と
は知られている唯二*1のWieferich素数です。
このことについては既に記事を書いています:
integers.hatenablog.com
しかし、その歴史について勘違いしていた(知らなかった)ことがあったので再び記事にしたいと思います。
Wieferich素数の定義
定義を復習しましょう。Fermatの小定理
tsujimotter.hatenablog.com
より、奇素数に対して
が成り立ちます。それでは
は成り立つでしょうか?
答えは「成り立つことも成り立たないこともある」です。この合同式が成り立つようなのことをWieferich素数と言い、冒頭に述べた通り
のみ知られています。
Abelの問題
それを読んで数学者を志した者も多い高木貞治の名著『近世数学史談』。
私は高校生の頃に数学教師に戴いて、一夜で一心不乱に読んだことを覚えています。
この本の15節「パリからベルリンへ」の中に次のような記述があります:
第三巻にアーベルが提出した問題に次のようなものがある. 『
は素数,
は
よりも大で
よりも小なる整数とするとき,
が
で割り切れることがあるか?』
第三巻とはCrelle誌の第三巻です。を考えれば
はすなわちWieferich素数なので、Abelの問の答えは「Yes」です。
今見返すと、と
という数は近世数学史談には書いていません。私がこれらの数をいつ知ったかは覚えていないですが、Abelはこの問題を提出しているぐらいなので
と
については勿論知っているだろうとてっきり思っていました*2。
MeissnerとBeegerが発見
これが最初に述べた「勘違い」で、これらの数が発見されたのは1829年に没したAbelよりずっと後だったのです。という数自体は小さいので誰でも知っていたのかと思っていましたが、よく考えてみると、扱うのは
や
ですから、コンピュータのない時代にこれらの数を発見することは容易ではありません。
しかも、Wieferich素数の名前の由来になったWieferichの定理が出版されたのは1909年ですから、Wieferichの定理が証明されたときでさえWieferich素数は一つも知られていなかったのです!!
を発見したのはMeissnerで1913年、
を発見したのはBeegerで1922年だそうです(当時あった剰余表を用いてMeissnerは
以下の素数、Beegerは
以下の素数について計算)。その後、現在に至るまで3つ目が見つかっていません。
コンピュータに頼らない証明
と
が実際にWieferich素数であることを証明しようと思うとき、愚直にコンピュータで
を計算して実際に
で割り切れることを確認するという方法があるでしょう。
誰かにおよび
の数値を教えていただいて、ここに掲載したいという願望がありますが、とりあえずコンピュータの知識がない私には計算できません*3。
そこで、コンピュータにはできるだけ頼らず、既に計算された剰余表なども用いずに、使うとしても関数電卓ぐらいで理解できる証明を紹介したいと思います*4。
がWieferich素数であることのLandauによる証明
とする。
なので、
を得る。また、なので
であり、
を得る。で割ると
なので、
①と合わせることにより、となるので、
が示された。
なので、
である。 Q.E.D.
がWieferich素数であることのGuyによる証明
とする。
より
であり、
を得る。
より、
。
。よって、
であり、
を得る。より
こうして得られた②〜⑤を等号
に代入すれば、
が得られるので、両辺を
倍すれば
なる合同式に到達する。なので、結局
が示された。 Q.E.D.
職人芸ですね。
*1:唯一という単語を一般化して使ってみました。
*2:なお、は
を満たしません。Abelの問題に答えるならば、
が一番簡単かもしれません。
*3:追記)記事を公開して1時間もしないうちにtsujimotterさんが計算してくださいました! tsujimotter.hatenablog.com
*4:Fermat数が
で割り切れることについても同様の賢い証明法を紹介したことがあります:
integers.hatenablog.com