インテジャーズ

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数、特に整数に関する記事。

1729:ラマヌジャンのタクシー数とラマヌジャン素数

1729は二つの(正の)三乗数の和として二通りに書ける最小の自然数です*1

1729 = 12^3 + 1^3 = 10^3 + 9^3

これはRamanujanに関する次のような有名なエピソードからRamanujanのタクシー数などと呼ばれています:

療養中であったRamanujanの見舞いに行く途中、Hardyが乗ったタクシーのナンバーが1729であった*2
Hardyが

「その数はどうでもいい退屈な数字であった。凶兆でなければよいが」

というと、Ramanujanは即座に

「そんなことはありません。大変面白い数です。それは二つの三乗数の和で二通りに表すことができる最小の数です」

と返したと言われている。

知られているタクシー数

n通りの二つの三乗数の和として書けるような最小の自然数を\mathrm{Ta}(n)とすると、\mathrm{Ta}(2)=1729となります。任意の自然数nに対して\mathrm{Ta}(n)が存在することはHardy-Wrightによって1938年に証明されていますが、数値が確定しているのは次の6つのみです:

\mathrm{Ta}(1)=2
\mathrm{Ta}(2)=1729
\mathrm{Ta}(3)=87539319
\mathrm{Ta}(4)=6963472309248
\mathrm{Ta}(5)=48988659276962496
\mathrm{Ta}(6)=24153319581254312065344

2=1^3+1^3

1729=12^3+1^3=10^3+9^3

87539319 = 436^3+167^3 = 423^3+228^3=414^3+255^3

\begin{equation}\begin{split}6963472309248&=19083^3+2421^3 = 18948^3+5436^3 \\ &= 18072^3+10200^3 = 16630^3+13322^3\end{split}\end{equation}

\begin{equation}\begin{split}48988659276962496&=365757^3+38787^3=362753^3+107839^3\\ &=342952^3+205292^3 =336588^3+221424^3\\ &=331954^3+231518^3\end{split}\end{equation}

\begin{equation}\begin{split}24153319581254312065344&=28906206^3+582162^3=28894803^3+3064173^3\\ &=28657487^3+8519281^3=27093208^3+16218068^3\\ &=26590452^3+17492496^3=26224366^3+18289922^3\end{split}\end{equation}

四乗の場合

同じ問題を他の類乗の場合にも考えることができます。
二通りの二つの平方数の和として書けるような最小の自然数は

50=7^2+1^2=5^2+5^2

であり、二通りの二つの四乗数の和として書けるような最小の自然数は

635318657=158^4+59^4=134^4+133^4

です。

Ramanujanだって我々と同じ人間である(たぶん)

Ramanujanの鬼才っぷりはご存知の方も多いと思います。彼の話を聞いたり読んだりしていると、魔法使いなのではないか?と思ったりします*3。しかしながら、冷静になって考えてみると、Ramanujanも我々と同じ人間だったはずだとは思います(たぶん)。

1729のエピソードに関しては「Ramanujanが如何に数を愛していたか」が分かるエピソードですが、「魔法使いのような天才である」ことを裏付けるタイプのエピソードではないと私は感じています。

まず、1729の性質をRamanujanがもともと知っていた可能性があります*4

というのも、歴史的にこの性質を最初に言明したのはBernard Frénicle de Bessyで、それは1657年のことなのです。また、仮にその場でRamanujanが思いついたとしても(それは十分あり得ることだとは思いますが)、彼の頭の中が超高性能コンピュータだったわけではありません。実際、最初にあげたエピソードにおける会話には続きがあって、

「では四乗の場合はどうか」
しばらくの後、
「実例は知らない。しかし、四乗の場合の最小数はかなり大きくなるだろう」

なる会話がなされたそうです。このRamanujanの返答は知識や思考といった人間的な部分を思わせます。

Ramanujanが天才であったことは間違いないため彼より優れた数学上の仕事をすることは簡単ではありませんが、数に関して言えば1729よりはるかに面白い性質を当ブログでは多数紹介しているつもりです。というわけで、面白い数の性質をたくさん見つけたり覚えたりして、是非Ramanujanの真似をして回りの人を驚かせてください(笑)。

