インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

ジェノッキ素数が17しか存在しないことの証明

17は唯一のGenocchi素数です。当記事内容を数学セミナー2017年7月号に寄稿いたしました。

Genocchi数

定義 Genocchi数G_nを次の母関数の展開係数として定義する:

\displaystyle \frac{2t}{e^t+1} = \sum_{n=1}^{\infty}\frac{G_n}{n!}t^n.

この定義からはG_nは有理数として定義されますが、実は常に整数です。まず、\displaystyle \frac{-2t}{e^{-t}+1}=\frac{2t}{e^t+1}-2t から G_{2n+1}=0 \ (n\geq 1)が分かります。

\displaystyle t\tan \frac{t}{2} = \sum_{n=1}^{\infty}(-1)^n\frac{G_{2n}}{(2n)!}t^{2n}.

数値例

G_1=1,
G_2=-1,
G_4=1,
G_6=-3,
G_8=17,
G_{10}=-155=-5\times 31,
G_{12}=2073=3\times 691,
G_{14}=-38227=-7\times 43 \times 127,
G_{16}=929569=257\times 3617,
G_{18}=-28820619=-3^2\times 73\times 43867,
G_{20}=1109652905=3^2\times 73\times 43867,
G_{22}=-51943281731=-11\times 89\times 131\times 593\times 683,
G_{24}=2905151042481=3\times 17\times 103\times 241\times 2294797,
G_{26}=-191329672483963=-13\times 2731\times 8191\times 657931,
G_{28}=14655626154768697=7\times 43\times 113\times 127\times 9349\times 362903,
G_{30}=-1291885088448017715=-3\times 5\times 151\times 331\times 1721\times 1001259881,
G_{32}=129848163681107301953=5\times 13\times 199766405663242003,
G_{34}=-14761446733784164001387=-17\times 43691\times 131071\times 151628697551,…

Seidelの漸化式

補題 数列\{c_n\}\{d_n\}\displaystyle d_n=\sum_{i=0}^n\binom{n}{i}c_iなる関係にあると仮定する。
このとき、非負整数m, nに対して、
\displaystyle \sum_{i=0}^m\binom{m}{i}c_{n+i}=\sum_{j=0}^n\binom{n}{j}(-1)^{n-j}d_{m+j}
が成り立つ。

証明. 仮定の関係式は(c+1)^n=d^nを展開した後にc^i=c_i, d^i=d_iと置き換えたものである。従って、任意の多項式f(x)に対してf(c+1)=f(d)の展開式を同様に置き換えた式も成立することがわかる。そうして、f(x)=x^m(x-1)^nとして得られる等式が所望のものである。 Q.E.D.

\displaystyle \frac{2te^t}{e^t+1}=2t-\frac{2t}{e^t+1}

より、c_n=G_nに対して、d_{n}=2\delta_{n-1} -G_nと出来る(\delta_n\delta_0=1, \delta_n=0 \ (n\geq 1)で定まる数列)。よって、上記補題においてn=m, n > 1を考えることによって、

\displaystyle \sum_{i=0}^n\binom{n}{i}G_{n+i}=-\sum_{i=0}^n\binom{n}{i}(-1)^{n-i}G_{n+i}

が得られる。これは\displaystyle \sum_{i=0}^n\{ 1+(-1)^{n-i}\} \binom{n}{i}G_{n+i}=0と書き換えらえれる。こうして、Genocchi数は次の漸化式を満たすことが分かる:

Seidelの漸化式
2以上の自然数nに対して、\displaystyle \sum_{j=0}^{[n/2]}\binom{n}{2j}G_{2n-2j}=0が成り立つ。

これで漸くGenocchi数が整数であることが分かりました。

Genocchi素数

Wikipediaを調べていると、英語版に"It has been proved that −3 and 17 are the only prime Genocchi numbers."という言明を見つけて驚きました。つまり、

定理 Genocchi既約元は-317のみである。特に、Genocchi素数は17のみである。

が成り立つというのです。これはGenocchi数の定義やSeidelの漸化式からは証明できそうにもないので、初めて見て驚き、17がより好きになりました。しかしながら、証明しないことには納得できません。というわけで証明の載っている論文を探すわけですが、見つかりません。Wikipediaは英語の他にスペイン語、フランス語、イタリア語、オランダ語の記事がありますが、

スペイン語 D. Terr demostró en 2004 que los únicos números de Genocchi que son primos son G_6 = -3 y G_8 = 17.
フランス語 記述なし
イタリア語 Nel 2004 D. Terr ha dimostrato che i soli numeri di Genocchi che sono primi sono G_6 = -3 e G_8 = 17.
オランダ語 Het is bewezen dat −3 en 17 de enige Genocchigetallen zijn die (in absolute waarde) een priemgetal zijn.

