{n+1}^{(m-1)} \right) -③

を得る。m=1のとき、(*)より

\displaystyle 0 < J_n^{(1)} < \frac{\pi^3}{16(n+1)} \longrightarrow 0 \ (n \to \infty )

と②が成立。③より、明らかにinduction stepも成立する。 Q.E.D.

定理6は①、②より従う。

参考文献

[1]Y. Matsuoka, An Elementary Proof of the Formula \sum_{k=1}^{\infty}1/k^2=\pi^2/6, Amer. Math. Monthly 68, 486-487, 1961.
[2]S. A. Zlobin, Generating functions for a multiple zeta function (Russian), Vestnik Moskov. Univ. Ser. I Mat. Mekh. 2005, 55-59; English translation in Moscow Univ. Math. Bull. 60 (2005), 44-48.

*1:私以前に、本記事と同様の内容を記述している文献がございましたらご一報いただけますと幸いです。追記: integers.hatenablog.com