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数、特に整数に関する記事。

Romantic Supersingular Primes!~ロマンティック数学ナイトの飛び込みプレゼン枠で発表してきた

2016/4/28に開催された『ロマンティック数学ナイト』というイベントに参加してきました!!

romanticmathnight.org

年齢は問わず、中学生から大人まで(なんと中学2年生の講演者も)!!

数学愛好家、教育者、数学者、… 様々なジャンルの数学好きが一同に会し(その数200人を優に超える!?)、日本一熱いロマンティックな夜を過ごしました。

主催は『大人のための数学教室「和」(なごみ)』を運営する『和から株式会社』


私のゼータ仲間であるtsujimotter氏

著書『面白くて眠れなくなる数学』で有名なサイエンスナビゲーター桜井進氏

吉本のお笑い芸人でありながら、数学教師として現場で教鞭をとっているタカタ先生

数学のお兄さんこと横山明日希氏


を初めとする豪華講演者の数々。

ひとつ一つの講演が見応え抜群で、まるで映画を見ているかのようでした。

各講演がどのようなものであったかについては横山さんが既にまとめてくださっています:

asunokibou.net


最初、「参加費4000円は高いのでは??」と感じましたが、

このクオリティーで4000円は安すぎる!!


私自身、様々な数学好きの方々と交流できて幸せでした。その中にはあの月間150万PVという驚異の閲覧数を誇る数学サイト『高校数学の美しい物語』を運営するマスオ氏も!本当にお会いできて光栄でした。


中でもお会いするのを楽しみにしていたのが、日本人女性で唯一の数学オリンピック金メダリストでありジャズピアニストである中島さち子さん!!


彼女の講演『創造:心震える世界~数学と音楽~ - 数学と音楽の濃い関係 -』には心から感動しました。

最後には会場から頂いた5つの数を用いた即興演奏!!

www.youtube.com

とても幸せな時間でした。


高校生のときに誕生日プレゼントとして母に買ってもらった日本評論社の書籍『ゼータの世界』

この本は擦り切れるまで何度も何度も読み込んでゼータの世界に惹き込まれました。


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この本の著者の一人が中島さち子さんなのです(高校生のときに執筆!!)。

彼女の文章には数学、素数、ゼータの美しさを生で感じ取っている様子が生き生きと表現されています(2ページ超の前置きの最後にある(前置きがtoo long!!)という言葉が何故か頭から離れません笑)。

そんな彼女にサインを書いていただきました!!!これは一生の宝物です!

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ロマンティック数学ナイトは関西を含めてこれからも開催されるようです!今回残念ながら参加できなかった方は是非次のロマンティック数学ナイトに参加して最高の数学ナイトをエンジョイしましょう!!

飛び込みプレゼン枠

そんなロマンティック数学ナイトですが、横山さんの記事には書かれていませんが実は飛び込みプレゼン枠がありました!

どんな人が名乗り出てくるか分からないため運営からすると冷や汗な企画なはずですが、最後に二人の講演者による飛び込みプレゼンが実現しました(四人名乗り出ましたがじゃんけんで決定)!!


その二人というのが佐野さん私(せきゅーん)です。


佐野さんは最近会社を休職して大学院に入りなおした大変熱く、筋力のある方です:
taketo1024.hateblo.jp


ロマンティック数学ナイトの講演で唯一のスライドなしによるトーク。上記記事の内容を熱く語られました(二年間勉強&研究をやり遂げた後、同タイトルでの書籍化を希望!!笑)。


そして、最後に私が"Romantic Supersingular Primes!"というタイトルで最近知ったロマンティックな素数現象について語らせていただきました。直前に赤ワインをグイっと飲んだため上手く発表できるか不安でしたが、ゼータTシャツを着て全力で発表させていただきました!!


スライドをそのままあげるということはせず(新幹線で酔いながら書いたため出来が悪い)、そこで発表した数学的内容を次の節に非常に簡単にまとめておきます。

Romantic Supersingular Primes!

Ey^2+y=x^3-x^2-10x-20で定義される\mathbb{Q}上の楕円曲線とします。

bad primeはp=11です。

このEに関するとても大切な数列\{a_p\}_{p:\text{素数}}pがgood prime (すなわち、p \neq 11)のときは

a_p := p+1-\#E_p(\mathbb{F}_p)

で定義します。ここで、E_pEpでの還元であり、E_p(\mathbb{F}_p)はその\mathbb{F}_p有理点のなす群です。なお、(詳しいことは省略しますが)a_{11}=1です。

この数列からEに付随するL関数(ゼータ関数の仲間)が定義され、それがEに関する重要な情報を(時には予想として)有していたり、とても重要な数列であることがわかります。

\displaystyle L(E, s) := \prod_{p \neq 11}(1-a_pp^{-s}+p^{1-2s})^{-1}\times (1-a_{11}p^{-s})^{-1}

Hasse-Weil boundによって\left|a_p\right| < 2\sqrt{p}が成り立つため、これは\mathrm{Re}(s) > 3/2で絶対収束することがわかります。

a_pのいくつかの数値例を眺めてみましょう:


\begin{align}&a_2=-2, \ a_3=-1, \ a_5=1, \ a_7=-2, \ a_{11}=1, \ a_{13}=4, \ a_{17}=-2,\\

&a_{19}=0, \ a_{23}=-1, \ a_{29}=0, \ a_{31}=7, \ a_{37}=3, \ a_{41}=-8, \ a_{43}=-6,\\

&a_{47}=8, \ a_{53}=-6, \ a_{59}=5, \ a_{61}=12, \ a_{67}=-7, \ a_{71}=-3, \ a_{73}=4,\\

&a_{79}=-10, \ a_{83}=-6, \ a_{89}=15, \ a_{97}=-7, \ a_{101}=2, \ a_{103}=-16,\\

