§7 The energy incrementation argument ではエネルギーを定義し、構造定理(Thm 3.5)と構造化回帰定理(Thm 3.3)の証明で用いるエネルギー増加法を抽象的な形で用意します。
§6(その一)の補題5より, エネルギーは自明な評価
を持ちます。
証明. §6(その一)の補題3を使えば、補題5と同様にして勾股弦の定理
を示すことができる。これを で足し合わせれば所望のギャップ公式が得られる。 Q.E.D.
それでは、証明したい命題をダイコトミー*1に帰着させるエネルギー増加法を抽象的に用意しておきます。定理を一気には証明できない場合は、証明を完了させるためのエネルギーを溜めていくという手法です(エネルギーが上限に達すると証明が完了せざるを得ない)。
- 整数
- : 複雑度が高々の-コンパクトな上の-加法族
- : 複雑度が高々の-コンパクトな上の-加法族
であって、以下の二条件
- -加法族として
- (エネルギーギャップ条件) –②
を満たすものに対して、必ず次のいずれかが成り立つ:
- 或るが存在して は真である。
- 複雑度が高々の-コンパクトな上の-加法族 であって を満たすものが存在して、以下のエネルギー増加が生じる:
が成立するならば、或る に対して は真となる。
証明. 以下のような-コンパクト-加法族のペアを構成する二重反復アルゴリズムを考える:
初期化
自明な-加法族代入
の複雑度初期化
代入
の複雑度if
或る に対しては真then
停止
else
ダイコトミーによって存在する(とエネルギーギャップ条件②を満たしていることに注意)複雑度が高々の-コンパクトな上の-加法族であってエネルギー増加③を満たすを一つ取る。if
then
代入
(とエネルギー条件②は保たれる),4. へ
else
代入
,2. へ
理由: が変更される際、ダイコトミーによってエネルギーが少なくともだけ増大される。そうして、エネルギーがを超えるとは変更されるのだから、が変更されるまでのの変更回数は高々回である(回数の上限をだけで計算できる)。
理由: 複雑度のが変更されると複雑度は高々となるが、の初期値はなので最初の変更では複雑度は高々にしかならない。ということは二回目の変更でも高々ということになる。そうして、一定時におけるの変更回数が回(Sub-claim1)とに依らないので、結局複雑度は高々である。
理由: が一回変更される度にエネルギーは少なくとも増加される。しかし、 達は有界関数であるのだから、エネルギーの自明な評価①によってエネルギーはを超えることが許されない。従って、はとで決まる回数しか変更されない。
Claimの証明: の変更回数をとし、各を順にと名付ける。Sub-claim3より である。各に対して、の複雑度を、の変更回数をとすれば、Sub-claim1よりである。Sub-claim2より
なので、と合わせて、任意のに対して である。従って、であり、アルゴリズムが停止するまでに現れるペアの個数(アルゴリズムの"時間"を厳密に定義することは本質的なことではなく、適当に時間を定義すればペアの個数の定数倍で押さえられる)は
と評価できることが示された。既に示したように、停止時のであるの複雑度はであり、とSub-claim2の議論から停止時のの複雑度もであることがわかる。
Claimにより、停止時のに対して であり、停止条件から或る でが真となることが従う。 Q.E.D.
なお、この証明手法はカラフルな車輪を用いたvan der Waerdenの定理の証明と同じ構造をしています。
その証明は同色-APが見つけられなければカラフルな車輪のスポークの数を増やし、いつかはスポーク数の限界に達するというものでした。すなわち、
のダイコトミーによる証明で、
の類似性があることがわかります。
*1:dichotomy. 日本語訳は"二分法"となるらしいですが、数値解析に二分法という専門用語があるのでかぶる危険性があります。私個人の経験として二分法という用語を頻繁に聞くこともない一方でTaoのword選択も尊重したいので、ここではカタカナ表記することにします。