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INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

ラマヌジャン映画『奇蹟がくれた数式』公開!!

ですから、p(n)を自然数nの分割数としましょう。すなわち、nを例えば非増加の順に自然数の和として分割するときの分割*1の総数がp(n)でした。

\begin{align}5 &=5 \\ &=4+1 \\ &=3+2 \\ &=3+1+1\\ &= 2+2+1 \\ &= 2+1+1+1 \\ &= 1+1+1+1+1\end{align}

より、p(5)=7が分かります。便宜的にp(0)=1、負の整数nに対してp(n)=0としておきましょう。p(n)の母関数は

\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}p(n)q^n=\prod_{n=1}^{\infty}\frac{1}{1-q^n}

で与えられたことを思い出しておきます。Ramanujanは分割数の定義からは予想できそうにもない、p(n)の美しいarithmetic propertyを見出しました。

定理 (Ramanujan) 任意の整数nに対して合同式
\begin{align}p(5n+4) &\equiv 0 \pmod{5} \\ p(7n+5) &\equiv 0 \pmod{7} \\ p(11n+6) &\equiv 0 \pmod{11}\end{align}
が成立する。

p(4)=5, \ (5)=7, \ p(6)=11, \ p(9)=30, \ p(12)=77, \ p(17)=297など確かに成立していることを数値例で確かめることができます。映画はまだ見ていないので内容は知らないのですが、この定理の証明ぐらいは紹介するのではないか?と期待しています*2

Ramanujanは

It appears that there are no equally simple properties for any moduli involving primes other than these three.

と述べています。

6と素な任意の整数mに対して、或る整数a, bが存在して

p(an+b) \equiv 0 \pmod{m}

が任意の整数nに対して成り立つことが示されていますが、m=13としても

p(157525693n+111247)\equiv 0 \pmod{13}

が全ての整数nに対して成立するというのが実例の一つなので、Ramanujanの発見した合同式と比べると複雑と言えます。そこで、素数lに対して

p(ln+k) \equiv 0 \pmod{l}

が任意の整数nに対して成立するような整数kが存在するかを問うことにしましょう。かようなkが存在するときlRamanujanの奇跡の素数と呼ぶことにします*3

このとき、Ramanujanの言葉は次のような形で実現されました:

定理 (Ahlgren-Boylan) Ramanujanの奇跡の素数は5, 7, 11に限る。

というわけで、この記事ではこの定理の証明の概略を

S. Ahlgren, M. Boylan, "Arithmetic properties of the partition function", Invent. Math., 153(3) (2003), p. 487-502.

に従って紹介することにしましょう。以下、ですます調からである調に転調します。

p(0)=1, p(1)=1なので2はRamanujanの奇跡の素数ではない。更に、p(2)=2なので3もRamanujanの奇跡の素数ではないことが分かる。以下、ずっとl \geq 5として固定しよう(l\geq 13なる条件を課すこともある)。\frac{l^2-1}{24}は自然数となる。

Ramanujanの奇跡の素数については、Ahlgren-Boylanの定理が証明されるよりも前に次の重要な結果が証明されていた:

定理 (Kiming-Olsson) lがRamanujanの奇跡の素数であるとき、それに対して存在する整数k24k \equiv 1 \pmod{l}を満たす。

この定理からk\bmod{l}で一意に決まることが分かる。よって、Ahlgren-Boylanの定理を証明するには

\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}p(ln-\frac{l^2-1}{24})q^n \not \equiv 0 \pmod{l} \tag{1}

l \geq 13のときに成立することを示せばよい。\DeltaをRamanujanのデルタとし、f_l := \Delta^{\frac{l^2-1}{24}}とする。すると、\Deltaq展開と分割数の母関数表示から

\begin{align}f_l(z) &=q^{\frac{l^2-1}{24}}\prod_{n=1}^{\infty}\frac{(1-q^n)^{l^2}}{1-q^n} \\ &\equiv \prod_{n=1}^{\infty}(1-q^{ln})^l\sum_{n=0}^{\infty}p(n-\frac{l^2-1}{24})q^n\pmod{l}\end{align}

