インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

ライトの素数表現関数

Millsの素数表現関数の論文が1947年に出て、それはInghamによる深い結果を用いるものでした:

integers.hatenablog.com

これを受けて、Inghamの結果を使う代わりに、よりお手軽なBertrandの仮説を使うだけでも同じようなことができるよとWrightが1951年に報告しました。

定理 (Wright) 正の数 \alpha > 0 が存在して、g_0:=\alpha, \  g_{n+1} := 2^{g_n} で定まる数列 \{g_n\} について、[g_n]は任意のn \geq 1に対して素数となる。[ \cdot ]はGauss記号。

証明. Bertrandの仮説より、P_1=2または3として*1

\displaystyle 2^{P_n} < P_{n+1} < P_{n+1}+1 < 2^{P_n+1}

を満たすような素数列 \{P_n\} が存在する*2。これを固定して、u_n:=\log_2^{(n)}P_n, \ v_n:=\log_2^{(n)}(P_n+1)とおく。ここで、\log_2^{(n)}x

\displaystyle \log_2^{(n)}x := \underbrace{\log_2 \log_2 \cdots \log_2}_n \ x

と定義する。 すると、

\displaystyle u_n < u_{n+1} < v_{n+1} < v_n

が成り立つので、\displaystyle \lim_{n \to \infty}u_n=\lim_{n \to \infty}v_n =\alpha が存在する。定理の主張通りに \{g_n\}を定義すれば、任意のn \geq 1に対して

u_n < \alpha < v_n

が成り立つので、

\displaystyle P_n < g_n < P_{n}+1

となって、[g_n]=P_n は素数となる。 Q.E.D.

本日出たArXivの論文について

定理の\alphaとしては少なくとも\{P_n\}の選択の仕方だけはあることが分かります*3。Wrightは論文中に\alphaの例として

\alpha = 1.9287800\cdots

を上げており、P_1=3, \ P_2=13, \ P_3=16381 であり、P_4は約5000桁であると書いています。推測ですが、2^3=8, \ 2^4=16, \ 2^{13}=8192, \ 2^{14}=16384であることから、P_1=3からスタートした後は 2^{P_n+1}以下の最大の素数をP_{n+1}と定義していると思われます。Millsの定数が最小のものを取っていって定義されていたのとは対照的です。


ところで、本日"Wright's Fourth Prime"というタイトルのプレプリントが出て、Wrightの4番目の素数を求めたと主張しています。

ざっと眺めてみたのですが、まず、「Wrightは例としてc=1.9287800を与えた。」とありますが、これは良くない表現だと思います。Wrightの論文にはちゃんと「\cdots」があります。

このcに対するg_4は合成数であるので、g_4より大きい最初の素数(4932桁)をコンピュータで計算しています。私の考えではWrightの4番目の素数は2^{16382}以下の最大の素数なので、彼らの求めた素数はWrightの4番目の素数とは呼べないのではないかと思います*4。この発見した素数を元に

w=c+8.2843\times 10^{-4933}

を求め、このwに対しては g_1, g_2, g_3, g_4が素数になり、g_1, g_2, g_3はWrightの素数に一致していると言っています。しかし、このwはWrightの\alphaの真の近似値ではないでしょう*5

*1:と論文にありますが、素数であればなんでもよいです。

*2:右端の不等号に等号が入らないことは P_n+1が合成数であることから従います。cf. メルセンヌ数 - INTEGERS

*3:ですが、Lebesgue測度0しかありません。

*4:ちなみに、N2Nの間にある素数の個数はどんどん増えます。

*5:以上のコメントはv1に対してのみ有効。