インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

大野予想

この記事では大野予想を紹介します。先生方の敬称は本文中では省略させていただきます。

2元3次形式

Vを2元3次形式の空間とします:

V:=\{F(x,y)=ax^3+bx^2y+cxy^2+dy^3 \mid a,b,c,d\in\mathbb{R}\}.

F(x,y)=ax^3+bx^2y+cxy^2+dy^3\in Vの判別式D(F)

D(F):=18abcd+b^2c^2-4ac^3-4b^3d-27a^2d^2

で定義します。

F_1(x,y)=a_1x^3+b_1x^2y+c_1xy^2+d_1y^3, F_2(x,y)=a_2x^3+b_2x^2y+c_2xy^2+d_2y^3\in Vに対して、内積\langle F_1, F_2\rangle

\displaystyle \langle F_1, F_2\rangle:=d_1a_2-\frac{1}{3}c_1b_2+\frac{1}{3}b_1c_2-a_1d_2

で定義します。そして、格子L\subset V

L:=\{F(x,y)=ax^3+bx^2y+cxy^2+dy^3 \mid a,b,c,d\in\mathbb{Z}\}

で定義し、その双対\widehat{L}

\widehat{L}:=\{F_1\in V \mid \forall F_2\in V, \langle F_1, F_2\rangle \in \mathbb{Z}\}

で定義します。\widehat{L}\subset Lが成り立っています。

F_1, F_2\in Lが同値であるとは、あるg\in SL_2(\mathbb{Z})に対して

F_1((x,y)g)=F_2(x,y)

が成り立つときをいいます。

0でない整数nに対して、L(n)および\widehat{L}(n)

L(n):= \{F\in L \mid D(F)=n\}, \quad \widehat{L}(n):= \{F\in \widehat{L} \mid D(F)=n\}

と定義します。

ここで、6種類の類数を導入します(全て有限値であることが証明されています)。

h(n)L(n)における同値類の個数。

\widehat{h}(n)\widehat{L}(n)における同値類の個数。

残り4つを導入するために記号を導入します。F\in Lに対して、\mathrm{Stab}(F)

\mathrm{Stab}(F):=\{g \in SL_2(\mathbb{Z}) \mid F((x,y)g)=F(x,y)\}

と定めます。このとき、\#\mathrm{Stab}(F)\in\{1,3\}が知られています。

h_1(n)L(n)における\#\mathrm{Stab}(F)=1を満たすようなものの同値類の個数。

h_2(n)L(n)における\#\mathrm{Stab}(F)=3を満たすようなものの同値類の個数。

\widehat{h}_1(n)\widehat{L}(n)における\#\mathrm{Stab}(F)=1を満たすようなものの同値類の個数。

\widehat{h}_2(n)\widehat{L}(n)における\#\mathrm{Stab}(F)=3を満たすようなものの同値類の個数。

新谷の4つのディリクレ級数

新谷 卓郎は論文

T. Shintani, On Dirichlet series whose coe􏰁fficients are class numbers of integral binary cubic forms, J. Math. Soc. Japan 24 (1972), 132–188.

において、4つのディリクレ級数\xi_1(L,s), \xi_2(L,s), \xi_1(\widehat{L},s), \xi_2(\widehat{L},s)を次のように定義しました。

\begin{align} \xi_1(L,s)&:=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{h_1(n)+\frac{1}{3}h_2(n)}{n^s},\\ \xi_2(L,s)&:=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{h(-n)}{n^s},\\ \xi_1(\widehat{L},s)&:=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{\widehat{h}_1(n)+\frac{1}{3}\widehat{h}_2(n)}{n^s},\\ \xi_2(\widehat{L},s)&:=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{\widehat{h}(-n)}{n^s}.\end{align}

これらは全てsの実部が1より大きいとき絶対収束します。そして、新谷 卓郎はこれらの関数を有理型接続し、関数等式

\displaystyle \binom{\xi_1(L,1-s)}{\xi_2(L,1-s)}=\Gamma\left(s-\frac{1}{6}\right)\Gamma(s)^2\Gamma\left(s+\frac{1}{6}\right)\frac{3^{6s-2}}{2\pi^{4s}}\begin{pmatrix} \sin(2\pi s) & \sin(\pi s) \\ 3\sin(\pi s) & \sin(2\pi s) \end{pmatrix}\binom{\xi_1(\widehat{L},s)}{\xi_2(\widehat{L},s)}

を証明しました。

大野予想

大野 泰生は数値計算の結果を丹念に眺めることにより、4つあるかに見えたディリクレ級数が実質的に2つであることを発見しました。論文

Y. Ohno, A conjecture on coincidence among the zeta functions associated with the space of binary cubic forms, Amer. J. Math. 119 (1997), 1083–1094.

において提示されたその予想式は

\begin{align} \xi_1(\widehat{L},s)&=3^{-3s}\xi_2(L,s), \\ \xi_2(\widehat{L},x)&=3^{1-3s}\xi_1(L,s)\end{align}

です。

この予想が正しければ、

\begin{align} Z_+(s)&:=2^s3^{\frac{3s}{2}}\pi^{-2s}\Gamma(s)\Gamma\left(\frac{s}{2}+\frac{1}{12}\right)\Gamma\left(\frac{s}{2}-\frac{1}{12}\right)\left(3^{\frac{1}{2}}\xi_1(L,s)+\xi_2(L,s)\right), \\ Z_-(s)&:=2^s3^{\frac{3s}{2}}\pi^{-2s}\Gamma(s)\Gamma\left(\frac{s}{2}+\frac{5}{12}\right)\Gamma\left(\frac{s}{2}-\frac{7}{12}\right)\left(3^{\frac{1}{2}}\xi_1(L,s)-\xi_2(L,s)\right)\end{align}

に対して関数等式

Z_+(1-s)=Z_+(s),\quad Z_-(1-s)=Z_-(s)

が成り立つことが示されます。

解決

この美しい大野予想は論文

J. Nakagawa, On the relations among the class numbers of binary cubic forms, Invent. Math. 134 (1998), 101–138.

において、中川 仁によって解決されました。