が得られる。よって、作用素U \colon \mathbb{Z}[[q]] \to \mathbb{Z}[[q]]

\displaystyle \left. \sum_{n=0}^{\infty}a_nq^n \right|_U := \sum_{n=0}^{\infty}a_{ln}q^n

と定めれば

\displaystyle \left. f_l\right|_U \equiv \prod_{n=1}^{\infty}(1-q^n)^l\sum_{n=0}^{\infty}p(ln-\frac{l^2-1}{24})q^n \pmod{l}

が得られたことになる。これを元にl \geq 13に対して(1)を示すのであるが、\bmod{l}モジュラー形式のl-weightに関する議論を用いて証明する。

kを偶数として、M_kSL_2(\mathbb{Z})に対する重さkの正則モジュラー形式全体のなす\mathbb{C}線形空間とする。Fourier係数が\mathbb{Z}に属するようなもののなす\mathbb{Z}加群をM_k(\mathbb{Z}):=M_k \cap \mathbb{Z}[[q]]として、f \in M_k(\mathbb{Z})に対して\widetilde{f} \in \mathbb{F}_l[[q]]\widetilde{f} := f\bmod{l}で定義する。そうして、

\displaystyle \widetilde{M_k} := \{ \widetilde{f} \mid f \in M_k(\mathbb{Z})\}

とする。このとき、f \in M_k(\mathbb{Z})に対して、fl-weight w(f)

\displaystyle w(f) := \inf \{ k' \mid \widetilde{f} \in \widetilde{M}_{k'}\}

と定義する。f \in \mathbb{Z}[[q]]がモジュラー形式でない場合でも、\bmod{l}で一致するようなモジュラー形式の持ち上げが存在すればw(f)を定義できる。

w(f) = -\infty \Longleftrightarrow \widetilde{f} \equiv 0 \pmod{l}

である。f \in M_k(\mathbb{Z})g \in M_{k'}(\mathbb{Z})\widetilde{f} \equiv \widetilde{g} \not \equiv 0 \pmod{l}ならばk \equiv k' \pmod{l-1}が成り立つことは\left(\begin{smallmatrix}0 & -1 \\ 1 & 0 \end{smallmatrix}\right)の作用を見れば分かる。また、w(f^j)=jw(f)なる性質を持つ(jは自然数)。

\Theta = q\frac{d}{dq}\colon \mathbb{Z}[[q]] \to \mathbb{Z}[[q]]

\displaystyle \Theta \left( \sum_{n=0}^{\infty}a_nq^n \right) := \sum_{n=1}^{\infty}na_nq^n

と定義し、\mathbb{F}_l係数で考えたものを同じく\Thetaで表すことにする。

補題1 \Theta (\widetilde{M}_k) \subset \widetilde{M}_{k+l+1}が成り立つ。特に、f \in M_k(\mathbb{Z}), \ \widetilde{f} \not \equiv 0 \pmod{l}ならば
w(\Theta f) \leq w(f)+l+1
が成り立つ。等号成立のための必要十分条件はw(f) \not \equiv 0 \pmod{l}

kが正の偶数のときにEisenstein級数

\displaystyle E_k(z) = 1-\frac{2k}{B_k}\sum_{n=1}^{\infty}\sigma_{k-1}(n)q^n

を考える。B_k関-Bernoulli数\sigma_{k-1}(n)nの約数のk-1乗和。これは、k > 2ならモジュラー形式である。

kが整数のときに f \in \mathbb{Z}[[q]]に対して、\Theta_1f(z):=12\Theta f(z)-kE_2(z)f(z)によって\Theta_1\colon \mathbb{Z}[[q]] \to \mathbb{Z}[[q]]を定める(kに依存)。このとき、\left(\begin{smallmatrix}0 & -1 \\ 1 & 0 \end{smallmatrix}\right)の作用を計算すれば\Theta_1(M_k(\mathbb{Z}) ) \subset M_{k+2}(\mathbb{Z})が確かめられる。von-Staudt−Clausenの定理およびKummerの合同式よりE_{l-1} \equiv 1 \pmod{l}およびE_{l+1}(z) \equiv E_2(z) \pmod{l}が成り立つので、