また、Ramanujanは証明なしで数学的事実を多数発見することのできる天才であったのですが、これを「彼は証明という概念を知らなかった」と捉えるのは全くの間違いです。実際、1919年の彼の有名な論文

S. Ramanujan, A proof of Bertrand's postulate, Journal of the Indian Mathematical Society 11, 1919, 181–182.

はBertrandの仮説の証明を与えるものです。証明の概念を知らない者がかような論文を書けるはずがありません。

なお、

黒川信重著『ラマヌジャン \zetaの衝撃』 現代数学社

は痛烈なHardy批判を含む、それまでRamanujanについて読んだり聞いたりして培ってきた印象がガラリと変わる本で一読をお勧めします。

RamanujanによるBertrandの仮説の証明

せっかく、論文の名前を一つ出したので、RamanujanによるBertrandの仮説の証明のアイデアを紹介します。
Bertrandの仮説については以前Erdősによる初等的証明を紹介しました:
integers.hatenablog.com

Chebyshevの関数

\displaystyle \vartheta (x) = \sum_{p \leq x}\log p, \ \psi (x)=\sum_{p^k \leq x}\log p = \sum_{m=1}^{\infty}\vartheta (x^{\frac{1}{m}})

およびVon-Manglodt関数

 \displaystyle \Lambda (n) := \begin{cases} \log p & n=p^k, p : \text{素数}, \ k\geq 1 \\ 0 & otherwise \end{cases}

を用います。これらは

integers.hatenablog.com
integers.hatenablog.com
で取り扱ったものであり、定義から

\displaystyle \psi (x) = \sum_{n \leq x}\Lambda (n)

であり、補題として

\displaystyle \log n! = \sum_{d \mid n}\Lambda (d)

を証明しました。

Ramanujanの証明のおおざっぱなアイデアはx \geq 1に対して、\vartheta (2x) - \vartheta (x) > 0を示せばよく、それを

\vartheta\psi → 階乗

と階乗に結び付けて、Stirlingの公式を用いた解析によって証明するというものです。以下、証明を概ね解説しますが、Stirlingの公式を用いた評価の部分は省略します。一つの理由は、Stirlingの公式を複素変数のガンマ関数に対してこのブログではまだ証明しておらず、それを書くことは極めて億劫なためです。もう一つの理由としてはStirlingの公式を認めたとしても、やれば誰でも必ず出来るけど面倒くさくてやりたくないタイプの高校数学で言うところの数Ⅲの計算をする必要があって、実際今回やってみたのですが、書いても冗長にすぎるためです。それでは証明に移りましょう。

Step1. \psi (x)\vartheta (x)の関係

\displaystyle \psi (x) =\sum_{m=1}^{\infty}\vartheta (x^{\frac{1}{m}})

より、

\displaystyle \psi (x) -2\psi (\sqrt{x})=\sum_{m=1}^{\infty}(-1)^{m-1}\vartheta (x^{\frac{1}{m}})

が成り立つ。\vartheta (x)は広義単調増加関数であるため、

\displaystyle \psi (x) -2\psi (\sqrt{x})\leq \vartheta (x) \leq \psi (x)

を得る。

Step2. \psi (x)\log [ x]!の関係

\displaystyle \log [x]! = \sum_{n \leq x}\log n = \sum_{n \leq x}\sum_{d \mid n}\Lambda (d) = \sum_{m=1}^{\infty}\sum_{dm \leq x}\Lambda (d) = \sum_{m=1}^{\infty}\psi (x/m)

なる関係がある。\psi (x)は広義単調増加関数であるため、

\psi (X) - \psi (x/2) \leq \log [x]!-2\log [x/2]! \leq \psi (x)-\psi (x/2)+\psi (x/3)

を得る。

Step3. Stirlingの公式による評価
Stirlingの公式を用いることによって、

\displaystyle \log [x]!-2\log [x/2]! < \frac{3}{4}x ,\ \ (x > 0)

および、

\displaystyle \log [x]!-2\log [x/2]! > \frac{2}{3}x ,\ \ (x > 300)

を示すことができる(既に述べたようにこの部分の詳細は省略)。

注)
integers.hatenablog.com
で証明したStilingの公式の非常に弱いバージョンである漸近公式1

\log [x]! = x\log x - x + O(\log x)