とどれも事実だけ述べています。ただ、スペイン語とイタリア語の記述から、どうやらD. Terrという人が2004年に示したらしいということが分かります。

どの記事も参考文献として、Weisstein, Eric W., "Genocchi Number", MathWorld.をあげており、そこにはなんと

The first few prime Genocchi numbers are -3 and 17, which occur for n=6 and 8. There are no others with n < 10^5 (Weisstein, Mar. 6, 2004). D. Terr (pers. comm., Jun. 8, 2004) proved that these are in fact, the only prime Genocchi numbers.

と書いてあります。WeissteinとD. Terrの間の"personal communication"なので、文献はないということになります。このようなものが引用元になってWikipediaに数学的事実が書かれているので、やはり二次引用には注意が必要です(この点、数学という学問は証明すれば書いてあることが正しいか分かるというのが大きいです)。というわけで、私はこの面白い事実の証明が書かれている文献を見つけることが出来なかったので、自分で証明することにしました。結論を述べると、19世紀の数学で証明できたため、これが2004年まで証明されなかったということは、まずあり得ないと思います。どなたか、この定理の証明が載っている文献をご存知の方がおられましたら教えて頂けますと幸いです。

関-Bernoulli数との関係

Genocchi数は関-Bernoulli数と似た形で定義されます。事実、Genocchi数は次のように関-Bernoulli数と関係があります:

補題1 自然数nに対して、G_{2n}=2(1-2^{2n})B_{2n}が成り立つ。

証明. \displaystyle 2\left( \frac{t}{e^t-1}-\frac{2t}{e^{2t}-1} \right) = \frac{2t}{e^t+1}よりわかる。 Q.E.D.

これから、数値例においてGenocchi数の符号が交互になっているのが偶然ではないことが分かります:

補題2 (-1)^nG_{2n} > 0.

証明. (-1)^{n-1}B_{2n} > 0であることを既に証明している:リーマンゼータ関数 - INTEGERS
Q.E.D.

さて、関-Bernoulli数B_{2n}は有理数だったので、ぱっと見、上の関係式からG_{2n}が整数であるかどうかは非自明な気がします。これを確認しておきましょう。関-ベルヌーイ数 - INTEGERSに従って、\displaystyle B_{2n}=\frac{N_{2n}}{D_{2n}}と既約分数表示します。このとき、次の定理が成り立ちました:

Von-Staudt-Clausenの定理 pは素数とすると、
\displaystyle D_{2n}=\prod_{p-1 \mid 2n}p
が成り立つ。

pp-12nの約数であるような奇素数としましょう。このとき、Fermatの小定理から2^{p-1} \equiv 1 \pmod{p}なので、2^{2n} \equiv 1 \pmod{p}が分かります。従って、Von-Staudt-Calusenの定理からD_{2n} \mid 2(1-2^{2n})となって、G_{2n}が整数であることが再び証明されました。この考察が出来れば、所望の定理は証明されたも同然です。

Genocchi既約元が-317のみであることの証明

次の補題は所謂Chebyshevの定理の一部です:

補題3 x\geq 3に対して、\prod_{p \leq x}p < 2^{2x-3}が成り立つ。

証明. x=nが整数の場合に証明すればよい。\binom{2n-1}{n}n+1 \leq p \leq 2n-1なる全ての素数pで割り切れるような整数であるため、

\displaystyle \frac{\prod_{p \leq 2n-1}p}{\prod_{p \leq n}p}\leq \binom{2n-1}{n} < 2^{2n-2} ―①

