せきゅーん: 以下、は小さい数を固定して、はに応じて十分に大きい整数とする。証明の肝は3つあって、素数分布の情報・体積による評価のアイデア・鳩の巣原理だ。まずは素数分布の情報として次の公式を用いる:
を最初の個の奇素数とするとき,
が成り立つ。これらの細かい導出はここではやらないけど、素数定理(+誤差項)から標準的に導出できる。
ラムネ: やの漸近挙動の情報を与えるのがすなわち素数定理であり、は
としてからを使えばわかるな。
せきゅーん: では、次に「体積による評価のアイデア」を見よう。集合をここだけの記号として、素因数分解がの形(は非負整数)の正整数全体のなす集合とする。の元は持ち得る素因数がからまでの正整数だ。
ラムネ: どうでもいいけど、の自然数全体における自然密度はだね。
せきゅーん: そして、を以下であるようなの元全体のなす集合としよう。君の言ったことはの上からの評価と関係があるが、ここでは次のような下からの評価を示したい。
ラムネ: 蜜ではないけど、のオーダーはあるんだね。ちなみに、君は集合の元の個数を記号で表す人だね。
せきゅーん: そうだ。決してではないぞ。ではを証明しよう。はすなわち
を満たすような非負整数の組の個数だ。それは、対数をとれば
を満たすような非負整数の組の個数と言ってもよい。それは
の範囲で表される単体の体積以上である。
ラムネ: はあ〜。なるほど、点を端に持つような単位ブロックで覆うことできるからか。
せきゅーん: その体積は
ラムネ: 次の式で与えられる:
の部分はで評価すればいいわけだね。
せきゅーん: 後はスターリングの公式によって
と評価すればに到達する。
ラムネ: シンプルで見事だ。
せきゅーん: このアイデアは少なくとも1969年のEnnolaの論文には遡ることができる。さあ、最後に「鳩の巣原理」を使った議論によってStewart-Tijdemanの定理の証明を完成させよう。のときにの-orderが大きいことが効いていたことを思い出そう。このような-orderの大きい整数を鳩の巣原理で見出す。
集合を天下り的ではあるが
と設定しよう。もちろん何故こう設定するかは以下の議論をやってみて調整しないとわからないだろう。
となるような正整数をとる。このとき、
が成り立つ。ということは、鳩の巣原理によってであって
が成り立つようなものが存在する。
ラムネ: だからを考慮に入れるとの-orderが大きいことがわかる。進付値をで定義すれば
とも表現できる。
せきゅーん: からABCトリプルを作る。は互いに素であると仮定してよい。
ラムネ: もし、が共通素因数を持つならば、それはからのいずれかであり、特に奇素数だ。よって、とを導入すればはで割り切れる必要があり、その結果がわかる。
せきゅーん: ABCトリプルはを考える。さあ、を評価しよう。の素因数は必ずの元なので、の-orderを考慮に入れて
と評価できる。後は用意した道具を使って解析するのみである。
より
であり、よりとすれば
なので、
と評価できる。 および および (これはからわかる)より
なので、に取り込んで
が得られた。より特になので、
と所望の不等式に到達した*1。
ラムネ: には任意性があるからはに取り替えていいね。それに、とすればだからでないといけなくて、よってこのようなABCトリプルは無数に存在するわけだね。ひゃー、まさかこんなに簡単に証明できるとは。
せきゅーん: ものすごくシンプルな証明だよね。
ラムネ: 余韻に浸りたいところだけど、次の質問をしていいかな。これまではトリプルに対して最初に期待した不等式
が成り立たないABC-hitとなるような例が無数に存在することや、そのものよりも若干大きくしても依然としてに勝てない例が無数に存在することを見てきた。
せきゅーん: ああ。
ラムネ: いつも思う疑問は、でも本当にが成り立つようなABCトリプルの方がメジャーなのかということだ。
君の記事では「テキトーにABCトリプルを選ぶと結構成り立ちます」などと述べておきながら実例をの1つだけ取り上げるのみで、それこそテキトーではないか?
せきゅーん: ごもっとも。
ラムネ: 河野玄斗さんの動画では不等式を指して「殆どこっち」とおっしゃってたし、ABC-hitを与える例は「めちゃくちゃ少ない、超少ない」とおっしゃってる。でも、確かに少ないっていう根拠を説明してくれてる解説に出会わないんだが。
せきゅーん: 数値データで根拠を示してくれているものは見つかるよ。アジマティクスや加藤先生のIUT理論に関する著書がそうだ。
ラムネ: 確かに。でも、それって有限範囲で調べたデータに過ぎないよね。数の世界では数値が予想を裏切る現象をこれまでにたくさん見せてくれた。その奥深さを考えると根拠としては薄いと思うんだ。ABC-hitsが無限回起こること自体ある意味意外だったわけだし、更なる意外性が発生する可能性を排除できていない。
*1:が単調増大になるのは (ぐらい) 以降であるが、が十分大きければ も十分大きく、も十分大きいのでこのような大小比較が自由にできることに注意。