を用いれば,

\log [x]!-2\log [x/2]! = (\log 2)x + O(\log x)

が容易に導かれます。\displaystyle \frac{2}{3} < \log 2 < \frac{3}{4}であるため、上記不等式が十分大きいxに対して成立することは分かります。しかしながら、Bertrandの仮説は"全てのx \geq 1"に対して示さなければならないため"effective"な評価が必要であり、Stirlingの公式に関しても漸近評価だけでは不十分で、精密な評価を与えるヴァージョンが必要となることがわかります。ちなみに2007年の東大の入試数学第6問で0.68 < \log 2 < 0.71を証明させる問題が出題されました。

Step4. \vartheta (x)-\vartheta (x/2)の評価の導出
Step2とStep3を組み合わせることによって

\displaystyle \psi (x) - \psi (x/2) < \frac{3}{4}x, \ \ (x > 0) ―①

および

\displaystyle \psi (x) - \psi (x/2) - \psi (x/3) > \frac{2}{3}x, \ \ (x > 300) -②

が成り立つ。①をx\mapsto x/2, x/4, \dotsとしたものについて望遠鏡和をとることによって

\displaystyle \psi (x) < \frac{3}{4}(1+1/2+1/2^2+\cdots )x = \frac{3}{2}x, \ \ (x > 0)

を得る。望遠鏡和については

integers.hatenablog.com
を参照せよ。

この不等式とStep1によって

\begin{equation}\begin{split}\psi (x) - \psi (x/2) + \psi (x/3) &\leq \vartheta (x)+2\psi (\sqrt{x})-\vartheta (x/2)+\psi (x/3)\\ &< \vartheta (x) - \vartheta (x/2) + \frac{1}{2}x+3\sqrt{x}\end{split}\end{equation}

を得る。従って、②と合わせることによって

\displaystyle \vartheta (x) - \vartheta (x/2) > \frac{x}{6}-3\sqrt{x}, \ \ (x > 300)

が得られた。x\geq 324ならばx/6-3\sqrt{x} \geq 0なので、x\geq 162に対して\vartheta (2x)-\vartheta (x) > 0が示された。小さいxに対しては直接確認することによってBertrandの仮説の証明が完了する。 Q.E.D.

Bertrandの仮説の初等的証明がErdősによって最初に与えられ、それ以前に発表されたRamanujanの証明は解析的な証明であると認識していました。しかしながら、上記証明を見ると真に解析を使っていると言える箇所はStirlingの公式を用いているところのみであることがわかります。証明では\logを取っていますが、実際に評価したいものは

\displaystyle \frac{[ x]!}{[ x/2]!^2}

です。これは本質的に中心二項係数であり、MeherとMurtyという人が指摘している通り、これの評価であればStilingの公式を使うことなく二項定理を使った初等的評価で与えることができます(Stirlingに比べて精度が悪くなりますが、証明はまわります)。

というわけでRamanujanは単にシンプルな証明を与えただけではなく、本質的に初等的な証明を与えており、中心二項係数が証明の一つのキーとなることを看破していたと言ってよいと思われます。

Ramanujan素数

Ramanujanの論文はたったの2ページですが、Bertrandの仮説の別証明を与えただけではなく、現今Ramanujan素数と呼ばれる数列について言及して後の数学者達におもちゃを提供しています。\pi (x)は素数個数関数、p_nn番目の素数とします。

nを任意の自然数とする。xが十分大きければ、x2xの間に必ずn個の素数が存在する。

証明.

\displaystyle \vartheta (x) -\vartheta (x/2) = \sum_{\frac{x}{2} < p \leq x}\log p \leq \sum_{\frac{x}{2} < p \leq x}\log x = (\pi (x) -\pi (x/2))\log x

より、

\displaystyle \pi (x) - \pi (x/2) > \frac{1}{\log x}(\frac{1}{6}x-3\sqrt{x}), \ \ (x > 300)

となって、右辺はx \to \inftyで発散する。 Q.E.D.