が成り立つ(最後の不等号は(1+1)^{2n-1}の展開を考えることによって示せる)。nに関する数学的帰納法で証明する。n=3,4は直接確かめられる。nより小さい場合には成立すると仮定する。n=2m-1が奇数のときは①および帰納法の仮定より、

\displaystyle \prod_{p \leq n}p=\prod_{p \leq 2m-1}p < 2^{2m-2}\prod_{p \leq m}p < 2^{2m-2}2^{2m-3}=2^{4m-5}=2^{2n-3}

となってnのときも成立する。また、n=2mが偶数のときも帰納法の仮定により、

\displaystyle \prod_{p \leq n}p = \prod_{p \leq 2m}p=\prod_{p \leq 2m-1}p < 2^{4m-5} < 2^{4m-3}=2^{2m-3}

となって成立する。 Q.E.D.

命題1 n \geq 3ならばD_{2n} < 2^{2n}が成り立つ。

証明. n2nは必ず2nの約数なので、

\displaystyle {\small D_{2n} = \prod_{p-1 \mid 2n}p \leq (n+1)(2n+1)\prod_{p-1 \mid 2n, \ p-1 \leq \frac{2n}{3}}p\leq (n+1)(2n+1)\times \prod_{p \leq \frac{2n}{3}+1}p}

が成り立ち(例えばn=6のときは等号が成立する)、 補題3により、n\geq 5に対して

D_{2n} < (n+1)(2n+1)2^{\frac{4n}{3}-1}

が示された。これは、n\geq 11のとき2^{2n}未満となる。3\leq n \leq 10のときは直接確認できる。 Q.E.D.*1

命題2 n\geq 5に対して\left|N_{2n}\right| > 1が成り立つ。

証明. Eulerの定理によって、

\displaystyle \left|B_{2n}\right|=\frac{(2n)!}{2^{2n-1}\pi^{2n}}\zeta (2n) > \frac{2(2n)!}{(2\pi)^{2n}}

が成り立つ。これはn\geq 71より大きい(数学的帰納法で示せる)。よって、\left|N_{2n}\right| > 1も成立する。n=5, 6のときは\left|N_{10}\right|=5, \left|N_{12}\right|=691より分かる。 Q.E.D.

Genocchi既約元が-3および17のみであることの証明.
n\geq 5とする。命題1より\displaystyle \frac{2(2^{2n}-1)}{D_{2n}} > 1なので、整数

\displaystyle \frac{2(2^{2n}-1)}{D_{2n}}

は素因数をもつ。その素因数を一つとって、pとする。命題2より\left|N_{2n}\right| > 1なので、\left|N_{2n}\right|は素因数をもつ。その素因数を一つとって、qとする(p=qであってもよい)。このとき、補題1によって、

\displaystyle G_{2n}=\frac{2(1-2^{2n})}{D_{2n}}N_{2n}

pqで割り切れるので既約元ではない。 Q.E.D.

定義からは証明出来る気がしませんでしたが、関-Bernoulli数と結びつけることによって非正則素数の無限性の証明と同じくVon-Staudt-Clausenの定理が大活躍して証明することが出来ました。Von-Staudt-Calusenの定理自体が19世紀数学における深い結果ですが、それは関-Bernoulli数が冪乗和の公式に現れることから\bmod{p}の議論が上手くいって証明できるのでした。

*1:最初はD_{2n}\leq (2n+1)\prod_{p-1\mid 2n, \ p \leq n+1}pとして、Rosser-Schoenfeldによる結果: x > 1ならば、\displaystyle \log (\prod_{p \leq x}p) < x\left( 1+\frac{1}{2\log x} \right)を用いて証明したのですが、更にD_{2n} \leq (n+1)(2n+1)\prod_{p-1 \mid 2n, \ p-1 \leq \frac{2n}{3}}pとすることによってRosser-Schoenfeldの定理は必要ないことに気づきました(Rosser-Schoenfeldの定理は素数定理と違ってeffectiveな不等式であるため、\zeta (s)の零点の情報をふんだんに使った計算が必要な深い結果です)。ちなみに、D_{2n}\leq \prod_{p \leq 2n}pとしてしまうと証明できません。また、今の目的のためにはこの証明法でよいのですが、D_{2n}のオーダー評価については integers.hatenablog.com を使った方がよい結果が得られます。