インテジャーズ

INTEGERS

数、特に整数に関する記事。

Q&ABC (その2)

せきゅーん: 指数持ち上げ補題 - INTEGERSを使えば似たようなやつはいくらでも構成できるんじゃない?えーっと、pを奇素数として互いに素な正整数の組 (x,y), x > yp\nmid x,y および m:=\mathrm{ord}_p(x-y)\geq 1 を満たすように取るでしょ。それで

y^{p^n}+(x^{p^n}-y^{p^n})=x^{p^n}

という分解を考えてみよう。指数持ち上げ補題によって\mathrm{ord}_p(x^{p^n}-y^{p^n})=n+mだから

\displaystyle \mathrm{rad}(y^{p^n}(x^{p^n}-y^{p^n})x^{p^n})=\mathrm{rad}(xy)\mathrm{rad}(x^{p^n}-y^{p^n})\leq xy\cdot\frac{x^{p^n}-y^{p^n}}{p^{n+m-1}}

と評価できる。これがx^{p^n}未満であればABC-hitになるから、

\displaystyle \frac{xy}{p^{n+m-1}}<1

であればよくて、これは p,x,yを固定しているときにn\to\inftyとすれば無限族を与えるね。


ラムネ: \mathrm{ord}_2(3^{2^n}-1)\geq n+2の考え方が応用に効いてるな。例えば p=3, x=5, y=2と選ぶとm=1で、n\geq 3であれば xy/3^{n+m-1}=10/3^n < 1 が成り立つ。つまり、

(2^{3^n},5^{3^n}-2^{3^n},5^{3^n}),\qquad n\geq 3

はABC-hitsの無限族を与えていて、しかも1を含まないABCトリプルになっている。


せきゅーん: あ、別に指数持ち上げ補題は使わなくてもよくて、奇素数pに対してABCトリプル(1,2^{p(p-1)}-1,2^{p(p-1)})を考えれば、オイラーの定理より

2^{p(p-1)}\equiv 1 \pmod{p^2}

だから

\displaystyle \mathrm{rad}(1\cdot (2^{p(p-1)}-1)\cdot 2^{p(p-1)})\leq 2\cdot \frac{2^{p(p-1)}-1}{p}<2^{p(p-1)}

でABC-hitだ。こっちは固定した素数の指数が動くのではなく、素数が動いて無限族を作る。


ラムネ: 確かに。色々教えてくれてありがとう。どれも似た構造はしているけどABC-hitsの無限族はいくらでも作れることはわかった。それでメーソン・ストーサーズの定理の類似を狙った期待する不等式には無数に反例があったから、それでも\mathrm{rad}(abc)がそんなに小さくならないという法則性を期待してちょっと大きくしてあげるんだよね。


せきゅーん: 実際にマッサーさんやエステルレさんがどう考えたかは知らないけど、1つの考え方としては悪くないと思う。


ラムネ: 大きくするために\mathrm{rad}(abc)^{1+\varepsilon}と累乗するわけだ。単に累乗すると考えたら\mathrm{rad}(abc)^{\kappa}と表現するのが自然だけど、1乗で駄目だったのだから\kappa>1を考える。それで例のいわゆる「強い予想」によれば少なくとも\kappa=2の時点で例外がなくなりそうだし、\kappa-1は小さければ小さいほど\mathrm{rad}(abc)そのものの小さくなさを測ることができる。だから小さい実数によく用いる\varepsilonという記号によって(1+\varepsilon)乗と表現するのにも違和感はない。


せきゅーん: うむ。違和感があれば好きな文字を使えばいいだけだし。


ラムネ: でもさ、「大きくする」ってのは累乗が最初に考えることなのか? 1億倍するとかじゃ駄目なのか?


せきゅーん: いや、駄目かはやってみなくちゃわからないでしょ。今我々は予想の発見者になったつもりで追体験しているみたいなもんだけど、研究なんだから全部試すもんさ。

ただ、もう答えは出ているけどね。


ラムネ: え?あ、確かに任意に定数C>0を選んだとしても、さっきのABCトリプルの例でいえばpが十分大きければ

\displaystyle C\cdot\mathrm{rad}(1\cdot (2^{p(p-1)}-1)\cdot 2^{p(p-1)})\leq 2C\cdot \frac{2^{p(p-1)}-1}{p}<2^{p(p-1)}

となって、やっぱりa+b=ccに打ち勝てない例が無数に作れてしまう。


せきゅーん: 何倍しようとも無数に反例が作れちゃうから、もっと根本的に大きくしないといけない。(1+\varepsilon)乗を考えれば、(1)の右辺はもはや殆ど全てのnに対して3^{2^n}に打ち勝ってしまってとりあえずABC予想の反例とは主張できないことがわかる。


ラムネ: 確かに\varepsilonがいくら小さかろうとも

\displaystyle \frac{3^{\varepsilon\cdot 2^n}}{2^{(1+\varepsilon)(n+1)}}

nが十分大きいと1よりも大きくなるもんなあ。


せきゅーん: ちなみに定数倍の次に大きくする手段として累乗は確かに思いつくんだけれど、もっと緩く

\mathrm{rad}(abc)\log(\mathrm{rad}(abc))

でどうかということだって考えてみたい。それで例外が有限になればそっちの方が数学的には強いからな。

(1)の例を使って考えてみると、実は不等式

\displaystyle \frac{2}{3\log 3}\mathrm{rad}(abc)\log(\mathrm{rad}(abc)) < c

を満たすようなABCトリプルが無数に存在することが証明できる。


ラムネ: やってみる。ABCトリプル(a,b,c)=(1,3^{2^n}-1,3^{2^n})についてr:=\mathrm{rad}(abc)とおくと、r < 3^{2^n}の対数をとって\log r<2^n\log 3が成り立つから、

\displaystyle r\log r < 3\cdot \frac{3^{2^n}-1}{2^{n+1}}\cdot 2^n\log 3 < \frac{3\log 3}{2}c

が確かに成り立っている。うわ、\mathrm{ord}_2(3^{2^n}-1)\geq n+2のおかげでより強いことがわかるのか。


せきゅーん: 実はそうなんだ。これまでに与えた例だとこれぐらいしか言えないけれど、例えば1986年にStewartとTijdemanが十分小さい\delta > 0に対して

\displaystyle r\exp\left((4-\delta)\frac{\sqrt{\log r}}{\log\log r}\right) < c

を満たすようなABCトリプルが無数に存在することを証明している。


ラムネ: \delta<4として、

\displaystyle \log\log r \ll \frac{\sqrt{\log r}}{\log\log r}

だからより強い結果だな。

\displaystyle \frac{\sqrt{\log r}}{\log\log r} \ll \log r

だから勿論ABC予想の反例にはなっていない。というか、そんな無限族があるならそれを先に教えてよ。


せきゅーん: いや、証明には鳩の巣原理を使うんだ。


ラムネ: おう。あることは確かだが、どれであるかはわからないってやつか。一番ゾクゾクするやつじゃん。


せきゅーん: 証明する?


ラムネ: する!!!