\displaystyle \Theta f(z) \equiv \frac{\Theta_1f(z)E_{l-1}(z)-kE_{l+1}(z)f(z)}{12} \pmod{l}

が得られる。従って、\displaystyle f \in M_k(\mathbb{Z})であれば、\bmod{l}\Theta f(z)M_{k+l+1}(\mathbb{Z})に持ち上げが存在する。これで、補題1の不等式までは証明できた。等号成立条件については省略。

補題2 自然数mに対して
\displaystyle w(\Theta^m f_l) \geq w(f_l) = \frac{l^2-1}{2}
が成り立つ。

w(f_l)=\frac{l^2-1}{24}w(\Delta) = \frac{l^2-1}{2}と計算できる。f_l=q^{\frac{l^2-1}{24}}+\cdotsなので、

\Theta^m f_l = \left(\frac{l^2-1}{24}\right)^mq^{\frac{l^2-1}{24}}+\cdots \not \equiv 0 \pmod{l}

である。k:=w(\Theta^m f_l)d:=\dim_{\mathbb{C}}M_kとする。M_kの基底として、q展開の先頭項が1, q, q^2, \dots, q^{d-1}であるものからなるものが取れるので、

\displaystyle d \geq \frac{l^2-1}{24}+1

でなければならない。一方、次元公式よりd \leq \frac{k}{12}+1なのでk \geq \frac{l^2-1}{2}となって補題2の証明が完了する。

補題3 w(\Theta^{l-1}f_l) \equiv 0 \pmod{l}または
w(\Theta^{l-1}f_l)=w(f_l)=\frac{l^2-1}{2}
が成り立つ。前者の場合はw(\left. f_l\right|_U) > 0である。

\Theta^l f_l \equiv \Theta f_l \pmod{l}なので、補題1よりw(\Theta^lf_l)=w(\Theta f_l)=\frac{l^2-1}{2}+l+1が成立。もう一度補題1を用いると

w(\Theta^lf_l) \leq w(\Theta^{l-1}f_l)+l+1

が成り立ち、w(\Theta^{l-1}f_l) \equiv 0 \pmod{l}でなければ等号が成立する。そのとき、w(\Theta^{l-1}f_l)=\frac{l^2-1}{2}である。

(\left. f_l \right|_U)^l \equiv f_l-\Theta^{l-1}f_l \pmod{l}なので、

\displaystyle w(\left. f_l\right|_U)=\frac{1}{l}w(f_l-\Theta^{l-1}f_l).

w(\Theta^{l-1}f_l) \equiv 0 \pmod{l}かつw(\left. f_l\right|_U) \leq 0と仮定する。このとき、f_l-\Theta^{l-1}f_l\bmod{l}で定数*4。定数項をみれば0と分かる。すると、f_l \equiv \Theta^{l-1}f_l \pmod{l}ということになるが、w(f_l)=\frac{l^2-1}{2} \not \equiv 0 \pmod{l}なので矛盾。これで補題3の証明完了。只今より、l\geq 13として(1)を証明する。背理法で証明するので

\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}p(ln-\frac{l^2-1}{24})q^n \equiv 0 \pmod{l}

と仮定する。すると、幾分前に示した合同式よりw(\left. f_l \right|_U)=-\inftyということになる。故に補題3より

\displaystyle w(\Theta^{l-1}f_l) = w(f_l)=\frac{l^2-1}{2}.

さて、w(\Theta^{l-2}f_l) \not \equiv 0 \pmod{l}と仮定すると補題1より

w(f_l)=w(\Theta^{l-1}f_l) = w(\Theta^{l-2}f_l)+l+1

を得るが、これはw(\Theta^{l-2}f_l) < w(f_l)ということだから補題2に矛盾。しからば

w(\Theta^{l-2}f_l) \equiv 0  \pmod{l} \tag{2}

と言える。w(f_l)=\frac{l^2-1}{2}なので補題1を繰り返せばw(\Theta^{\frac{l+1}{2}}f_l) \equiv 0\pmod{l}が得られ、これにもう一回補題1を適用すると等号が成立しない場合で、或るa \in \mathbb{Z}_{\geq 1}に対して

