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数、特に整数に関する記事。

1361:素数表現関数とミルズの素数

1361は(Riemann予想が正しければ)3番目のMillsの素数です。

Millsの素数表現関数

関数f \colon \mathbb{N} \to \mathbb{C}\mathrm{Image} (f) \subset \mathbb{P}を満たすとき、fのことを素数表現関数と言います。ここで、\mathbb{P}は素数全体のなす集合です。一変数多項式で表されるような素数表現関数が存在しないことは有名ですが、Millsは1947年に次のような素数表現関数の存在を示しました:

定理 (Mills) ある実数Aが存在して、全ての自然数nに対して[A^{3^n}] は素数となる。ここで、[ \ ] はGauss記号。

Millsの定理は「三乗数と三乗数の間には素数が存在する」という素数分布に関する結果を用いることによって証明できます。Millsはそのために、Inghamが1937年に証明した次の結果を用いました:

定理 (Ingham) p_nn番目の素数とする。このとき、ある定数 K > 0 が存在して、p_{n+1}-p_n < Kp_n^{\frac{5}{8}} が成り立つ。

Inghamの定理を用いると次が得られます:

補題 N > K^8なる自然数Nに対して、 N^3 < p < (N+1)^3 を満たすような素数pが存在する。

証明. p_n < N^3なる最大のnをとる。このとき、

N^3 < p_{n+1} < p_n + Kp_n^{\frac{5}{8}} < N^3 + KN^{\frac{15}{8}} < N^3+N^2 < (N+1)^3

Q.E.D.

P_1K^8より大きい素数とし(素数は無数に存在するので、P_1は必ず存在する)、無限素数列P_1, P_2, P_3, \dots

P_n^3 < P_{n+1} < (P_n+1)^3 -①

を満たすようにとる(補題よりとれる)。u_n := P_n^{3^{-n}}, v_n:=(P_n+1)^{3^{-n}}おく。このとき、①より

\begin{cases}v_n > u_n\\ u_{n+1} > u_n \\ v_{n+1} \leq v_n\end{cases}

が成立することがわかる。\displaystyle A := \lim_{n \to \infty}u_nとしよう(収束する)。u_n < A < v_nであるから、P_n < A^{3^n} < P_n+1となって、[ A^{3^n} ] = P_nが示された。こうして、Millsの定理の証明が完了する。

Millsの定数

Millsの証明で用いたInghamの定理に現れる定数Kは具体的に求めることができないため、Aの値も具体的には分かりません。しかしながら、上の議論を逆に辿ることによって、Millsの定理を満たすようなAに対して定まる素数P_n := [ A^{3^n} ] は①を満たす必要があることが分かります。すなわち、補題が成立するようなNの最小値を考えることによって、Millsの定理を満たすようなAの最小値が存在することが分かりました。この値をMillsの定数と言います。Millsの定数を求めるにはInghamの定理を超える素数分布の研究成果が必要となるわけですが、次の結果が知られています:

定理 (Caldwell-Cheng(2005)) Riemann予想を仮定する。
このとき、Millsの定数Aはアルゴリズミックには確定的であり、その値は A=1.3063778838630806904686144926026057129167\cdotsとなっている。

これは、Riemann予想を仮定することによって次の補題が示せることに基づいています:

補題 Riemann予想を仮定する。このとき、任意の自然数Nに対して、
 N^3 < p < (N+1)^3 を満たすような素数pが存在する。

この補題より、P_1=2P_2=11P_3=1361と取っていくことによってMillsの定数Aを構成出来ることが分かります(例えば112^33^3に挟まれる最小の素数)。

それでは、Riemann予想からどのように上記補題が示されるかの概略を説明しましょう。まだ、当ブログではRiemann予想について殆ど解説していませんが、Riemann予想は素数分布に関する真に深い情報をもった予想ですので、Riemann予想を仮定すれば素数分布に関する様々な深い結果を導くことができます。その一つとして、Schoenfeldが1976年に次の結果を証明しました:

