インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

Q&ABC (その8)

せきゅーん: 今日の話を聴いて生じた疑問があったんだっけ?


ラムネ: rの関数F(r)に対して

\displaystyle F(\mathrm{rad}(abc) ) > c

が全ての or 有限個の例外を除くABCトリプル対して成立するようなF(r)を追求しているものと考える。このとき、F(r)=rが駄目ってのが話の出発点で、StwertとTijdemanの最初の定理によって

F(r)=r\log r

で駄目どころか

\displaystyle F(r)=r\exp\left( (4-\delta)\frac{\sqrt{\log r}}{\log \log r}\right) \tag{14}

でも駄目だった。

\displaystyle F(r)=r^{1+\varepsilon} \tag{15}

でOKというのがABC予想であり、

\displaystyle F(r)=r\exp(Kr^{15})

であれば比較的簡単に示せるとうのがStwertとTijdemanのたった今証明を紹介してもらった定理だ。


さて、今日生じた質問というのは(14)(15)の間についてだ。ABC予想よりも深い予想も存在しそうだ。F(r)はどこまで小さくできるのか。


せきゅーん: いい質問だね。それに関連する話題としてベイカーの予想を以前紹介したことがある。明示的ABC予想 - INTEGERS


ただ、これはF(r)に数論的関数\omega(r)を使ってしまっているから挙動は複雑である。もっと簡単な関数で君の質問に答えるようなものがないかについての研究もいくらかなされているのだけれど、2014年のRobert-Stewart-Tenenbaumの論文*1によれば正の定数C_1, C_2が存在して

\displaystyle F(r)=r\exp\left(4\sqrt{\frac{3\log r}{\log\log r}}\left(1+\frac{\log\log\log r}{2\log\log r}+\frac{C_1}{\log\log r}\right)\right)

でOK、

\displaystyle F(r)=r\exp\left(4\sqrt{\frac{3\log r}{\log\log r}}\left(1+\frac{\log\log\log r}{2\log\log r}+\frac{C_2}{\log\log r}\right)\right)

で駄目と予想されている。根拠は確率的heuristicとのこと。


ラムネ: そ、そんなに精密な予想があるのか。\expの中身の\sqrt{\log r}に着目すれば、StwertとTijdemanの最初の定理は中々いい結果に思えてきた。実際にC_2の予想に到達するにはまだまだギャップがあるのだろうけど。


せきゅーん: 2014年の論文では上記予想(= Conjecture A)を更に精密化した予想(= Conjecture B, C)およびそのheuristicな導出が議論されているから興味があったら勉強して私に教えて欲しい。


ラムネ: 余裕があれば。何はともあれ、ABC予想について前よりはわかった気がする。どうもありがとう。


せきゅーん: 今回はあくまで整数の性質として議論してきたけれど、スピロ予想やヴォイタ予想との関係性という重要なトピックについては触れられなかった。


ラムネ: あ、もう1つ質問なんだけどホッジ劇場って何であんな定義をするの?


せきゅーん: おっと、もう用事の時間だ。その質問は今度にしてくれ。では。

*1:A refinement of the abc conjecture, Bull. London Math. Soc. 46 (2014), 1156-1166.