\displaystyle w(\Theta^{\frac{l+3}{2}}f_l) = \frac{l^2-1}{2}+\frac{l+3}{2}(l+1)-a(l-1) \tag{3}

が成り立つ(k \equiv k' \pmod{l-1}の話を思い出そう)。補題2と合わせると

\displaystyle a \leq \frac{l+3}{2(l-1)}(l+1)=\frac{l+5}{2}+\frac{4}{l-1}

となるが、l > 5なので

\displaystyle 1 \leq a \leq \frac{l+5}{2}

に至る。(2)より1 \leq j \leq \frac{l-5}{2}であってw(\Theta^{\frac{l+1}{2}+j}f_l) \equiv 0 \pmod{l}なる最小のjを取れる。(3)に補題1を適用すれば

\begin{align}w(\Theta^{\frac{l+1}{2}+j}f_l) &= \frac{l^2-1}{2}+\left( \frac{l+1}{2}+j \right)(l+1)-a(l-1) \\ &\equiv j+a \equiv 0 \pmod{l}.\end{align}

1 \leq a \leq \frac{l+5}{2}および1 \leq j \leq \frac{l-5}{2}よりa=\frac{l+5}{2}と確定する。(3)より

\displaystyle w(\Theta^{\frac{l+3}{2}}f_l)=\frac{l^2-1}{2}+4

\Theta^{\frac{l+3}{2}}f_ll-weightを決定できる。q展開は

\Theta^{\frac{l+3}{2}}f_l = \left( \frac{l^2-1}{24}\right)^{\frac{l+3}{2}}q^{\frac{l^2-1}{24}}+\cdots

である。\frac{l^2-1}{2}12の倍数であることに注意して、M_{\frac{l^2-1}{2}+4}の基底を

E_4\cdot E_4^{\frac{l^2-1}{8}}, E_4\Delta E_4^{\frac{l^2-1}{8}-3}, \dots, E_4\Delta^{\frac{l^2-1}{24}}

と選べば、直前で得られた情報から

\Theta^{\frac{l+3}{2}}f_l \equiv \left( \frac{l^2-1}{24} \right)^{\frac{l+3}{2}}E_4f_l \pmod{l}

なる合同関係が成り立たなければならないことが分かる。

f_l \equiv q^{\frac{l^2-1}{24}}(1-q)^{l^2-1} \cdots \equiv q^{\frac{l^2-1}{24}}+q^{\frac{l^2-1}{24}+1}+\cdots \pmod{l}

なので、\Thetaの定義から

\Theta^{\frac{l+3}{2}}f_l \equiv \left( \frac{l^2-1}{24} \right)^{\frac{l+3}{2}}q^{\frac{l^2-1}{24}}+(\frac{l^2-1}{24}+1)^{\frac{l+3}{2}}q^{\frac{l^2-1}{24}+1}+\cdots \pmod{l}

であるが、一方

\left( \frac{l^2-1}{24} \right)^{\frac{l+3}{2}}E_4f_l \equiv \left( \frac{l^2-1}{24} \right)^{\frac{l+3}{2}}q^{\frac{l^2-1}{24}}+241\left( \frac{l^2-1}{24} \right)^{\frac{l+3}{2}}q^{\frac{l^2-1}{24}+1}+\cdots \pmod{l}

である。従って、比較すれば

(\frac{l^2-1}{24}+1)^{\frac{l+3}{2}} \equiv 241(\frac{l^2-1}{24})^{\frac{l+3}{2}} \pmod{l}

が得られる。これより、(-23)^2\cdot (-23)^{\frac{l-1}{2}} \equiv 241 \pmod{l}が得られ、\pm 529 \equiv 241 \pmod{13}ということになる。これは不成立*5

*1:その数自身という表示も分割に含める。

*2:その後、映画を観ました。

*3:Ramanujan素数という概念は既にあるので、 integers.hatenablog.com 映画の題名に肖ってこのような名前にしておきましょう。

*4:重さ0のフルモジュラーの基底は1。重さが負なら0しかない。

*5:以上で証明が終わりましたが、急いで書いたので酷い文章です。後日、この文が「証明の概略」ではなく、「証明」となるように書き直していこうと思っています。