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INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

ラマヌジャンのΔと或る重さ2の保型形式の間の合同式

これまでRamanujanの\Deltaとそれから定まる数列\tau (n)についてその性質をいくつか調べてきました。

\displaystyle \Delta = q\prod_{n=1}^{\infty}(1-q^n)^{24} = \sum_{n=1}^{\infty}\tau (n)q^n.

今回は別の無限積を考えてみましょう:

\displaystyle q\prod_{n=1}^{\infty}(1-q^n)^2(1-q^{11n})^2 = \sum_{n=1}^{\infty}c(n)q^n.

によって数列\{c(n)\}を導入します。これは実は或る重さ2の保型形式のFourier級数展開になっています。

素数pに対するc(p)の値を少しだけ見てみましょう:


\begin{align}c(2)&=-2\\
c(3)&=-1\\
c(5)&=1\\
c(7)&=-2\\
c(11)&=1\\
c(13)&=4\\
c(17)&=-2\\
c(19)&=0\\
c(23)&=-1\\
c(29)&=0\\
c(31)&=7\\
c(37)&=3\\
c(41)&=-8\\
c(43)&=-6\\
c(47)&=8\\
c(53)&=-6\\
c(59)&=5\\
c(61)&=12\\
c(67)&=-7\\
c(71)&=-3\\
c(73)&=4\\
c(79)&=-10\\
c(83)&=-6\\
c(89)&=15\\
c(97)&=-7\\
c(101)&=2\\
c(103)&=-16\\
c(107)&=18\\
c(109)&=10\\
c(113)&=9\\
c(127)&=8\\
c(131)&=-18\\
c(137)&=-7\\
c(139)&=10\\
c(149)&=-10\\
c(151)&=2\\
c(157)&=-7\\
c(163)&=4\\
c(167)&=-12\\
c(173)&=-6\\
c(179)&=-15\\
c(181)&=7\\
c(191)&=17\\
c(193)&=4\\
c(197)&=-2\\
c(199)&=0\\
c(211)&=12\\
c(223)&=19\\
c(227)&=18\\
c(229)&=15\\
c(233)&=24\\
c(239)&=-30\\
c(241)&=-8\\
c(251)&=-23\\
c(257)&=-2\\
c(263)&=14\\
c(269)&=10\\
c(271)&=-28\\
c(277)&=-2\\
c(281)&=-18\\
c(283)&=4\\
c(293)&=24\\
c(307)&=8\\
c(311)&=12\\
c(313)&=-1\\
c(317)&=13\\
c(331)&=7\\
c(337)&=-22\\
c(347)&=28\\
c(349)&=30\\
c(353)&=-21\\
c(359)&=-20\\
c(367)&=-17\\
c(373)&=-26\\
c(379)&=-5\\
c(383)&=-1\\
c(389)&=-15\\
c(397)&=-2\\
c(401)&=2\\
c(409)&=-30\\
c(419)&=20\\
c(421)&=22\\
c(431)&=-18\\
c(433)&=-11\\
c(439)&=40\\
c(443)&=-11\\
c(449)&=35\\
c(457)&=-12\\
c(461)&=12\\
c(463)&=-11\\
c(467)&=-27\\
c(479)&=20\\
c(487)&=23\\
c(491)&=-8\\
c(499)&=20\\
c(503)&=-26\\
c(509)&=15\\
c(521)&=-3\\
c(523)&=-16\\
c(541)&=-8\end{align}


Ramanujanの\tau関数と同様c(n)は乗法的であり、素数p\neq 11と自然数kに対して、

c(p^{k+1})=c(p)c(p^k)-pc(p^{k-1})

なる漸化式が成り立ちます。また、不等式

\left|c(p)\right| \leq  2\sqrt{p}

が成り立ちます。これはEichlerが1954年に示しました。Ramanujanの\Deltaの場合は右辺に対応するものが2p^{\frac{11}{2}}だったのに対し、今回は2\sqrt{p}でバウンドされているので、\tau (p)に比較してc(p)の方が数値例において絶対値が小さくなっていることが(ある程度)納得できます。

また、Ramanujanの\tau (p)が様々な合同式を満たすことをこれまでに紹介してきましたが、c(p)も例えば

c(p) \equiv 1+p\pmod{5}

をなる合同式を満たすことがRamanujanによって証明されています。


ところで、先ほどの数値例を見て何かピンとこられた方はおられないでしょうか??

そうです!

integers.hatenablog.com

で紹介した、楕円曲線y^2+y=x^3-x^2-10x-20から定まる数列a_pと数値が全く一致しているのです!!実は次の驚くべき定理が成り立ちます:

定理 任意の素数pに対して、c(p)=a_pが成り立つ。

なんということでしょう!(\mathbb{Q}上の)楕円曲線と(重さ2の楕円カスプ)保型形式という生まれた場所の異なるものが結びつく。このような予期せぬ結びつきこそが数学の真骨頂です!!これは一つの実例に過ぎませんが、どんな\mathbb{Q}上の楕円曲線を考えても同様の結びつきがあるというのが、所謂志村-谷山予想です。

ロマンティック数学ナイトの方ではa_p \equiv 1\pmod{5}という合同式をMordell-Weil群の捩れ元を用いて紐解きましたが、この結びつきによって保型形式の観点からも証明できることが分かるのです。


さて、楕円曲線と重さ2の保型形式の間の不可思議な結びつきを紹介しましたが、実は重さの異なる保型形式の間にも様々な関係があることが知られています。ここでは、\tau (p)c(p)が、冒頭では今回は別のものを考えようとc(p)を導入したにも関わらず、思いがけず結びつくということを紹介して今回の記事を締めようと思います。

\tau (p)c(p)の差をとっていくつか計算してみましょう。

\tau(2)-c(2)=-22 =-2\times 11
\tau(3)-c(3)=253 =11\times 23
\tau(5)-c(5)=4829=11\times 439
\tau(7)-c(7)=-16742 =-2\times 11\times 761
\tau(11)-c(11)= 534611=7\times 11\times 53\times 131
\tau(13)-c(13)= -577742=-2\times 11\times 26261
\tau(17)-c(17)=-69005932 =-2^2\times 11\times 31\times 61\times 83
\tau(19)-c(19)= 10661420=2^2\times 5\times 7^2\times 11\times 23 \times 43
\tau(23)-c(23)= 18643273=11\times 1283\times 1321
\tau(29)-c(29)=128406630=2\times 3\times 5\times 11\times 389111

実は次の定理が成り立ちます!!

定理 任意の素数pに対して、合同式
\tau (p) \equiv c(p) \pmod{11}
が成立する。

証明. 1-q^{11n} \equiv (1-q^n)^{11} \pmod{11}に注意すれば、定義より自明である。 Q.E.D.

例えば、Elkiesの定理から「\tau (p)11の倍数になるような素数pは無数に存在する」ことがこの合同を通して分かります。