&a_{107}=18, \ a_{109}=10, \ a_{113}=9, \ a_{127}=8, \ a_{131}=-18, \ a_{137}=-7,\\

&a_{139}=10, \ a_{149}=-10, \ a_{151}=2, \ a_{157}=-7, \ a_{163}=4, \ a_{167}=-12,\\

&a_{173}=-6, \ a_{179}=-15, \ a_{181}=7, \ a_{191}=17, \ a_{193}=4, \ a_{197}=-2,\\

&a_{199}=0, \ a_{211}=12, \dots\end{align}



実はgood prime pはその性質によって二種類に分類されます:

定義 pordinary primeであるとはa_p \not \equiv 0 \pmod{p}が成り立つときに言い、a_p \equiv 0 \pmod{p}のときはsupersingular primeという。

例えば、a_2=-2 \equiv 0\pmod{2}が成り立つため、p=2はsupersingular primeであることが分かります。p \geq 5に対しては、Hasse-Weil boundによってpがsupersingular \Longleftrightarrow a_p=0であることに注意します。

すると、先ほどの数値例においてはa_{19}=0, a_{29}=0, a_{199}=0であるため、p=19, 29, 199がsupersingular primeであることが分かります。全体から見るとsupersingular primeは少ないように思えますが、Elkiesが次のセンセーショナルな結果を得ています(大体20歳のときの仕事!!):

定理 (Elkies, 1987) Supersingular primesは素数全体における密度は0でありながら、無数に存在する!*1

密度が0で数論的な取り扱いも難しいことが多いsupersingular prime(今頃ですが日本語では超特異素数)が無数に存在することを示すなんてめちゃくちゃかっこいいですね!!Elkiesは私にとってヒーローです!!或いは、もし有限個だったら種々の問題においてそれらを個別に調べるという手法も可能になりますが、そうはいかないというところに数学の奥深さを感じてしまいます。証明についてはまた別の機会に解説できればと思います。

それでは、supersingular primeだけをピックアップして眺めてみましょう!!


\begin{align}&2, 1\color{red}{9}, \ 2\color{red}{9}, 19\color{red}{9}, \ 56\color{red}{9}, \ 80\color{red}{9}, \ 128\color{red}{9}, \ 143\color{red}{9}, \ 253\color{red}{9}, \ 331\color{red}{9}, \ 355\color{red}{9}, \ 391\color{red}{9}, \ 551\color{red}{9}, \ 941\color{red}{9}, \ 953\color{red}{9},\\

&992\color{red}{9}, \ 1127\color{red}{9}, \ 1154\color{red}{9}, \ 1322\color{red}{9}, \ 1448\color{red}{9}, \ 1723\color{red}{9}, \ 1814\color{red}{9}, \ 1895\color{red}{9}, \ 1931\color{red}{9}, \ 2227\color{red}{9}, \ 2435\color{red}{9},\\

&2752\color{red}{9}, \ 2878\color{red}{9}, \ 3299\color{red}{9}, \ 3302\color{red}{9}, \ 3655\color{red}{9}, \ 4289\color{red}{9}, \ 4525\color{red}{9}, \ 4621\color{red}{9}, \ 4952\color{red}{9}, \ 5116\color{red}{9}, \ 5299\color{red}{9},\\

&5525\color{red}{9}, \dots, 285287\color{red}{9}, \dots, 195306517475\color{red}{9}, \dots\end{align}


ん??


もしかして、2以外全部一桁目が9????


これが、最近私が出会ったロマンティックな素数現象です。初めて見たときは大変ぎょっとしました。「なんで、こんな偏りがあるの??」と。


2以降はsupersingular primeの一桁目が常に9であるという予想は実は正しく、次のように説明できます(結果的にはこの現象は簡単に説明がつく)。


Eの有理点全体(x座標とy座標がともに有理数である点および無限遠点)はロマンティックなことに群をなしますが(Mordell-Weil群という)、今考えているEについては位数5の有限巡回群で、

\displaystyle E(\mathbb{Q}) = \{ O, \ (5, 5), \ (16, -61), \ (16, 60), \ (5, -6)\}

となっています(つまり、Mordell-Weilランクが0で、BSD予想によればL(E, 1)\neq 0がわかる)。

このとき、p \neq 5, 11ならばE(\mathbb{Q})E_p(\mathbb{F}_p)に自然に埋め込めることが分かります(cf. Silverman, "The Arithmettic of Elliptic Curves", Proposition Ⅶ3.1(b))。

この有理点のなす群に関する事実からp \neq 5, 11に対して\#E_p(\mathbb{F}_p)5の倍数であることが従い*2p \geq 13がsupersingular primeならば

p+1 = \# E_p(\mathbb{F}_p) \equiv 0 \pmod{5}

となります。よって、p\geq 3は奇数なので2以外のsupersingular primeに対しては

p \equiv 9 \pmod{10}

が成り立つことが分かるという寸法です。


答を聞けば「なんだそんな単純なことか」と思いますが、このように楕円曲線の有理点達が強固に手を取り合って群を成しているという事実が、見事に密度0の無限素数列のバイアスとして現れるという現象にロマンを感じた私は、この話を今回のプレゼンで発表することにしたのでした(与えられた発表時間は5分!オーバーしてしまいましたが、素数の魅力は皆さまに伝わったでしょうか!??)。

*1:一般の\mathbb{Q}上の楕円曲線に対してsupersingular primesが無数に存在することを示しています。あるいは、実素点を少なくとも一つ含む数体上定義されていてもOKです。密度0という主張は虚数乗法を持たない場合で、虚数乗法を持つ場合はordinaryとsupersingularの割合は半々です。

*2:\#E_5(\mathbb{F}_5)=5の模様。