定義 自然数nに対し、R_n
\displaystyle x \geq R_n \Longrightarrow \pi (x) - \pi (x/2) \geq n
が成り立つような最小の整数として定める。

\pi (x)xが素数のときのみ増加する関数なので、\pi (x)-\pi (x/2)が増加するのはxが素数のときのみです。従って、R_nは必ず素数であり、n番目のRamanujan素数と呼ばれています。

Ramanujan素数、最初の100個

R_1= 2,
R_2= 11,
R_3= 17,
R_4= 29,
R_5= 41,
R_6= 47,
R_7= 59,
R_8= 67,
R_9= 71,
R_{10}= 97,
R_{11}= 101,
R_{12}= 107,
R_{13}= 127,
R_{14}= 149,
R_{15}= 151,
R_{16}= 167,
R_{17}= 179,
R_{18}= 181,
R_{19}= 227,
R_{20}= 229,
R_{21}= 233,
R_{22}= 239,
R_{23}= 241,
R_{24}= 263,
R_{25}= 269,
R_{26}= 281,
R_{27}= 307,
R_{28}= 311,
R_{29}= 347,
R_{30}= 349,
R_{31}= 367,
R_{32}= 373,
R_{33}= 401,
R_{34}= 409,
R_{35}= 419,
R_{36}= 431,
R_{37}= 433,
R_{38}= 439,
R_{39}= 461,
R_{40}= 487,
R_{41}= 491,
R_{42}= 503,
R_{43}= 569,
R_{44}= 571,
R_{45}= 587,
R_{46}= 593,
R_{47}= 599,
R_{48}= 601,
R_{49}= 607,
R_{50}= 641,
R_{51}= 643,
R_{52}= 647,
R_{53}= 653,
R_{54}= 659,
R_{55}= 677,
R_{56}= 719,
R_{57}= 727,
R_{58}= 739,
R_{59}= 751,
R_{60}= 769,
R_{61}= 809,
R_{62}= 821,
R_{63}= 823,
R_{64}= 827,
R_{65}= 853,
R_{66}= 857,
R_{67}= 881,
R_{68}= 937,
R_{69}= 941,
R_{70}= 947,
R_{71}= 967,
R_{72}= 983,
R_{73}= 1009,
R_{74}= 1019,
R_{75}= 1021,
R_{76}= 1031,
R_{77}= 1049,
R_{78}= 1051,
R_{79}= 1061,
R_{80}= 1063,
R_{81}= 1087,
R_{82}= 1091,
R_{83}= 1097,
R_{84}= 1103,
R_{85}= 1151,
R_{86}= 1163,
R_{87}= 1187,
R_{88}= 1217,
R_{89}= 1229,
R_{90}= 1249,
R_{91}= 1277,
R_{92}= 1289,
R_{93}= 1297,
R_{94}= 1301,
R_{95}= 1367,
R_{96}= 1373,
R_{97}= 1423,
R_{98}= 1427,
R_{99}= 1429,
R_{100}= 1439, \dots

なお、R_nはおおよそ2n番目の素数p_{2n}に近いことが証明できます。
素数定理
integers.hatenablog.com
を用います。

定理 \ \ \ R_n \sim p_{2n}, \ \ (n \to \infty).

証明. \displaystyle \log \frac{x}{2} \sim \log xに注意すれば、素数定理より

\displaystyle \pi (x) - \pi(x/2) \sim \frac{1}{2}\frac{x}{\log x}

が従う。よって、\pi(R_n)-\pi(R_n/2)=nに注意することにより

\displaystyle \lim_{n \to \infty}\frac{2n\log R_n}{R_n} = 1

が得られる。両辺の対数をとって、\log R_nで割れば\log R_n \sim \log 2nが言えるので、結局R_n \sim 2n\log 2nとなる。素数定理よりp_n \sim n\log nであるから、証明が完了する。 Q.E.D.

*1:本記事では三乗数は正の整数のみ扱うことにします。

*2:1919年。

*3:実際、『インドの魔術師』の異名を持っています。

*4:誰か(例えばHardy)がRamanujan自身に「知ってたの?」と聞けばRamanujanは何らかの回答をしたはずなので、もしかしたら知っていたか知らなかったかの答えは史実として残っている可能性があると思います。これに関して文献をご存知の方はご一報くださると幸いです。