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数、特に整数に関する記事。

アニメーション映画「算法少女」

私が小説『算法少女』(遠藤寛子著ちくま学芸文庫*1)を始めて読んだのは大学生のときだったと思います。実在する和算書『算法少女』(1775)を題材にした千葉あき主人公の物語*2

それ以来『算法少女』のファンなのですが、アニメーション映画化されるとは知りませんでした。幸運にも公開直前に情報を得ることができ、25日に観てきました。大変素敵な映画です。公開日は12/24~12/28(渋谷「ユーロライブ」にて1000円)ということなので、観たい方は是非明日(公開最終日!)観に行ってください!!外村監督はたった一人で作画したそうです(4年以上)!!

上映前のトークイベントにも参加し、遠藤寛子先生ご本人を見ることができてとても嬉しかったです。

一切のネタバレを嫌う人はここで引き返して明日映画を観に行きましょう!


www.youtube.com


物語『算法少女』は各登場人物のキャラクタも大きな魅力の一つです。山田多門とか有馬頼徸(『拾機算法』を著した和算家でもある藩主)などは人気なんじゃないかなと思うのですが、私は俳人である谷素外(和算書『算法少女』のあとがきを書いた人)がお気に入りです。なぜかって?名前に素数の素が入ってる俳人とかかっこよすぎでしょ←

あきと宇多が頼徸の前で算法勝負する場面であきが勾股弦の定理を使うのですが、その際に「勾・股・弦!!」と必殺技のように声高に叫ぶシーンが好きです。これは映画版でしか味わえない!!あ、勾股弦の定理=三平方の定理=ピタゴラスの定理です。これからは「勾股弦の定理」を使っていこうと思います。「願います!!」も可愛い。

外村監督の絵は大変味のあるものですが、個人的には場面転換時などに挿入される動物や虫達が可愛くて仕方なかったです。


さて、頼徸の出題した最後の問題にあきは鎌田俊清の『宅間流円理』に載っている手法で円周率を求めました。その解法について藤田貞資にいちゃもんをつけられたあきは本多利明のもとをたずね、鎌田は関流とは独立の方法で証明を与えているというお墨付きをもらいます。このとき、オランダの算法の本にも同じ式が載っていることも教えてもらっています:

\displaystyle \pi = 3\left(1+\frac{1}{4}\cdot \frac{1^2}{3!}+\frac{1}{4^2}\cdot \frac{1^2\cdot 3^2}{5!}+\frac{1}{4^3}\cdot \frac{1^2\cdot 3^2\cdot 5^2}{7!}+\cdots \right)

小寺裕『宅間流円理巻之一, 二を読む (数学史の研究)』(2012, RIMS講究録)によれば、『宅間流円理』では

\displaystyle \text{弧背}=2\sqrt{\text{径}\cdot \text{矢}}\left\{ 1+\frac{1}{3!}\left( \frac{\text{矢}}{\text{径}} \right) +\frac{3^2}{5!}\left( \frac{\text{矢}}{\text{径}} \right)^2+\frac{3^2\cdot 5^2}{7!}\left( \frac{\text{矢}}{\text{径}} \right)^3+\cdots \right\}

が示されているようです。径は円の直径のことで、矢と弧背は次のような部分を指します:

f:id:integers:20161227191117p:plain

\displaystyle \arcsin \sqrt{\frac{\text{矢}}{\text{径}}} = \frac{\text{弧背}}{2\text{径}}

が簡単に確認できるため、

\displaystyle \frac{\arcsin \sqrt{\frac{\text{矢}}{\text{径}}}}{\sqrt{\frac{\text{矢}}{\text{径}}}} = \frac{\text{弧背}}{2\sqrt{\text{径}\cdot \text{矢}}}=1+\frac{1}{3!}\left( \frac{\text{矢}}{\text{径}} \right) +\frac{3^2}{5!}\left( \frac{\text{矢}}{\text{径}} \right)^2+\frac{3^2\cdot 5^2}{7!}\left( \frac{\text{矢}}{\text{径}} \right)^3+\cdots

となって、鎌田は本質的に\arcsinのTaylor展開

\displaystyle \arcsin x = \sum_{k=0}^{\infty}\frac{(2k-1)!!}{(2k)!!}\frac{x^{2k+1}}{2k+1} =\sum_{k=0}^{\infty}\frac{((2k-1)!!)^2}{(2k+1)!}x^{2k+1}

を示していることがわかります。建部賢弘が同年(1722年)に\arcsin^2xのTaylor展開を与えており(Eulerより15年早い)、鎌田と同じ式を松永が17年後に与えているということです。鎌田が関流とは独立と思われる方法で\arcsinのTaylor展開を与えていたという歴史は大変に興味深いです。物語『算法少女』の主人公あきちゃんも関流ではなく上方算法を学んでいたのでした。

あきが見たオランダの算法書にも書かれていた円周率を求める級数は4\text{矢}=\text{径}の場合を考えていることがわかります。


ちなみに、映画『算法少女』の上の階で『この世界の片隅に』が上映されていたのでそちらも観てきました。昨日は上野の国立科学博物館に行ったのですが、和算のコーナーがあって関孝和の『発微算法』の複製を見ることができました。

*1:1973年に岩崎書店から出版され、2006年にちくま学芸文庫から復刊。

*2:実際には章子の父である千葉桃三(医師)が書いたと考えられているようです。