この記事ではラッキー数を紹介します。Wikipediaでは幸運数という訳語で紹介されていますが、Eulerの幸運数とは異なるものです。Eulerの幸運数については
を参照してください。
ラッキー数の定義
素数はEratosthenesの篩という篩によってふるい分けられる数と言えます。
Ulamによって素数の類似物として考案されたラッキー数は、Eratosthenesの篩に似た別の篩によってふるい分けられる数のことを言います。
数 に着目し、の倍数番目の項であるをから取り除いて出来る数列をとする。
Step1
スタートは自然数列
です。自然数を篩って特殊な数を取り出そうとするのですから。
ところが、に篩のルールを適用してしまうと、着目する数がであるため、篩ったらいきなり空数列*1となってしまいます。
というわけで、スタートステップだけ特別ルールで始めます。
「都合のいいやつだな〜」と思われるかもしれませんが、Eratosthenesの篩のときもある意味そうでしたよね?
は意図的にすっとばして、に丸をつけて、以外のの倍数を消すことから始めるのでした(最初の素数がと定義から決まっているということでもあります)。
今回もはすっとばして、着目する数を特別にとしましょう。
そうして、
を篩い落とします。すなわち、
を篩い落として
1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18, 19, 20, 21, 22, 23, 24, 25, 26, 27, 28, 29, 30, 31, 32, 33, 34, 35, 36, 37, 38, 39, 40, 41, 42, 43, 44, 45, 46, 47, 48, 49, 50, 51, 52, 53, 54, 55, 56, 57, 58, 59, 60, 61, 62, 63, 64, 65, 66, 67, 68, 69, 70, 71, 72, 73, 74, 75, 76, 77, 78, 79, 80, 81, 82, 83, 84, 85, 86, 87, 88, 89, 90, 91, 92, 93, 94, 95, 96, 97, 98, 99,
となります(奇数列。スタートステップはEratosthenesの篩とほぼ同じで、が残るかが残るかの違いがあります。後でも採用することになりますが、を残して(は消して)残りを奇数列とする、スタートはEratosthenesの篩に合わせる流儀もあります)。
Step2
ここからは、篩のルール通りに篩っていきましょう(あるいは、スタートステップの特別性が気に入らなければから開始することにしても構いません)。注目する数はです。
すなわち、
をから篩い落とします。そうして、
1, 3, 5, 7, 9, 11, 13, 15, 17, 19, 21, 23, 25, 27, 29, 31, 33, 35, 37, 39, 41, 43, 45, 47, 49, 51, 53, 55, 57, 59, 61, 63, 65, 67, 69, 71, 73, 75, 76, 77, 79, 81, 83, 85, 87, 89, 91, 93, 95, 97, 99,
となります。
Step3
注目する数はです。
すなわち、
をから篩い落とします。そうして、
1, 3, 7, 9, 13, 15, 19, 21, 25, 27, 31, 33, 37, 39, 43, 45, 49, 51, 55, 57, 61, 63, 67, 69, 73, 75, 77, 79, 83, 85, 89, 91, 95, 97,
となります。
Step4
注目する数はです。
すなわち、
をから篩い落とします。そうして、
1, 3, 7, 9, 13, 15, 21, 25, 27, 31, 33, 37, 43, 45, 49, 51, 55, 57, 63, 67, 69, 73, 75, 77, 83, 85, 89, 91, 95, 97,
となります。
Step ∞
この操作(篩)を永遠に繰り返して最終的に残る数列の項のことをラッキー数と定義します。
すなわち、の各項を元とする集合をとして、
と集合を定義し、の元を小さい順に並べて出来る狭義単調増加数列をとすると、がラッキー数からなる数列となります。
以下のラッキー数:
Eratosthenesの篩との違い
Eratosthenesの篩は印を付けた素数の倍数を全て取り除く篩でした。
ラッキー数を定義するUlamの篩は、それまでの篩で取り除かれた数のことは忘れて、残っている数の中で数えて印の付いた数(ラッキー数)の倍数番目を取り除いていく篩です。
こうして、篩を少し変えることによって素数の類似物が定義されたわけですが、この記事では素数に関するある定理とある予想達のラッキー数での類似物を紹介したいと思います。
なお、素数のときと違って、ラッキー数が無数に存在することは定義から明らかです。
ラッキー数定理
番目の素数をとしたとき、
が成り立つというのが、所謂素数定理でした:素数定理 - INTEGERS
この素数定理のラッキー数ヴァージョンが証明されています:
以下、この定理の証明を紹介しましょう。これは確かに類似物ですが、証明は素数定理のときよりはるかに簡単になります。
ラッキー数定理の証明
この証明では、ではなく、であるという定義を採用する。まず、
ことに注意する。何故ならば、からへ篩うとき、が最初に取り除かれる数だからである。
を、以下であるようなの項の数と定義する。このとき、Ulamの篩の定義からに対して
が成り立つ(なので、でも成立することに注意)。はGauss記号。に対して、を
と定義する。すると、②を繰り返し用いることによって、に対して
が成立することがわかる(は少数部分)。
とすれば、
である。であることと、①、 ④より、
が成り立つので、
と評価される。とすれば、これは
と変形できる。最後の評価はが単調増加であることから従う。よって、望遠鏡和を取れば、
を得る(最後の不等式についてはこちら)。よって、に対しては
が成り立つことが示された。
さて、ならが成り立つので(偶数のラッキー数が存在しないことからわかる)、①、③、④より
なので、⑤より
が成り立つ。これらを合わせれば、に対して
が成り立つことが分かる(と書いたら或る正の定数を表すことにする)。よって、
と評価でき(を適切な番号)、両辺の対数を取れば
に対して
が成り立つので、が十分大きく取れていれば
と評価できる。アーベルの総和法の漸近公式5より
が得られた。対数をはずせば
と⑤と逆向きの評価が得られる。に対して、整数を
が成り立つように定める。このとき、⑥より
であり、⑦より
であることから(の定義とからであることに注意)、
が示された。これを元に、を次のように二分割する:
なるについては、⑧および①から
が成り立つので、はで押さえて、中括弧の部分は中括弧を外して評価することにより、⑥から
を得る*2。
以上より、が示された。すなわち、
が成り立つ。よって、
であり、
に注意すれば、に対して
が成り立つ。
でもあるので、
が得られた。調和数の記事で示したEuler定数の存在から
が成り立つので、⑨に対して望遠鏡和を取れば
が示されたことになる。こうして、
が証明された。 Q.E.D.
このようにラッキー数定理は驚くべきほど簡単に証明されるのですが、ラッキー数の分布の仕方に自然対数が現れるというのは、定義から考えると素数定理のときと同じく極めて神秘的であります。
証明を見ると、自然対数が現れるからくりを調和数が自然対数に漸近することに求めることができるので、やはり
というのは美しいなあと感じます。
なお、を以下のラッキー数の個数とすれば、
が成り立つことは素数定理 - INTEGERSでやったのと全く同様にして示せます。
ラッキー数に関する予想
素数定理の類似としてラッキー数定理の証明を紹介しました。素数のときに色々考えてきたことを逐一ラッキー数に対しても考えることは面白いと思いますが、Goldbach予想の類似物が予想されています。すなわち、
他にも、差がであるようなラッキー数のペアを双子ラッキー数と呼べば、双子ラッキー数予想*3が出来上がります。
次のような未解決問題もあります:
これは十分大きいに対しては証明されています。
また、ラッキー数かつ素数であるようなものをラッキー素数と言い、ラッキー素数が無数に存在するかは未解決です。
以下のラッキー素数: