後半のこの記事では、擬ランダム測度に対する一般化von Neumann定理の主張を述べて、(かつ
)の場合の証明をした後に一般の場合を証明します。論理的には
の場合の証明を別途与えることは不要ですが、証明の本質を理解するためにGreen-Taoが書いてくれているので、ここでも省略せずに紹介します。
後で実際に使う形で述べられていますが、次の形で証明します。
命題
定理の証明
まず、条件 を
に置き換えられることを確認する。定理の設定下で
が成り立ち、§3の補題よりは
-擬ランダム測度なので、条件を置き換えた場合が証明されていれば
が得られる。よって、両辺を倍すれば所望の結論となる。この際、
は常に正の値をとるので、命題において
は正の値しか取らないと仮定してよい。
次に、は
で実現すると仮定してよいことを確認する。これは、必要ならば
及び
の番号を並び変えればよいだけである。
最後に と仮定してよいこと。これは、期待値において
と変数変換することにより帰着される。各
が
の中にある
個の連続する整数のある順列になっている必要があるが、
個の連続する整数の順列になっていることは一律に
していることから自明である。範囲については
が
の順列であると仮定すると(
)、任意の
に対して
及び
なので問題ない。 Q.E.D.
の場合の証明
以下、証明の本質を掴むために の場合の命題の証明を実行する。
を命題の条件を満たすような関数とするとき、示すべき式は
である。 と変数変換すると*1、左辺は
となる。は
に依らないので、
と書け、三角不等式と より
と評価できる。
とみてCauchy-Schwarzの不等式を適用すると、
が得られる。ここで、測度の定義から分かる等式
を使っていることに注意。
とを導入すると、期待値の絶対値の二乗の部分を展開すれば
が示されたことになる。に対して同じことを繰り返す。まず、
と書けるので、三角不等式、Cauchy-Schwarzの不等式、測度の定義より
と評価できる。
とを導入すると、期待値の絶対値の二乗の部分を展開すれば
が示されたことになる。
と変数変換して
とおけば、
と書けることがわかる。これは、もしであれば
に等しいので*2、後は
の場合との差を計算すればよい。すなわち、
を示せばよい。理由: これが示されたとすると
と所望の評価が得られる。
左辺の絶対値を三角不等式で評価し、を
で上から押さえると
が得られるが、期待値の中身を
と考えてCauchy-Schwarzの不等式を適用すれば
と評価できる。従って、
を示せばよい。最終的に を展開することによって
に帰着される。これは、に対する線形形式条件から従う。実際、
の場合は
-線形形式条件から
が言える。の場合はより簡単。以上で、証明が完了する。 Q.E.D.
一般の場合の証明
それでは一般の場合に命題を証明しましょう。に対して変数
を考えるとき、部分集合 に対して
という記号を用います。ここで、
とします。
注意: の場合は
であり、は前節で定義されたものと同じものになっている。
の定義において
の部分にルートが付いているが、
が
に依存しないことから二つの
に対して
の値は一致し、全体では
は
乗で現れることに注意。
証明. が
に依存しないので、
が正の値しか取らないことに注意して
及び
とを導入すれば
と変形することができる。よって、Cauchy-Schwarzの不等式より
と評価できる。は
に依存しないため、
における
に関する平均は消すことができる。このことと
より
が得られる。一方、を展開して
というパラメータで書いてやれば
がわかる。の場合は若干表記の修正が必要であるものの本質的に同じである。よって、証明が終了する。 Q.E.D.
証明. 補題1を繰り返し適用すればよい:
より
また、 なので
などなど。 Q.E.D.
命題の証明
に対して
とおく。すると、であり、
は
には依存しない*3。
を
と定義すると、これはの
による一様被覆である*4。また、
とすれば
である。
よって、§1, 4の補題より
一方、に対して
である。理由:
-線形形式条件を変数
、線形形式
に対して適用すればよい。線形形式の係数の作るベクトルに関する一次独立性の条件はの場所に注目すればチェックできる。
従って、系より
を固定して
を動かすと、
は
次元立方体
を動く()。よって、
を
とし、を
と定義すれば(ただし、)、
と変形できることがわかる*5。Gowers一様性ノルムの定義より
なので、
を示せばよい。理由: これが示されれば、②、③より
が言えるので、
となって、①より証明が完了する。 の仮定から
を示せばよい。中身を
とみてCauchy-Schwarzの不等式を適用することにより、これは次の補題に帰着される。
証明. を展開することにより、
に対して
を示すことに帰着される。これは、次のようにに対する線形形式条件から従う:
のとき:
-線形形式条件を変数
と線形形式
に対して適用すればよい。一次独立性に関する条件は係数のの場所を見ればわかる。
の場合については、
のパラメータ依存性に関する条件から
と書けることに注意する。
のとき:
-線形形式条件を変数
と線形形式
に対して適用すればよい。一次独立性に関する条件については
であることから、の形の線形形式と
の形の線形形式が従属することはあり得ないことがまずわかる(
には変数
が存在しない)。
型間の独立性は
の場合の通り。
型間*6については
の係数の
の場所を見ることによって、従属すれば同じ
でなければならないことがわかる。最後に、
と
の独立性*7であるが、
なる
に対する
の係数(どれでもよい)と
の係数について有理数
が存在して
が成り立つならば すなわち
が従う。
のとき:
-線形形式条件を変数
と線形形式
に対して適用すればよい。ただし、,
である。一次独立性に関する条件は
型の線形形式と
型の線形形式が従属しないことから
のときの議論により従う。 Q.E.D.
補題2によって命題の証明が完了する。 Q.E.D.
追記: 最後の証明の部分のの場合に問題があります。というのも、
の係数は(通分すると分かるように)分母・分子の絶対値がそれぞれ
以下であることを保証できないからです。この点を指摘してくれた斎藤君・小林君・鈴木君は別の証明方法でこの部分を乗り切る方法を教えてくれました。一方、
-線形形式条件の各数は「kに依存する数であればなんでも良い」ことが§9で判明するため、
-擬ランダム測度の定義において
-線形形式条件に変更すれば上記議論のまま乗り切ることもできます。本ブログではそのように乗り切ろうかと思います。