定理 (Schoenfeld) Riemann予想を仮定する。このとき、x > 2657に対して
\displaystyle \mathrm{li}(x) - \frac{\sqrt{x}\log x}{8\pi} < \pi (x) < \mathrm{li}(x) + \frac{\sqrt{x}\log x}{8 \pi}
が成り立つ。ここで、\displaystyle \mathrm{li}(x) := \lim_{\varepsilon \to 0^{+}}\left( \int_0^{1-\varepsilon}\frac{dt}{\log t} + \int_{1+\varepsilon}^x\frac{dt}{\log t} \right)である。

この不等式は素数定理よりはるかに強いです*1
integers.hatenablog.com
これを用いることによって、次のような計算ができます:

x > 2657^{\frac{1}{3}}とする。このとき、Schoenfeldの不等式から

\begin{equation}\begin{split} \pi ( (x+1)^3)-\pi (x^3) &> \mathrm{li}((x+1)^3)-\mathrm{li}(x^3)-\frac{3}{4\pi}(x+1)^{\frac{3}{2}}\log (x+1) \\ 
&\geq \int_{x^3}^{(x+1)^3}\frac{dt}{\log t}-\frac{3}{4\pi}(x+1)^{\frac{3}{2}}\log (x+1) \\ 
&\geq \frac{3x^2+3x+1}{3\log x}-\frac{3}{4\pi}(x+1)^{\frac{3}{2}}\log (x+1)\end{split}\end{equation}

と評価できる。最後の式はx > 2657^{\frac{1}{3}}において、xについての1より大きい単調増加関数であるから、\pi ((x+1)^3) - \pi (x^3) \geq 1x > 2657^{\frac{1}{3}}で成立することが示された。しかし、実際に数値計算をしてみると、x \geq  2^{\frac{1}{3}} - 1で同じ不等式が成立することがわかる。

Millsの素数

Millsの定数Aに対して定まる素数P_n:=[ A^{3^n}] のことをMillsの素数と言います。Riemann予想を仮定すると、以下の数達はMillsの素数となります:

P_1=2,
P_2=11,
P_3=1361,
P_4=2521008887,
P_5=16022236204009818131831320183,

\begin{equation}\begin{split}P_6=&41131011492151048000305295379159531704861396235397\\ &59933135949994882770404074832568499\end{split}\end{equation}

\begin{equation}\begin{split}P_7=&69583804376962741608539276573538592864835917395924\\ &75960245600955571043956253460394213271765408561987\\ &16576568503059000081369622354826893069133936382276\\ &20908148480337200487348871845278976469184329953753\\ &96525163971525739026848753417975769911037809704595\\ &5949\end{split}\end{equation}

\begin{equation}\begin{split}P_8=&33691822819574074227730775336591946472473598044603\\ &68471731487449971835696816453139229995195601886359\\ &38231011930942806048274566969663943084803879159093\\ &85099188668489418468656848292188279339334947274742\\ &46789530857048285662792427324321668672895430243079\\ &93825765869330643528986474979886689811429863994708\\ &28070615656304675980723953289507126060693066692502\\ &65216705825596762129634104805909779283931102897323\\ &32074517513978249880094900532334430298139633844229\\ &43084436835964735963980891433359278443851525620802\\ &29429648519550786329679906557768903207251495805824\\ &00076286696108291694165672347076476585461146704648\\ &36148495884695146255933068079839745137793611816411\\ &96995642523185128295451704245920197223135801027590\\ &48564582180598405013138097469593692676561694614253\\ &113386536243\end{split}\end{equation}

注意点

Millsの定理は素数表現関数の存在をある特定の形で示したことに意義があるのであって、実際に素数を手に入れる際にはなんらの役にも立ちません。というのも、仮にMillsの定数が手中にあっても、そこから得られるMillsの素数はでかすぎます。計算が大変でたくさん素数を得たいという願望には答えてくれません。更に、Millsの定数を手中に収めるためには、構成の仕方から、先にMillsの素数を知っている必要があります。これでは元も子もありません。

参考文献

W. H. Mills, A prime-representing function, Bull. Amer. Math. Soc. 53(1947), 604.
C. K. Caldwell, Y. Cheng, Determining Mills' Constant and a Note on Honaker's Problem J. Int. Seq. 8, (2005), 1-9.

*1:数学的にはRiemann予想と同値ですが、同値であることはかなり非自明で、これはかなり強力な不等式です。